02/03/27


天下分け目の超決戦?2
作:暇人(八坂 響)






「――しかし、こんな手紙が一体何だって言うんだ……?」
 冷たい月が冴える夜。人通りの途絶えた道をとぼとぼと歩きながら、健は街頭の灯かりにその手紙を透かしてみる。
「……ってか、こんな事する前に開ければ済む話だよな」
 言うが早いか、健は早速ロウを剥がすと、封筒の中に入っていた便箋を取り出した。これまたプリントアウトされた無機質な活字が並んでいる。なぜか横書きにされた文章の内容はこうだった。
『この度、キン○・オブ・ファ○ターズを開催する事に決定致しました。優勝賞金は100万ドル。決勝に勝ち残った者だけが、賞金と最強の栄冠を手にすることが出来ます。ただし今大会は、KOFの本来あるべき姿――ストリートファイトへ立ち返るべく、1on1のゲリラ戦大会となりました。この招待状はわずかこの一枚。この招待状を持つ限り、他の参加者が招待状を狙ってあなたに襲いかかります。最終的に、この招待状を持って0:00に浜崎学園体育館裏へ来てください』
 最後の一文だけを取るならば、ラブレターに見えなくもない。だがそれはあまりにも身勝手な解釈だ。
 ――100万ドル。最強の栄冠。ストリートファイト。ゲリラ戦大会。そして、招待状――これらの言葉が健の頭の中で複雑に渦巻いていた。しかし彼がなによりもまず突っ込みたかった点は――
「なんで字を伏せる?なんかやましい事でもあるのかこの開催者」
 やましいところがあるのは開催者でも参加者でもなく、確実に大会名パクってる作者なのだろうが、ふと頭に浮かんだその考えを即座に打ち払う。
「いや、今はそれよりも……ゲリラ戦?しかもルールに関して全く記述がない……まさか何でもありの大会か?」
 今更言うまでもない。ほたるがサイコパワーを駆使して襲いかかり、つばめが八傑集の力で攻撃してきた事が、この大会が無差別モノだと物語っている。そこいらへんも含め、初期のキ○グ・オブ・ファイタ○ズに立ち返ったと言うことだろうか。
 さらに思考を加速させる。読んだ限り、便箋には『伊波 健』の文字は見当たらない。二人称はあくまで『あなた』、それもわざわざ平仮名で打ってあるあたり、男性とも女性とも限定していない。冗談抜きに無差別ストリートファイトのようだ。
「……0:00に浜崎学園、か」
 ふと左腕を見て、自分が時計をしていない事に気付く。慌てて逃げ出してきたため、時計をしてくるのを忘れてしまったようだ。
「今何時だろ……」
「――夜の10:30でござるよ、イナ」
「―――!?」
 闇のわだかまりから聞こえてきた声にはっとし、慌ててそちらに目を凝らす。この声には聞き覚えがあった。
 街灯に照らし出された舞台の中に、足音もなく踏み入れる人影。それはやがて、一人の少女を形作った。
「……トト?」
「はお。元気にしてたでござるか?」
 ついさっきまで死にかけてた――などと言えるはずもない。何の関係もない巴を巻き込む必要などないのだ。
 そこで彼は、奇妙な事に気付いた。彼女の左手に握られている、黒くて長い棒状のモノ。ひたすらいやな予感に囚われながら、それでも彼は訊いた。
「ねぇ、トト……それ、な――!?」
 ――シュッ。
 健の言葉を、暗闇に疾った銀閃が裂く。間一髪後ろへ退いた健は、鼻先を掠めた刃の早さに驚愕した。居合い。彼女の携えるそれは鉄ごしらえの黒鞘で、利き手である右手には抜き身の日本刀が握られている。
「イナ……今すぐその招待状を、拙者に渡すでござるよ」
 ――ござるよ?
