02/09/18
オレたちは静かにキスをした。 最初で最後のキスをした。 金色に輝く海を前に。 朝の冷たい空気に包まれた浜辺で。 そしてどちらからともなく唇を離した。 だが、みなもは顔を上げたままオレの顔を見つめている。 そしてそのまま、みなもは満面の笑顔を浮かべながら一言だけ呟いた。 「大好きです・・・智也さん・・・」 |
On The Water〜水面(みなも)に映る夏の空〜 |
作:freebird |
「よお、智也」 突然背後から聞き覚えのある声が聞こえた。 オレはその声のした方向へとゆっくりと振り返った。 「よお、久しぶりだな、信」 そこにはオレの親友―――稲穂信が立っていた。 「ああ・・・4ヶ月振りってとこか」 信は微笑を作りながら言った。 「そうだな・・・」 オレも同じように微笑を作りながら返した。 信はオレに向けていた視線をオレの背後にある小さな墓に移した。 「・・・みなもちゃんの墓参りか?」 信は視線を墓に残したまま呟いた。 「・・・ああ」 小さく応えながらオレは再び振り返った・・・ そこには『伊吹みなも』と記された、まだ新しい墓があった・・・ ―――あれから・・・8ヶ月の時が流れた・・・ 金色に輝く海の前で、みなもが安らかな眠りについた・・・あの日から・・・ あれからオレは・・・ちょくちょくとみなもの・・・そしてその隣にある彩花の墓参りに来ていた。 この林鐘寺にある小さな墓地に・・・ 「そういえば信、何でお前がここに?」 オレは墓に向けていた視線を再び信に返して聞いた。 「ああ・・・」 信もオレに視線を戻しながら、左手に持っていた2本の花束―――輪菊をメインに、周りをカスミ草で覆った地味な花束をオレに見せた。 それは―――オレが二人の墓に添えた花束とほぼ同じものだった。 「俺も・・・墓参りに、な・・・」 「・・・誰の?」 答えを容易に予想できるであろう質問を投げかけた。 「誰って・・・みなもちゃんと・・・桧月さんのだよ・・・」 そして案の定、予想していた答えが返ってくる。 「お前・・・あの時の事をまだ・・・」 「・・・ああ」 8ヶ月前・・・信がオレに告白してくれた真実―――彼はまだその真実に対して責任を感じているのだろうか? 「・・・俺は・・・少しづつでも罪を償っていかなければならないんだ・・・」 「あれは・・・お前の所為なんかじゃないって・・・」 その通り―――あれは誰の所為でもない・・・誰も悪くないんだ・・・。 「いや、いいんだ。これは俺がやりたいからやっているんだ。唯の自己満足のために、だ」 そう言って信は二人の墓に花束を供えて、しゃがみこみ、両手をおさえた。 オレは信を少し尊敬した。 「・・・・・・サンキューな、信」 オレは信に聞こえない程度の声で呟いた。 オレたちは林鐘寺の駅に続く道を並んで歩いていた。 うだるような暑さとかしましい蝉の鳴き声。 8月1日。 季節はまさに夏本番を迎えていた。 「どうだ、信。桜峰の暮らしには慣れたか?」 オレは頬を撫でる涼しい風を感じながら唐突に聞いてみた。 「ああ、かなりな。おもしろいぜ〜〜〜、一人暮らし。うらやましいべ?」 聞きなれぬ口調で信が聞いてくる。 「・・・ってゆうかオレも一人暮らしっぽいことならよくあるんだけどな」 「・・・むむぅ・・・そうだったな・・・」 悔しそうに呟く信。・・・全く変わってない男だな、こいつも。 4ヶ月前まで続いていた他愛の無い会話を思い出す。 「そういやぁ、朝凪荘ってどれくらいの人が住んでるんだ?」 「んー・・・」 信は少し考えた後・・・ 「二人」 「は?」 思わず間抜けな声で返してしまった。そんなオレに、信は笑いながら繰り返す。 「俺を合わせて、二人だよ」 「・・・たったの二人ぃ!?」 「・・・まあな。ボロアパートだし」 「・・・そういや春に来た時、垣根が壊れたぐらいだしな」 「・・・それはお前らのせいだろ」 4ヶ月前、オレと唯笑と詩音の三人で壊してしまった朝凪荘の垣根。