『くもりのち晴れ』
                             作:Iku


俺は今、ものすごく落ち込んでいる・・・。
ほんの些細なことで、口喧嘩・・・。
すぐに謝ってしまえばいいモノを、意地を張って・・・。
バカだと思っている。俺が悪い?たぶん・・・。
だけど・・・。

俺の心の空はあの時以来、曇りのまま・・・。
「はぁ〜ぁ」
大きな溜め息をつく。
「あれ?どうしたの、三上君」
お隣の音羽さんよりご質問。
「うん、ちょっとねぇ・・・」
沈んでしまう俺。
「あ〜ぁ、そんなにへこんじゃって・・・双海さんのこと?」
「う・・・ん」
クラスの殆どの連中が俺と詩音が、喧嘩状態にあることを知っている。
別に殴り合いの喧嘩をしたわけではなく、口論をしただけ・・・。
ここ数日の状態を見れば、当たり前のことではあるが・・・。
「で、三上君はどうするの?双海さんのこと」
「どうするって言われてもなぁ・・・」
何となく詩音の席を見る。誰も座っていない席・・・。
既に口を利かなくなって、数日が経っている。
「三上君が悪いんでしょ?双海さんのことほっといたから」
と、音羽さんが痛いところをついてくる・・・。
「別にわざとほっといた訳じゃないよ。結果的にそうなっただけで・・・」
「でもそのことで謝っていないんでしょ?」
「うん・・・」
俺が頷くと・・・。
「三上君が悪い!!」
俺に指を突きつけてビシッと言ってくる。
「うぅぅぅ・・・」
項垂れる俺。
やっぱりな・・・放課後約束していたのに、図書館に行かなかった。
と言うより行けなかった。遅れると分かっていながら、詩音に連絡を
しなかった。これが拙かった・・・今想えば。
ちょっと手助けをしてあげた同級生の女の子・・・何ていったけ・・・
確か・・・飛世さん。
彼女のちょっとした手伝いをしたまでは良かった。
そのままで終わっていれば・・・。
「ありがとう。手伝って貰えて、助かりました。私、飛世巴って言います。3−Bです」
「俺は、3−Cの三上智也」
「あれ?その手にしてるの台本?」
「はい、演劇の台本。見ます?」
・・・・・・・
挨拶を交わした後につい、話し込んでしまった。
飛世さんが持っていた演劇の台本を偶然見てしまって、それが俺の知っている
内容の話だったからなおさら拙かった・・・。
で、きがついたら下校時間を過ぎていて、飛世さんと別れて、慌てて図書館に行ったけど
既に閉まっていた。
俺はすぐに詩音を捜したけど、姿は見付からず・・・。
鹿電の駅で待っていたけど詩音は現れない。
当然携帯にも電話したけど出てくれない・・・。
「なぜだ、ちょっと遅れただけじゃないか・・・」
一人呟く・・・。
このとき智也は気づいていなかった。
飛世さんと楽しそうに話していたところを図書館から、帰る詩音に目撃されていた
ことを・・・。

