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--- 最終話 カーリィ 前編 ---

                                    作:木村征人



期末テストの結果で鬱になりながら家路に着くと一通のどす黒い封筒が届いていた。その中には赤字で書かれた招待状であった。
『阿部空馬様
 貴殿を招待したいと思います。
 勇気と興味があればぜひお越し下さい。
             カーリィ
 場所 裏面に記載。
○月○日 午後5時』

KUU『――という招待状が今日来たんだ』
 いつもの如く空馬はチャットで馴染みのネット仲間のMINと今日あったことを話していた。
MIN『……………………』
KUU『どうしたんだ?』
MIN『いや、僕がその『カーリィ』だと疑わないのかなと思ってね』
「あ――」
 空馬は間の抜けた声をあげた。考えてみれば本名はおろか性別さえ知らないのである。
MIN『まあ、今のところ僕は無関係だからね。それでどうするの。行くのかい?』
KUU『うーん、やな予感がするからな……行かないかもな……
 確実に前の事件とつながりがあるようだし』
 前の事件とは工藤隆志が奈美の姉を殺した事件のことである。
MIN『ふ〜ん、でももし行くようならメールで連絡してよ。三日間連絡がないようだったら警察に探させるから(^o^)』
KUU『ちょっと待て! その言い方はまるで警察を自由に動かせるような言い方だろ』
 もしかして警察でもかなり上の役人か、その知り合いがいるのか?
MIN『あははは、ちょっとしたコネがあるからね。まあゆっくり考えてよ』
KUU『日付は明日だからゆっくり考えている暇はないんだがな』
MIN『まあいいや、それじゃあおやすみー』
 そう言ってパソコンを切った。

