Detective Player  
--- 否定された自殺 解決編 ---

                                    作:木村征人




 空馬が交渉しに行くと管理人は快く部屋を貸してくれた。
 空馬が詩織姉ちゃんの為だと言ったお蔭もあるのだが。
 美人で気立てよく頭の良い詩織だったから当然だろう。最も男の見る目はなかったようだが。
 一時間後、戸川は工藤を(本当に)首に縄をつけてやってきた。
「ナイスなくらいに、緊張感台無しですね」
 空馬は頭を押さえた。
「あんまりだだをこねたからな、女ならともかく男はうっとうしいだけだからな」
 何故か戸川はえらそうにふんぞり返っていた。
 最も奈美の心中は穏やかではなかったが。
 空馬は工藤を始めて見た。太っていたらどうしようかと思ったが、かなり細目だったのでこのトリックを確信した。
「とにかく管理人さんから新しい部屋を借りてきたからとりあえず行きましょう」
「ところでなんでこんなものを持ってこさせたんだ」
「えっと……月森だっけ? 居たのか?」
 実はさっきからいたのだがあえて空馬は無視していた。空馬と月森はどうも相性がよくないらしい。ちゃらんぽらんな空馬に生真面目な月森、まさに水と油であった。
 嫌いな奴には徹底的に嫌うそれが空馬であった。
「お・ま・え・な・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ」
「おまえだなんて、俺は月森と結婚した覚えはないぞ」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「どうでもいいがとっとと始めてくれ、いくら容疑者と言えども始末書ものなんだが」
 いけしゃあしゃあと戸川が言う。
 その言葉に空馬も月森も言い合う気をなくした。
「では、とっとと部屋へ行きましょう」
 新しく借りた部屋は家具がなかったことを除けば、詩織の部屋そのままであった。来月辺り新しい居住者が来るらしいが。
「それでは始めましょうか」
 全員が部屋に入ったのを確認すると、胸ポケットから眼鏡を取り出した。
 すっと眼鏡をかけると真剣な目つきになった。いつもと違う雰囲気の空馬が現れた。
「月森さん、かつら持ってきてくれましたよね」
「あ、ああ」
 さすがにこの時はなにも言わず月森はかつらを取り出した。そのかつらは長髪で詩織の髪の長さとほぼ同じであった。
「それじゃあ、月森さん。詩織姉さんの役をお願いします」
 空馬の変貌ぶりに奈美や月森、ついでに工藤までも同様していた。ただ戸川だけ無表情で眺めていた。
 かつらを被った月森はかなり変な格好だったが、笑える雰囲気ではない。
「奈美、死後硬直って知ってるか?」
「う、うん。多少なら、死んだ後身体が固まることでしょ?」
「そう、多少の誤差はあるものの死後十時間ほどで死後硬直が始まる。
 その状態でこう……動かないで下さいよ」
 空馬は秋月を扉の真横の壁にもたれさせた。生身の人間であって死後硬直の格好は無理だったが、さほど問題はなかった。
「このまま少し斜めにもたれさせる、出きるだけ頭をスライド式の鍵に近づけるのがコツだな。そして、髪の毛をこう……」
 ドアノブの少し上にあるスライド式の鍵の丸い穴に髪を通し、円柱にくくりつける。
「つまり、髪の毛をスライド式の穴を経由して、円柱にくくりつける。
 そして、少しドアを開いて……よっと――」
 少し不恰好だが腰を落してカニ歩きでドアの間をすり抜けて、外へ出た。
 秋月にかつらを外させ、空馬が中にはいると再び話を続けた。
「これでトリックの元になるんです」
「なるほどな、だから十時間もアリバイがなかっのか」
 戸川が顎をさすりながらうなづく。
「それでどうなるの?」
 奈美が少し顔を青くしながら聞く。詩織の変わり果てた姿を思い出しているのだろう。
「そして死後硬直から、これもやはり多少の誤差はあるんだが約三十時間ほどで死後硬直が解ける。
 それも上半身からね」
 秋月に上半身の力を抜けさせる。しかしまだ立ったままだが、そのまま足の力を抜く。
 脚が三角座りの様になると同時にスライド式の鍵が髪に引っ張られる。
「そして不安定な首が傾く」
 今度は完全にスライド式の鍵がぴったりとはまる。
「あ! そうお姉ちゃんはこんな格好でいたわ」
 奈美の言葉を無視して空馬は更に続ける。
「そして人が死んだ状態では髪が抜けやすくなっている。だから、少しダメージを受けた髪はそのまま時間が経つと抜け落ちる。
 以上、これが今回のトリックです」
「だから……それがどうしたっていうんだ?
 そうやって自殺したかも知れないんだろ!」
 工藤が往生際悪く反論する。
「それじゃあ聞くが、なんで被害者がいつ、どこで死んだなんて聞かなかったんだ?」
 戸川が無表情に聞く。
「普通親しいものなら、どういう風に死んだが聞くわな。事実お前意外はどうやって死んだが熱心に聞いてきた。しかし、おまえだけはあまりしゃべらなかった。なぜだ?」
 戸川は無表情だったが鋭い眼光が工藤を貫く。
 なるほど、下手に言ってぼろが出ないようにしていたのか。もっともそれが戸川さんの疑いの目が向く原因になったのか。
 空馬はすでに蚊帳の外にいた。
「う……俺は知らない。あいつは勝手に飲んだだけ――」
「飲んだ?」
 空馬は眉をひそめた。
「結構簡単に白状したな。少し痛めつけるつもりだったが」
 戸川は指をぼきっと鳴らした。
「あは、あはははは。あいつが悪いんだ。俺と別れるなんて言いやがるからよ。
 この俺と別れたいなんていいやがるんだぜ、あの女。
 ついでにあのことまで警察に話すなんていいやがるからよ」
「あのことって?」
 空馬が戸川に聞く。
「ああ、こいつはちょっと訳ありでな……」
 戸川が珍しく言葉を濁す。
「それでお姉ちゃんを殺したの?」
「お姉ちゃんだと? そうかお前があの女の妹か……あはははは、あの口の軽い女がeなくてなってお前も嬉――ぐへっ」
 奈美が思いっきり工藤を殴りつけた。
「おまえが! おまえが! お姉ちゃんを!」
 更に殴ろうとした奈美を空馬が抑える。
 空馬が眼鏡を外す。
「やめろ、奈美! 後は法があいつを裁く。だから、おまえは手を出すな……これ以上やったら俺がここに居た意味がなくなっちまう……」
「う、うん……結局私はなにも出来なかった……」
「それで良いんだと思う……お前はそれで良いんだ」
 ただそれだけを呟いた。

