Detective Player --- 過去への回想 事件編 --- 作:木村征人 |
白いコンクリートにおかれた眼鏡が風に吹かれてカタカタと揺れる。 その傍らで白に埋もれる様に横たわっている。 「はあ……」 私立神城学園、昼休みの屋上。雲一つ無い青い空とうらはらに空馬の気分には暗雲とした雲がかかっていた。 あの時と同じように工藤隆志を間接的とはいえ殺してしまった。それだけでなく自分自身の周りで気付かない内に変わっていくのではないかという不安感にかられていた。 いつの日か……そう遠く無い未来で今の日常を棄てる覚悟をしなければならない。それが自分にできるかが不安であった。 バァァァァァアン! 大きな音と共に乱暴に扉が明け払われたと同時に考えが打ち消される。 「ゼーゼーゼー……」 振り返ると肩で息をしている奈美が立っていた。 「ここにいたのね……」 空馬の横にどっかと座る。 「相変らず仲がいいみたいだな……」 「友達だったんだけどねー。あの事件以来妙になつかれちゃって……」 数週間前、奈美がみどりの無実を証明されてから『お姉様』と呼ばれ、ほとんどストーカー並に付きまとわれていた。 奈美は空馬に恋人の振りをしてくれと頼んだが無下に断わった。巻き込まれたくなかったし、高見の見物に決め込んで奈美の困っている姿を見るのもおもしろそーだったからだ。 「あれ? これって……」 奈美は目の前に置かれている眼鏡に気付いた。座り込んだ時に運良く踏み潰されなかった。 奈美は両手で大事そうに眼鏡を持ち上げ、自分掻けてみた。 「やっぱり伊達眼鏡……なんであの時眼鏡をかけたの?」 あの時とは工藤隆志が起こした事件のことだ。 空馬は溜息をつくと、 「真実は見たくないから……せめてレンズごしでもね……」 「なにかあったの?」 さすがに幼馴染みだけあってこういうところは鋭い。 「そうだな……話してもいいかな……」 空馬はどの道話すつもりだったし、一度機会を失うと当分その機会がなくなるのも知っている。 それにもし今の日常を捨て去らなければならないとしたら奈美に話す機会は永遠に失ってしまうからである。 空馬は少しうつむき、スッと奈美を見据えた。 「これから話す事は話し半分でも、真剣に聞くかはまかせるよ……」 「う、うん」 「あれは高校一年になってすぐの頃だったな――」 空馬の父親が脱サラ(警察官を辞めるのにこの言葉が当てはまるかどうかは分からないが)して探偵事務所を開いて二年ほど経ち、そろそろ経営も落ち突き出した頃のことであった。 「ただいまー」 空馬が事務所兼自宅に帰って来ると、 目の下にクマがやたらと目立つくたびれた中年が訪れていた。 「帰って来たか、悪いが一つ頼まれてくれないか?」 その中年と空馬の父、阿部相馬(あべそうま)が話していた時に運悪く空馬が帰ってきたのだ。 そう……運悪くである。もしこのとき空馬が帰ってこなければ傷を負わずにすんでいたのかも知れない。 「なんだよ、改まって。また伝票整理か?」 所員は相馬と後一人しかいない。その一人も他の依頼でここにはいない。その為もっぱら事務処理は空馬の担当になっている。 「いや、実は他の依頼が立て込んでいてな。今この人の以来を断わろうと思ったんだが… …おまえがこの依頼を受けてみないか?」 「俺が……?」 「ああ、依頼料はおまえが丸々持っていってもいいが。どうだ?」 「うーん……」 空馬はなるべく平静を保ち気のない返事をしていた。依頼人の前でもの欲しそうなこと をするのも失礼だったし、それで依頼料を下げられる場合もあるからだ。 依頼料が丸まる自分のものになるのは高校生になったばかりの空馬には魅力的であった。 「分かった。この依頼俺が受けるよ」 空馬は力強くうなづいた。 王室間では、空馬と中年の男性(名前は高田健一[たかだけんいち]という)だけになった。 「それで依頼の内容は?」 「はい……じつは……三日前。息子が亡くなって……」 えらく重い話しになりそうだな…… 「ほう……それは大変でしたね……」 「はい、それで息子を殺した人間を見つけて欲しいのです」 おいおい、殺人がらみかよ…… 「そういうことは警察の仕事ではないんですか?」 「その……息子のダイイングメッセージがイニシャルでして……K.Tなんです」 だったら犯人はすぐに……え? 「それって……つまり……」 「はい、私が犯人として疑われているんです。今日も警察が尾行してましたし……」 警察引き連れて来るなよ…… 「それでつまり真犯人を探せと?」 「はい、よろしくお願いします。これが……息子の写真です」 高田から受け取った写真には一人の少年の姿が写っていた。その少年の第一印象はなんというか…… なんか……ものすごく気弱そうなやつだな…… 「この写真お預かりしていてもよろしいですか?」 「はい、よろしくお願いします」 「他に何かないですか?」 「後はクラス名簿ぐらいしか……」 「クラス名簿……?」 