 トゥルルルルトゥルルルルルルルル
「電話!?」
 空馬が受話器を取ると。
「あ、空馬くん。よかった」
 電話の主は秋月奈美であった。
「珍しいな、毎日顔を合わせているから電話なんてする必要なんてないはずだけど……」
「うん、そうなんだけどね。実は……招待状が届いたの」
「招待状ってまさか……赤字でかかれてないか?」
「…………空馬くんも届いていたのね。
 ということはたぶんあの人達にも届いていることになるわね……」
「だろうな……行くしかないな……ったく、俺だけならともかくお前まで招待状が来ているとはな……」
 もし断われば奈美の身に危険が及ぶかも知れないしな……
 翌日、空馬はMINにメールで『行って来る』とだけ送り荷物をまとめ地図の場所へと奈美との待ち合わせ場所に向かった。
 奈美と出会った後、日に数本しかないバスに揺られて数分、その後地図の通りに山道を更に歩き数十分、辺りは暗闇に包まれた頃山の木々がまるで外界との接触を拒む壁のような山奥にあまりにも――あまりにも不釣合いな洋館がそこに存在していた。
 まるで映画から飛び出したような二階建ての重々しい雰囲気を持っていた。
 空馬は遠慮がちにノックをする。
 人の気配が全くしない。担がれたのか? と一瞬空馬は思ったが洋館の扉はゆっくり開き、
「阿部空馬様と秋月奈美様ですか?」
 遠慮がちにメイドの格好をした、短髪の少しおとなしそうな二十歳前後の女性が姿を現した。
「ああ、そうだけど……よく分かったな?」
「事前に写真をもらっていますので……」
「なるほどね……」
 メイドの格好が奇妙に不自然な気がするが……
 玄関からすぐ目の前の大きな階段が目に付いた。そこには数人の男女が集まっていた。その中には、
「おまえらまで招待状を受けたのか! って何を頭抱えながらうずくまっている?」
 月森、そしてもちろん戸川も座っていた。
「いや、あまりにも予想だった通りもんで……やっぱり二人とも招待状もらっていたか」
「ああ、警察を三人も呼ぶとはかなり余裕があるみたいだな」
 戸川がいつも通りの仏頂面で答える。
「三人?」
「ふぅ〜ん、この子があのトリックを解いた噂の高校生探偵ね……この子が見破られるようなトリックがわからない様じゃ。敏腕刑事の名が泣くわね」
 三十路を過ぎたばかりであろうか、長髪の知性を強調するかのような眼鏡をかけた女性が戸川を睨みつけた。
「あの人は……?」
 空馬は珍しく月森に耳打ちする。
「お前は知らないだろうが。戸川さんはあの一件以来、色々と組織のことを調べて周っているんだが。元々彼女、山崎夏子警部だったんだ。だが、一向に捜査が進まないせいで戸川さんがこの件持つかもしれなくなってな。それでライバル視している訳だ。
 どちらにしろここで何かを掴もうと躍起になっていることは確かだな」
「ふーん、月森まで招待されているということは大小関わらず何かで組織に関わっている連中が集められたということか」
「あれ? 年寄りばかりだと思ったら私と同い年の人がいる!」
 いきなり失礼な言葉を発した女の子が空馬達に近寄って来た。
「私高梨まゆな。よろしくね」
 高梨まゆなと名乗った少女は空馬より少し年上だろうか、この招待客に不似合いなぐらい元気な女の子だった。
 不似合いと言えば俺達もそうか……
「阿部空馬。それとこっちが……」
「秋月奈美よ。よろしく」
 奈美がそっと手を出すと、まゆなは手を掴みブンブンと豪快な握手を交わした。
「ねぇ、あなた空馬くんの彼女?」
「なっ!」
 まゆなの耳打ちに奈美が狼狽する。
「そ、そんなんじゃないわ。ただの幼馴染みよ……うんうん」
 自分で言い聞かせるように必死で否定する。
「何を話しているんだ?」
 そんな二人のやりとりを見ていて空馬は首をかしげていた。
「しかし色々な面子が集まって来たな」
 筋肉質やらひょろりとした男や、スーツ姿の女性やら色々と集まって来た。
 ある程度人が集まって来ると先ほどのメイドが再びやって来た。
「それでは皆様を個室に案内します」
「個室? ええっと……」
「澤田香澄と言います」
 すぐに空馬の意図がわかったのか、メイド姿の女性――澤田香澄はすぐに名乗った。
「澤田さん、個室がみんなに用意されているのか?」
 玄関近くのすぐ目につく大きな階段を昇り、いくつもの扉が並んでいた。(香澄が言うには全て来客用になってるらしい)
「こちらです」
 空馬達は階段を昇ってすぐ目の前の部屋に通された。
 部屋の中はドアには覗き窓がついており、ユニットバス、ビデオ、テレビ。小型の冷蔵庫まで備え付けられた豪華な部屋であった。特に目がつくのは、
「あのベッドが二つあるんだけど……」
 天蓋着きの二つのベッドであった。
「はい、阿部様と秋月様には相部屋にする様にと仰せられていますので……それでは食堂でお待ちしております」
「しょうがないわね……」
 それを聞かされて仕方なさそうな言葉をしたものの、やはり不安だったのだろうどこかほっとしたような口調であった。
 二人は荷物を下ろした後すぐ食堂へと向かった。
 昇って来た階段を降り、右側――屋敷の玄関から入ると左側だが――の扉を開いた。
 その部屋は食堂らしく、大きな長方形のテーブルに様々な料理が乗せられ、その両脇に四つずつ椅子が並んでおり、一番奥と手前に一つずつ空席のまま椅子が置かれていた。
 両脇の四つずつの椅子にすでに七人の男女が座っていた。その中には、
 まゆなの隣に奈美がテーブルの料理を今にも食べようと席についていた。
「す、すばやいなお前……さて俺は奥の椅子に座るか……」
 空馬が奥の空席に座ろうとすると、
「おい、おまえ」
 野太い声が空馬を捕まえた。振り向くとはげた五十年代の男が立っていた。はっきり言って悪人面である。
「なにか?」
「ここは上座だろう。上座と言うのは一番えらいやつが座るもんなんだよ。だからお前はどけ!」
「………………分かりました」
 釈然としなかったが渋々空馬は下座の席に腰を下ろした場所は丁度その男の真正面だった。
『それでは皆様の席に置いてあるカードをめくってもらおう』
 空馬が席に着くと見計らった様に変声機を使ったのだろう。スピーカーから奇妙な声が響いた。
 全員指示通りにカードをめくる。
「白紙だ……」
 空馬は奈美やまゆな、戸川、秋月の顔を見る。わざわざ聞かなくても顔を見れば白紙だと分かる。
「死神か?」
