Detective Player  
--- 残された偽りと真実 事件編 ---

                                    作:木村征人




 闇の中、三つの邪悪な光が瞬く。
 二つはぎらつく殺意の瞳、そしてもう一つは鋭い刃の光であった。
「俺は……奴を殺す……」

 丘の中腹に位置する中、高、大の一貫性の私立校。ほのぼのと過ごせる学校でも一応テストはある。
「ふぅ……」
 少年は野暮ったそうな目つきで返ってきた英語リーダーのテスト用紙を眺めた後、軽く溜息をつく。
「どうしたの?」
 きりりとした眉目を少し曲げながら大事そうにテスト用紙を抱きかかえながら、少年を覗きこむ。
「ほらよ……」
 めんどくさそうにテスト用紙を見せる。
「……三十五点。赤点ぎりぎりね……」
「ほっとけ……」
 少しすねた様に口を曲げた少年の名は阿部空馬。数週間前、自殺と断定された警察の見解を覆した。いわば高校生探偵。実父は現役の探偵をやっている。
「なんなら私が教えてあげましょうか?」
 少し馬鹿にした用に見下ろした少女の名は秋月奈美。空馬の幼馴染みであり、数週間前の事件を境に自称空馬の助手と名乗っている。といっても当の空馬には内緒だが。
「そういえば今回の英語はやたらと調子よかったらしいな」
 空馬は他の英語のテストの点数を思い出している。奈美の今回のテストはケアレスミス以外ほとんど完璧であった。
「親切丁寧に教えてくれる人がいるからね」
 にこにこしながら奈美が答える。
「奈美〜、今日も行くんでしょ?」
 教室の扉方から、短髪のおとなしそうな女生徒が呼びかけた。
「あ、先行ってて。一度家に帰るつもりだから」
「どっか行くのか?」
「うん、さっき言った親切丁寧に教えてくれる人のところ。それじゃあね」
「へいへい」
 空馬は頬杖をつきながら手をひらひらさせていた。

 奈美の自宅から十五分ほどの場所。親切丁寧に教えてくれる人と言うのは三十年近くその場所に一人で住んでいる初老マーカス=ワシントン。
 ちょっとしたきっかけで奈美とその友達(名前は白木みどり)は英語の基礎からコツまで親切丁寧に教えてくれている。
 今日はテストの結果と礼をする為にマーカスの家へと向かった。他の学校から来ている人間も数人いる。一人暮しが長い為寂しかったのであろう。マーカス自身、英語を習いにくる者を拒むこともなかった。

「き、貴様……」
 マーカスの腹部から血が吹き出す。殺意の二つの瞳がマーカスを貫く。
 刃物を引きぬくと同時に多量の血が流れ落ちる。
「…………」
 マーカスは腹を押さえながら倒れる。そして、最後の力を振り絞ってダイイニングメッセージを残した。しかし、それに気付かないほど、それはおろかではなかった。

