『君のために・・・』
                             作:Iku


あなたに「さようなら」と言えるのは、今日だけ・・・。
あなたの気持ちは、分かるのだけど・・・私は・・・。
私はあなたのこと大好きです。愛しています。でも・・・。
私・・・何時までもあなたのことを待っていられない・・・。
周りがそれを許してくれません・・・。
本当は、何時までもあなたと一緒にいたい、あなたのことを信じていたい・・・。
でも・・・心の隅で、あなたのことを信じ切れないでいます。
私たちが、歩んできたこの6年・・・。
とても楽しかった。幸せでした。
何時までもこの日が続くモノと思っていました。
楽しい二人だけの日々が・・・。

俺はやっと自分の目標を見つけだし、その道を歩き続けることを決めた。
また、そうなるために努力も続けてきた。
それこそ、周りのことも考えず、ひたすら走ってきた。
詩音・・・君にはとても辛い思いをさせてしまったね・・・。
でも、それも、もう終わりだ。
俺は、晴れて詩音を迎えに行くことが出来る、自信を持って・・・。
詩音を驚かせようと想って、隠してきたけど・・・それも今日まで・・・。
全てを君に告げるよ。今の本当の気持ちを・・・。

俺は詩音の携帯に電話を掛けた・・・。
「もしもし・・・」
「詩音?俺、智也だけど・・・」
智也の声を聞いて、息をのむ詩音。
「智・・也・・・」
ちょっと元気のない詩音が気になる・・・。
「詩音?どうした?元気がないみたいだけど・・・」
「・・・・・・・・」
俺には、詩音の胸の内を推し量ることが出来なかった・・・。
今は、自分の気持ちを伝えたいことだけで、頭が一杯になっていた。
「詩音、今、大学?」
「はい・・・そうです」
「明日・・・逢えないかな、話があるんだ」
一息に伝えたい気持ちを抑えながら話す智也。
「はい」
「じゃ、午後で良い?いつものところで」
「はい、分かりました。時間は13時でよろしいですか?」
「うん、良いよ。じゃ、明日」
俺は、電話を切った。
「ヨシ、明日は、ビシッと決めるぞ」
上機嫌で一人呟く智也だった・・・。

