『初めてのバレンタインday』
                             作:Iku


もうすぐ2月14日。
女の子から好きな男の子へ気持ちをチョコレートに託して伝える日・・・。
初めて作るチョコレート。
初めて渡す好きな人へのチョコレート。

上手に出来るでしょうか?
あの人は喜んでくれるでしょうか?

キッチンでせっせとチョコレート作り。
調理台一杯に器具を並べて、一つのチョコレートを作る。
アオイのキャラクターの入ったお気に入りのエプロン、長い髪を後ろに束ねて・・・。
小さい頃に見た母がキッチンで調理をしているときの様に・・・。
湯煎で板チョコを少しずつ解かしている詩音。
少し緊張気味にだけど、楽しい気持ちの方が勝ってつい顔がほころんでしまう。
「ふふっふふ・・・」
鼻歌も混じりだして、リズムを取りながら作業を進める詩音。
「好きな人に何かを作ってあげるというのは楽しいことなんですね」
呟きながら手を止めて物思いに耽る。
私は今までこんな気持ちになったことはありませんでした。
今までは、周りの騒ぎが鬱陶しく想うことはあっても楽しいこととは
考えもしませんでした。
だって、私は仮面を付けて壁を使っていたから、誰からも見えないように
そして誰も見ないように・・・・。
でも、智也さんに会ってからは少しずつ変化が起きて・・・。
クラスの皆さんとも気軽にお話が出来るようになりました。そしてお友達も・・・。
今坂さん、音羽さん、稲穂さん、伊吹さん、小夜美さん・・・昔の私からは
考えられないことです。
まして、暗い過去のあるこの日本で仮面を取ることが出来たなんて。
決してはずすことはない、はずせないと想っていた仮面を智也さんのお陰で
はずすことが出来て、私の歪んでいた日本に対する考えも変えてしまいました。
どれも全て智也さんが私に下さったもの・・・。
あの日、智也さんに会わなければ・・・。
澄空学園に転校しなければ・・・。
私が日本に来ることがなければこんな事はなかったと思います。
全てが偶然に起こったこと・・・。
いいえ、私も心の奥底ではこんな事を臨んでいたのかもしれません。
でも、私からは、私自身の力では出来なかったことだと想います。
そんな私に力を与えてくれたのが智也さん、貴方です。
智也さんがいてくれたから・・・傍にいてくれたから。
私が素直な私のままで居られる。
私が仮面を付けずに笑顔でいられる。
毎日が楽しく充実した日を過ごせる。
そして大好きな智也さんが私の隣にいてくれるから・・・。
私は、智也さんから沢山のものを頂きました。
大切な沢山のお友達・・・。
優しさと悲しさ・・・。
本の中でしか知らなかった恋・・・。
好きな人を思いやる心・・・。
そして今年の私の誕生日・・・最高のプレゼントを頂きました。
一生忘れることの出来ない言葉のプレゼント・・・。
私の抱いていた気持ちが智也さんに届きました。
智也さんも私のことを・・・・。
私にとっての2月3日は特別な日になりました。
そして明日。
バレンタインデー。
初めてのチョコレート。
初めて自分で使ったチョコレートを贈ります。
・・・・・・。
一人今までのことを思い出していた詩音。
急に胸の当たりが熱くなって・・・改めて智也のことを好き、愛していると
感じている。
「短い間でしたけど、沢山のことがありましたね」
と、呟いて、笑みを浮かべる。
再びチョコレート作りに没頭する詩音だった。

