『智也と二人の幼馴染み』

                             作:Iku

智也は夢を見ていた。
布団に潜ってぐっすりと寝ている夢(夢の中でも寝るなぁ)
すると突然、両の頬にキスをされて慌てて起きるとそこには彩花と唯笑が、微笑んでいた。
「ガバッ!」
智也はハッとして目が覚めた。
周りをきょろきょろと見回す・・・。
「なんだ夢か・・・」
「ふぅー」
大きく息を吐く。ベッドの傍の時計を見るとちょうど7時。
「目が覚めちまった、起きるか」
智也はベッドから這い出して着替えを済ます。
「たまには飯でも食うか。まだ時間もあるし」
呟きながら、リビングへと降りていった。
食事と言っても食パンにバターを塗って、牛乳で流し込むだけ。
もうちょっとまともな食事をしたいものだが、作るのが面倒。
だから手近なもので済ませてしまう。
いい加減な食事をしているので、彩花によく怒られている。
智也の場合、両親が家にいない。
父親の単身赴任先に母親も行ってしまっているため。
その分一人でのんびり出来るのだが・・・。
リビングの時計を見て少し早いが家を出る。
殆ど毎日幼馴染みの二人、彩花&唯笑コンビに起こされているのだが今日は
早く起きたので、二人の姿はまだない。
玄関にカギを掛けてちらっと二人の来る方向に目をやる。
遠くの方に唯笑の姿が・・・。
智也は気付かぬ振りをして駅の方へと足を進める。
隣の彩花はまだ外に出ていない様子。
唯笑が俺の姿を見て走り出す。
「智ちゃーーん」
大きな声で叫びながら・・・。
「なんて恥ずかしい奴だ。隣近所の迷惑も考えろ」
と、呟きながらも無視する。
その頃彩花もちょうど玄関先に出てきたところ。
唯笑が大きな声で叫びながら走ってくるのを見る。
「唯笑ちゃん、おはよう。どうしたの?」
彩花が声を掛けると唯笑は前方を指さす。
その視線の方を追っていくと、何といつも寝坊をして彩花に起こされている智也の姿。
「あっ・・・今日は早く起きれたんだ」
と思っていると、目の前を唯笑が走り抜ける。
「唯笑ちゃん?」
彩花の呼ぶ声に唯笑は悪戯っぽい笑顔を向けて智也の方へ走っていく。
「あっ!」
彩花は唯笑が何をしようとしているのか気付いた。
「唯笑ちゃん!待って、唯笑ちゃん!!」
時既に遅く、唯笑は智也の背中めがけて飛びついた。
「智ちゃーーん。おはよう♪♪」
喜び一杯の笑顔でいる唯笑。
「わぁぁぁぁ」
のけぞる智也。
「ああ!」
顔を紅潮させて頬を膨らませる彩花。
「えへへ、今日は一番に智ちゃんに触ったぁ♪♪」
笑顔で智也の背中に抱きついている唯笑。
「こら、唯笑!何抱きついてんだ。離せ!」
怒鳴ってみても、離れようとしない唯笑。
「やったぁ〜。今日は智ちゃんを独り占めだぁ」
呟く唯笑の声を聞いた智也。
「な、何が独り占めなんだ?」
智也が聞き返す。
「え、え?えっ」
とぼける唯笑。
「だから今・・・」
「ほえ〜何のこと?」
完全に智也の質問は、はぐらかされた。
その時、後を追ってきた彩花が追いついた。
「唯笑ちゃん!もう、智也を離してあげなよ」
彩花は笑ってはいるが心中穏やかでないのは確か。
そんな彩花のことを見た唯笑は更に強く智也に抱きつく。
さすがに彩花もムッとして唯笑を引き離しに掛かる。
「やだぁ〜」
と、叫んで更に智也にしがみつく。
何とか引き離そうと思いっきり引っ張る彩花。
「こら、何をしている?そんなに引っ張ると倒れる・・・わぁ!」
智也は二人に引っ張られて後ろに倒れ込む。
彩花は一瞬早く手を離す。
唯笑も倒れる寸前に身体を翻す。
哀れは智也なり。
そのまま後ろへ倒れた。
運良く持っていた鞄で頭を保護したので、打ち付けなくて済んだのだが・・・。
「痛ェ〜」
頭をさすっている智也。
砂埃をはたいてあげる彩花と唯笑。
「智ちゃん大丈夫?」
「智也・・・怪がない?」
心配そうに智也の顔を覗き込む二人。
「あのな・・・誰のせいでこうなったと想ってんだ」
二人を交互ににらみつける。
「あははは・・・・」
恐縮する二人。
「だって彩ちゃんが・・・」
「唯笑ちゃんが・・・」
「・・・・・・・」
智也の眉間の当たりがピクピクしているのが分かる。
「智也、怒ってる?怒ってるよ・・・ね?」
上目づかいで覗き込む彩花。
「智ちゃん・・・怒ってるんだ。そうだよね・・・」
うるうる状態に成りつつある唯笑。
そんな二人を見ていると・・・怒るのがばかばかしく思えてきて・・・。
「あ〜もう良い!怒るのが馬鹿らしくなった・・・」
そう言うと唯笑の方を向いて。
「なあ、唯笑さっきのことだけど・・・今日俺を『独り占めぇ』何て言って
いたけどあれどういう意味だ?」
唯笑に問いかける。
唯笑は拙いという感じの表情をする。
彩花は驚いた顔をしている。
「彩ちゃん・・・」
呟いて彩花の方を見る唯笑。
咄嗟に彩花は唯笑の手を掴んで走り出す。
「あ、おい。彩花、唯笑!」
慌てて智也から離れていく二人。
「ちょっと待て。質問に答えろ!」
わめきながら二人の後を追う智也。
彩花と唯笑はお互いに顔を見合わせて微笑む。
「さっきの答えは・・・内緒!女の子だけの秘密だよ」
振り向きざまに足を止めて智也に応える彩花と唯笑。
「ね、唯笑ちゃん」
「ねぇ〜、彩ちゃん」
「あははははっ・・・・」
笑っている二人。
「それじゃ分からないだろう?教えてくれぇ」
二人に追いついた智也が応える。
「智也、女の子の秘密だよ?そんなに聞きたいわけ?」
彩花がそう言うと。
「智ちゃんのエッチ」
笑いなが言う唯笑。
「な・・・・・」
絶句する智也。
そんな風に言われると言葉が続かない。諦めるしかないようだ。
「分かったよ。もう聞かないよ、何か最近の二人何処か変だよなぁ。
やけに意見が合うというか何か企んでるんだろう?」
「えへへ・・・」
「うふふっ・・・」
微笑みを返す二人。
智也は手を振って分かりましたとジェスチャーで返す。
そんな二人をよそに駅へ向かって歩き出す智也。
智也の横に並ぶ彩花と唯笑。
それぞれが智也の腕を取る。
「おい!」
二人の行動に驚く智也。
「良いじゃない。こんなに可愛い女の子二人に囲まれて」
彩花が微笑みながら智也の方を見る。
「そうそう、智ちゃんは幸せ者だね」
と、唯笑が言う。
「はぁ・・・・」
溜め息をつく。

