Detective Player  
--- 殺意の証 事件編 ---

                                    作:木村征人



 私立神城学園三年生も終わりに近づいて来た頃、必死で勉強しているものとのんびり過ごしているものとが大きく別れている。基本的にエスカレーターで大学にそのまま進学するものもいるが、専門学校や上の大学を目指すものも少なくはない。阿部空馬は前者とも後者とも取れるが。
 空馬は今自分がどのみちに進むべきか決まっていない。決めることができないと言ったほうが良いだろう。
「阿部くん……あの……」
 前にも聞いた台詞、聞いた声がリフレインされる。そういえば名前を聞いていなかったことを思い出す。前に財布をなくして聞きに来た女生徒であった。
「ん……また財布でもなくしたのか?」
「違うの……実は相談したいことがあって……」
「相談?」
「ええ、出来れば昼休みでも……」
「ふーん、まあ良いけど。それじゃあ屋上にきてくれないか?」
「ええ、それじゃあ……」
「あ、ちょっと待って!」
「え?」
「名前聞いてないんだけど……」
「……………………高坂絵里よ」

 昼休み。
 空馬はパソコンのキーボードをカチャカチャと鳴らしている。
「何をしているの?」
 長い髪を振り上げながら奈美が画面を覗きこむ。ディスプレイにはどこかのHPだろうか? Detective Playerと大きな文字で映し出されている。
「ああ、メールを送っているんだ」
「メール? 携帯でやれば良いのに……」
 奈美が呆れたように言う。
「めんどくさいだろ、いちいちパチパチ何回も打つなんて」
「ノートパソコンをわざわざ学校に持ち込む方が持ってくる方がよっぽどめんどくさいと思うけど……」
「なんか言ったか?」
 空馬がジト目で睨む。
「別にー」
「しかし、遅いな……」
「どうしたの?」
「いや、相談にのってほしいって言われたから昼休みに屋上に来てくれるように言ったんだが」
「来ないの?」
「ああ。そういや次は教室移動だっけ?」
「そういえばそうね。だから来れないんじゃない?」
 キンコーンカンコーン……
「あ、予鈴なった」
「教室に戻りましょうか」
「そうだな」

 予鈴がなる数分前……空馬のクラスが次の授業で移動する教室。昔、理科の研究室として使われていたせいもあり長い机の間に挟まれるように水道がある。
 その机にもたりかかり腹部を押さえながら高坂絵里がうずくまっていた。腹部からは血が流れる。
「はあはあ……こんなことなら阿部くんのところへ行けばよかった。私に止めを刺すつもり……?」
 なんとか逃げ様と机を掴もうとしたが机の上に乗っている箱を掴んだ。絵里の体重をさえきれるはずもなく箱が中身を散らかしながら落下する。その箱の中にセロテープや定規そして――
「電卓……こんなものよりも何か書くものさえあれば……」
 床に書いても消される………………そうだ。これならもしかしたら空馬くんなら気付いてくれるかも。
 絵里は二つの電卓を打ち込んだ後、近くにあったセロテープで縦につなぎ合わせ机の下に書くした。
「これで……
 いや! 絶対に……私はまだ死にたくない! まだ私は伝えてないのに!
 こんな形で私は死にたくない!」
 すでに血を流しすぎたせいで立ち上がることすら出来なかった。おそらく十分もしないうちに命は絶たれるだろう。しかし、それはその猶予すらも与えなかった。
 ギラリと鋭利な刃物が陽の光に鈍く反射する。手足を使い必死で壁伝いにずるずると逃げようとする。
「おねが……ころさ……ぐっ!」
 胸元にゆっくり刃物がすい込まれていった。
 その一分後予鈴は鳴る。空馬は何も知らないまま教室に戻ろうとしていることに起こったことである。

