天下分け目の超決戦?6
作:暇人(八坂 響)






 流石の鷹乃も、目の前に無言で佇む男のプレッシャーに気圧されていた。武器持ちの相手だからとか、焔を使うからとかそういう次元の問題ではない。その程度の相手なら今まで幾度となく相対し――そしてそのたびに彼女は叩きのめしてきたのだ。
 ――内に秘めたるものの違いとでも言おうか。ケン=バッドガイは決して、名前の文字数で決められたキャスティングなどではなかった。
 が、しかし――!
「烈風ケェ〜ン!」
 先手を取った。この間合いならば射程無限の飛び道具を持つ鷹乃が有利。飛び込んでくればレイジングストームで迎撃すればいい。
 案の定というべきか、ケンはそれを跳んで避け――
 ――ごうッ!
 突如、空中で飛ぶ向きを変えた。彼が駆け抜けた空間には虹色に輝く虹彩の飛沫が飛び散っている。エアダッシュと呼ばれる、初歩の法術だ。しかしその突進力は並ではない。
「――!?レイジング……!」
 あわてて両手を振り上げ、気を溜めて迎撃姿勢を取る鷹乃。しかし――
「遅ェ!」
 ケンが身を捻って遠心力を上乗せした回転斬りを浴びせる方が遥かに早かった。とても斬るという形容が相応しくない封炎剣だが、十分すぎる重量と申し訳程度についている刃で、それは過ぎた殺傷力を秘める兵器となっていた。
 エアダッシュを止めたことによる落下速度に乗せて今度は突き入れるように封炎剣を繰り出す。避けれるはずもなく鷹乃はのけぞった。そもそもベースとなったゲームのスピードが違いすぎるのだから、同じ土俵で勝負をしろと言うのが無茶な話なのである。
 難なく着地したケンは、すかさず地上技に繋いだ。いわゆるガトリングコンビネーションというヤツである。柄を相手の胸に突き入れることに始まり、ハイキック、ショートフォームの回転斬りに踏み込んでの斬撃。血飛沫を散らしてのけぞる鷹乃に、ケンも作者も容赦なく次の攻撃を加えた。
「グランドッヴァイパァァァッ!!」
 床を削る封炎剣の切っ先が焔を纏い、ケンの後ろに長い溶岩の尾を引く。すかさずSボタン連打する作者。地上で最大7HITするはずなのに5HITしか当てることは出来ず、やや不満は残ったものの問題なくケンは鷹乃を空中に膝でかち上げた。続けて放たれた封炎剣での残撃。斬りと同時に纏った焔で焼く、見るからに痛そうな技である。
 しかしここで終わるはずもなかった。格ゲーとは何事も相手に「何もさせなかった」者が勝つ。
「――フッ!」
 ロマンキャンセル発動。紅い残像を残して技後硬直の隙から逃れたケンは、再び封炎剣を鷹乃に振るった。S→(JC)S→HSといったところだろうか。空中の基本連係を一通り叩き込んだ挙句――
「寝てろォッ!」
 再びヴォルカニックヴァイパー。追加派生の蹴りを叩き込み、回避不能のダウン状態にさせる。なす術もなく鷹乃は地に叩きつけられた。
 続いて着地したケンは、ダウンしている女性だというのに全くの容赦すらなく追撃を入れると、彼女が起き上がるタイミングにきっちり合わせて――
「ガァンフレィムッ!」
 封炎剣を地に突き刺した。そこから湧き上がる焔の柱が、足元をふらつかせている鷹乃に牙を剥く。避けれるはずもなく、彼女は焔を正面から浴びて吹き飛んだ。
 そこで再び追撃に入ろうとして――ケンは一つ思いついたことがあった。
 餓狼伝説シリーズにもCvS2に空中受身システムはない。ということは――シビアなタイミングでの追撃など気にせずやりたい放題!彼にとっては夢にまで見た状況だった。今まで何度、プレイヤーの腕の悪さゆえに追撃タイミングを逃し、あまつさえ返り討ちに遭うという苦汁を舐めさせられてきたことか。その恨みを今ここで晴らすべく、彼は渾身の一撃を放つ事に決めた。俗に言う八つ当たりである。