 健は思わず耳を疑った。これは性質の悪いジョークなのか、それとも巴得意の演技なのか。しかし、銀色の裸身を闇夜にさらしたそれは、間違いなく真剣だ。
 風に吹かれて佇む巴の方を見た。そして初めて気付く。彼女の左頬に刻まれた、十字傷。
 ――これは何かの冗談だ。うんそうだきっとそうに違いない。でなきゃなんで日本刀引っさげたトトが、るろ剣のモノマネなんて……
「――龍巻閃!」
 またもや健の思考を真っ二つに引き裂き、銀光が閃いた。遠心力を乗せた横薙ぎの一撃。食らえば上半身と下半身が生き別れる事になるだろう。
「うわッ!」
 咄嗟にウィービングして、紙一重で回避。地を蹴ってバックステップし、巴との間合いを広げる。片手の招待状は邪魔なので、適当に畳むと後ろポケットに突っ込んだ。相手は武器持ち。対してこっちは丸腰だ。本気で相手をしなければかなりヤバい。再び間合いを詰めに来る巴。対する健は軽いフットワークを武器に、彼女の間合いで戦う事を巧みに回避して行く。
 ボクシングと剣術。インファイトとミドルレンジでの戦いを得意とするその二つは、性質的にまるで相容れない。すなわち、間合いを制した物が勝負を制する。
「シッ!」
 健がいきなり勝負に出た。いつまで逃げつづけていても埒があかないことは、彼が重々承知している。そして間合いが圧倒的に広い巴の剣をかいくぐるには、奇襲しかないのだ。
 姿勢を低くして、さながら猛獣の如く駆ける。それに気付いた巴が、袈裟懸けに刃を打ち下ろし――横に軽く跳んだ健は、その一閃をぎりぎりで回避した。たとえ打刀であっても、女性が振り回すには少々重すぎる。巴は健の前に、致命的なほど大きな隙をさらしていた。
「アッパーカットぉ!」
「――まだまだ!」
 ダッシュから勢いを乗せた渾身のアッパーカットは、ついさっきまで巴の頭があった空間を虚しく薙いだ。身を沈めた巴に、健は攻撃を回避されたのだ。
 今度は健が隙をさらす羽目になった。健の鳩尾に刀の柄がめり込む。骨の軋む嫌な音が、身体を伝って直接健の鼓膜を刺激した。
「―――!」
 漏れそうになる苦痛のうめきをかみ殺し、健はバックステップで退くと、着地を狙って放たれた巴の足払いを跳んでかわす。そのまま彼女へと跳びかかり――
「……狙い通りでござる」
 不意に巴が、不敵な笑みを浮かべた。払い脚を引いたその姿勢は、腰溜めの深い構え。そう、間違いなくこの技はあの有名な――
「龍翔閃ッ!」
 刀の峰を掌底で押し上げ、さらに跳ぶことによって威力を倍化させた対空技。モノが刃物なだけに、食らえば相当のダメージだろう。
 刃が健に迫る。しかし健は冷静に、彼女の右手――刀の峰を支えている方の手ごと、刀の腹をパーリングで弾いた。対空技と名のつく割には、原作を見る限り無敵時間など全くない。ただ単に当たりが強いだけの、寂しい性能だった。
 切っ先が軽く太ももを掠めるが、その程度ですんだと考えるべきだろう。そのままくんずほずれつ、二人は絡まりあって地面に落ちた。こういう時に体格差は大きく響く。先にマウントポジションを取ったのは健だった。
「赦せ、トト」
 真面目な台詞の割にはどこか気の抜ける呼称。すっと拳を振り上げた健は――いきなりその場を飛びのいた。
 ドゴォッ!
 一瞬遅れて、彼がさっきまでいた場所を鉛弾が貫通して行った。その先にある壁が砕け、ぽっかりと穴が開いている。
 そちらを見やれば――拳銃片手にイった目で健を見据える相摩希。
「――希、ちゃん?」
「あァ?誰が希だこのクソォ」
 小柄な少女の外見に似合わず、その言葉遣いは異常なほど汚かった。
「俺ァ西園伸二だ。相摩希じゃねェよ。わかったらさっさとその招待状、よこしやがれ」