それに対して信が厳しいツッコミを仕掛ける。 「い、いやっ!あれは垣根がボロかった所為だ!」 「・・・はぁ、まぁ、いいけど」 必死で弁解(言い訳とも言うが)するオレに、信は呆れたように返した。・・・ってゆうか完全に呆れてるな・・・。 「で、そのボロアパートに住み着いている、もう一人の物好きなヤツはどんなヤツなんだ?」 オレは咄嗟に話を変える。自分の立場が悪くなったらすぐさま話を変える。これは激戦(謎)を勝ち抜くためには必要不可欠なワザであり、特に信のようなヤツには絶大な効果を発揮する。 「フ・・・確かに、物好きという点は間違っちゃいないな」 「・・・?」 思惑通り乗ってくる信。オレもやつの話に合わせてやるために頭の上にクエスチョンを付ける。 「去年の学園祭で、唯一『カキコオロギ』を食した、勇気あるあの少年だよ」 「・・・あ・・・あいつか・・・」 そう言えばいたな・・・去年の澄空祭で友人の制止も聞かず、愚かにもカキコオロギに手を出してしまったチャレンジャーが・・・。 ・・・ってゆうか秋の澄空祭にカキ氷を買うか?普通・・・。まぁ、それは秋の澄空祭にも拘らずカキ氷を使おうなんて考えたオレ達にも言えることだが・・・。しかしコオロギと係るはカキ氷しかなかったのだ。仕方が無いということだ。 「そのことについて何か言われなかったのか?」 「いや。しらばっくれといたから大丈夫だろう」 「・・・そうか?」 それで本当に大丈夫なのか心配だが、こいつがそう言っているのだから大丈夫だろう。 「それよりさぁ、そいつに生意気にも彼女がいるんだけどよ」 ・・・生意気にも、という所が引っかかったが・・・まあいい。 「その娘がすっげえ可愛いんだよ!」 少し興奮気味に話す信。こいつが言う「可愛い娘」は今までどれほどいたものか・・・ 「白河静流って言う人、知ってるだろ?」 「ああ・・・お前が崇拝している人だろ?」 「崇拝って・・・まあいいや。とにかくその人の妹なんだよ。その彼女って」 「へぇ・・・。なら確かに可愛くてもおかしくないだろうな」 白河静流―――確かに信が崇拝するのも解るほど綺麗な女性である。小夜美さんと同じ大学―――確か『千羽谷大学』に通っている女子大生である。 基本的におとなしい性格なのだが、小夜美さんの親友という所が結構不安。まぁ、人は『シャドウ』―――つまり自分と違う部分を持っている人に惹かれるという性質を持っているから納得できないことも無いが・・・。 「そうなんだよ〜〜〜。・・・んー・・・でも、最近見てないな・・・。ここ2ヶ月ほど・・・」 そんな感じで他愛の無い会話を続けていると、オレ達はいつのまにか林鐘寺の駅にたどり着いていた。 オレたちは電車に乗り、行きとは逆の方向に向かっていった。 「次は・・・藍ヶ丘・・・藍ヶ丘。お降りの方は・・・お足元にご注意の上・・・お並びください」 しばらくするとオレの目的地に着いたことを知らせる車内アナウンスが響き渡った。 「じゃ、信。オレはここで降りるわ」 オレは隣に座る信にそう言いながら立ち上がった。 「ん・・・ウチには、寄っていかないのか?」 蒸し暑い車内にも拘らず夢の世界に入り込もうとしていた信は、思い出したかのように言った。 「いや・・・またの機会でいいや」 確かに久しぶりに親友に会ったのだ。朝凪荘にも実際に入ったことはないし。しかし今日は・・・何となくそういう気分にならなかった。 「・・・そうか・・・じゃあな」 少し残念そうな顔をしながら信は微笑んだ。 電車が藍ヶ丘駅のホームに滑り込んでいく。 そして完全に止まった後、ドアが開く。 「じゃあな・・・信」 オレは振り返り、目の前の親友に別れを告げる。 信は無言で微笑んだ。 ホームに降り立つ。 風が当たる。クーラーと違い、気持ちのいい涼しさがオレを包む。しかしすぐにそれは蒸し暑い空気へと変わる。 オレは振り返り、電車が見えなくなるまでホームに立っていた。 駅を出ると再び蒸し暑い空気が体中にまとわりついてくる。