翌14日。
昨夜遅くまでチョコレート作りをしていた詩音。
今朝はちょっと朝寝坊。
とは言っても今日、学校はお休みの日。
いつもより遅めに起きる。
窓のカーテンを開けると・・・何とそこは一面の雪景色。
「昨日の夜は冷え込むと想っていたら雪が降っていたのですね」
窓を開けると身を切るような冷たい空気が入ってくる。
「はぁ〜・・・」
息を吐くと真っ白になって広がっていく。
窓から手を出して、まで降り続く雪に触れてみる。
手のひらに乗った雪は、すぐに溶けてしまう。
「冷たい。でも気持ちのいい朝ですね」
窓を閉めて洋服に着替える。
いつものカッターシャツにニットのセーター下はストレートのジーンズ。
詩音のお気に入りの服装。
居間に降りてゆっくりと紅茶を飲む。
身体の芯にまで染み渡る感じをしばし楽しんでいる。
暖炉の近くの時を見ると、10時ちょうど。
智也との約束は11時。
「そろそろ時間ですね、出かけましょう」
一人呟くと、詩音は準備を始める。
昨日作ったチョコレートをショルダーバックに納めて、厚手のコートを羽織り
雪が積もっているのでスノーブーツを履いて待ち合わせの駅に向かった。
休日の朝と言うこともあって、まだ人通りは少なく足跡を付けているのは詩音一人。
雪を踏みしめる感触が楽しくて、つい道草をしながら歩いてしまう。
目に入る景色もいつもの見慣れたものとは違って見える。
「町も雪化粧をすると趣があって良いモノですね」
詩音は、景色を楽しみながら駅への道程を進んでいった。
待ち合わせは、藍ヶ丘駅前。
私鉄芦鹿島電鉄芦鹿島線通称シカ電の駅。智也の家の最寄り駅。
詩音は楽しみながら駅には着いたのだが・・・。
突然の雪で、シカ電は遅れが出ている様子。
駅のアナウンスでお知らせをながしている。
「本日は雪のためご迷惑をお掛けしますが只今運行ダイヤが乱れております
おいそぎのところまことに・・・・」
電車が遅れているとのこと。
詩音は腕時計を見て時間を確認する。
約束の30分前。いつもなら問題なく間に合う時間なのだが・・・。
少し、時計とにらめっこをして考え込む。
すると、詩音の携帯電話から着信のメロディが流れる。
コートのポケットから携帯をとりだして着信を確認すると智也からだ。
「ハイ、詩音です」
「詩音?今どこ?」
智也の声が聞こえる。
「今、電車に乗ろうと駅に着いたところです」
「じゃ、そこで待っていてくれ。今そっちに向かっているから」
智也さんがこっちに向かっている?
「智也さんは今どちらですか?」
「俺は電車の中。後5分ほどで着くから」
「ハイ、分かりました。お待ちしております」
詩音は電話を切って、改札口の前で智也を待つことにした。
改札の前から駅前の景色を眺めるとどことなくいつもの駅ではなく
何処かの雪国へ来たような感じさえする。
雪は相変わらずに降り続いている。先ほどよりはいくらか小降りになった様子。
駅に電車が入ってくるのが見えた。
「智也さんはこれに乗っているのかしら・・・」
乗降口の方に目をやると息を切らせて走ってくる智也の姿が見える。
詩音は軽く手を挙げて智也を笑顔で見つめている。
詩音の居場所に気付いた智也がこちらに向かって駆けてくる。
「おはよう詩音」
「おはようございます。智也さん」
挨拶を交わす二人。
「寒くないか?」
そう言って、智也さんは私の肩を抱いてくれました。
ちょっとビックリしましたけど、智也さんの優しさですぐに暖かくなりました。
「大丈夫です」
ニッコリと微笑む詩音。
「智也さん?でもどうしてこちらに・・・藍ヶ丘で、待ち合わせのはず」
疑問に想って聞いてみる。
「ああ、雪が降っていたから少し早めに家を出たんだよ。駅に着いたら電車が遅れている
とアナウンスがあったから、思わず来た電車に飛び乗ったわけ」
智也さん曰く、待っているより私の方へ向かった方が早いと想われたそうです。
智也さんらしいですね。
たわいもない話をしている二人。
詩音が寒さのために少し体を震えさせる。
「寒いだろう?何処かで少し暖まろうよ」
智也さんはそう言って私をご自分の方へ抱き寄せました。
私は・・・顔は真っ赤、鼓動は早くなり寒さなんて何処かへ飛んでいってしまいました。
「と、智也さん。私の家に入らしてください」
やっとの事で言葉を出す。
「え、詩音の家?久しぶりだな詩音の家に行くの・・・」
笑顔で応えてくれる智也さん。
「さあ、行きましょう」
智也の手を引いて歩き出す詩音。
詩音につられるように歩く智也。
二人は肩を並べて、智也の腕に自分の腕を絡める詩音。
智也のダウンジャケットのポケットに一緒に手を入れている。
握り逢う二人の手。
暖かい・・・。
智也さんの手・・・。
冷えていた詩音の身体に智也の温もりが流れ込んでくる。
雪も殆ど止んでいたので傘も差さずに歩く。
交わす言葉は少ないけれど、とても幸せな時間。
寒さも何処かへ行ったきり・・・。
やがて二人は、詩音の家に着いた。

