02/11/02

 あの日まで降り続いた雨は
 今では嘘の様に晴れて
 七色に輝く
 鮮やかな虹が空を彩る
 そう、あの雨は
 涙という名の悲しみの雨は
 大切なものを知った時
 かけがえの無いものに気づいた時
 雨はその時晴れる


 Rain Then Clear
freebird presents



 すれ違う学生達の顔には、晴れ渡る笑顔が作られていた。
 湧き上がる歓声の中には楽しさと喜びと幸せが混ざり合っている。
 喧騒に包まれた校舎。当然だ。何しろ今日は澄空学園毎年恒例学園祭、『澄空祭』の日だからだ。
 平和―――その言葉があまりにも似合いすぎている学園と生徒。
 またオレ自身も今日は思い切り楽しむ事にする。
 せっかく、一年に一回しかない行事だからな。
 な、彩花。みなも。
 お前らの分も、楽しんでやるよ。
 いつもは彩花の分だけだけど、今年はみなもの分もあるからな。
 全く、今年は大変だぜ。
 ん?余計なお世話だって?
 いいんだよ。思いっきり楽しめば、お前らがすぐ傍にいるような感じがするし。
 幸せにならなきゃな。オレも。
 せっかく、雨は晴れたのによ。
 さぁてと、行くか。

「あ、智也」
 オレを呼ぶ声。オレはその声のした方向へ視線を向ける。
 そこにはオレの親友―――音羽かおるが立っていた。
「よ、かおる」
 オレは適当に挨拶する。
 そしてオレはそのまま踵を返し、かおるとは反対側に歩き出そうとする……
 ……が、
 ガシィ!
 オレの右肩を掴む細い腕。その腕はオレの体の向きを無理やり180度回転させる。
「なぁに逃げようとしてるのかなぁ?智也くん?」
 移動した視線の先には、笑顔のかおるが立っている。しかしその声は笑ってない。
「に、逃げようなんてしてませんよ?かおる様?私は唯、急用を思い出しただけで……」
 引きつった笑顔を作りながら、必死で逃げようとするオレ。
「急用?あれ程暇そうな顔して歩いてたくせに何言ってんのよ」
 そのオレの言い訳に聞き耳持たず、オレの肩を掴む腕を一向に離そうとしないかおる。
「智也は唯、クラスの出し物サボってただけでしょう?」
 うむ。
 その通りだ。
「な、何を言ってる?そんな事は無い事も無いが無いぞ!」
 当然否定する。が、否定とは言えない曖昧すぎる返事を返してしまった。
「さ、ほら、クラスに行きなさい。手、空いてないみたいだから」
「そう言うかおるはどうなんだよ」
 オレにこれだけ言っといて、かおるのヤツは平然とこんな所にいやがる。
 かおるもサボリじゃないのか?
「別に私は休憩時間だし」
「じゃ、オレも」
「…………」
 呆れたような視線を向けるかおる。ま、そりゃそうか。
「ほぉら、馬鹿な事言ってないで、さっさと行きましょう」
 そう言ってかおるは、無理やりオレをクラスまで引っ張っていった。
 ああ〜〜、オレの平和な一日を返せ〜〜〜……

 クラスに着いた。そこは既に喧騒に包まれていた。
 ウチのクラスは喫茶店。定番かつ競争率の激しいこの出し物を、ウチのクラスが見事に勝ち取ったという訳だ。
 ま、オレに言わせれば、定番過ぎておもしろく無いが。
「ほらほら、手間かけさせないでよねぇ」
 そう言ってかおるは、オレを準備室まで連れてきた。
「そんな事言うなら、ほっといてくれればよかったのに」
「そう言う訳にもいかないでしょぉ……」
 再び呆れたようにため息をつくかおる。
「じゃ、私はもう行くから、ちゃんと仕事してよね、智也」
「はいはい、解ってますよ。かおる様」
 オレは気の無い返事を返す。それを見たかおるは三度呆れたようにしながら教室を出て行く。
「まるで保護者のようだな」
 オレの背後で、笑いの混じった声が聞こえた。
 振り返った先には西野と相川がいた。
「全くだ。音羽さんが可哀想だぜ」
 西野の言葉に、同じく笑いながら相川がそう言ってくる。
「余計なお世話だ」
 オレは奴らに一瞥してから着替えに移る。
 背後でクスクスと笑う二人組みがあまりにもウザイ。早くお前らも仕事しろっつぅの。

