『再び・・・』
                             作:Iku


気付かないうちに微妙にずれ出した二つの音・・・。
いつの間にか大きく広がってしまった不協和音。
交わることの無くなったメロディー。
すれ違う心・・・そして想い・・・。
いつからこんな事に・・・・。
こんなにも好きなのに・・・。
大好きなのに・・・。

健に突然別れを告げてしまったほたる。
嫌いになって健から離れたのなら、こんなにも苦しまないのに。
ほたるの表情は暗く沈み込んだまま。いつもの明るさはない。
ピアノを弾いても弾んだ音が出てこない・・・。
出てくる音は・・・ほたるの心、精神状態を表していた。
健と付き合う切っ掛けになった登波離橋の上で自ら別れを告げてしまうなんて・・・。
ほたるは今でも健のことが大好きなまま、自分の心の中に想いを閉じこめている。
忘れようとしても忘れることの出来ない存在。
足掻けば足掻くほどに健への思いは募るばかり・・・。
「健ちゃん・・・ほたるは、ほたるは・・・どうしたらいいの?・・・健ちゃん。
教えてよ〜」
悲痛な叫び声がこだまする。
自室のベッドに泣き崩れるほたる・・・。

同じ頃、健もまたほたるのことで悩んでいた。
ほたるに相応しくないと告げてしまった健。その言葉が頭の中でリフレインする。
健も悩んだ据えにだした答えであったのだが・・・。
別れ際のほたるの顔が頭の中から離れない。消し去ろうとしてもすぐに蘇ってくる。
悲しい顔、無理に笑顔を作ろうとして涙で頬をぬらしていた、ほたる。
目を閉じれば今までのほたるの顔を思い出すことが出来る。
怒った顔、嬉しい顔、笑っている顔、恥ずかしがっている顔、泣いた顔・・・。
「僕は本当にほたるが嫌いになったのだろうか?」
自問自答を繰り返すがハッキリした答えを見つけることが出来ない。
一つ言えることは・・・ほたるを嫌いになる理由が見付からないこと。
だからと言って、好きと言い切れるわけでも・・・無い。
愛しいとは想う。でもそれだけでほたるを縛ることは健には出来ない。
ほたるの未来を奪うことは出来ない。ほたるは僕のためならピアノを捨ててしまうだろう。
「僕がほたるを苦しめる原因であるなら、僕は喜んでほたるから離れよう」
何度となく自分に言い聞かせてきたこと・・・。都合のいい、言い訳かもしれない。
でも・・・・。
「ほたるはウィーンへ行くことが決まっている。それを止めることなんか・・・」
自分の部屋で仰向けに寝転がって天上を見つめている。
幾ら悩んでもそれ以上の答えを引き出すことは出来なかった。
目を閉じるとほたるとの日々が走馬燈のように浮かんでは消えていく。
そのたびに健は胸を締め付けられる想いがした。
「僕は・・・どうしたら・・・」
大きな溜め息をついたとき携帯が震えた。マナーモードにしてあったので音はしない。
ディスプレイを見ると巴からの電話だ。
間違いなくほたるのことで、掛けてきたのだろう・・・。
僕は暫くディスプレイ画面を見つめたままで居た。
それでも呼び出しは止まない。
僕はコールのボタンを押して電話に出た。
「もしもし・・・」
「はおっ!」
いつもと変わらない感じで電話の向こうのととは、挨拶をしてきた。
今の僕にはそんなととの声が心の中に虚しく響くだけ。
「・・・・・」
「もしもーし、聞こえている?イナ」
「・・・・・」
「元気ないなぁ〜と、言っても仕方ないか・・・」
巴が溜め息をつくのが分かる。
「ほわちゃんから聞いたよ。何で別れたの?あんないい娘居ないよ!?」
予感は的中。何と応えればいいのか・・・。
「イナ、それで本当に良いの?」
「っ!」
「一人で悩んでいても暗くなるだけだよ。外に出てこない?」
「え?・・・とと今どこにいるの?」
「ルサックにいるの」
時計を見ると時間は既に夜の9時を廻っている。
確かに一人でいても落ち込んで行くばかり・・・気分転換にも為るかもしれない。
僕はルサックへ行くことにした。
「分かった。今から行くよ」
「じゃ、待っているね」
電話は切れた。
僕は重い足取りでバイト先でもあるルサックへと向かった。