あした・・・智也と会う・・・。
私の気持ちを伝えなくては・・・。
「さようなら・・・」を告げるために・・・。

俺は明日詩音に逢う前に、高校以来の悪友に会う約束をしていた。
待ち合わせの場所・・・。とある、喫茶店。
「よう、智也」
「おう、信」
お互いに、いつも通りの挨拶をする。
「で、俺を今日呼びだしたということは・・・例の奴決まったのか?」
ガッツポーズで・・・。
「ああ」
信が、笑顔になって・・・。
「やったな、智也!これで双海さんを迎えに行けるな」
「ああ、ありがと。信にも迷惑を掛けたな・・・」
「ばーか、何を言ってるんだよ、俺達は友達だろ?気にするな!」
笑いながら肩をたたき合う二人・・・。
「よく頑張ったよ。智也は・・・」
「で、双海さんとは何時会うんだ?まだ、言ってないんだろ」
「明日、逢う約束なんだ」
信が頷きながら・・・。
「そうか・・・この話を聞いたらきっと喜んでくれるな、双海さんも・・・」
「そうだな・・・」
智也は、今までのことを一人振り返っていた・・・。
詩音と同じ大学に行きたくて、猛勉強をした。
お陰で、同じ大学へはいることも出来た。
その時の詩音の喜びようと言ったら・・・。
「智也!!あった!二人とも合格!!」
人目も憚らず、二人して抱き合った。喜びを分かち合った。
今となっては、懐かしい思い出・・・。
それからの俺は、急にやる気をなくしてしまった。
とにかく一緒の大学へはいるのが目標だったから・・・。
その時に、抱いていた夢も忘れて・・・。
その目標が達成されてしまった今は、完全にふぬけになってしまった・・・。
何となく講義をこなし、何となく日々を過ごしてきた・・・。
詩音は何かにつけて俺のことを気づかってくれていたのだが・・・。
最近は、そんな俺に愛想を尽かしたのか、以前に比べると余り言わなくなった。
その変化は、俺自身も分かっていたことなのだが、自分ではどうする事も出来ずにいた。
それからか、詩音の態度が少しずつ変わり始めてきたのは・・・。
俺は、余りにも気づくのが遅かった。詩音に甘えていたのだ。
だから、そんな俺に、愛想を尽かしても仕方のないこと・・・。
俺が悪いのだから・・・。
そんな俺も、後1年ちょっとで卒業することになる。
ふとしたことで、忘れていた、大切なことを思い出した。
俺の夢。
世界を旅して、歴史を研究すること。考古学へのあこがれ・・・。
詩音がいつも俺に思い出させようとしていたこと・・・。
せっかく、選んだ学部なのに・・・。
俺はその頃から、急に研究室や、教授の下へ通い始めた。
詩音とは、学部が、違うために俺が、変わったことを知らないでいた。
俺としては、今までが良くなかったので、詩音にこのことを告げるのが妙に
恥ずかしくて、黙っていることにした。
それにまだ、モノになるか分からないことでもあったため・・。
当然付き合いも今までと違って、悪くなる。
このことは二人の友人でもある、信には、きちんと俺から説明をした。
もちろん、詩音には内緒にして貰うことを付け加えて・・・。
信はその辺は、しっかりとしているので、詩音へのフォローも忘れずに
二人の中が、ギクシャクしないように努めてくれていた・・・。
でも・・・あまりに長くは、無理のようだった。
俺の態度が変わったことに、詩音も気づき初め、信のフォローも空振りがちになった。
それでも俺は、夢の実現のため、詩音に俺を認めて貰うために辞めることは
出来なかった・・・。
そして俺の努力が報われて、卒業後も助手として研究室に残ることが出来た。
俺をこの道に誘った教授の下で一緒に研究が出来ることとなった。
俺の最終目標は、詩音の親父さん・・・双海教授と世界を回ること。
この夢は、高校時代に詩音に話していた。
その時の詩音は、涙を流して喜んでくれたモノだ・・・。
夢がやっと実現のモノとして、手の届くところまで来ている。
