Detective Player  
--- 殺意の証 解答編 ---

                                    作:木村征人





 しばらくして警察がやって来た。案の定戸川も月森もいる。
 空馬の姿を見て月森はおもいっきり嫌な顔をしたが、考え込んでいる空馬が月森に気付かないのを知って無視した。
「ちっ、分からねぇ」
 空馬は頭をかきむしった。
 どこかでいきなりゲームの音楽が鳴ったせいで空馬の考えが打ち消される。その音楽に反応して男子生徒の一人が携帯を取りだした。ゲームの音楽を着信音として使っているらしい。
「え? ニュースでやってるのか。うん、大変なことになってるよ」
 今、マスコミが学校に押しかけている。そのニュースを見てどこかの親か親戚からかかってきているのだろう。
 その光景を眺めていた空馬だったが……
「まさか……!」
 空馬は自分の携帯を取りだし電卓の番号と携帯の液晶を交互に見ている。
「なるほど……だけどこれだけじゃ……ん? この番号もしかしたら……
 いちかばちか、俺の話術で通じるか分からないけど……」
 そんな時、空馬が第一発見者として部屋の中に呼ばれた。何故か奈美も空馬の後に続く。空馬は何か言いたそうだったが今回手伝ってもらう事があるので何も言わなかった。
「はあ……またこのメンバーか……」
 空馬は部屋に入るなり溜息をついた。
「で?」
 空馬の呟きを無視して戸川が聞く。
「授業開始のチャイムの少し後、部屋に入ると胸と腹部を刺された高坂絵里が壁にもたれる様にして倒れていた。なんとか助けようとしたけど致命傷だったし、血を流しすぎて処置の使用がなかった。昼休みにやられたみたいだな。
 それで先生達が俺達を部屋から追い出されるまで何か残してないが適当に調べさせてもらった」
「また、お前は勝手な事を!」
 空馬の言葉に月森が呆れた。
「それで?」
「二つにつなげた電卓があってね。その番号が暗号になっていると俺は見ている。高坂らしき血もついてたしな」
 月森を無視して二人が話しを続ける。少し寂しそうな顔に気付いた奈美が肩をぽんと叩きあからさまに同情していた。月森はなんだか哀しくなって来た。
「その電卓というのはこれか?」
 丁寧に袋に入れられている電卓を差し出した。
「ええ、それです」
「その番号なら俺も確認している。最も月森が勝手に電源を切ろうとしたのを止めた後だがな」
 その言葉に空馬は月森を見つめ……
「……………………ハァ……………………」
 地の底よりも深いため息をついた。
 月森の心の傷はクリティカルを受け部屋の隅っこでいじけている。それを見て検察医は迷惑そうな顔を浮かべていた。
「で、その暗号は解けたのか?」
「まあ、戸川さんの世代では無理でしょうね。俺も専門外でしたしかなり苦労しましたけど」
「という事は解けたんだな」
「はい、久賀仁椎子を呼んでくれませんか?」
「分かった。事情を聞くフリをして来てもらおう」

 一時間後、部屋の中では空馬、奈美、戸川、月森、そして久賀仁椎子がいた。すでに高坂絵里の死体は運び出されている。人の形をかたどられた白い線と血の跡だけが生々しく残っている。
 四人にジッと見据えられている椎子はおびえている。
「あ、あの……事情を聞きたいと言われてきたんですけど……」
「そうだな……聞きたいのは確かだ。高坂絵里を殺した動機をな」
 空馬は胸ポケットから眼鏡を取り出しかけた。途端に空馬の目つきが鋭くなる。
「な、なんで私が……それにあなたがどうしてそんな事を……」
 その姿に椎子は驚きながらも反論した。
「お嬢ちゃん。悪いが俺達はこいつには絶大な信頼をしている」
 戸川の言葉に月森はブツブツいってるがそれはとりあえず無視する。
「奈美、ひらがなの五十音を黒板に書いててくれないか?」
「う、うん。いいけど」
「久賀仁、お前は高坂が死ぬ直前お前を指差そうとしたことに気付いてとっさに機転を気かせて手を握り締めたんじゃないのか?」
「そんな……ひどいわ。私はただ絵里の姿があまりにも可哀想で……」
 椎子が顔を押さえる。
「こういうタイプは気をつけたほうがいいぞ」
 何かを感じ取ったのか戸川は空馬に耳打ちする。が、空馬はその意味が分からなかった。空馬は軽く咳払いをした。
「まあ、そういう事にしておこう。だけどな、二つにつながれた電卓が見つかったんだよ」
「今、調べてもらっているがおそらく高坂絵里の指紋と血液が検出されるだろうな」
 戸川が付け加える。
「その電卓に番号が記されていた。
 上の電卓には、
『60506225』
 下の電卓には
『13231312』
 とね」
「それがなにか?」
「直に分かるさ。
 奈美、書き終わったか?」
 空馬が振り返るとほとんど書き終わっていた。
「もうちょっとまって……っと出来たよ」
「わの二段目に『を』、三段目に『ん』をいれてくれ」
「分かったわ」

あ か さ た な は ま や ら わ
い き し ち に ひ み   り を
う く す つ ぬ ふ む ゆ る ん
え け せ て ね へ め   れ
お こ そ と の ほ も よ ろ