 上座に座っていた、空馬が座ろうとしていた席を横取りした男は死神が記されたカードを引いた。
「ふん、ばかばかしい!」
 苦々しく男は死神のカードを投げ捨てた。
 そのままスピーカーからなにも聞こえなくなったので全員黙りつつ食を進めていた。普通のパーティーで済まないと分かりきっている為当然だが。
「そういえば……カーリィってどういう意味?」
 下座に座っていた空馬のすぐ側に座っていた奈美が聞いて来た。
「ヒンズー教の殺戮破壊の女神の名前だよ。組織の名前か招待者の名前かは知らないが、どちらにしてもふざけた名前だよな」
 先ほどの悪人面の男が鼻で笑う。
「ふん! なんにも知らない若造だな。カーリィと組織の名前は別だ。つまりあれは招待者のなま――」
 ビィン!
 大きなばねが跳ねる様な音と共に男の言葉が止まる。
 そのまま首がゴトリと落ち、
 ブシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 男の首から噴水の様に血が吹き上げた。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 みんなが一斉にテーブルから離れる。
「見事に一刀両断といった感じね……」
山崎、戸川、月森は首なしの死体を調べる。空馬も行こうとしたが奈美とまゆなに掴まれ動けなかった。
 結局血だらけになった食事を香澄に片付けさせ、男の死体を寝かせテーブルクロスでかぶせた。
『ふっふっふ、これでルールは分かっただろう。死神のカードを引いた人間が死ぬと言う予告となる。運悪く死神を引いた人間はせいぜい逃げてくれたまえ』
「ふざけやがって!」
 筋肉質な男が叫ぶ。
『我らの組織を潰そうと画策している団体の一人、安久津幹夫』
 筋肉質な男が驚いた顔をする。
『組織のデータにハッキングを行なった天才ハッカー高梨まゆな。
 第一線で活躍するジャーナリスト西山佳織』
 名前を呼ばれたスーツを着た少しきつそうな女性は慄然と済ました表情のままであった。
『組織をこそこそと探っているフリージャーナリスト浅倉昇』
 ビクッとひょろりとした男が反応する。
『凄腕で知られる戸川敦彦刑事、そして月森雅史。
 長年組織を追いつづける山崎夏子警部』
 月森を覗く二人の警察官はさすがと言うべきか平然としている。
『高校生探偵阿部空馬。そしてその助手秋月奈美』
「助手? なんでだ?」
 その言葉を聞いて空馬は眉をひそめた。それを無視して声は続く。
『言っておくが逃げようとは思わないことだ。逃げればこの館にいる全員が死神のカードを引く事になる。せいぜいお互い見張ることだな。
 それと決定権は阿部空馬にに任せる。彼の言うことは聞くように』
 そう言ってプツリと声が途絶えた。
「ちっ、いつまでここにいるか教えやがらなかった。俺達を全員殺す気か!?」
「三日後だよ……」
 幹夫の苛立ちを押さえるかのように空馬は呟いた。
「なに!? どういうことだ?」
「ある人間に三日間連絡なければ警察が捜索するよう頼んである。つまり四日目の朝まで生き残れば良いと言うわけだ。
 今の所はそれしかないだろうな。誰もこの事を話してなければだけど、携帯も圏外だしな」
「そんな事言って私達を油断させようと言う腹じゃないの? 決定権はあなたにあるみたいだしね。それともカーリィじゃなく共犯者かしら?」
 夏子が冷ややかな目で見つける。
「少なくとも俺がカーリィじゃないぜ。少なくとも俺はな」
「どういうことかしら?」
「もし俺があの時上座に座っていたら死んでいたのは俺だぜ。そんな事を自らそんな危険を犯すと思うか?」
「なるほどね……一応は信用してあげるわ」
「一応で十分だよ……この状況だとな。そもそも俺の見立てではこの中にカーリィがいるんだからな!」
 空馬の言葉で全員がどよめく。
「なぜそう思う?」
 戸川が腕組をしながら聞く。
「俺が反論した時無視したしな……当たりさわりのない言葉ばかりと言うのが不可解なんだ。おそらくリモコンで操作しているんだろう。
 その証拠にほら……」
 空馬は首をはねられた後ろの壁を指差した。
「俺は真正面だったから見えたけど刃のようなものが一瞬見えた。見ろよ、横一文字に亀裂のような穴が開いてる。リモコンで半円を描く様に刃が飛び出る仕掛けになっているんだろう。だったらさっきの声もあらかじめ録音して、リモコンで再生できる様になっているんだろうね。
 そもそも行動に規制は強いられなかった。つまり自由に行動していいって分けだ。もしカーリィがこの館を移動している時に見つかったらどうする? ここのメンバー以外の人間を見つけたらそいつをカーリィだと思うはずだ。
 だったら招待された人間になりすましたほうがずっと行動しやすい。違うか?」
 みんな黙り込んでいた。予想以上の空馬の解説に驚いていた。
 なるほど確かに中々頭が回転するらしいな。三日間……少々予定を変更しなければ……
 カーリィは狂喜の瞳で空馬を見つめていた。
 その気配に空馬は感じ取っていた。誰かまでは特定できないが過去と同じ気配を感じていた。そう、遥か過去に……
 奈美は一人いないことに気付いた。
「あれ、まゆなさんは?」
「彼女ならついさっき自分の部屋に走り去ったわよ。そうとう怯えているみたいね」
 佳織が階段のほうを指差した。
「それより後でインタビューに受けてくれるかしら?」
 佳織が空馬の顔に近づく。
「いや……それは……ちょっと……」
 さすがに空馬もたじろく。
「まあ、機会があればね……」
 その姿が面白かったのか佳織は笑いながら離れた。空馬は軽く席払いをした後、
「とにかく俺達も部屋に戻ることにします」
 数分後、空馬の部屋に奈美はもちろん戸川と月森も座り込んでいた。
「だけど空馬くんあの中にカーリィがいると知っていながらよくあんな挑発させる様なことしたわね」
「ああでもしないとな……防護作の為さ。もしあそこで反論していなかったら監禁されてただろうしな。それよりもこれ……」
 空馬はリュックを逆さにするとドシャシャシャシャとお菓子が大量に落下した。
「なにこの大量のお菓子は!?」
「もしかしたら食うものなくて飢え死にするかも知れないとおもってな……それに飯も中途半端だったから丁度よかったよ」
 そう言って空馬はお菓子の包みを開けた。みんなも思い思いのお菓子を手にとって食べる。空馬は胸ポケットにガムを入れた。
「一応二階の部屋の見取り図を書いてみた」