このことをやっと、詩音に伝えることが出来る・・・。
あした・・・それを君に伝える。
ぐっと拳を握りしめる智也だった。
「智也?おい、何をそんなに・・・顔が変だぞおまえ」
「えっ」
「まっ、わからんでもないけど・・・明日のことを考えていたんだろ」
「あっぁぁ・・・」
残っていた紅茶を一気に飲み干して・・・。
「じゃ、智也。俺これからバイトだから・・・」
「悪かったな、信。無理言って・・・」
信は両手をあげて・・・。
「もう謝るな。いいな。俺は親友のためにちょっと手を貸しただけだ」
「ああ、分かってるよ。ありがと」
信は頷いて・・・。
「そう。そう言う顔をしていろ。いいな、じゃ、俺はいくから・・・」
「またな・・・」
智也の表情は、晴れやかな笑みを浮かべていた・・・。
明日の詩音と逢うことが、どんなことになるかも知る由はなかった・・・。

約束の日・・・。
俺は、早めに家を出て、待ち合わせ場所のいつもの喫茶店(信の姉ちゃんがいる店)に
来ていた。
「あら、智也君。今日は一人?」
信の姉さん。
「あ、いえ。ここで待ち合わせなんです」
「ふ〜ん、詩音ちゃんと?」
「ええ・・・」
「相変わらず仲がいいのね」
「え・・・ま・あ・・・」
ニコニコしている信の姉さん。
「オーダーは?どうする?」
「じゃ、ダージリンをミルクで御願いします」
「ダージリンをミルクでおひとつですね、ありがとう御座います」
信の姉さんは、下がっていった。
時間までもう少し・・・。
何から話そうかと、頭の中で考えていた・・・。
腕時計を見るとちょうど約束の13時・・・詩音の、姿は見えない・・・。
「おかしいな、いつもは時間までに来るのに・・・」
一人呟く智也。
窓の外を眺める・・・。
外を行き交う人並みを見つめる智也・・・。
その中に詩音の姿を捜す・・・。
約束の時間が20分ほど過ぎた。
詩音はまだ、現れない・・・。
智也の心に不安がよぎる・・・。
あの時と同じだ・・・。
違うのは、天気と待ち合わせの場所だけ・・・。
あの時は・・・雨。
遊園地・・・。
詩音の、突然の転校・・・。
「まさか・・・」
智也の表情が見る見る変わる・・・。
締め付けられる想いで、胸が張り裂けそうだ・・・。
「詩音・・・なぜ来ない」
俺は、電話をしようと携帯を取り出す・・・。
すると・・・いきなり着信音が・・・。
ディスプレイを見ると・・・。
「詩音からだ」
急いで、電話に出る。
「もしもし、詩音?」
「智也・・・」
消えてしまいそうなほど力のない小さな声・・・。
「詩音、どうした?具合でも悪いのか」
「いいえ・・・大丈夫」
「何かあったのか?」
「・・・・・・・」
少しの間沈黙が続く・・・。
「智也・・・私・・・」
「詩音?」
「私・・・逢えない」
「えっ、詩音!」
「ガチャ・・ツーツーツー」
電話が切れた・・・。
「詩音?・・・・」
俺は、何がおきたのか理解できずにいた。
「あら?詩音ちゃんこないの?」
信の姉さんが尋ねてきた。
「え、ぁ・・・急用が出来たみたいで・・・」
取り繕う智也・・・。でも智也の顔を見れば・・・。
「智也君?・・・」
「俺、これで帰ります。ごちそうさまでした」
俺は伝票を掴むと席を立ち上がってレジへ・・・。
急いで店を出た・・・。
詩音いったい・・・何があったんだ。
考えを巡らすが、答えは見付からない。
詩音の携帯に電話を掛けるが繋がらない・・・。
俺はいったん部屋に戻ることにした。
ベッドに身体を投げえだして、天上を見上げる・・・。
今までのことが、走馬燈のように浮かんでは消えていく・・・。
「俺は・・・どうしたら・・・」
頭を抱え込んで横を向く・・・。
机のパソコンが目に留まる。
「もしかして・・・」
俺は、飛び起きてパソコンの電源を入れた。
メールを呼び出す・・・。
受信欄にメールの表示・・・。
メールを開くと・・・。
詩音からだった。