 吹き飛んだ鷹乃をダッシュで追いかけるケン。グローブに包まれた右手と、左手で逆手にぶら下げた封炎剣には、溢れんばかりの法力が宿っている。未知なる力が炎という仮初の姿を与えられ、その一部をこの世界に顕現させていた。両手に宿した焔はそのまま、彼は駆ける。そして――
「タァイランレェイヴッ!」
 右手の焔がその軌跡を追って炸裂した。力なく落ちてくる鷹乃の袴を焦がし、吸い込まれるようにしてその背中にヒットする。法力を込めた拳の一撃はやがてその力の正体を顕現させんがために紅く蠢き――そこに封炎剣で暴力的なまでに増幅された爆炎の嵐が吹き荒ぶ。
 ギュドッ!
 紅い花が咲いた。人一人くらいなら丸々飲み込んでしまいかねないほど巨大で、毒々しいまでの紅に染まった花弁を開き、そして――
 グバァァァッ!
 炸裂。二重に叩き込まれた爆炎は容赦なく鷹乃を焼き、そして――
 がしゃぁぁん!
 窓ガラスの割れる音。爽快感にほっと一息ついていたケンは、音のした方向を振り返って愕然とした。今しがた容赦なくボコボコにして吹き飛ばした鷹乃が、勢いそのまま窓ガラスを突き破って空に身を投げ出していた。彼女の頭上に端数引きのひよこが飛んでいた。まずい、ピヨっている。
 その瞬間彼の脳裏に浮かんだ光景はといえば、もちろん彼女にマンツーマンで家庭教師をしてもらってウハウハだとか、そういう幸せな日々の記憶ではない。全国一億三千四百九十二万飛んで八十三人はいるであろう鷹乃ファン(推定)によってタコ殴りにされ、コンクリート漬けにされた挙句大阪湾に沈められるという、形容しがたいまでの末恐ろしい自分の哀れな末路であった。まずい、ここらで一発いいところを見せなくては、作者は赦してもユーザーが納得しない。
 人知を超えた速度で、既に窓を突き破った彼女へ肉薄するケン。自分の命がかかるとなると誰もが必死になるものなのだろうか。この瞬間彼はカールルイスを越えた。
 急ぎその右手を可能な限り伸ばし――何とか彼女の片手を掴むことに成功した。しかし同時に、右手に並々ならぬ負担がかかる。封炎剣を床に突き刺し、それを左手で掴むことによって何とかこらえてはいるが――持って数分だ。
 と、その時鷹乃がピヨりから復帰した。うっすらと目を開けると、彼女はすぐさま自分の今の状況を認識したらしい。たかだか3〜4階といえど、体育館になっているような建物だ。普通に落ちて助かるものではない。しかもその下に見える黒い地面は――どう考えてもアスファルトだ。
 その時、封炎剣がわずかに傾いた。この場合は剣よりも床の材質の脆さを呪うべきなのだろうが、早々二人分の体重を支えられるものではない。床にひずみが生じている。
「――え?」
 ケンには鷹乃が微笑ったように見えた。この絶望的な状況にあって彼女は、その要因を作ったケンに微笑みかけたのだ。そんなはずはないと何度か瞬きし――その瞬間、彼の右手から僅かに力が抜けた。その隙を逃さず、鷹乃は……ケンの手を振り解いた。
「なッ……!?」
 鷹乃の姿がだんだん小さくなっていく。まるで黒い海に沈むかのように。一人の少女は微笑みながら、その身を投げたのだ。そう、おそらくは彼だけでも救うために。
 ケンは後悔した。保身的な理由で彼女を助けに入ったことを。もし自分がもっと真剣に彼女を助けようと――いや別の意味で真剣ではあったのだが――、彼女のためだけの彼女を助けようとしていたのならば、もっと違う結末が得られたのかもしれない。しかし現実はゲームとは違う。リセットボタンを押してセーブした箇所からやり直しなどは出来ないのだ。
