02/10/08

 永遠なんて あるワケ無いって
 僕は知っていたから だから
 だから君との 今を大切に
 いつか一人になんて なりたくない
 I want Eternity


Eternity
作:freebird



 突然、風が吹いた。
「きゃっ!」
 隣から聞こえた小さな悲鳴。その直後視界に入ったのは風に飛ばされていく小さな帽子だった。
「ま・・・待ってぇ〜〜〜」
 慌てて帽子を追う少女。それはツインテールの可愛らしい少女だった。
 風が止み、帽子はそのままアスファルトに音も無く落ちた。
 少女はその帽子を大事そうに拾い上げる。
「よかったね。風が止んで」
 俺は小さく笑いながら少女の後ろから声を掛けた。
「はい、智也さん」
 その少女は俺の名を呼びながら応える。
 俺は空を見上げた。
 そこには雲ひとつ無い、高い秋空が広がっていた。

 ありふれた毎日。変わることの無い日常。
 俺達はいつもと何ら変わることの無い藍ヶ丘の街を歩いていた。
 俺と、俺の隣にいる少女―――伊吹みなも。
 俺達は他愛の無い会話を続けながら、幸せな時間を過ごしていた。
 別に特別な話題があるわけではない。
 別にはっきりとした目的地があるわけでもない。
 それでも俺達は、こうやって二人並んで楽しく会話をしながら同じ時間を共有しているだけで、充分幸
せだった。
「それでですね、昨日のミノオネラ、惜しかったんですよ〜〜。後ちょっとで、1千万だったんですよ!
1千万ですよ、1千万!」
 早口で昨日見たテレビの話をするみなもちゃん。
「1千万か〜〜。そんな大金手に入ったらどうします!?智也さん!」
 少し興奮気味に話すみなもちゃん。その必死な感じがとても可愛らしかった。
 俺は『うん』とか『そうだね』とか適当に相槌を打ちながら笑顔で返す。
 いつもと変わらぬ道。毎日見慣れた風景。
 そこはまるで、俺達二人しかいないかのように静まり返った世界だった。
 風の音も聞こえず、街の人々の喧騒も無く、夏の時、かしましい程に泣き喚いていた蝉の鳴き声も、当
然聞こえない。
 暑くも無く寒くも無く、非常に過ごしやすい季節であるといえる、今の時期。
 秋―――
 そう、秋・・・
 この過ごしやすい季節は、俺にあの時の事を思い出させてしまう―――
 思い出したくも無い、あの思い出を―――

 再び、風が吹いた。
 少し肌寒い、秋の風。
 その風は、俺にあの時の事を思い出させた。
 あの秋雨の中、何かを訴えるかのようにアスファルトの上に置かれた、一本の白い傘―――

 俺の隣にいる、小さな少女―――
 俺は彼女と過ごすこの毎日が、いつまでも続くと信じていた。
 永遠に続くと、永遠に一緒だと、俺は信じていたし、願っていた。
 だから俺は疑問など感じずに、この毎日を何気なく過ごしていた。
 何の不安も無く、永遠に続く事が当然かの様に・・・

―――本当に?

 風が俺に囁く・・・

―――本当に不安も疑問も無いのか?

 その囁きは俺の心に突き刺さる。

―――本当は感じているんじゃないのか?
―――押さえ切れない不安が、胸の中で燻っているんじゃないのか?
―――それを無理やり押し込んでいるんだろう?胸の奥に。無理やり納得しているんだろう?

 それは真実だった。
 言葉では言い表せないような、深すぎる不安。
 俺の胸の奥で、それは燻っていた。
 いつか、再び失う事・・・
 かけがえのないものを、失う事・・・
 その恐怖・・・
 不安・・・
 それらが俺の胸の奥で燻っていた・・・
 永遠なんてものは存在しない―――その事を、俺は気付いていた・・・
 だけどその真実を信じたくないばかりに、俺は逃避していた・・・
 信じたくない、真実から・・・俺は逃避していたんだ・・・
 この世に存在する全てのものは、いつか確実に消えて無くなる・・・
 その事を、俺は知っていた・・・
 その事を、俺は実感していたんだ・・・
 3年前のあの日―――
 秋雨の中の、眩しい程に白い傘・・・

 あの時、俺は感じた―――
 永遠なんてものは、決して存在しない事を―――
 そして、永遠なんて戯言に、裏切られた時の悲しみを―――
 あの時、俺は味わったのだ・・・