 ウェイター姿に着替えたオレは、早速仕事に取り掛かる。
 一度やると決めたからには、真面目にやらないとな。
「あ、三上さんもこの時間だったのですか」
 意気込んだオレを背後から呼ぶ声。
 双海詩音だ。
「あ、双海さんもこの時間……」
 いきなり声を掛けられて―――それも絶妙なタイミングだったので、思わず同じ言葉を返してしまった。
「ええ」
 そして普通に返す双海さん。
 そう言えば喫茶店をしたい、と真っ先に言ったのは彼女だったな。
「さて、注文を頂いた紅茶を入れないといけませんので」
「あ、ああ」
 双海さんはそう言って、ポットに入った紅茶をカップに注ぐ。
 へ……?
 カップに並々と注がれる紅茶。それは鮮やかな金色に輝いていた。
 素人目にも解る。少なくとも唯の紅茶では無い。
「……双海さん、それは?」
 オレはおそるおそる聞いてみる。
「え?ええ、これは私がアレンジした紅茶ですが?」
「へ?手作りなの?」
 てっきり超高級茶葉だと思っていたが……いくら紅茶好きの詩音でも、たかが学園祭にそれほど高級な紅茶は持ってこないか……
 しかし、手作りという方が凄いような……
「少し、飲んでいい?」
「え?……ええ、いいですよ」
 少し驚いたように、俺に紅茶の入ったカップを渡す。
 オレはそれを受け取って、口に近づける。
「!?」
 まだ口に含んでいないというのに、その紅茶から放たれるかぐわしい香りが、オレの鼻孔を刺激する。何とも言えない、最高の香りだ。
 紅茶は香りを楽しむもの、というが、オレは今、初めてその事を、身を持って知った。
「どうしました?」
 オレに渡したカップとは別のカップを出して、紅茶を注いでいる詩音が、突然手を止めたオレに訝しげな視線を送る。
「あ、いや……あまりにもいい香りだったから、つい……」
 それを聞いた詩音の表情に、驚きが生じる。そして……
「…………!そうですか!!三上さんは解ってくれたんですね!!」
 突然人が変わったように興奮する詩音。その顔は満面の笑顔に彩られている。
「え……あ……その……」
「ああ!ちゃんと解ってくれる人がいたんですね!!苦労して作った甲斐がありました!!」
 オレの声なんて耳に入ってない様子で次々と言葉を紡いでいく詩音。
 ……こんなキャラだったっけ?

 ふぅ……
 やっと休憩時間だよ……
 サボってたからってオレだけ交代時間になってもやらされるなんて、最悪だよ……
 ま、自業自得か……
 オレは全身から疲れのオーラをかもし出しながら、未だ喧騒の晴れない校舎を一人で歩いていた。
 その時だった。
 今のオレの気分とは対極に位置する様な声がかけられたのは。
「よ、少年♪」
 そして声と共にオレは背中を容赦なく叩かれた。
 オレは前のめりに倒れそうになるところを何とか堪え……
「ゲホゲホッ!」
 しかしそれでも、咳き込んでしまった。
「どうしたぁ、智也君。いい年して情けないなぁ……」
「小夜美さんこそ、いい年して大人気ないですよ。こっちは無防備だったんだから、手加減してくださいよ」
 オレは振り返り、オレの背中を思い切り叩いた犯人―――霧島小夜美さんに講義した。
「若い高校生が何を言ってるのよぉ!こんなか弱い乙女に対して!」
「で、何で小夜美さんが此処にいるんですか?」
 取り敢えず無視して、素直な疑問をぶつける。
「まぁ、せっかくだから可愛い後輩達の学園祭に来てやろうかなぁ、と思ってね」
 小夜美さんも、無視された事は気にしてない様子で返した。
「はあ……よっぽど暇なんですね」
「な……何言ってるのよぉ、智也君!失礼ねぇ、せっかく来てあげたって言うのに!」
 心外だ、とばかりに叫ぶが、微妙に流れてる冷や汗は見逃さない。
「静流も連れてきたんだけどねぇ……」
「え?静流さんも?」
 意外な人物の名前を聞いた。最近会ってないが、小夜美さんの親友らしい。
「ええ……そうなんだけど……信君に捕まってね……今頃困ってると思うから助けに行ってあげたら?」
「え……?」
 信……?あいつも来てたのか……?
 しかし、捕まったって……
「それで、小夜美さんは、静流さんを置いてきたんですか?」
「え……いや……その……」
 目を逸らす小夜美さん。本当に親友か……?
「だって……ねぇ……信君ったら、静流ばっかに話しかけて、こんな美人の私を無視するのよ!?失礼しちゃうわ!!」
「何処にいるんですか?」
 再び無視して、オレは信と静流さんの居場所を聞き出した。