智也へ
今日、お会いすることは出来ません。
私は、疲れました。智也を追いかけることに・・・。
智也は・・・智也は・・・。
私のことは、もう・・・。
今日は、父の紹介である方と約束がありまして、そちらに行くことは出来ません。
いいえ、これからは、お会いすることも・・・無い・・・。
さようなら・・・ともや。

短いメールだった。
智也は、愕然とした。今まで、詩音のことを想い、詩音のためにと頑張ってきたのに
それがこんな形で終わろうとは・・・。
「事の始まりは、俺にある・・・」
呟く智也・・・。
俺が、バカなことをやっていたせいだ・・・。
なぜ?もっと早く気づかなかったのだろう・・・。
詩音・・・・。
後悔の念で押しつぶされそうだ・・・。
自分のことを悔やみ罵倒する智也・・・。
でも今更・・・俺は・・・俺は・・・。
「さようなら」の文字が脳裏に焼き付く・・・。
心の中で、誰かが囁く・・・。
「智也、本当に終わらしてしまって良いの?」
誰?
「智也はもう何も出来ないの?」
「智也自身で確かめなくて良いの?」
そんなことは・・・。
「智也・・・らしくないよ、そんなの」
「さあ、勇気を出して・・・」
「私の好きだった智也はこれくらいで挫けたりしないよ」
「自分を信じて、詩音さんのことを思いだして・・・」
「彼女も悩んでいるはず・・・救ってあげて、彼女の心を」
「智也にしかできないことだよ」
「さあ、元気を出して・・・」
はっとして、時計を見る。
ほんの2,3分しか経っていない。
今のはいったい・・・。彩花・・・君なのか?
俺・・・また、彩花に助けて貰ったな・・・。
そうだ、こんな事をしている場合ではない。
詩音に逢わなくては・・・。
あの時だって、ダメと分かっていても詩音を追いかけたじゃないか・・・。
詩音と離れたくない一心で・・・。
今も同じじゃないか・・・。
俺は、詩音と、別れたくなんかない。
俺は、詩音を愛してるんだ。
俺の傍にずっと居て欲しいのは、詩音・・・君だけなんだ。
「とにかく、詩音に逢わなくては」
俺が部屋を出ようとすると・・・。
携帯が鳴った。
信からの電話だ。
「もしもし、信?」
「智也、何があったんだ」
「えっ」
「おまえ、双海さんと会わなかったのか」
「何で、信が・・・」
「どうなんだ」
「逢えなかったんだ」
「そうか」
「とにかくすぐに出てこい。駅にいるから」
電話は、切れた。
俺は家を飛び出した。
今までにない早さで駅に着いた。
俺の目に入ってきたのは・・・。
改札の前にいる信と・・・詩音?
「詩音・・・どうしてここに・・・」
俺はゆっくりと信と詩音に、近づく・・・。
詩音は俯いている・・・。
信は・・・こっちに来いと手招きをして・・・。
「智也、ちょっとしたすれ違いがあったみたいだな・・・」
「えっ・・・」
詩音の方を見る・・・。
「後は二人で解決しろよ」
信は、笑って雑踏の中へ消えていった・・・。
「詩音・・・」
俺は、詩音に近づいた。
詩音の肩が小さく震えている・・・。
俺は詩音の肩に手を置いて・・・。
「詩音・・・ごめんな」
首を振る詩音。
「いや、謝らせてくれ。俺がちゃんとしてないばかりに、詩音に迷惑を掛けた」
「そんなこと・・・ありません・・・」
小さな声・・・。
「俺、思い出したよ。詩音と約束した夢」
「・・・・・・」
顔を上げて智也を見る・・・。
「俺さ・・・照れくさくて、黙っていたんだけど・・・」
「やっと、ハッキリとしたよ。俺の夢そして、やりたいこと」
「と・も・や」
瞳を赤くして、涙が頬を伝う・・・。
「俺、卒業後も、大学に残って、研究を続けるよ。教授とも話した」
「ほんと?」
「ああ」
「教授の助手として、頑張るよ」
頷く詩音。
「だって、俺の目標は詩音の親父さん、双海教授と一緒に世界を回ること」
「双海教授、助手の奥さん、俺と・・・俺の一生のパートナー詩音君と」
曇っていた、詩音の顔が急に明るくなって、俺の胸に飛び込んできた。
「智也ぁ〜」
詩音は胸に顔を埋めて泣き出してしまう。
俺はそっと、詩音を抱きしめる。
「ごめんな、不安なことばかりで・・・詩音、もう、放さないよ。愛してる」
詩音がぎゅっと強く抱きしめてきた。
「智也、私も・・・愛してます。だから、あなたの傍にずっと居させて・・・」
「当たり前だ・・・一生傍にいてくれ」
見つめ合う二人・・・。
周りのことなど、二人の目に入らない・・・音も・・・。
どちらとも無く唇を重ね合う・・・。
そんな、二人のことを影から見つめる信・・・。
「良かったな、智也、詩音さん」
「しくしくしく・・・・」
信の傍で泣き声・・・。
同じく智也と詩音の様子を見ていた、唯笑。
「智ちゃん、詩音ちゃん、良かったね」
もらい泣きをしている唯笑。
「ほら、もう泣かないの、唯笑ちゃんが泣いてたら、おかしいよ」
「だって・・・」
信に寄り添って、泣き続ける・・・。
「俺達が祝福してあげなきゃ・・・泣いてたらおかしいよ」
「うん、唯笑もうれしんだもん」
少しの間二人を見ていた信と唯笑・・・。
いつの間にか、姿が見えなくなった・・・・。
俺達はどうしたかって・・・。
いつもの喫茶店によって・・・。
信の姉さんに冷やかされて・・・。
「智也、私も研究室に行っても良い?」
少し甘える感じで、尋ねてくる・・・。
「もちろん、良いよ。詩音は大歓迎さ」
「研究室の人が羨ましがるよ」
「??」
「だって、可愛いし、美人だしね♪」
「もう、智也ったら・・・」
真っ赤な顔をして、微笑む詩音。
「それに、俺の恋人でみんなのあこがれの教授、双海氏のご令嬢だもの」
恥ずかしさの余り俺の胸に顔を埋めてしまう。
「アハハハ・・・照れてる照れてる」
「からかわないでください」
怒っているみたいだけど、顔が赤いから、ついね・・・。
他人が見たら・・・たぶん呆れるだろうなぁ・・・。
「智也、目。まだ赤い?」
「ウサギさんだ」
「ホントに」
「うん」
高校時代に思いをはせて楽しい一時を過ごした・・・・。


おわり



-あとがき--------------

久しぶりのSSでした。
1ヶ月ぶりくらいでしょうか・・・。
スランプからの脱出・・・になったかなぁ?
もっと明るい、話にしたかったけど今は、ここいらがベストかな・・・。
一応、私の一番好きなキャラ、詩音ちゃんで書いてみました。
ちょっと、詩音ちゃんが違っているかも・・・。
久しぶりなんで、いろいろとお気づきの点も多々あると思いますが、復活記念?
てことで、広い心で見てくださいな。
それでは、御意見、感想などをお聞かせ願えれば、嬉しく思います。
                                                     byIku



 感想BBS




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送