    浅倉      阿部&奈美    山崎    高梨   
    ――――――――――――――――――――――――――――
   |           ――――――           |
月森 |          |  階段  |          |安久津
   |          |      |          |
戸川 |                            |西山
   |                            |

「……澤田さんは一階のメイド部屋らしいね……」
「ふむ、坊主が相部屋なのは部屋数の都合か」
「だろうね……それに見取り図から分かるようにそれに元々あの男が死ぬことは予定していたみたいだな」
「どうやって? あそこに座るのは自由なはずよ」
「確かにな……よっぽど頭が回るやつらしい……どんな手品を使ったのやら」
「今そんなことで悩んでいても無駄だろう。それよりこれからどうするんだ?」
 戸川がポテトチップスをほおばりながら呟く。その姿はクマを餌付けしている様にも見える。
「とにかくみんなの話しを聞きに行こうかと思う。さっきの会話で俺がカーリィから一番離れた存在だからね。みんながどうして招待状をもらったのか気になりますし」
「会話はある程度メモして置け……なんの役に立つかは分からんからな」
「はい……」
 空馬、そして奈美は順通りで浅倉の部屋へ入った。空馬がノックすると、
「だ、誰だ……」
「えっと空馬と助手の奈美ですけど……」
「なんの用だ?」
「いえ、少し話しを聞きたいなと……」
「次は俺を狙う気か……」
「さっきの会話で俺がカーリィと言うことではないことは分かったでしょう? それとも死神のカードでももらったんですか?」
「分かった……」
 ガチャリと扉が開いた。空馬達は部屋の中へと案内された。空馬たちが用意された個室とまったく同じであった。
「それでなんの話しを?」
「組織とカーリィがどの様にあなたと関わっているか、ですね」
「ふぅ、そういうことか。
 俺は元々殺人事件を追っていた……自分でも臆病な性格だと分かっているけど……好奇心に負けて……色々調べ回った。次第に組織の中にカーリィと言う名の人間が浮き彫りになって来た。それでその人物が何者か探ろうとしたらこの招待状だ。
 さすがに驚いたな。まるでこっちを見透かしているように感じた。
 俺が知っているのはそれだけだ」
 早口で言い終えて空馬達を部屋から追い出された。空馬達は自分の部屋を通りすぎその隣の山崎の扉をノックした。
「誰かしら?」
「空馬と奈美です」
「あら探偵くんね。今鍵を空けるわ」
 空馬達は部屋の中へと招き入れた。
「簡単に入れてくれますね」
「色々噂を聞いているからね。それとも今からでも追い出した方が良いかしら?」
「い、いえ。遠慮しておきます。それよりも長年組織を追っているらしいですね」
「そうね……私はずっと組織を追っているわ。担当から外れても良かったけど私のプライドが許さないわ。ここで意地でも組織の情報をつかんでやるわ」
「燃えてますね……」
「私と勝負しない?」
「勝負?」
「ええ、どちらが早くカーリィの正体を暴くかをね」
「勝負ですか? うーん……俺は生きぬくのに精一杯だと思いますよ。勝負だったら戸川さんとしたらどうです?」
「あら、私はあなた一人とは言ってないわ。戸川さん、月森とそれとかわいらしい助手と一緒に探せば良いわ。それでどう?」
「あなたは?」
「私は一人で十分よ。それでどう?」
「うーん、みんなに聞きに周ってるし、一応調査をしていると言うことになるのかな?」
「楽しみにしているわ、高校生探偵くん」
 空馬達は次にまゆなの部屋へと行った。
「誰?」
「空馬です。話ししたいんですけど……」
「駄目!」
「え?」
「お願い、今日は帰って……」
「どう言うこと――まさか!」
「ええ、私の部屋に死神のカードが置かれてあったの……だから帰って……」
「だったら私達と一緒に……」
 奈美はまゆなを説得しようとするが、
「あなた達がカーリィじゃないと思っているわ。でも、恐いの……誰とも会いたくない……」
「分かりました……だったらドア越しでお願いできませんか?」
「ええ……いいわ」
「ありがとう。それでは組織とカーリィの関わりは何ですか?」
「そのことね。これでも私はその道では有名にハッカーなの。それで良い気になっていのね。強力なプロテクトがかかったデータバンクが運悪く組織の最重要情報バンクだったの。それが私に招待状を……いいえ、命を狙われる原因よ」
「分かりました。絶対にドアを空けないで下さいよ。誰が来ても」
「ええ……もちろんそのつもりよ」
 空馬は安久津幹夫の部屋の扉をノックした。
「誰だ?」
「空馬です」
「ああ、お前か。少し待っててくれ」
 あれ、ここの覗き窓にはレンズがついてないんだな。
 ガチャリと鍵が空く音の少し後に扉が開く。
「お邪魔します」
「て、なんの用だ?」
「組織に対抗する団体とは何なんです?」
「そのことか……組織に恨みを持ったやつらばかりが集まっている所だ」
「恨み?」
「ああ、家族が殺された、恋人が殺された、人生をめちゃくちゃされた。理由は様々だが組織に恨むやつらで構成されている」
「安久津さんもですか?」
「ああ、例外なく俺もな。その組織を潰したからと言って恨みを晴らせたとは思わないがな、だからと言ってそのまま忘れることが出来るほど人間は簡単に出来てないだろ」
「そうですね……」
「ほらよ……」
 安久津はメモ用紙を空馬に渡した。
「これは……?」
「俺達の団体の連絡先だ。もし俺達の仲間になりたいならここに連絡しろ」
「はぁ……だけどいきなりドアを空けてくれましたね」
「人を見る目には自信があるつもりだ。あの月森と言う男は結構ねたんだり、いきなり落ち込むタイプだろ?」
「……当たってますね」
 空馬達は西山佳織の部屋まで来た。ノックが躊躇される。
「どうしたの?」
「奈美、お前に頼む」
「まあ良いけど……」
 奈美が空馬の変わりにノックする。
「誰かしら?」
「えっと奈美ですけど」
「奈美? ああ、あの女の子か……」
 ガチャリと扉が開く。
「うっわ!」
 空馬が悲鳴をあげる。西山佳織はシャワーに入っていたのだろうバスタオル姿であった。
 空馬はバアンと勢い良くドアを閉める。少し経った後で、
「いいわよ。入って来て」
「お、お邪魔します」
 空馬はおずおずと入ってきた。もちろん佳織は服を着ている。
「それでインタビューを受けてくれる気になったのかしら?」
「……逆に俺が聞くことがあるんですけど……」
「インタビューにされた事なんて始めてね……何が聞きたいの?」
「組織とカーリィにあなたがどの様に関わったか聞きたいんです」
「なるほどね、私は社会で隠蔽された事実を暴露することをほとんど専門でやっているわ。結構多額で買ってくれるところもあるしね」
「なるほど、そうしている内に組織の所にぶちあたたっんですね」
「へぇ、良く分かったわね。正解よ」
「他の人もよく似た事情でしたから」
「なるほどね」
「カーリィの事はなにか知っているんですか?」
「いいえ、でも暗殺を専門としていると聞いたわ。そして残虐な人間ともね……
 死人が出るにはこれ以上ふさわしい舞台はないでしょうね」
「いやになるくらいの場所なのは確かですね」
「くれぐれも気をつけることね」
「ええ、承知してますよ」