 美術室へと向かう通路。そこに二人はいた。
「それで、たるたるから連絡は?」
 信の声が聞こえた。
「ええ、定期的に手紙をくれるわ」
 もう一つの声は静流さんだろう。
「へぇ……じゃあ今度、俺にも見せてください。たるたるからの手紙」
「ええ、いいわよ」
 たるたる……?誰だそれは?……そもそも人の名前か?
 ……まぁ、いい。
 オレは廊下の真ん中で並んで話をしている信と静流さんに声をかけた。
「よ、信。静流さんも今日は」
「うわぁ!」
「きゃ!?」
 唐突に声をかけたオレに、本気で驚く二人。あまりにもいい反応に、オレは思わず吹き出してしまった。
「な、何だよ、智也かよ!いきなり声をかけるんじゃねぇ!かなり驚いてしまっただろ!?」
 真っ赤になって講義する信。まぁ、崇拝する静流さんの前であれほど恥ずかしい反応をしてしまえば、恥ずかしくなるのも無理は無いだろう。
「と、智也くん、お久しぶり」
 静流さんも胸に手を当てながら、笑顔を作る。少し引きつった笑顔。よほど驚いたのだろう。かなり動揺している。
「あら?小夜美は?」
 さっきまでいた筈の友人の姿が見えない事に気付いた静流さんは、辺りをきょろきょろと見回しながら訪ねてきた。
「ああ、小夜美さんならさっき3年教室の廊下にいましたよ?」
「え!?嘘!?」
「何か静流さんが信に捕まえられて身動き取れないみたいだったから、先に行ったみたいですけど」
「そんなぁ……」
 静流さんは困り果てたように呟いた。
「じゃあ悪いけど私、もう行くわね。じゃあね、信くん、智也くん」
「あ、はい……」
 手を振りながら学生や普通の客で賑わう廊下へと消えていく静流さんと、彼女を名残惜しそうに見送る信。
「ちぇっ。静流さん行っちまったぜ」
 いかにもつまらなそうに呟く信。
「つうか静流さんが小夜美さんに置いてかれたのはお前の所為だぞ?信」
 友人を置いていく小夜美さんも小夜美さんだが。
「そんなのは解ってるけどさ」
 ハァ……とため息を吐く信。やれやれ……いつまで経っても変わらない奴だな、こいつは。
 ま、オレも人の事は言えないが。
 オレは自嘲的な笑みを口元に浮かべる。
「そういえばさっき言ってた『たるたる』って誰だ?」
「ん?……ああ、静流さんの妹―――ほたるちゃんの事だよ」
「ああ……お前、たるたるなんて呼んでんのか?」
「まぁな。同い年なんだし、フレンドリーに行こうと思ってさ」
 変わらない、屈託の無い笑みを浮かべながらそう言う信。
「さて、そろそろオレは行くわ」
 唐突にそう切り出して、大きく伸びをする信。
「は?行くって何処に?」
「バイトだよ。バイト。浜咲のルサックって言う喫茶店にな」
 軽くウインクしながら信はそう言う。
「ふぅん……バイトなんかしてるんだな」
「当然。生活費とかもあるし、何よりインドへの旅費を溜めなきゃならないからな」
 そう言って信は、廊下の窓から外を眺めた。
「そうか。お前、本気でインド行く気なんだな」
「当たり前だろ」
 笑顔を湛えながら信は振り返る。
「何しろお前らに、ホントに行かなきゃ許さん、とか言われたわけだしな」
「そうだけど……」
「それに俺、ここまでやっといてもし行かなかったら、本気で自分の事嫌いになると思うな。もう嫌なんだよ。あの時みたいに自分を嫌いになるのは……」
「信……」
 少し憂いを帯びた眼差しで、オレの瞳を見つめる。
 今オレの目の前には、オレより何倍も大人になった、親友の姿があった。
 いつもオレとともに馬鹿やって、下手すりゃオレより馬鹿だった男。
 しかしオレに、過去に捕らわれる事の愚かさを教えてくれ、未来を見させてくれた親友。
 いつも軽い調子で、何も考えていないように見えて、実はかなりの事を考えて行動する天才。
 冷酷で、他人―――特に男には厳しいように見えて、何より他人を気遣い、さらに自分を責める人間。
 今オレの目の前にいる男はそういう男だ。
「それじゃ、オレは行くわ」
「……ああ」
 彼は今も、オレの前を歩く。
 いつのまにかオレを追い越していた、オレの親友―――稲穂信。
 彼は人ごみの中に、しだいに小さくなりながら消えていく。
 まるであの日の、登渡離橋の時のように、彼は小さくなって消えていく。
 待ってろよ、信。
 いつか必ず、お前に追いついて見せるから。