ルサックに着いた健は巴からほたるのことでまくし立てられていた。
店の奥の席に陣取って・・・。
巴と健は話し合っていると言うよりは一方的に健がととの声に押されていた。
「あんな良い娘いないよ!優しくてかわいいし、ピアノも上手だし・・・ちょっと天然
のところもあるけど、別れる理由には為らないでしょ?あ、あのギャグはちょっと
頂けないけど・・・でもかわいいじゃない?」
「・・・・・・」
黙っている健。
「イナのことをいつも一番に考えているんだよ」
一息ついた健が・・・。
「だからこそ・・・かな」
「え?どう言うこと?」
疑問を抱いた巴が尋ねる。
「うん。ほたるはピアノは上手いしかわいくて・・・ウィーンの留学も決まって自分の
道を歩き始めている。そんなほたるは凄く輝いていて眩しいくらいに想った。でも、僕は
何もないんだよ。それに僕が傍にいるとほたるが不安定になるのなら別れた方が良いかな
と思ったんだ」
僕はサッカーを辞めてしまってからは自分の目標を失ったままでいる。
そんな僕の感情が悪いのかほたるにも少なからず影響が出始めてきていた。
僕のことを一番に想うほたるだから・・・。
それにあのことも・・・結論は出ているのだが・・・。
だから僕はほたるのためを思って身を引こうとしたのだ。
ほたるのピアノを奪わないために・・・。
「ほわちゃん・・・それで良いって言ったの?」
ほたるとの電話で巴もおおよその話は理解している様子。
「いや、詳しいことは言っていない・・・」
語尾を濁す健。
「まだ何かあるの?」
すかさず巴が突っ込みを入れてくる。
「・・・・・・・」
これは誰にも言っていないこと・・・。
まして巴に話すことでもない・・・。
ほたるは気付いていたのだろうか?でも、僕は既にこの件に関しては答えを出している。
あの人のこと・・・でもそれは彼女の思い違いで・・・僕にもそんな気持ちは感じられ
無かったから、ハッキリと僕のことは伝えてある。
確かにこのことで、ほたるを傷つけてしまったことは否めない。また、ほたると別れる
要因の一つであったことは確かだと想う。
「ほわちゃんからもそれとなく聞いているのよ」
「え?・・・・」
「ととはどの辺までほたるから・・・」
僕はかなりのことまでほたるが話しているのではないかと想った。
「まあ、それなりにはね・・・後は秘密」
「で、イナはほわちゃんのことは好きだったんでしょ?そうじゃなきゃこんなに悩む
はずないもの。そうでしょイナ?」
僕は確かに最初はほたるに交際を申し込まれて、その勢いで付き合いだした。
でもそれは時間がたつにつれて、二人で一緒にいることが自然に思えていた。
僕の中にほたるという存在が凄く大きなウエイトを占めるようになっていた。
僕は・・・・。
「僕はほたるのことが好きだったと想う」
「なに?それ想うって・・・それに過去形だし・・・もう、ほわちゃんのことは何とも
想っていないわけ?」
巴の攻撃は更に続く。
「ほわちゃんとは遊びだったの?」
「いや、そんなことは・・・・」
僕は言葉に詰まってしまった。遊びで人と付き合う真似なんて僕にはとても出来そうにな
い。ほたるとのことは決して遊びで付き合っていたんじゃない。
唯、萎えきらない部分を残していたのも事実だけど・・・。
「私ね・・・初めてイナに会ったとき凄く嬉しかったんだよ」
「え?」
