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--- 最終話 カーリィ 後編 ---

                                    作:木村征人




 翌朝、一人の叫び声で全員目を覚ます。
 全員何事かと廊下を飛び出しと澤田香澄が尻餅をついて座り込んでいた。澤田香澄が座り込んでいた部屋のドアは開け放たれていた。
「どうしたんです?」
 空馬が香澄に視線を合わせて聞く。
「そ、その皆さんを起こそうと思って……その……ドアが開いていいたので……」
 香澄が開け放たれていた部屋を指を指す。
「ここは確か高梨さ――!!!!!!!」
 空馬は部屋の中を見て言葉を失った。カーテンレールにくくられたロープをベッドの天蓋から経由されてこの部屋の主、高梨まゆなが吊るされていた。
「おい、これはどうしたんだ……」
 戸川がこの状況に落ちついて見回す。
「誰かナイフ持ってません?」
「だったら俺のを使いな」
 安久津幹夫がバタフライナイフを空馬に投げて渡す。
 空馬が吊るされたロープを切る。その行為に誰も非を唱えなかった。本来なら現場を保存するものだがこのままの状態にしているにはあまりにも忍びなかった。
 空馬がまゆなをベッドの上に寝かせた。空馬はまゆなの首筋を見る。首の中央にロープの後が生々しく残っていた。
「自殺なの?」
 奈美が空馬の肩越しに覗く。
「自殺じゃないよ……だけど……一番分からないのはドアが開いていたと言うことだな……」
「どういうこと?」
 山崎夏子が奇妙な顔をしながら聞く。
「昨日、奈美と一緒に訪れたときすでに死神のカードを受け取っていたらしく、ドアを開けてくれなかったんです」
「つまりこれは密室殺人だと言いたいのか?」
 浅倉昇がパソコンに記憶しているのかカチャカチャとノートパソコンのキーを押している。
「密室ではないですね。鍵なしで開けることが出来るならどうして閉めなかったんです?
 彼女の様子からだとチェーンの鍵も閉めていたようですし……
 そんなドアを開けることは出来ても閉めることが出来ないと言うのはどう考えても妙です」
「つまり何を言いたいんだ?」
 戸川が奇妙な表情を浮かべる。
「彼女が自らドアを開けたと言う事です」
 空馬の言葉に全員が驚愕する。
「どんな魔法を使ったが知りませんけど彼女自身が犯人を招き入れたんでしょうね……
 ん? 手に何か持っているな……何かのメモか?」
 まゆなの握り締めていた紙を強引に指を広げて奪い取った。
 その紙には、
『女神の怒りを買い、天からのクモの糸により天へと連れ去られる。
 女神の怒り未だおさまらず。天より降り注ぎし雷。罪人を貫く」
 空馬はメモを読み上げた。
「なにそれ?」
 意味不明な文章に奈美が眉をひそめる。
「見立て殺人と言いたいんだろ。ご丁寧に次の殺人まで予告してくれてるしな」
「犠牲者がまた出ると言うこと?」
 西山佳織が真剣な顔で空馬を見つめる。
「ああ、天からのくもの糸は天蓋からの経由されたロープを刺してるんだろうね。女神はカーリィだとするとまだ死人はでる簡単に推測できる」
 空馬が顎を触りながら考え込む。
「とにかく今考えていてもしょうがないだろ」
 戸川が諭す様に言う。
「そうね……でも口惜しいわ。私の目の前でむざむざと死人を増やすなんて……」
 山崎が唇を噛みながらつぶやく。
「それであの朝食は……」
 落ち着きを取り戻した香澄が遠慮がちに呟く。
「悪いけど今はそんな気分じゃない。もし作っていたなら昼食を少なめに作っておけばいい。後でまとめて食べるよ」
「はい」
 空馬の言葉に香澄はうなずいた。
 昼食まで自室で待つことになった。本来なら自由に過ごしていいが、決定権のある空馬の指示で待機する様に言った。今頃みんなおとなしく部屋にいるだろう。カーリィ意外は。
「まさかまゆなさんが殺されるなんて……」
 さすがに奈美も落ち込んでいる。
「ああ、俺も犯人をなめきっていた。もっと注意するべきだったな……そうすれば回避できたはずなのに……」
「そういえばなんで自殺じゃないって分かったの? 私は最初見た時自殺かと思ったけど」
「ああ、そのことか。彼女の縄の後の位置が首の真ん中にあったんだ。首吊り自殺をすれば、吊るされた形になるから顎下に縄の後が出来るからな」
「そうなの……でも、どうやってまゆなさんの部屋に入ったのかしら……」
「さあな……顔見知りは……まずないか。
 まゆなさんと初めて会った時、知り合いがいる様子もなかったしな。あの状況下だと初対面の俺達よりも知っている奴がいるほうにいくだろうしな。女神カーリィか……まさに神のみぞ知るといったところか……」
 それから少した後、香澄から昼食の用意が出来たと呼び出された。
 昨日の夕食の時の部屋ではなく、その隣の部屋の丸テーブルがなら場所へと案内された。みんな好き勝手の場所に座る。ただ、昨日のこともあってか壁際には座らなかったが。
 空馬はみんなの顔をみわしていた。浅倉の顔が蒼白になっていることに気付く。
 空馬が浅倉に聞こうとしたところでまたあの機械音が流れた。
『さて、ここで休憩を取ってもらう。
 ビデオの横の棚に映画のビデオが置いてある。ぜひそれを見てもらいたい』
「希望ではなく強要だろ!」
 やはり安久津の言葉を無視し、
『それではぜひ楽しんでもらおう』
 そう言ってプツリと途絶えた。
「映画か……今度は何を企んでいるんだろうな……」
 空馬の呟きが聞こえたのかカーリィは薄く笑みを浮かべた。