「さてと次ぎでラストだな……」
「え? ああ、あのメイドさんね」
 空馬達は階段を降りて澤田香澄の部屋のドアをノックした。
「だれですか?」
「空馬と奈美です」
 今日はこればっかだな……
「少し待ってて下さい。何かご用ですか?」
「いえ、少し話しを聞きたいと思って」
「なんでしょうか?」
「組織とカーリィでなにか知っていることはないと思いまして」
「あの……私はなにも……」
「だったらなぜここに呼ばれたんです?」
「実は……父が多額の借金をしていまして、その借りた場所が……」
「組織の関係しているところだったと」
「はい、招待客の世話をすれば借金を帳消しになるんです」
「なるほど……そうだったんですか」
 不自然な格好に見えるはずだ。初めてなんだろうな、こういう服装は。
「そろそろ失礼していいですか? 明日、朝食を作らないと行けないので」
「あ、はい。すいませんでした。おやすみなさい」
 部屋から出た後、メモを見つめながら階段を昇っている。
「やっぱりなにかしら関わっている人間ばかりだったな」
「そうね……でも、一番分からないのは……」
「え?」
 奈美の言葉に思わず振り返る。今まで黙りを決め込んでいた奈美が意見を言うことに驚いていた。
「なんでこんな招待状まで作ってみんなを集めたってことよね」
「確かにな……単純に殺すのが目的だったらわざわざ集めないよな。
 とにかく本番は明日から……いや、今からだな!」