居間の大きな暖炉の前でくつろぐ智也。
詩音の入れてくれた美味しい紅茶を飲みながら体を温める。
詩音は朝食を取らずに来た智也のために簡単な食事の用意をしている。
「智也さん、どうぞ」
ロールパンで作ったサンドイッチ。
「ありがとう」
智也は美味しそうにパンを食べる。
それを横で嬉しそうに微笑みながら見つめる詩音。
「お口に合いますか?」
紅茶を注ぎながら尋ねる詩音。
「もちろん。美味しいよ」
あっという間に平らげてしまった智也。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
微笑み見つめ合う。
「ふふふふふっ・・・」
良かった。智也さんに喜んで貰えて・・・。
絶えず笑みを浮かべている詩音。
今日は、私・・・朝から笑ってばかり見たいです。
突然の雪景色。
雪の中を楽しく歩いたこと。
智也が自宅に来てくれたこと。
大好きな紅茶をお気に入りの場所で、智也と二人で飲んでいること。
そして、二人きりでいること・・・。
詩音は、バックの中から昨日作ったチョコレートを出す。
綺麗にラッピングをしてリボンの飾り付けまでしてある。
リボンの間には智也へのメッセージカード。
「智也さん・・・私からの気持ちです」
智也にチョコレートを渡す。
「ありがとう詩音」
微笑む詩音。
「開けても良い?」
「はい・・・」
リボンのところにあるカードに気付く。
「これは?」
「あ、後で読んでください」
頷くとカードを横に置いて包装を解いていく。
箱に入ったチョコレートが顔を出す。
「詩音・・・これ作ってくれたのか」
頷いて応える。
ハート形のチョコレート。
書いてある文字を読んで赤くなる智也。
智也さん・・・照れている様子です。
変なことは書いていないはずですが・・・。
「詩音!最高だよ。ありがとう」
「智也さん、良かったら食べてみて下さい。味の報償はありませんが・・・」
自嘲気味に微笑む。
「食べちゃうの?勿体ない感じもするな」
智也さんはチョコレートの端を欠いて口の中へ・・・。
緊張をする私・・・どうでしょうか?甘すぎてはいないでしょうか・・・。
「美味しい。甘さもちょうど良いよ」
微笑む智也。
「ホント?良かったぁ」
安堵のため息をもらす詩音。
「うん?自信なかったのか?」
「だって・・・初めて作ったんですもの・・・やっぱり心配でしたから」
上目使いで智也さんを見るとなにやら不思議な表情をしています。
拳を握りしめて・・・。
感動?でもしているのでしょうか?
私はティポットが空になっているので新しい紅茶を注ぎにキッチンへ向かいました。
居間のソファーに戻ってテーブルを見ると・・・。
開いているメッセージカード。
あ、智也さん・・・読まれたのです・・・ね。恥ずかしいです。
智也の隣の腰を下ろす。
智也の顔を覗き込むと・・・。
いきなり智也さんが私を抱きしめました。
「と・も・や・さ・ん」
真剣な目をしている智也さん。
私のメッセ−ジを受け取ってくれたのですね。
嬉しい・・・とても嬉しいです。
私は瞳が熱くなるのを感じていました。
見つめる二人・・・。
自然に近づく顔・・・。
私はそっと目を閉じて・・・。
智也さんの温もりを唇で感じています。
私は強く智也さんに抱きつきました。智也さんもそれに応えてくれて・・・。
私・・・とっても幸せです。




おわり



-あとがき--------------
今日は一日智也さんと過ごせました。
とても素敵な一日でした。
どう素敵な日だったかはご想像のお任せします。
智也さんに送ったメッセージ・・・ひ・み・つです。
私の心からのメッセージ。
だから、これは智也さんだけが見ることの出来る、私からの言葉。
好きな人へ愛する人へ綴った大切な想い。
好きな人、愛する人がいる方ならお判り頂けると想います。
どんな言葉を贈ったのか・・・。
たぶんあなたと一緒の言葉です。
だって、好きな人を想う気持ちは同じですもの・・・。
分かってくださいますよね。
それでは、2月14日が皆さんにとって素敵な日になりますように・・・。
ごきげんよう。

双海詩音

PS:読まれた感想などをお聞かせいただけると作者さんが大変喜ばれるそうです。
私からも是非御願いいたしますね。



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