 信と別れた後、オレはこの、美術室へと続く廊下を、一人歩いていた。
 暇だ……
 何でオレは此処に来たのか解らない。
 当然、信と静流に会うために来たのだが、彼らと別れた後此処にいる意味など無い。
 だがオレは、何となく此処を歩いているのだった。
 此処にいれば、逢えると思って―――
 何となく、そう感じたのだ。
(オレも、いつまでも女々しいな)
 そう考えながら自嘲的に笑う。
 もういない彼女の事をいつまでも……
 心の中にいると解っていても、実際に逢えない寂しさに、時々耐えられなくなる。
(こんな事で、本気で信に追いつく気かよ……)
 校舎やグラウンドと違い、めっきり人の少なくなったこの廊下を、オレは黙々と歩く。
 目的地など無いのに……
 オレはふっと、顔を上げた。
 そして自らの目を、驚愕に大きく見開いた。
 目の前には、『彼女』がいたのだ。
 小柄な体と、ツインテールの髪。
 1年前、オレの目の前で息を引き取った筈の少女―――伊吹みなも。
 みなもはオレに優しく微笑んだ。
 そして小さな両手でオレの右腕を優しく掴む。

―――さ、こっちですよ、智也さん。

 優しく微笑みながらそう言うみなも。そしてオレをその小さな両手で引っ張っていく。
 オレは素直に彼女に従った。
 涼しい秋風がオレとみなもを優しく包む。
 まるであの時が戻ったような―――そんな気がした。

 みなもが連れてきてくれたのは、美術室だった。

―――ほら、智也さん。これですよ!これ!

