『想い出の始まる場所』
                             作:Iku



“きっと君は来ない・・・一人きりのクリスマスイヴ・・・”
ラジオから音楽が流れてる・・・。
布団の上に寝転がって、流れる音楽に耳を傾けている健。
「はぁ〜」
溜め息をつく。
暇だ・・・さすがに、今日明日とクラブも休みになって、これと言ってやることがない。
クリスマスイヴ。
「今年は一人きり・・・家族はいないし、元々彼女もいないし」
あ〜ぁ、暗い!考えるの辞め!落ち込むだけだ・・・。
翔太(サッカー部の親友)も出かけていないし。
信君は・・・べつに用もないみたい、さっき部屋にいるところを見たし・・・。
それに今日は、携帯を、何処かに落としてしまい、放課後も、捜したんだけど
見付からず・・・。
明日、事務で聞いてみてなかったら、新しいのを買わないと・・・とんだ出費だぁ。
などと考えながらラジオの音が耳に流れ込んでくる。
『・・・次のリクエスト曲は、滋賀県在住の○○さんからのリクエストで
ユーミンの恋人はサンタクロースを・・・・』
さすがに、この時期だけにクリスマス関係の曲ばかり掛かる。
「一人で外に出てもなぁ・・・バカらしいから・・・」
一人呟いて、身体を横に向けて部屋の窓を見る。
日がだいぶ傾いてきている。
24日か・・・もうすぐ今年も終わりだな・・・仰向けになって、目を閉じる。
・・・・・。
いつの間にかウトウトし始めた、健。
朝凪荘の電話が鳴っている。
遠くで聞いている。信君・・・居たよね。じゃ、出てくれるかな・・・。
5回くらいのコールの後で、信君が電話に出たようだ。
健は、まどろみの中でぼんやりとそのことを感じていた。
それにしても、朝凪荘に電話が掛かってくるなんて、珍しいな・・・。
ふぅっと、意識が遠のいた瞬間、下の階から、大きな声がした。
「おーい、イナケン!!おーい!」
「イナケン!」
信君の呼ぶ声で、我に返って、飛び起きた。
「あっ、はい、はいはい!」
僕は慌てて、部屋を飛び出した。
「イナケン、電話だ。女の子からだ」
「へ?」
女の子?誰だろう・・・。
信君は、僕の方を見ながらニヤニヤして、ウインクして部屋に戻っていった。
「???」
僕は受話器を取って。
「もしもし、代わりました。伊波ですけど・・・」
「あ、伊波君?私・・・同じクラスの白河です」
「白河さん?」
彼女は、2年になってからのクラスメートの女の子。髪をリボンで二つに分けて結んだ
髪型で、ピアノが凄く上手いらしい。(翔太談)
その白河さんが僕に何のようだろう?
ここの番号よく解ったな、誰かに聞いたのかな。
「あの〜伊波君?」
白河さんが電話口で困っている様子。
「あ、ごめん。良くここの番号分かったね?」
「うん、中森君に聞いたから・・・」
「翔太に?」
「うん、そう・・・」
翔太、学校から帰るときも何も言わなかったけど・・・。
僕は、疑問に想っていることを尋ねてみた。
「それで、僕に何か用?」
「うん・・・あの・・・ね、伊波君。携帯落とさなかった?」
少し、会話の仕方がぎこちない感じがする。おどおどしているような・・・。
「え?なんで・・・確かに落としたけど・・・」
「うん、私が持っているの伊波君の携帯」
「!」
白河さんが拾ってくれてたんだ・・・。
あれ?でも・・・僕の携帯だと、どうして分かったのかな?
ちょっと疑問に想いながらも
「ありがとう。助かったよ」
僕は、お礼を述べた。
「それで、携帯返そうと想うんだけど・・・出てこられる?」
さっきより、いくらか話し声が落ち着いてきた気がする。
気のせいだったのかな・・・。
「いいよ。じゃ、何処で待ち合わせようか?」
あれ?白河さん。何処に住んでるんだっけ。
「え〜と、白河さん?自宅はどの辺なの?」
僕は、質問をしてみた。
「私は、藍ヶ丘なの、桜峰の隣」
藍ヶ丘か・・・歩いても行けない距離じゃないな。
「藍ヶ丘駅にしようか?」
僕が言うと・・・。
「それじゃ、登波離橋で、待ち合わせましょう」
登波離橋・・・嘉神川に架かる橋。
距離的にも大したことはないけど・・・歩いていけるな。
「良いよ、そこで。時間は?1時間後ぐらいで良い?」
僕は時計を見て時間を確認する。
「うん、分かった。1時間後ね」
「それじゃ、後で・・・」
相手が電話を切るのを待って受話器を戻した。
その時信君が部屋か出てきて。
「よ、イナケン。デートのお誘いか?いいねぇ」
信君がふざけて絡んでくる。
「違いますよ。今日、携帯を何処かの落としてしまって、それを拾ってくれた
クラスメートからの電話です」
僕が状況を説明すると。
「いやいや、だってその子は、わざわざ電話を掛けてきたんだろう?それも番号を
確認してだ。おまえの友達に聞いて、じゃ何で直接学校でイナケンに返さないんだ?
しかるに、これはだな・・・女の子の方がイナケンに・・・・」
このまま話をしていると時間に遅れそうになるので、信君の話をはしおって・・・。
「ゴメン、信君。これから出かけるから、話はまた後で」
僕は信君にゴメンのポーズをして、自分の部屋へ戻る。
「イナケン、ちゃんと報告しろよ」
信君は笑って、手を振って、部屋に戻った。
僕は支度をして、時間を確認。