ルサックで初めて巴と会った。健はバイトで入っていたときだ。
巴にコーヒーのおかわりを勧めたりしていた。
バイトを上がったその帰りに・・・。
「雨の帰り道を送ってくれたこと・・・」
涙ぐんでいる巴にそっとハンカチを差し出す。
「ありがとう」
巴は微笑んで涙を拭う。
「優しい人・・・て、想っていたのに・・・」
「とと・・・」
健は巴を見つめていた。
巴は顔を上げると、健の瞳を見つめる。
「イナはほわちゃんのこと間違いなく好きだったと想うよ。そうでなきゃこんなに
落ち込んだり、悩んだりすること無いもの」
しばしの沈黙が流れる・・・。
僕は・・・好き?今でもほたるのことを・・・。
ととに言われてハッキリと自分の気持ちに気付くなんて・・・。
今までのモヤモヤがすーと消えるように僕の心が軽くなった感じがした。
僕は大きく深呼吸をして。
「うん。とと、ありがとう。自分の気持ちにハッキリと答えが出せたよ」
「じゃ、ほわちゃんと・・・」
「もう、大丈夫。悩んだり迷ったり何かしない」
僕は気持ち決めた。ほたると一緒に歩んでいくことを・・・。
「よし。それじゃパーッと騒ごうか?」
何処かに合図をしている巴。すると・・・。
どこからとまなく、希や翔太、信君までが席の周りに集まってきた。
「健さん・・・ほたるさんといつまでも仲良くして下さいね」
少し涙ぐんでいる希ちゃんに。
「ありがとう」
希ちゃんは笑顔を向けてくれた。
「イナケン。おまえって奴は・・・。頭を濯げ、頭を・・・しかしだ。たるたるを幸せ
に出来るのはお前しかいないんだからな。そこんところはしっかりと自覚しておけよ」
信君は笑いながら僕の頭をこづいた。
「健、良かったな。おまえは考えが短絡過ぎるんだよ。それに融通が効かない。
一人で抱え込むと外に出さないからな、真面目すぎるんだよ。もっと楽に考えろ
そんなことばっかりやっているとクイクイ星に連れて行かれるぞ」
「翔太・・・ありがとう。でもそれは辞めた方が良いと想うよ。誰も分からないから」
僕がそんなことを言っていると、信君が・・・。
「翔太。クイクイ星を知っているのか?」
真剣に話す信君。まさか信君・・・そう言えば円盤とか宇宙とかスカイフィッシュとか
言っていたな・・・。
「え?信君も知っているんですか?」
「うむ。実はだな・・・・」
信君と翔太は二人してなにやら怪しい話に没頭してしまっている。
「あんな二人は無視して、こっちは盛り上がろう♪」
とと、希ちゃんと僕の3人はいろんな話で盛り上がっていた。
相変わらず信君と翔太は別の意味で盛り上がっていた様子。
僕はそんな中で、こんなにも自分の周りには心配してくれる友達がいるんだと
改めて感じていた。
僕はほたるに短いメールを送った。あの時とは逆に僕から・・・。
「イナ?あ、ほわちゃんに?」
「ああ・・・でも見てくれると良いんだけど・・・」
僕は携帯の画面を見ながらそんなことを呟いた。
「もう、イナ。自信ないの?大丈夫、この私が保証するから・・・ね」
「分かった。ほたるを信じているから、何があってもね」
僕は笑顔で巴に応えた。
巴も笑顔で返す。
「健さんなら大丈夫ですよ。ほたるさんに気持ちは届くと想います」
希ちゃんも・・・ありがとう。僕は頷いて見せた。
で、あの二人はと言うと・・・まだ、怪しい話で盛り上がっている。
暫くみんなで騒いでから、ととと希ちゃんを送って帰路に就いた。