 彼は大きく息を吸い込み、涙にぼやける視界で彼女を捉えながら、最後にもう一度その名を呼ぼうとした。
 ――が、しかし。
「疾風ケェ〜ン!」
 ――つまりは最初からこういうオチだったのだろうか、今は亡きSNK七不思議の一つと言われ続けた『ギース生存の謎』が解き明かされたのだった。空中でのみ出せる必殺技、疾風拳。この技の偉大な部分は、あらゆる物理法則を無視して落下慣性をゼロ中和し、使用者を着地まで等速で運ぶところにある。この技さえあれば、GTOでも冬月先生があそこまで心配して嘆くことはなかっただろう。
 それを見たケンは一瞬あっけに取られ――次の瞬間、猛然と飛び降りた。瞳には怒りの焔が灯っていたりする。
 肉厚の刃を壁に突き刺して落下慣性を殺しつつ、螺旋を描くように降下することで地上にいる鷹乃に的を絞らせないようにしての降下。あからさまに臨戦態勢である。
 その時――
 ギュンッ!
 何かがケンの耳元を掠めて亜音速で通り過ぎた。その何かは速度そのまま鷹乃に向かっていって――
 ギュドッ!
 一撃だった。たった一撃。いくら降下による落下感性の加速が加わっているにしても、それだけでへたこれるようなキャラではない。ギースとは、相手がバンカーバスターかましてくれば間違いなくレイジングストームで迎撃を入れるようなキャラだ。
 そしてケンは――地上に待ち構える『それ』の姿を見て愕然とした。
 無機質なフォルム。白い装甲のような肌。肩の突き出るようなそれはまさしくプロテクターそのものだった。
 視線を下へと移してみる。スマートな人型フォルムの中、腰から伸びた一振りの赤い尾のみが人間にあらわる部位だった。そしてその人型の何かは――宙に浮いていた。
 GUURRROOOOOOUU!!
 甲高い金属音のような悲鳴に近い雄叫び。それが空へ吼え、そして――
 ィイイイイイイッ!
「ッ!!?」
 突如として『それ』右手から伸びた鮮烈な閃光が、体育館を下から上へ真っ二つに引き裂いた。何とか壁を蹴って難を逃れていたケンは、『それ』の正体を知っていた。――いや、ケンが、ではない。彼の者との邂逅とは、ケンの中の『ソル=バッドガイ』を滾らせるのに十分すぎるきっかけ。それだけの何か。怒り、憎しみ、殺意、衝動――そして一かけらの哀しみ。
 結局自分は『それ』と同じなのだ。異形とされ永きを生き、途方もない地獄を旅し続ける宿命。『Guilty Gear(罪深き異形)』の、運命。
 フェイスマスクの奥に隠された『それ』の素顔を思い出し、彼は額に巻いた鉢鉄の奥に眠る『獣』の疼きを感じながらも……名を、呟いた。
「……ジャスティス……!」









-あとがき---------------------------------
 とうとう現れたこいつがラスボスか!?ってか、いつぞやに予告してた『見抜けたら人間じゃないネタ』ってのはこの辺のことじゃないんでヨロシク。
 次回『Guilty Gear ]] 〜慟哭する正義と目覚めし獣〜』、ゲーセンで連コインしながら待て!(ンなタイトルになるわけなし……)




P.S.短くてごめんなさい(爆)


mail to: yagamihimajinn@hotmail.com
Home Page: http://www.tcct.zaq.ne.jp/twilight/index.html



 感想BBS




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送