「少し早いけど女の子を待たせるわけに行かないから・・・外は寒いし」
呟いて、部屋を出た。
僕は、登波離橋までの道程を歩きながら考えていた。
白河さん・・・確か、名前はほたるって言うんだよな。
教室でも余り、話したこと無かったな・・・。
可愛い感じの娘で、結構人気もあるみたい・・・。
僕はまだ聞いたこと無いけど、ピアノが凄く上手でコンクールにも出ているとか
言っていたな・・・翔太が。
でも、何で学校で渡してくれなかったのかな・・・。
信君じゃないけど、まさかね・・・。
翔太もおかしな奴だよ、僕の携帯だって事も教えたの翔太じゃないのかな・・・。
健は幾つかの疑問を抱きながら、登波離橋へと向かった。
「待ち合わせの時間まではもう少しあるな・・・」
ちょうど、橋の中程に着いた、健は時計を見て時間を確認した。
もうすぐ日が暮れる頃・・・。
川面に太陽が傾いて空が夕焼けに染まっていく。
当たりの風景が赤く染まる。
僕は、太陽が沈んでいくのを欄干に寄り添って眺めていた。
「伊波君」
声のした方を見ると、制服の上にコートを羽織った、白河さんが居た。
走ってきたのだろうか、呼吸が少し速いみたい。肩で大きく呼吸をしている。
頬も少し赤くなっていて、信君の余計な吹き込みもあって、ちょっとドキッとして
しまった。
「まった?」
白河さんが申し訳なさそうに聞いてくる。
「ううん、僕も来たばっかりだから」
僕の返事を聞くと、少しだけ笑みが顔に戻った。
「良かった」
白河さんは、そう言うとポケットから携帯をとりだした。
「これ?伊波君のでしょ?」
差し出された携帯電話を受け取る。
確認のため番号を呼び出して確かめる。
「うん、僕のだ。ありがとう」
「うん♪」
微笑む白河さん。
「これ何処に落ちてたのかな」
「あ、そ、それはね。玄関脇の植え込みの傍で・・・」
急に様子がおかしくなる。
「??」
「拾ってくれたの白河さんだよね?」
僕はちょっと意地悪な質問を浴びせる。
「う、うん。そうだよ」
何か隠してる感じがする・・・。
でも折角もってきてくれたのにこれ以上疑っても仕方がない。
白河さんは下を向いてなぜか赤くなっている。
「白河さん?」
「・・・・・」
ちょっと冷えてきたかな、冬に橋の上にいれば当然か・・・。
「じゃ、そろそろ帰ろうか?だいぶ冷えてきたし」
僕がそう言うと・・・。
ハッとして、顔を上げる白河さん。
「あ、伊波君!」
まっすぐに僕の瞳を見つめてくる。
僕は急に恥ずかしくなって、視線を逸らしてしまう。
(伊波君に伝えないと・・・中森君が協力してくれたのに)
(ほたる、ガンバ。一言・・・伝えたい一言・・・)
「い、伊波君・・・携帯の番号教えて欲しいの・・・」
僕は、驚いて白河さんを見つめてしまう。
「・・・どうして?」
少し間があって・・・。
顔を赤く染めながら、白河さんは・・・。
「伊波君のこと、好きだから・・・だから・・・」
たぶん僕の顔は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔だろう。
まったく予期していなかった答・・・。
今度は僕が黙ってしまう番だ。
白河さんが僕のことを「好き」と言った。
僕も興味がなかったわけでもなかったから、ビックリするやら、嬉しいやら・・・
複雑な気持ちで、頭の中が混乱している。
確かに可愛い娘だと想った。
こんな娘が自分の彼女だったらと思ったこともある。
それが、今、僕の目の前で・・・僕のことが好きと言われた・・・。
僕は・・・。
「ありがとう。今はそれしか言えないけど・・・でも嫌いな訳じゃないんだ」
「ううん、そんなこと無いよ。これからほたるのことを好きになってくれたら
嬉しいな・・・」
瞳に涙を溜めている、ほたる。
僕は思いっきり彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。
でも、まだ自分の気持ちがハッキリしないのに、それは・・・。
僕も嫌いじゃない。どちらかと言えば、彼女に対して好意を持っている。
だから・・・告白なんてされたら・・・増して初めての経験。
動揺しないわけがない。
「白河さん・・・泣かないで、僕、凄く嬉しく思っているから」
「ありがとう、伊波君。それと・・・私のこと、ほたるって呼んでくれる?」
「え?」
いきなり呼び捨てですか・・・。
もう、唯の友達じゃない・・・かも・・・。
「しらか・・・ほたる」
「うん?・・・伊波君のこと・・・健ちゃんて、呼んでも良い?」
上目づかいで僕のことを見つめる。
そんな目で見られたら、ダメなんて言えない。
「いいよ。ほたる」
ほたるは満面の笑みを浮かべる。
「僕、ほたるのこと・・・好意は持っているよ。でも良く知らないし・・・だから
これから一杯ほたるのこと見ていこうと想う。これから宜しく」
僕がそう言い終わらないうちに、ほたるが僕の胸の中に飛び込んできた。
「ほたる!」
ビックリする僕。
「健ちゃん♪ほたる、もっともっと健ちゃんのこと好きになるね。健ちゃんもほたる
のこと一杯好きになってね♪」
僕は我慢できずにほたるを抱きしめた。
なんて柔らかくて、良い香りがするんだろう・・・。
少しの間お互いの温もりを感じ合っていた。