空馬は怪訝な顔を浮かべる。 「はい、息子はよくいじめにあっていたので、もしかしたらと……」 やっぱりいじめにあっていたか……犯人と疑うほどひどいいじめにあっているのを知っているんだったら死ぬ前に何とかしてやれよ…… 「分かりました。これもお預かりしておきます」 そう言って、高田をとっとと帰した。 「ふぅ、さてどうしたもんかな……」 空馬はソファに寝そべった。いまいち高田を好きになれなかったが探偵といえど客商売。 しかも自分の収入になるのだから何とかするしかなかった。 「親父の奴、当たり引いたせいで急に客足が増えたから浮き足立っているな……まったく」 もともと探偵などは口コミで伝わることはまずない。浮気調査などほとんどの人が他人に知られたくないことを依頼しに来ることが多いからである。 だとすれば広告しかない。それの代表格が電話帳である。興信所、探偵事務所のページを開けば二ページ、一ページ、半ページが数ページにわたって探偵事務所、興信所の広告で埋め尽くされている。毎回ドラフト並の熾烈なページ獲得合戦が繰り広げられている。 ちなみに当たりは二ページ広告のことである。 それはさておきしばらくすると大柄な人物が二人、王室間に入ってきた。 一人は相馬、そしてもう一人は―― 「戸川さん!」 捜査一課に務める戸川が姿を現した。 「どうして戸川さんがいるんですか?」 「いや、おまえが高田の依頼を受けたと聞いてな」 「……もしかして高田さんの息子の件ですか?」 「ああ、ダイイングメッセージで描かれたイニシャルの該当者は藤田だけだからな。そういうわけでずっと尾行しているわけだ」 「いいんですか? 部外者にそんなことを話しても」 「まあ阿部さんがいるからな」 戸川はにやりと笑った。 元々相馬は戸川の先輩だったが、臭いものには蓋をするやり方が気に入らなくて警察を辞め探偵に移行した。戸川も警察をやめようとしたが、警察の情報力と探偵の小回りの効く自由さで共にやっていこうと言い出したので戸川はしぶしぶ了承した。 それからというもの戸川は相馬の知恵を借りたり、情報提供をしている。 「だったら聞きますけど死因はなんですか?」 「死因は後頭部の強打。誰かに小突かれた拍子でコンクリートに頭をぶつけたらしい。うずくまっている被害者に驚いて加害者が逃げ出した後、被害者は頭部の出血でダイイングメッセージを書いた後死んだらしいな」 「……事故みたいなもんですね……と言うことはそのいじめに参加していたやつらが怪しいですね。加減なんて知らないしね。 ……それにイニシャルと言うものは名字が先に来て、イニシャルが正反対もあるだろうし……」 「ああ、俺もそう思って適当にリストアップしたんだがな」 三上要(みかみよう)小林康彦(こばやしやすひこ)浅倉昇(あさくらのぼる)若林雅史(わかばやしまさし)村山総一(むらやまそういち)高松昌二(たかまつしょうじ)「うーん、イニシャルに当てはまる人間もイニシャルを正反対にしてもあてはまる人間はいないですね」 うなりながら空馬はリストアップされた人間の名前をメモしている。 MIN「どうしたんだい? いつもと調子違うみたいだけど」 KUU「いや、実はな――」 空馬は戸川と別れた後、日課としてパソコンのチャットをしている。空馬はKUUというハンドルネームを使っている。相手のMINは本名も性別も何をしているのかは知らないが、聡明で空馬が必死に考えた問題もあっけなく答えてしまう。 空馬の父が探偵をしている事も知っている。 KUU「俺が依頼を受けることになったんですけどね」 MIN「へえ、すごいじゃないか(^^」 KUU「いや、それがな――」 空馬は事のあらましを説明した。 MIN「やれやれ、君らしくないな……どうも常識にとらわれている考え方をしている様だね」 KUU「どういう意味だ?」 MIN「まだ分からないのか。そもそもいじめている人間をわざわざフルネームで覚えていると思うかい?………」 KUU「…………あ」 MIN「分かったみたいだね」 KUU「ああ、ありがとう……」 MIN「それじゃあ、おやすみー」 翌日、高田に連絡して来てもらった。 「ようこそ来てくれました」 「息子を殺した人間がわかったって聞きましたが……」 「はい、全てはイニシャルを常識的な視点で見ている事が間違いだったんです」 「間違い……ですか?」 「はい。あのイニシャルはいじめをしていた人間を現していたものなんです」 今回の鍵も一つ。 イニシャルから分かる犯人は誰か。 |
あとがき------ 今回はヒントはなしです。推理うんぬんよりも物語りを今回は楽しんで欲しいなーと思いました。 今回も割と簡単です。勘の良い人は一発で分かると思います。 空馬の性格の違いは少しでも届いていたら良いんだけど。 |
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