二人の幼馴染み・・・。
中学の時智也と彩花は付き合いだした。
そんな二人を影から見つめていた唯笑。
中学の時は、二人に遠慮して何かと智也と彩花をくっつけようとした。
自分の気持ちとは反対なことをしていた。
智也のことを忘れようと・・・。
でもそれは返って逆効果。ますます智也のことが好きになって・・・。
澄空に3人とも通うようになってから唯笑は決心をして、彩花に自分の気持ちを
伝えた。唯笑も智也のことが好きなんだと・・・もう我慢が出来なくなったこと等。
彩花は唯笑の告白に驚きもしたけど・・・。
唯笑の気持ちは前々から何となく分かっていたし、唯笑が自分たちに対して遠慮していた
ことも・・・。だから彩花は唯笑が気持ちをぶつけてきたことが嬉しかった。
二人は、幼いときから智也と一緒に過ごしてきた。
彩花だけでなく唯笑も智也のことを好きになるのは自然なこと。
同じ時間を過ごしてきたんだから・・・。
だから彩花は唯笑の告白を快く承諾した。
唯、この二人のやり取りは智也は知らない。
何れは決着を付けるときが来る。その時までは昔の3人のままでいたい・・・。
どちらを選ぶかは智也次第・・・。
その時までに沢山の想い出を3人の想い出を作ることを決めたのだ。
これが智也に分かってしまうと智也の性格上仲良し3人組が壊れてしまう。
そのために智也には秘密にしているのである。

智也も唯笑が昔(彩花と付き合い出す前)の様に接してくるのが嬉しかった。
唯笑の変化を何となく感じてはいた。
智也もこの関係を壊したくはないと想っている。続けることが出来るなら何でもしていこ
うとさえ想っている。
智也の横で楽しそうに笑う二人の幼馴染み。
智也もこれ以上追求するのは辞めることにした。
この楽しい一時を大事にしたい。
少し考え事をしていた智也。
「あ、もうこんな時間急がないと、遅刻する」
腕時計を見て慌てる彩花。
「ホントだ遅刻しちゃう」
唯笑も時間を確認する。
二人は目くばせをして、一気に走り出す。
もちろん智也を引っ張っていく。
「わ、わぁ〜」
二人に引きずられていく智也。
「ほら、智也走って。次のシカ電に乗らないと遅刻だよ」
「智ちゃん早く〜」
と、彩花と唯笑。
「何?遅刻?それはやばい。ヨシ思いっきり走るぞぉ」
今度は智也が二人を引っ張るように走り出していく。
彩花と唯笑の手をしっかりと握って・・・。

もうそこまで春が近づいてきている。
吹く風も冷たさより、ほんのりと暖かく春の香りを運んできている。
草木も少しずつ春の準備を始めている。
今日も抜けるような青い空・・・。
いつもの一日が始まる。
いつもとちょっと違った朝の風景・・・。
この先、3人はどう変わっていくのでしょうか?
ちょっと楽しみだったりします。
それでは、またこの3人でお会いしましょう。


おわり


-あとがき--------------

初めて彩花が沢山登場しました。彩花SSのつもりが彩花&唯笑SSです。
書いてみたいなぁと想っていたお話。やっと形に出来た感じです。
私的に彩花を元気なままで出してみたかったので、だいぶ印象が違うかも。
いつも天使か霊のような扱いの彩花ですから元気な彩花も良いかなぁなんて。
個人的には元気な彩花の方が好きなんですよ。
だから彩花の話を作るなら元気なままの彩花を書きたかったのです。
ここまで読んでくださった皆様ありがとう御座います。
感想、ご批判、こんなの彩花じゃねぇ・・等々御意見お待ちしております。

by Iku



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