「いや、やめて!」
 三十前の女性に男が群がる。
 そんな惨状を見つめながら邪悪の笑みを浮かべる人物がいた。成人になってもいない『それ』がリーダーであった。
「おいおい犯すのは構わないが殺すなよ。最後の仕上げ残っているんだからな」
 『それ』が傍らにいる少年の頭をポンと叩く。その女性の血の繋がった実の息子である。
「ほら、これを持ちな」
 『それ』は少年の手を掴みズシリとした感触がする黒いものを手渡す。
 そして――そして――

 ガバッと空馬が身を起こす。身体中が汗でぐっしょりと濡れている。
「くそっ! またこの夢か……」
 空馬はたまにこの夢を見る。不安感が募る時に特に見る。母が死ぬ夢を。
 空馬はベッドから降り、そっとそれ程大きくない窓の向こうの景色を眺める。
「不気味なぐらいきれいな月だな」
 頭上の月が怪しくかがいていた。

 そしてその月に導かれる様に……
 コンコン――
 突然のノックの音に高梨まゆなの体が震える。
「誰?」
 高梨まゆながドア越しに訪ねる。
 その時風が吹いた……
「――――――――――――」
「!」
 その言葉にまゆなが反応する。
「それは本当ですか! それであなたが……」
 まゆなが操られる様にまゆながドアを開ける。それはまさしくあの世への扉であった。



                               後編へ続く
今の鍵は一つ
・カーリィとは誰か?



あとがき
長くなりましたね、本当に。前編だけで今までの倍になりました。
書きあがるまで三日かかった、俺って。しかも勘のいい人はカーリィが誰か検討つきそうだし。
しかし、空馬の夢はブルフォレ的にはどうなんでしょうか?
君のぞの影響なんだろうな……やっぱり。
クロス探偵がモチーフになってるんだけどな。どうなんだろ……
ちなみに後編でのトリックのヒントは前編で記されてます。またしても密室もの。




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