「あれ、どうしたのみんな揃って……」
 奈美が私服に着替えてた奈美がマーカスの玄関にみんなが集まっているのを見かけた。
「さっきから呼び鈴鳴らしてるのに出て来ないんだよ」
 生徒の一人、和田悟(わださとる)がいらだたしく言った。
「留守……なわけないよね。今日は行くって約束してたし」
 今田素子(いまだもとこ)が不思議そうに首をかしげる。
「どうする? 今日はこのまま帰る?」
 中西浩一(なかにしこういち)が腕を組んでいる。
「あれ、どうしたんですか? 皆さん揃って」
 みどりが奈美より後れてきた。
「あれ、先に行ったはずじゃあ」
「あはは、少し寄り道してたら遅くなっちゃって」
 照れくさそうに笑いながら答える。
「まったく、しょうがないわね。
 どうします? いるかどうか分からないし……」
「そうだな、ぽっくりいってかも知れないしな」
 浩一が縁起でもない事を言う。
「あれ? ドアが開いてる」
 奈美を先頭に家に上がった。
 いつもの教室代わりの部屋へと向かう。
「マーカスさんいな……」
 奈美が扉を開けると、そこには赤い水たまりの中に倒れているマーカスがいた。
 一瞬、みんなの時間が止まる。
「………………」
 素子が気を失う。
「おい……これって……」
 悟が息を飲む。みどりと素子がバランスを崩す。
「だ、誰か警察に電話を!」
 奈美が叫ぶ。
「う、うん」
 みどりが部屋から離れて携帯を取り出して通報する。
「おい、これを見ろ!」
 浩一がいつの間にか死体のすぐ側にいる。
 奈美と悟が死体の側に近づく。三人とも出来るだけ顔を見ないようにしている。苦悶の顔が見るに耐えなかったからだ。
「他の奴と違っておまえは平気なんだな……」
 浩一が意外そうに奈美の顔を見る。
「うん……少し前にちょっとね」
 実の姉が死んでいる姿を見て奈美は多少ながら免疫が出来ていた。
「……まあいいけど……とにかくこれを見ろ!」
 浩一が指差す方向には皮製のかばんの上に血文字で書かれた、
 M.S
 イニシャルであった。必死で書いたのだろう、少し文字が歪んでいる。
「これって、ダイイニングメッセージ?」
 奈美が二人に聞く。
「そうだろうな……」
 悟が呟く。
 でも、変ね。Mは一気に書き上げた様に見えるし、Mは変な形になってるけど、Sはきっちり書き上げている。
「ちょっと待てよ、俺達の中にこのイニシャルに当てはまる奴がいるぞ」
 浩一が叫ぶ。
「警察に電話したよ。すぐに来……え? どうしたの」
 みどりが浩一の形相に驚く。
「おまえがやったのか?」
「え?」
「おまえのイニシャルが書いてあった。マーカスさんの血文字でな」
「そんな嘘よ!」
「そうよ、みどりがそんなことするはずないわよ」
 みどりの批判の言葉に奈美も同意する。
「確かにな……でも、俺もまだ警察学校に通っている身とはいえいずれは犯人を捕まえることが出来る人間だ。現状で一番怪しい奴を拘束しなきゃならない」
 浩一がにかにがしく呟く。
「そうだったの……」
 奈美が少し納得したように呟く。
「でも、警察が来るまであんまり無茶をしないで……」
 奈美がそうしたためた。
「わかった……」
 浩一がうなずいた。
 奈美はみんなに聞こえないように離れて携帯で空馬に連絡した。
『はい、こちら阿部探偵事務所』
「もしもし、空馬くん?」
『なんだ奈美か……この忙しい時になんのようだ?』
「あの、こっちでマーカスさんが殺されてて」
『……なんでまた……そんなことに……』
 電話ごしに溜息の声が漏れる。
「そんなことより、友達が犯人にされそうなの」
『なんで?』
「その、ダイイニングメッセージがみどりのイニシャルが書かれていたの」
『ふむ……イニシャルはダイイニングメッセージでも代表的なものだよな。でも、日本人だとイニシャルが逆さまになってたりするんだ』
「逆さま?」
『ああ、苗字が先に来るからな。普段使いなれてないとそういうことが多いんだ』
「でも、殺された人アメリカ人なんだけど……」
『だったらその子が犯人じゃないのか?』
「でも、みどりがやるわけないじゃない!」
『怒鳴るなよ。
 まあ、しかし勝手な憶測は探偵としては失格だが……まあ人間としては好感がもてるね』
『それで犯人どうにかわからないの?」
『あのなあ、俺は現場にいないんだからどうしようもないだろ。だいたい推理してくれる人がいるだろ?』
「だれ?」
『おまえ』
「え?」
『おまえがやるしかないだろ。おまえがみどりだっけ? そいつが犯人じゃないと思うならやってみろ』
「う、うん……でも……」
『分かってる。問題はダイイニングメッセージだよな。イニシャルなんてわかりやすいものは犯人によっていじられる事も多い。もしかしたらそういうケースかも知れない。
 それじゃあな、伝票処理が残ってるから』
「伝票?」
『ああ、いつも雑務ばっか押しつけられてな。やらないとたたでさえ少ない小遣いがでないんでな』
「いいわね……そっちほのぼのとしてて」
『ほっとけ、とにかくがんばれよ』
「そんな無責任な」
『もう一度その状況をよく考えてみな。そうすれば分かるかもな』
 そう言って空馬は電話を切った。
「私に探偵なんて……」
 通報を受けた複数の警察がやって来た。その中に、
「戸川さん……!?」
 奈美が声をあげた。
「チビ助の彼女か……なんでこんなところに?」
「か、彼女じゃありませんよ。それでなんでまた戸川さんが?」
「事件か終わって帰ってきた途端に通報が入った。難儀な商売だ」
 おそらくこの人に法に生きることを説いても無駄だろう。
 奈美と戸川は外に出て状況を話していた。事情聴取については他の人間に任している。
「で?」
「私達がよく英語を教えてもらっているマーカスっていう人なんです」
「日本人は日本語を話せればいいと思うが……」
「学生はそうもいかないんですよ、それで呼び鈴鳴らしても返事がなかったので歳か歳だけにもしかしたらと思って……」
「死んでたと……」
「はい、中西さんが皮製のかばんのイニシャルが書かれたダイイニングメッセージを見てみどりが犯人じゃないかって……」
「ダイイニングメッセージねぇ……まあそんなものが出てきたら疑うしかないのは分かるが……まあ死亡推定時刻がわかり次第アリバイを検証していくと思うが……
 多分無理だろうな……」
「どうしてですか?」
「見たところそれ程時間がたっていない。そのマーカスって奴が死んでいた部屋は窓もきっちり開いている。
 全員が玄関に来るまでの間、下手すれば全員アリバイなしってこともありうる。
 そうなればそのダイイニングメッセージ通り、みどりって奴を拘束するだろうな。外部犯の調査はその後と言うことになるな」
「そんな!」
 そして約一時間後、みんなが玄関に集まる三十分前に出血多量によるショック死と分かったがその時間にアリバイは全員はっきりしなかった。
 そして戸川の言う通りみどりが重要参考人として連れて行かれることになる。
「ちがう! 私そんなことやってないわ!」
 みどりは叫ぶが、そんな言い分を警察が聞くわけなかった。
「どうすればいいの、空馬くんはダイイニングメッセージはたいていいじられるって言ったけど。
 そういえば……空馬くんは……
 そうよ、あの言葉を信じるとすれば!」
 みどりが連れていかれようとした時、
「待ってください!」
 全員が奈美の方を向く。その視線に少しみじろきしたが、
「なんだ?」
 戸川が目を細める。
「そのみどりは犯人じゃありません」
「その証拠は?」
「証拠はありません。ですけど、あのダイイニングメッセージでみどりを捕まえる理由にはならないと思うんです……」
「その根拠は?」
「はい……それは――」


今回の鍵も一つ。
イニシャルから分かる真犯人を誰か?




---あとがき--------------------------------------------------
今回は結構簡単です。分かる人は一瞬でわかると思います。
しかし、戸川がこれが分からないというのも変な話ですけど。


ヒント
空馬が話した。逆さまの意味を考えれば分かります。


ヒントの二条
犯人はイニシャルに抜けていた部分をつけたした。それを追加することによってイニシャルを完成させた。



解決編



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