それから詩音とは連絡が取れずにいた。
当然、教室であっても話をしない・・・。
智也も意地になって、詩音から声が掛かるまで無視することにした。

「でもさ、俺はちゃんと話をしようと、連絡をしているのに無視されているんだよ」
「それでも俺が悪いのか」
などと悩んでいると・・・。
「うん、三上君がやっぱり悪いよ。双海さんは悪くない。この場合は男の方が謝るべき」
音羽さんが、ハッキリと言ってのける。
「そうか・・・約束破ったの俺だもんなぁ〜〜」
「そう!だから三上君が悪い」
「はい・・反省します」
本当にこのままだと拙い。
下手をすると昔の詩音に戻ってしまう・・・。
とにかく話をしなくては・・・。
とりあえず放課後、図書館に行ってみよう。
放課後の図書館・・・・・・。
いつもは軽く開くはずの扉が、今日は重く感じられる・・・。
俺の心の状態が、軽い扉を重く感じさせている、体に現れている証拠・・・。
気が重い・・でも、このままでいいわけじゃない。
気持ちを静めて、図書館に一歩はいる・・・。
いつもに増して、重い空気が俺を取り囲む。
俺の来るのを拒むかのように・・・。
詩音の姿を捜す・・・居た、いつものカウンターに・・・。
俺はゆっくりと詩音に、近づいていく。
俺の気配に気づいたのか、詩音が俺の方を見る。
「・・・・・・・・・」
無言・・・・刺すような眼差し・・・ここへ来るなと言っているみたいだ。
一瞬歩みが止まる・・・。
まだ、怒っているみたいだな・・・どうしようか・・・。
ものすごく声を掛けにくい雰囲気が漂っている。
俺は、気持ちを整えて詩音に近づく・・・。
「詩音・・・・」
「・・・・・・」
いつもなら笑顔を見せてくれるのに、今日は・・・。
「詩音、少し良いかな?」
「・・・・・・・・・・」
哀しそうな目で、俺を見つめる・・・。
「話がしたい。奥の席にいるから、手が空いたら来てくれ・・・」
「・・・・・・・」
無言で頷く詩音。
俺はよく、詩音と話をしたテーブル席へ移動して、そこで詩音の来るのを待った。
俺は窓辺に立って外を見ていた・・・。
心の中で詩音への言葉を探している・・・。
まず謝らないと、約束を守れなかったこと、その理由・・・。
詩音を捜したこと、連絡を取ろうとしていたこと・・・等々・・・。
「智也・・・」
小さな声が聞こえた。
俯き加減の詩音の姿・・・。
「うん?仕事は済んだの?」
「はい・・・・」
俺は詩音の方に向き直って・・・。
「詩音!ごめん!俺が悪かった。約束を破ってしまって・・・」
俺は頭を下げて、心から謝罪した。
「・・・・・・・」
詩音は智也の言葉を待っている・・・。
心からの言葉・・・言い訳ではなく智也の言葉・・・。
「私・・・見てしまったの、智也が楽しそうに話しているところを・・・」
「えっ?」
あの時・・・飛世さんと話していたのを見られてたのか・・・。
詩音の知らない女の子と話をして、時間に遅れるなんて・・・最低だな・・・。
「あれは偶然・・・」
詩音は俺の言葉を遮って・・・。
「私がどんな気持ちでそれを見ていたのか智也に分かりますか・・・わたし・・・」
「とても哀しかった・・・智也、どうして?」
詩音の瞳に、涙が浮かぶ・・・。
「だから・・・」
「言い訳は聞きたくないの・・・」
「・・・・・・」
次の言葉が出ない・・・俺はなんて事をしてしまったんだ。
詩音をこんなに悲しませて・・・。
「詩音、聞いてくれ・・・」
「・・・・・・・・」
俺はあの時のことを隠さず全て詩音に話した。詩音が聞いているのか分からない、でも。
「その後、急いでここに来た。詩音がいなかったからすぐに駅まで行って待っていたんだ」
「携帯にも何度も電話したけど繋がらなくて・・・本当にごめん」
詩音が口を開くのを待つ、唯待つしかない・・・。
少しして、詩音が口を開く・・・。
「私・・・ずっと待っていました。智也が来てくれると想って・・・でも、時間になって
も智也は来ないし、帰ろうと想って廊下の窓から中庭を見たら、智也の後ろ姿が見えて・・・
私の知らない女の子と楽しそうに話す智也・・・私との約束を忘れて他の女の子と話をし
ているなんて・・・」
寂しそうな顔をこちらに向ける・・・。
その時、詩音がどんな思いで俺を見ていたのか・・・。
俺は、なんてバカな奴なんだろう・・・。
俺のことをいつも一番に想っていてくれる詩音に・・・甘えていたのかな・・・・。
自分勝手だな・・・俺って・・・。
「・・・・・・・」
今にも泣き出しそうな顔で俺を見る。
「俺は詩音に謝りたい。約束を忘れてしまったこと。許してくれるなら何でもするから・・・
詩音、そんな哀しそうな顔をしないでくれ」
俺も心から詩音のことを想っている。
だから・・・。
「智也の気持ち分かっています・・・。わかるから、よけいに・・・」
涙を浮かべながらかろうじて、言葉をつなぐ・・・。
「詩音・・・」
「智也が約束を守れなかったことで、反省をしていること、私のことを一番に想っていて
くれることもわかっています・・・だから遅れるならすぐに連絡を欲しかった・・・
一言で良いから・・・・」
最後は、涙声になっていく・・・。
俺は・・・。
何も言わず、詩音を抱き寄せた。
「!」
少しビックリして身体を堅くした詩音だが、すぐに力を抜いて、俺に身体を預けて
来た・・・。
上目づかいで、俺を見上げる詩音・・・。
涙が頬を伝わって流れ落ちる・・・。
俺は言葉に出来ない想いを態度で示すしかなかった。
ちょっとした行き違い・・・甘えていた俺・・・。
詩音は俺が想っている以上に、俺のことを一番に考えていてくれる・・・。
俺の気持ちを受け入れてくれると想う・・・。
詩音は頭のいい子だから・・・。
詩音の手が俺の背中に回される。
俺は少し、腕に力を込めた・・・。
詩音もそれに応えてくれる・・・。
気持ちは伝わった。
俺達は暫くそのままで、お互いの温もりを感じ合っていた・・・。

翌朝・・・いつもの待ち合わせ場所。
詩音の姿が見える。
俺に気づくと・・・満面の笑みを浮かべて迎えてくれる・・・。
「・・・・・・」
この表情・・・笑顔。
やっぱり、詩音には笑顔が似合う。
何か凄く嬉しい気持ちになった。
久しぶりに見る詩音の笑顔・・・。
「詩音おはよう」
「お早うございます。智也」
詩音が寄り添い、腕を絡めてくる・・・。
頬を少し染めて・・・。
「詩音?」
俺の問いかけに微笑んで応えてくれる。
そんな詩音の態度が凄く嬉しかった。
今日の詩音はとても嬉しそう・・・。
俺は改めて、惚れ直してしまったかなと想う。
急に顔が火照りだした。
「智也、約束・・・覚えていますか?」
「はい?」
じと目で俺を睨む・・・。
うぅぅ、そうだ、昨日・・・確かに約束した。
「ああ、あのことね。覚えてるよ」
「じゃぁ、今日御願いして良いですか」
「何を?」
「内緒です♪」
嬉しそうに笑いながら、俺の腕に抱きつく詩音・・・。
昨日までのどんよりした俺の心に今日の天気のような秋晴れの青空が広がる・・・。
何かとても良い日になりそうな予感。
俺と詩音は、腕を組んだまま学校へ続く坂道を上っていった・・・。


おわり


-あとがき--------------
え〜と、今回は、詩音ちゃんです。
何の変哲もない、ちょっとした出来事の話・・・。
詩音ちゃんの良さを再認識した智也・・。
智也のことを一途に思い続けている詩音・・・。
他人同士が一緒にいれば色々あるわけで・・・。
相手のことを想っているからこそ、あり得ることですよね。
そんな二人の気持ちが伝わっていれば嬉しいかなぁ〜と・・・。
では、感想、御意見、批判等お待ちしております。
                                                     byIku



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