 昼休み、屋上で空馬は携帯から戸川に連絡をとっていた。
「もしもし、戸川さん? あれから工藤はどうなりました?」
『ああ、全てを自供したよ』
「そうですか……しかし、ひどいですね。あれぐらいなら警察でも分かっただろうに。途中で捜査を強引に打ち切られたそうですね。それで俺の親父に依頼する前に、依頼料のいらない俺に白羽の矢がたったんですね」
『さてな……しかし、さすがにあの人の息子だけあって少し修行を積めば探偵としてもやっていけるんじゃないか?』
「悪いけど俺は探偵になる気はないんだ」
『まだ、あの事を気にしているのか? それであの眼鏡を……』
「さあ? でも親父の跡を継ぐ気はないですね。
 それより工藤の処分はどうなるんですか?」
『ああ、そのことなんだが……』
 戸川は少し間を置いて、
『死んだよ……』
「…………え?」
 空馬は思わず携帯を落しそうになった。
「死んだって……自殺ですか?」
『そういう風になっているが、真偽は分からんな』
「工藤が言ってたあの事と関係あるんですか?」
『さあな……警察と言っても公務員のサラリーマンだ。上からの圧力に勝てないこともある。
 だから工藤を捕まえられなかったもあるがな』
「そうなんですか……」
『とにかくこの事件はこれで終わりだ』
「そうですね……警察が介入できないとなると……
 危険な匂いがしますね……これ以上足を踏み入れないていう……」
『ああ、そうした方がいい』
「それじゃあ……」
 空馬は携帯をポケットに入れ、
「さてと、そろそろ教室に戻ろうか……」
 空馬が去った後、屋上では一陣の風が流れた……



あとがき
次回は奈美が推理します。比較的簡単ですし、空馬も何気にヒント出してくれる予定です。



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