僕とほたるの時間がここから始まる。
二人だけの想い出が始まる。
生涯忘れることの出来ないクリスマスイヴになった。
記念すべき日。
ついさっきまで、暗いクリスマスだと想っていたのに・・・。
今では・・・。

「少し冷えてきたね、健ちゃん」
「そうだね、あ、そうだ。近くにファミレスがある。暖まっていこうよ」
「うん」
ほたるが頷く。
「時間は大丈夫?」
僕が心配して聞くと。
「大丈夫だよ」
「じゃ、僕が自宅まで送っていく」
「うん、ありがと。健ちゃんて優しいんだね」
そう言って、ほたるは、僕の腕に抱きつく。
それから僕たちは、ファミレスで楽しいおしゃべりや、ほたるが携帯を拾った経緯などを
聞いた。
僕はまんまとほたるにだまされた形になった・・・。
でも、僕のことを思ってくれてのことだから、笑って許した。

「え?騙されたこと?」
「それは、内緒♪」
「ま、機会があったらと言うことで」
「うん、そのうちにね♪健ちゃん」
「それでは皆様、いつかまたお会いしましょう♪♪」
by健&ほたる



終わり





-あとがき--------------
久しぶりのSSどうでしたでしょうか?
目一杯不安だらけで・・・心臓バクバク。
2ndの、健とほわちゃんのなれそめを私なりの解釈で書いてみました。
まあ、こんな感じかなと・・・。
違う、こんなじゃねぇ〜と言う声も聞こえてきそうですが。
SSと言うことで、一つの可能性ですよ。
沢山ある中のほんの一つのことを引っ張り出してみただけですから・・・。
上手く二人の気持ちが伝わっていればいいなぁと想っています。
それでは、御意見、感想、批評などお待ちしております。

                                                     byIku



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