 空馬は教室へ戻ったもののまだ誰も移動していなかった。ただ高田絵里だけの姿が見えなかったが。
「しかしなんで学校の端にある教室まで行かなきゃならないんだ?」
「さあ? 先生は色々揃っているからいいとか言ってたけど」
「でも、たいした物がないんだけどな」
「そういえばそうね……」
 空馬を先頭にクラスメイトがトテトテ歩いている。この教科の先生自体が時間に無茶苦茶ルーズな為授業開始のチャイムが鳴ってもそれほど急ぐ必要はなかった。
「しかし高田の相談はなんだったんだろうな? 教室にもいなかったし」
「放課後に聞いてあげたら?」
「そうだな」
 空馬が扉を開けると鉄さびのような匂いが鼻につく。部屋をすばやく見渡すと隅で倒れている人影に気付く。
 まるで緋色の着物を着ているような印象を感じる高田絵里の姿があった。
「おい! 大丈夫か?」
 空馬が絵里を抱き起こすと虫の息だが生きていた。
 クラスメイトが異質な雰囲気にたじろく。
「お、おいどうなっ――」
 非日常的な光景に他の生徒の動揺が強くなる。
「うるさい! 速く救急車と警察に連絡しろ!」
 空馬の一喝で混乱を静める。何人かの生徒が部屋から出ていき、高田絵里の親しい友人数人と奈美だけは空馬と絵里の側に駆け寄る。
 腹部の傷だけでなく胸元の傷も致命傷か……今まで生きていただけでも奇跡に近いな。
「…………………………ゴホ!」
 何かを伝えようとしたが喉に血がたまっている為声が発することができない。咳き込むと同時に血を吐き出す。
 最後の力を振り絞って右腕を上げようとするが、途中で誰かが握り締めた。
「なに? 何が言いたいの?」
 すらっと伸びたきれいな長い髪が印象的な清楚な雰囲気の女生徒が絵里の手を握り締めた。その後ゆっくりと力を失い息絶える。
 なんだ今の高田の顔は? 死を目前の恐怖か? いや違う……あの全てに絶命した顔は。いや、そんなことより。
「くそっ!」
 空馬は拳を壁に叩きつけた。
 またかよ! どうしていつも俺は助けられたかも知れないのに! 見殺しにしたのも当然じゃないかよ! もっと気にかけてやればこんなことには……
 探偵を毛嫌いしている部分はここにあった。事が起こってからしか動けない。警察よりも融通が効くとはいえ結局後手に廻るしかないのが現実であった。
 しかしそれを防ぐことは不可能に近い。神ともいえる所業と言えよう。だからといって納得できないのが空馬の長所であり短所であった。
「犯人を捕まえる事で償わせてもらうよ」
 空馬はパアンと自分の両頬を叩き気合を入れた。
「血が点々と道を作っているな……腹か胸を刺されたあと逃げたんだろうな……。もしかしたらダイイングメッセージを残す暇はあるはずだけど。
 普通に考えたら高田の近くにあると思ったけどそれらしきものはなかったな。犯人に消されない為にどこかに書いたと考えるのが普通だけど。
 その道筋を辿っていると定規やセロテープが散乱していた。
「あれ? ここの席は」
 ここの部屋を使う時は出席番号の順番で座っている。空馬は出席番号一番で教壇の目の前だが、まさしくそこは空馬の席であり、壁には血がべったりと道を作っている。絵里が死の直前まで逃げていた場所でもあった。
 絵里の遺体の前ではまだ数人がうなだれている。
「仕方ないかもな……友人が死んだな――!」
 うなだれている女生徒の一人がみにくく口を歪ませて笑っているのを空馬は見逃さなかった。先ほど絵理の手を握り締めた女生徒であった。
「なぁ、奈美」
「なに?」
「あいつは誰なんだ?」
 先ほどの不気味な笑みを浮かべた女生徒を指差した。
「ああ、久賀仁(くかに)さん」
「久賀仁?」
「珍しい名字でしょ? 久賀仁椎子(くかにしいこ)って言うのよ。確か高田さんとは親友のはずよ」
「ふ〜ん……」
 それだけ聞くと興味を失ったのか再び周りを調べた。
「これは?」
 机の中で何かが入っているのが見える。
 空馬はポケットから手袋を取り出した。空馬はいつもメモとペン、手袋と眼鏡はいつも常備している。探偵を毛嫌いしている割には結構律儀であった。
 慎重に机に入っている物を取りだした。
「電卓?」
 奇妙なことにセロテープで頑丈に繋げられている血のついた二つの小型の電卓であった。しかも液晶に数字が打ち込まれている。どうやら太陽電池のタイブではなく物陰に隠されていたにもかかわらずずっとその数字は写されていた。どうやら八桁まで表示できるものらしい。
 上の電卓には、
「60506225」
 と打ち込まれており、下の電卓には
「13231312」
 と打ち込まれていた。
「奈美……ちょっと……これを見てくれ」
 空馬はその数字をメモしながら奈美を呼んだ。
「電卓? この血ってもしかして……」
「ああ、多分な……」
「じゃあこれってダイイングメッセージ?」
「やはりおまえもそう思うか……で、これは何を意味しているのか分かるか?」
「私が分かると思う?」
「だよなあ……やっぱり」
「空馬くんも分からない?」
「暗号だと思うよ。一応パターンはあるみたいだから色々考えてるけど言葉がつながらん。たぶん上下の数字が関係していると思うんだが。同じ桁だし」
 ふと見ると教室の隅で震えている女生徒を見つけた。
「どうしたんだ?」
 空馬がその女生徒の肩を掴むといきなり空馬の手を振り払い、
「知らない! 私は何も知らない! 関係ない!」
 叫びながら教室を出て行った。
「……………………あやしいわね〜」
 奈美が顎に手を当てながら呟いた。
「……確かにあのおびえ方は変だったな。何かを知っているかも知れないが彼女は関係ないだろうな。それより誰だ、あいつも絵里の親友なのか?」
「え? う、うん。そうだけど……」
「やっぱりな……多分彼女は犯人を知っいるんだろうな……」
「それじゃあ追いかけないと……」
「いや、あの状態だと話してくれそうにないな。それに強引に聞き出すのは警察の仕事だ。
 それよりこの部屋に来て何分ぐらい経つ?」
「五分くらいかしら」
「警察が来るのは後二、三分てとこか」
 知らせを聞きつけた先生達が部屋にやってきて、空馬達を廊下へと追い出す。仕方なく空馬はそれに従った。別段あせる必要はないからだ。何故なら犯人は目の前にいる。
 おそらくあの時高田の手を握り締めたのは自分を指を指されるのを恐れたためだろう。それなら高田の浮かべた絶望した表情を浮かべた事も納得がいく。間違いない。久賀仁が犯人だ。
 でも証拠がない。せめてあの数字の意味さえ分かれば……
 空馬は友人達と一緒に涙を流している久賀仁椎子を横目で睨みつけた。

今回の鍵は三つ。
○暗号解読する為のパターンとは何か。
○暗号の意味とはなにか。
○そして被害者の意図しなかった仕掛けが残されている。それはなにか。


あとがき
 さて今までよりは多少難しいと思います。一応、下にもヒント書きますが、わからない様でしたら感想掲示板に更にヒント書きます。








ヒント
この暗号は最近の女子高生ならたいてい使っています。すでに答えは出てます。



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