「この番号の通りに左から六つ目、上から一つ目にやると『は』。0はわ行にすると三つ目で『ん』になる」
 奈美が空馬の指示した言葉を書き込んでいく――
「これをつなげると『はんにんはくかに』となる訳だ。これが高坂が残したダイインングメッセージの意味だ」
「そ、そんなの憶測だわ。だいたいわ行は並びが全然違うじゃない!」
 久賀仁が怒鳴り出す。
「そうだな……だがこれを基準としたら話しが違う」
 空馬は携帯を取り出す。
「それがなんなのよ……」
「あ、そっか……メールね……」
 奈美がポンと手包みを叩く。
「そうだ。上が番号、下が押した回数を意味している。戸川さんはiモードなんか使わないから分からなかっただろうな。最も俺もパソコンでメールを打っているせいで気付くまで大分悩んだけどな」
「すでに被害者が携帯を所持していたことは確認している」
 戸川が更に付け加える。
「まあ、高校生の必須アイテムだからな」
「だから! それがなんだって言うのよ! そんなのが証拠になるの? 私の名字がなったからって私が犯人になるの?」
 久賀仁の怒りを空馬は平然と流し、
「なるよ……何故なら彼女はお前の名前まで残しているんだからな……」
「え?」
「この電卓は八桁しか打てない。だからこそ彼女は思いついたんだ。単純な方法でね。
 奈美、久賀仁と書かれている番号だけを上下逆にしてみろ。
「え、うん。逆だから……え?」
 奈美は気付いた。その隠された言葉を。
「そういうことだ。逆にすれば椎子と読める。つもりお前のフルネームが完全に書き記されているんだよ!
 それにもしかしたらお前は凶器をまだ持っているじゃないのか? 反抗を実行した後、急いで教室に戻るしか時間がなかったはずだ。学校に隠していてもすぐに警察が見つける。だとしたらはっきりとした特定できる人間がないため警察はおそらく一度家に帰すだろうね。その後で、ゆっくりと凶器を隠せばいいんだからな。頭の良いあんたのことだ、それくらいのことは考えているだろう」
 空馬は久賀仁のことをよく知らない。しかし今まで機転の良さがやたらと目に付いている。これはカケであった。かなり分が悪い為、相手を追い詰める様に攻めて言った。気持ちのいいものではないが。
「し、仕方なかったの……高坂さんが……・悪いのよ……」
 そして空馬はカケに勝った。しかし最後の詰めが甘かったことをまだ知らない。
「例えどんな理由があったとしても人殺しはやっちゃいけないんだ、絶対にな!」
 久賀仁の瞳が冷たく、そして鋭くぎらつく。
 久賀仁がいきなりナイフを取り出した。そのナイフは赤黒く変色している。おそらく絵里を刺したナイフだろう。
 空馬は一瞬その瞳に捕らえられる。今まで無害だと見えていた少女がいきなり牙をむいたのだ。
 一直線に空馬へと向かう。虚を突かれた空馬は動けなかった。戸川も月森も空馬から離れていて間に合わない。
 その瞬間黒い影が空馬と久賀仁の間に滑り込んだ。黒い影はバレエの選手の様に久賀仁を捕まえて回転する。回転にまき込まれた久賀仁は宙を舞いそのまま――
 ズダン!
 背中から落下した。
「うぐっ!」
 うめき声を上げ動かなくなった。黒い影は自分自身がした事をまるで信じられないという感じで自分の手の平を見つめる。
「あは、あはははははは。まさか昔やってた合気道がこんな風に役に立つなんて……」
 久賀仁を投げたのは奈美であった。今頃になって恐くなったのか声が震えている。
「そんなのでまったく刃物持った相手に良く立ち向かえたな」
 空馬は眼鏡を外しながら安堵の息を吐いた。
「とにかくこれで殺人未遂の現行犯だな」
 戸川は久賀仁の両腕に手錠をかけた。
「だけど結局動機は分からなかったわね」
「いきなり教室を飛び出した女生徒がいただろ? おそらくそいつが知ってると思うぞ」
 空馬の言う通り全ての事情を知っていた。

 少し前から久賀仁さんが万引きをしていたのを知ってたの。久賀仁さんが受験でカリカリしてるせいだろう思うようにしていたの。それだけだったら良かったんだけど……子犬を殺したり、猫を殺したり、どんどんエスカレートしていって、私達恐くなって……そしたら高坂さんが頼りになる人がいるから相談してみると言っていたの。そしたら高坂さんが殺されていて……だから私恐くなって……

 警察に連行されて行く途中で記者に囲まれながらパトカーに乗せられて行った。久賀仁はブツブツと一人ごとを行ったり、突然暴れ出したり警察は強引に引きずりながら中へと押し込まられた。
 事の真相が記者会見で発表され、各方面へ衝撃を与えていた。ただ空馬と奈美のことは伏せられていたが。

 空馬と奈美の帰宅途中。
「だけどよく死の直前であんなフルネームが残せたわね」
「残ってなかったよ……」
「え?」
 空馬の予想外の答えに驚く。
「死の直前になってあんなの思いつくわけないじゃないか。高坂が作ったダイイングメッセージはたまたま名字を逆さまの数字にすると名前が出るようになってたんだよ」
「それじゃあれは嘘なの?」
「嘘とは心外だな。ダイイングメッセージとして出てんだからな」
 空馬はベッと舌を出した。
 そういえば頼りになる相談したい相手って空馬くんなのよね。あのダイイングメッセージも空馬くんの席にあったし……でも、まさかねー。
 奈美は自分の考えを打ち消した。

 あの阿部くん……相談したい事があるの私の友達のことなんだけど……
 それと……それとね……ずっと私はあなたの事を……



あとがき
やっぱり色恋汰は苦手です。最後のセリフだけでも悶絶し寸前なのに……
さて次回はいよいよ最終回です。前後編の予定です。ノリはもうクロス探偵物語。
トリックは密室殺人でいこうと思います。余裕があればもう一つぐらい作れればいいけどね。



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