おそらくこの時期は一年で最も暑い時期だと言えるだろう。かしましいセミの鳴き声が響く中、オレは一人、真夏の空の下を歩いていた。 あれから8ヶ月・・・ オレは自然に出てくる汗を拭きながらあの日のことを思い出していた・・・ しかし・・・悲しくは無い。 みなもと出会ってからの約2ヶ月間はオレたちにとって十分すぎるほどの時間だったから・・・ そのことをオレは、唯笑に教えてもらったのだ。 あの日―――初雪が舞い降りたあの公園で・・・。 オレは左手に持った鞄から一枚の絵を取り出した。 額に入った一枚の絵。 それは夜の海を見つめている二人のカップルの絵・・・ 二人のうち少年の方は、幸せそうな笑顔をしていた。 そしてもう一人の少女には―――顔が、描かれてなかった。 しかし・・・オレにはその少女がどんな顔をしているかはわかっている。 その少女の笑顔―――それは今も、オレの頭の中に焼きついている。 少女が最期にみせた笑顔・・・ そして彼女が最期に言った言葉・・・ とてもシンプルでとてもストレートな・・・それでいて彼女の想いがしっかりと伝わる・・・そんな言葉・・・ オレは空を見上げた。 青く澄んだ夏の空を。 その空に向かって、オレは呟いた。 あの時のみなもの言葉に対する応えを――― 彼女に対するかけがえのない想いの詰まった言葉を――― 「オレも・・・大好きだよ・・・みなも」 夏が始まる・・・ 想い出の夏が・・・ 智也が家に着いた時、急に雨が降り始めた。 さっきまで晴れていたのが嘘のように。 ―――夕立。 何かの始まりを予感させるように、その雨は激しく降り続いていた。 浜咲学園高等学校・・・ この高校のグラウンドで、一人の少年がボールを蹴っていた。 降り続ける雨の中、唯一人ひたすらにボールを蹴り続けていた。 まるで・・・雨が降っていることを知らないかのように・・・ そしてその少年を見つめる一人の少女・・・ 彼女もまた、雨の中傘も差さずに少年を見つめ続けていた・・・ ヒグラシの鳴き声と茜色の光に包まれた保健室・・・ 新たな物語は幕を上げる・・・ |
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FIN |
あとがき どうも〜〜〜 freebirdですぅぅぅ〜〜〜 今回はこの「OnTheWater」に修正を加えた作品を投稿させていただきました。 いくら元の作品がヘボイ作品で、書いた本人が耐えられないような作品だったからといってこんなにも早く修正版を送りつけるというのは、明さんに大きな迷惑をお掛けしたことになったでしょう・・・ と、いうわけで本当にすみませんでした!明さん。 一応、話自体は変えてはいないのですが、少しでも読みやすくするために、大幅な修正を加えたのですが、いかがでしたでしょうか?「そんなに変わってない」とか「ダルくなった」等の苦情がありましたら、遠慮なく指摘してください。まぁ、明さんにこれ以上の修正版を送りつけるつもりはありませんが。迷惑ですし。もしこれ以上の修正を加えた場合、私のHPに掲載するつもりです。・・・HPの解説予定は完全未定ですが・・・(爆) 以後、このような修正版を書かなくてもいいように、向上していきたいと思います。ですから皆様からの感想、苦情、アドヴァイス、ツッコミ、熱い応援メッセージ(無いから!)などを送ってくださると、もしくは感想掲示板に書き込んでくださると非常に嬉しく思います。 それと明さん。これからも多くの作品を送りつけることになるかも知れませんが、どうかお許しください。 代わりに、出来るだけ良い作品を創り上げることに全力を尽くしますので、どうか皆様も暖かい眼差しで見守ってくださると光栄です。 でわでわ、長くなりましたが、以上、freebirdでした。 Mail To endlessfatekaz@hotmail.com |
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