翌朝。僕はいつもより早めに起きて、砂浜を散歩している。
昨日までのように沈んだ僕ではなく、新しい僕がここにいる。
暫く浜辺で過ごしてから約束の場所へと向かった。

約束の場所へと歩いていく。昨日出したメールには返事は来なかった。
ほたるはちゃんと見てくれただろうか・・・。でも今の僕はそんなことで不安になる
事などない。自分を信じて、ほたるを信じているから。
ほたるの気持ちは今でも変わっていない。僕のことを大好きと言ったほたる。
僕はその言葉を繰り返しながらほたるの微笑んでいる顔を思い出しながら熱い夏の日差し
の中を歩いた。
あの時とは季節も時間も違う。それにほたるから告白された。
今度は僕からほたるに交際を申し込みに行く。
絶対に断られない自信がある。ほたるは僕のことを今でも思っていてくれる。
今度は僕もほたるのことが大好きだから・・・。

僕は登波離橋を渡っていく。橋の中央を目指して。
橋の欄干に背を向けて佇んでいるほたるがいる。
僕はほたるに近づく。ほたるが僕の方を見る。
ほたるの目は赤くなっていて、ずっと泣きはらしていたのが分かる。
僕を見つめたまま黙っている。
見つめ合う二人。
「健・・・ちゃん」
僕の名前を呟きながら涙を流す。肩が少し震えているのが分かる。
ほたるは僕がどんな言葉を告げるのか不安でいる様子。
僕は早くほたるの満面の笑顔が見たい。
「ほたる。改めて僕からほたるに伝えたいことがあります」
ハッと息をのむほたる。
僕は一つ大きく息を吐いて・・・。
「白河ほたるさん。僕はあなたのことが大好きです。僕と付き合ってください」
僕はほたるの瞳を見つめて僕の言葉で気持ちを伝えた。
ほたるの表情が見る見る変わっていく。深く沈んでいた顔が満面の笑顔へと変わっていく。
涙をいっぱい流しながら・・・。
「健ちゃん?信じて良いのね?・・・ほたるも健ちゃんのこと大好き!!」
ほたるは僕の胸の中に飛び込んできた。
「健ちゃん、健ちゃん・・・」
僕を抱きしめるほたる。僕もそれに応えるようにほたるを抱きしめた。
「ごめん。ほたるに辛い思いばかりさせてしまって、二度とほたるを放さない。一緒に
いてほしい」
ほたるは僕を見上げるように。
「うん・・・絶対にほたるの手を離さないでね♪」
僕は返事の変わりに、ほたるに口づけをした。
ほたるの温もりが唇から伝わってくる。
ほたるの優しさ、想い・・・。

それから僕たちは以前にもまして二人でいる時間が長くなった。もうすぐほたるは
ウィーンへ留学する。それまでに沢山の想い出を作ろうと二人の時間を作った。
僕がバイトの日はほたるがルサックへ向かいに来てほたるの家へ。
ほたるが学校の時は時間が許す限り僕も学校へ行った。
で、たまに僕の部屋へ泊まっていくほたる。夜更けまで二人でよく話した。
それも今日まで・・・。明日ほたるは旅立つ。
「ねぇ、健ちゃん?メール、送れるようになった?」
パソコンの前でメールを打っている僕にほたるが声を掛ける。
「もちろん。今、ほたるの携帯に送ったから確認してみてよ」
ほたるは携帯でメールの確認をしている。
「あっ、きてるきてる。さっすが〜健ちゃん♪これでいつでもメールが出来るね」
僕は溜めていたバイト代でパソコンを手に入れた。もちろんほたると話をするために。
ほたるは父親からノートパソコンを買ってもらっているので、向こうに着き次第メール
を送ってくれることになった。その為に僕はとりあえずメールだけでも出来るように
練習をしていたわけ。
「これで、離れていてもいつでも話せるよ。画像も送れるみたいだから写真も一緒に
送るよ」
信君と一緒にパソコンを買いに行ったとき、信君が『デジカメも一緒に買うから安くしろ』
と、店員の人と交渉をして格安でカメラも手に入れていた。
「うん♪ほたるも写真を一杯取って送るね」
それから暫くパソコンと格闘した後、ほたるを送って行った。

翌日の空港ではとても言葉にするには、恥ずかしい光景だったので省略します。
とても・・・周りにいた人たちも目のやり場に困ったかも・・・。
ほたるは元気に旅立ちました。次の休みに返ってくることを約束して。
僕とほたるの絆は強い力で結ばれているので、ほつれることはない。
お互いを信じて、お互いのことが大好きだから・・・。

あ、早々因みにととが僕のお目付役を仰せつかったとのこと、更に静流さんまで・・・。
僕ってそんなに信用無いのかな・・・?
「ない!!」
うぐっ・・・・。そんな〜みんなで声をそろえなくたって・・・・。
・・・・・・・・・・。

おわり



-あとがき--------------

水樹奈々(ほたる役)さんの「遠い空から」と「オルゴールとピアノと」を聴いている
うちに閃いたSS。本当は詩音のSSを書いていたのですがなぜかこちらの方がペンが
進んで・・・。詩音のSSもとりあえずゆっくりと進んでいます。
いつ出来るのかは定かではありませんが。気長にお待ち下さいませ。
それでは御意見、感想、批判などお聞かせながえれば嬉しく思います。
byIku



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