 右手の拳銃をちらつかせる。デザートイーグル50AE。軍用の50口径拳銃で『ハンドキャノン』の異名を持つそれは、とりあえず人体に当たりさえすれば被弾者を殺せるであろう程、暴力的な破壊力を秘めている。
「西園伸二、ってそれじゃ二重人格どころかMPDじゃないか……」
 要するにサイコの事だ。自分にすら聞こえないような声で、思わず誰にともなく突っ込む健。しかも笑えない。巴という名前だからるろ剣で、多重人格(だという説があった)から西園伸二――いや、正確には雨宮一彦だろうか。あまりにも安直過ぎる。しかもこのミスマッチぶりはどうしたものか。
「オラ、さっさと渡せよこのバカチンが。そしたら楽にしてやるからよォ?」
「――待つでござる」
 希=伸二と健の間に割って入ったのは、完全復活した巴だった。
「拙者もその招待状を頂戴致したい」
「あァ?ナメてんのか、テメェ。バラすぞ?」
「やれるものなら、やってみるでござる。拙者とて抜刀斎の名を背負いし者、多少鈍りはあっても、銃ごときに負ける気はござらん」
 早くも二人の間で火花が散り始める。インファイト、ミドルレンジに加えて長距離からの飛び道具。もはやむちゃくちゃだ。いや――
「しっ!」
 健が黒い残滓を引きずりながら、急に飛び退いた。
「――!ドコ行きやがる!?」
 っがぁん!
 火を吹くハンドキャノン。どう考えても50口径マグナムのリコイルに希=伸二の細腕では抗えそうにも無いのだが、あろう事か彼女――この場合は彼か?――は片手撃ちしていた。
 しかしそれは、あと一歩というところで健から外れる。
「しっ!しっ!しっ!」
 パンチャーヴィジョンのダッシュスピードについて来れるものは事実上存在しない。疾さが売りの飛天御剣流とてそれは例外ではなかった。
「……逃がしたでござるか」
 巴にも飛龍閃という飛び道具はあるものの、彼女の正面に控える希=伸二がそうはさせてくれないだろう。刀の回収に向かっている間に撃たれてジ・エンドだ。
 自然、二人の間に険悪な空気が流れ始めた。
「ここで一人減らしとくってのも、いいかもしんねェなァ……!」
 希=伸二がポケットに突っ込んでいた手を出して、嬉々とした表情を浮かべつつも、その狂おしいほどの殺気をみなぎらせる。
「望むところでござる」
 対する巴は、腰溜めに抜刀術の構えを取った。発散される剣気。静かなる心、それはまさしく明鏡止水の如く――
 両者ともに先の先を取りに行く腹積もりだろう。
 そして二人の、全く不釣合いな激闘の火蓋が切って落とされた。

>> 3へ続く




あとがき------------------
 どうも、暇人です。
 さすがに今回のネタは濃すぎるので、少々解説をば。
 でもるろ剣は知ってる人多いでしょうから割愛します(爆死)
 問題は『西園伸二』です!このキャラの元ネタは「多重人格探偵サイコ」で、主人公『雨宮一彦』の中にいる人格の一つ。性格は俺の書いたのなんかよりもっと残忍で極悪なお方です。
 希シナリオプレイ中、「多重人格〜」の下りで思わずニヤリとした暇人は、いつしか希でこのネタを使うことを心に決め、そして今回それが実際にお目見えしたというわけです。

 ……あぁなんかちっともあとがきっぽくないですね(^^;まぁ、わからない人のために軽く説明した程度のものと取っていただければ。しかし、こんなずさんな説明でわかるんだろうか……?
 では!三話で会いましょう!


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