 美術室の前に着くなり、オレの右腕から両手を離し、元気よく一枚の絵の前まで走っていく。
 オレもその絵の前まで歩いていった。
 そしてその絵を見たオレは、再び驚く事になる。
 それは―――夜の海を描いた絵だった…………
 オレの家にも飾られている、その絵。当然ツインテールの少女と顔のない少年の姿は目の前の絵には無い。だがそれ以外は―――場所もアングルも、みなもが描いた夜の海の絵とほぼ全く同じだった。
「この絵は―――?」
 オレは傍らのみなもにそう聞いた。
 ―――だが。
 みなもはもういなかった。
 あるのは涼しい秋の風だけ―――
 その風に攫われた様に、みなもの姿は消えうせていた。
「…………」
 オレはさっきまでみなもが立っていた所を、静かに見つめる。
 そしてそこに落ちていた、1枚の枯葉を手に取った。
 オレはその枯葉に優しく微笑かけ―――もう一度、その絵へと、視線を移す。
 そしてその絵の下に付いている、作品名と作者名の書かれたプレートへ、視線を移した。
『作品名―――夜の臨海公園。作者名―――』
「あ、智ちゃん」
 唐突に後ろから声をかけられる。
 その呼び方をする奴は一人しかいない。
 当然、唯笑だ。
「どうしたの?絵なんか見て……あっ!」
 突然小さな悲鳴を上げる唯笑。
「どうした?」
 オレは振り返りながら、訝しげな視線を唯笑に送る。
「その絵、希ちゃんの絵だね。希ちゃん、うまいよねぇ〜〜〜」
「希?」
 オレは再び、プレートの作者名の所に視線を移す。
 相摩希―――それがこの絵の作者の名前だった。
「知り合いなのか?」
「うん、ちょっとね」
「ふーん……」
 オレの返答に、訝しげにオレの顔を覗き込む唯笑。
「ねぇ、智ちゃん、暇だったら一緒に校庭行こう?ライヴやるんだってさ」
 しかし気を取り直してそう提案してくる。
「ん?ああいいぜ」
 オレは唯笑に促されて、校庭へと向かう。
 そして美術室を出るときに、オレは再び首だけ振り返り、その絵を見つめる。

―――相摩希、か。

 この名前を、オレは再び目にすることになる。
 そう遠くない未来に―――



 校庭に作られた特設ステージ。今の今迄、そのステージ上で、激しいライヴが行われていた。
 そして今も、そのステージの周りはライヴの興奮冷め止まない感じだった。
 時間が時間だけに、一般の客は、次々と出口へと向かっていく。
 生徒達も、既に片づけを始めている所も少なくなかった。
 当然、特設ステージも片づけが始まっている。
 オレと唯笑は、校門へと向かって流れる人の波に逆らいながら、校舎裏へと向かう。
「はぅ〜〜〜〜〜……興奮したねぇ〜〜〜〜〜」
「そうだな。今年のバンドはうまかったな」
 そんな会話をしながら、オレたちは静かな場所を探していた。
 その内、適当な草地を見つけ、腰を下ろす。それに習って唯笑もオレの隣に腰を下ろす。
 そしてそのまま、オレは後ろに倒れて寝転がる。さらに唯笑も寝転がる。
「ふにゃぁぁぁ〜〜〜♪」
 気持ちよさそうに声をあげる唯笑。
 オレは僅かに微笑んだ。

―――平和、だよなぁ……

 目の前には、果てしなく広がる青空が広がっていた。
 雲ひとつ無い、完璧な秋晴れ。
 その青き秋空で輝く、眩しい太陽に目を細めながらオレはそう感じた。

―――幸せ、なんだよなぁ……オレは…………

 何も変わらない、繰り返されるありふれた日常。
 まるで時が止まったかのような、そんな毎日。
 かつてそれが、果てしなく退屈に感じられた。
 その時は気付かなかったから。
 変わらない日常の、大切さを。
 変わらず、繰り返される毎日の、大切さと貴重さを。
 失ったとき、オレは初めて知ったんだ。
 4年前の、あの雨の日に―――
 そして1年前の、冬の海で―――
 だけどもう、オレは気付いたんだ。
 だからもう、繰り返さない。
 過ち、繰り返さない。
 かけがえの無いもの、もう失いたくないから―――
 今、目の前にある、かけがえの無い日常―――それを失わないように…………
 もう過ぎ去りし過去を悲しむ必要は無いから―――
 だってもう、雨は晴れたから―――
 果てしない青空、広がってるから―――
 大切にしよう、今目の前にある、かけがえの無い『今』を…………
 今隣に眠る、かけがえの無い人を…………



 悲しみの雨は、今晴れた。
 眼前に広がる青空を
 悲しみに束縛された籠から抜け出した
 白き自由な鳥が舞う。
 純白の羽根 風に乗って
 僕の両手に舞い降りる。
 想い出の中の天使達の様な―――
 純白の羽根が
 僕の手を離れ
 高き青空に舞い上がる。
 秋風に乗って…………
 ほら、青空にかかった
 七色の虹の橋
 僕たちを見下ろしている。