「どうしたんですか?」
 その声で、俺の意識が呼び戻された。
 周りはいつもと変わらない風景・・・
 永遠に続くかの様な・・・まるで時の止まったかの様な、いつもと変わらぬ風景・・・
 目の前には、一人の少女がいた。
 そしてその少女は、不安げな面持ちで俺の顔を覗き込んでいた。
「どうしたんですか・・・一体・・・。突然難しそうな顔をして・・・何か考え事でもしてたんですか?」
「え・・・ああ・・・いや・・・何でもないよ」
 不安と疑いの混ざり合った視線で覗き込むみなもちゃんに、俺は小さく笑いながら返した。
「・・・そうですかぁ?」
 未だ不安と疑いの残る視線で見つめてくるみなもちゃん。
「あ、それより!智也さんはどう思いますか?」
「・・・へ?何が・・・?」
 笑顔を取り戻して話しかけてきたみなもちゃんは、俺の返答に再び顔を曇らせる。
「・・・まさか・・・私の話を聞いてなかったんですかぁ?」
 不機嫌な顔で追求してくるみなもちゃん。
「いや・・・その・・・あれだよ・・・」
「あーー!!また何か変な言い訳しようとするーー!!いい加減にしてくださーーい!!」
「へ・・・変なって・・・」
「ダメですよ!智也さん!素直に罪を認めてください!!」
「つ・・・罪って・・・」
 凄い勢いで追求してくるみなもちゃんに、俺は少し怯んでしまう。しかし、みなもちゃんの顔は、言葉
とは裏腹に、満面の笑みだった。これ以上に無いくらいの、まるで天使の様な、最高の笑顔。
 そしておそらく、俺の顔も、つられて笑顔になっていただろう。
「もーー・・・智也さん、本当にいい加減にしてくださいね〜〜」
 笑いながらそう言ってくるみなもちゃん。
「ごめんごめん・・・次からはちゃんと聞くからさ・・・」
 そして俺も、笑顔でそれを返す。
 それはいつもと変わらぬ風景。
 まるで時が止まったかの様な、変わることの無い風景。
 そして、いつかは消えるであろう風景・・・

 だからこそ・・・だからこそ俺は、このかけがえのない『今』を大切にしよう・・・
 いつかは消える、この『今』を・・・
 いつか消えた、その時に、決して後悔しないように・・・
 この『今』を、俺は大切にしていこう・・・
 永遠なんて、叶わぬ夢を願うくらいなら・・・

 風が、吹いた。
 少し肌寒い、秋の風。
 その風は、俺に何かを囁いた。

―――失う事は運命だ・・・
―――運命は、変えることは出来ない・・・
―――未来も今も、人間には選ぶ事も変える事も出来ない・・・
―――だけど、『今』を自由に生きる事は出来る・・・
―――『今』を大切にする事は出来る・・・

 俺は黙って頷いた。
 そうだな・・・その通りだよ・・・
 いつか失うって事が解っているなら・・・
 『今』を大切にすればいいんだよな・・・

「よし、みなもちゃん、喫茶店にでも行こう。俺がおごるよ」
「本当ですか!?じゃ・・じゃあ、パフェ!私、パフェが食べたいです!!」
「OK。それじゃ、行こう!ダッシュだ!」
「あ・・・ちょっと待ってくださ〜〜い、智也さ〜〜〜ん・・・」
 いつもと変わらぬ日常は過ぎ行く。
 そしてまた、『今』は確実に過ぎて行く。
 そして俺達は、このかけがえのない『今』を幸せに生きていく・・・
 いつかそれを失ったとき、後悔する事の無い様に・・・
 悲しむ事の無い様に・・・
 俺達は、この『今』を、大切に生きていこう・・・
 かけがえのない、この『今』を―――



 永遠なんて ある訳無いって
 僕は知っていたから だから
 君を強く 今抱きしめよう
 大切な言葉 今伝えよう
 ―――「君が好き」



FIN




あとがき

 この作品は、もともとオリジナル作品用でした。それをメモオフ用に、かなり圧縮して創り上げたのが、
この作品―――『Eternity』です。
 いかがでしたでしょうか?
 みなもEDアフターストーリーの方でみなもの出番があまりにも少なすぎたので、この作品ではヒロイ
ンとして出したわけなんですが・・・
 ・・・どうかなぁ?
 ま、短い作品ですし、気楽に読んで頂けたのであれば嬉しい限りです。
 次回作はどうしよう・・・?
 みなもEDアフターストーリーの第4弾を書かなくちゃいけないんですが、現在、それと平行に、オリ
ジナル(しかも連載)SSを執筆中なんですよね・・・。そっちも投稿したい気分・・・
 というわけで、どっちになるかは気分しだい(爆)
 でわでわ、freebirdでした!




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