「みなもちゃん、オニギリちゃんと作れた?」
 彩花がみなもにそう聞いた。
「うん。オカカ、野沢菜、タラコ、きゅうちゃん」
 みなもが応える。
「なに?きゅうちゃんて?」
「きゅうちゃん。きゅうちゃん・・・可愛いんだ」
「きゃはは、きゅうちゃん、きゅうちゃん!」
 彩花とみなもはオレの運転する車の中で弁当を抱えたまま笑い合っている。

 バタン。
 オレは車の扉を閉める。
 同じように扉を閉めて、唯笑と彩花とみなもも車から降りてくる。
「でもぉ……」
「でももみなももないの!」
 出発前からハイテンションな彩花とみなも。そして何故か唯笑も大爆笑中。
 まったく……いくつになったんだと思ってんだよ……唯笑…………
 オレはそんな3人を無視して、さっさといいポジションを探しにいく。
「あ、待ってよぉ、智ちゃん」
「待ってよぉ、お父さん」
 彩花とみなもも、唯笑の真似をして追いかけてくる。
 オレの事を、『お父さん』と呼んで……

 地面にシートを広げる。
 4人ともそのシートに腰を下ろし、持参してきた弁当を広げる。
 今日はピクニックでも花見でもない。
 そもそも桜の花なんて咲いているわけが無い。
 何しろ今は涼しい風が吹き抜ける、秋だからだ。
 秋風にさらわれて金色の銀杏が空を舞う。
 そう、今日はこの海辺の公園へオチバミに来たのだ。
 オレと唯笑と……オレたちの子供、彩花とみなも……
 この、4人で……



 その時、風が吹いた。
 一陣の風は、銀杏のこずえから枯葉を一枚奪い去り、遠く、海の水面まで運んでいった。
 枯葉は、しばらく水面にとどまった。
 とどまり、そして沈みゆこうとするその一瞬前……
 …………枯葉に陽光が射した。
 キラっと金色に光り輝く枯葉……
 いや、それは錯覚かもしれない。
 気のせいだったかも知れないけど、少なくとも、オレの瞳にはそのように映ったのだ。



 いや、オレはそれが錯覚で無い事を知っている。
 オレは見たのだ。
 かつて……
 みなもと共に……
 みなもが描いてくれた……
 金色の海……

 金色に光り輝く……あの海を…………



 
FIN





   あとがき
 みなもEDAS(アフターストーリー)、遂に完結!!……っです!!!!
 というわけで今回、メモオフ1stオールスター&2ndキャラも少し登場で創り上げた、みなもEDAS完結編「Rain
Then Clear」いかがでしたでしょうか?
 前作のみなも編、結構イタイ作品でした。あれはつまり「失われた想い」=「雨」をイメージした作品なんです。そして今回はタイトル通り「晴れ」をイメージした作品でした。
 悲しいストーリーは幕を閉じ、晴れ渡る青空が眼前に広がった……
 そう、今、雨は晴れたのです…………
 そんな作品でした。
 最後はベタな「子供に亡き人の名前を付ける」という手法をとらせていただきました(爆)
 かなりベタなんですが、どうしても使いたかったんです。「でももみなももないの!」とか「きゅうちゃん」とか……
 かなり使いたかったんで……(ヲイ)
 ま、許してください(マテ)
 あと一応、相摩EDAS(未定)への伏線も少し入れました。
 でわでわ、みなもEDASシリーズ全て読んで下さった方は本当にアリガトウございました!!
 そしてまだ全部読んでいない方は全部読んでください!!(マテ)
 冗談です。この作品は「何処から読んでも楽しめる」という連載型読み切り作品ですので。
 この作品だけでも読んで下さった方も、本当にアリガトウございました!!
 そして掲載してくださった明さん、本当に本当に本当にアリガトウございました!!!!
 でわでわ、freebirdでした!!!!



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