 皆部屋に戻った後、空馬達は映画を見ていた。結局安久津の言う通り強要、ここはカーリィの指示に従うしかなかった。これはゲームなのだ。ルールを破れはカーリィがどんな手を使ってでも皆殺しにしかねないという危険性もあった。
 空馬と奈美が見ている映画は見たこともない題名であった。
「ふ〜ん、まあまあ面白かったけど……長い……」
「つかれたわね……」
 二人が見ていた内容はラブストーリー。なかなか内容に凝っているらしく二人は見入ってしまっていた。
 ただ実に四時間半と言う、映画にしては長過ぎるものであった。

 陽が暮れはじめた頃、今度は部屋から機械音が響く。
『映画は楽しんでもらえたかな?
 昼食を取った部屋へ行ってもらおう』
「悪い予感がするな……」
 空馬がその声を聞いて呟いた。

 その部屋へ行ったみんなは言葉を失った。
 浅倉昇は壁に面して天井近く吊るされていた。高梨まゆなの様に首にではなく胴回りにロープを縛られ天上のフックから吊り下げられていた。
 二つの稲妻が朝倉を貫いていた。いや、稲妻ではなく二本の鉄やりが、短くて太い銀色にきらめく鋼鉄のやりが背中から腹部へと串刺しにされていた。
 さらに両腕が真横のフックに引っ掛けられまるで教会に飾られているようなキリストの像を思わせる姿であった。
「そういうことか……鉄のやりを稲妻に見立てて……」
 空馬が苦々しく呟く。
「ちっ、いい性格していやがるぜ。まったく何人殺せば気がすむんだ! しかもこんなご大層な事までしやがって……おい、そこのゴツイあんた。
 俺がロープを切るから受け止めてくれ。鉄の槍に当たらない陽に気をつけろよ」
 安久津が戸川を朝倉の真下に呼び寄せた。
 え? 今のって、待てよ……なるほど最初と二つ目の殺人のからくりはそういうことか……
 ロープを切られた浅倉を戸川を見事受けとめた。
「ぐっ! こいつ見ため以上に重い……」
「ばかね、槍のせいで重くなっているだけよ。一本五キロあるんじゃない?」
 山崎が溜息をつく。
「それよりもまたメモ握ってないのかしら?」
 西山が浅倉を見ない様に顔をそむけながら言う。
「ああ、持ってるみたいだな。ええっと……」
『女神は使徒であるさそりは狙いを定めた。愚かなるものはその姿をあざ笑った。しかし、その毒の前に敗れ去ってしまった』
「まるでギリシャ神話のオリオンみたいだな……」
 安久津の読んだメモを聞いた後、月森は素直な感想を述べた。
「ああ、そうだな……そして次に狙われるのは俺だ……」
 安久津の言葉にみんな驚く。
「もらったよ、死神のカードをな」
 安久津は死神のカードをみんなに見せた。
「俺を狙うとは言い度胸だな。カーリィを返り討ちにしてやる!」
 安久津は笑みを浮かべ指を鳴らした。
「それよりも何故朝倉さんがここで吊るされたんだろうな……」
 空馬が戸川にハンカチを渡しながら聞いた。戸川は浅倉を受けとめた時に多量の血がついていたのだ。
「確かにな……カーリィとしては部屋にこもられるよりもずっと狙いやすいしな……」
「ですね、またカーリィが何かを仕掛けたとしか思えないでけど……浅倉の部屋を見に行ってみます」
 空馬は浅倉の部屋へ入った。床に落ちているカードを見つけた。空馬が拾うと死神の絵が描かれてあった。
「やっぱり昼前に死神のカードをもらっていたか。
 テレビが点いたままか……どうやら浅倉さんもビデオを見ていたらしいな」
 空馬が一度最初までまき戻して見てみる。どうやらアクションものらしく銃撃戦が色々と繰り広げられる。
「何かトリックがあるとすればこのビデオだと思うんだけど……まゆなさんが使った手が通用しないのはカーリィも知ってて当然だしな」
 しばらく映画を見つつげていたが……
「これは――なんだこの感覚……」
 空馬は一時停止を押し、スロー再生した。
「なるほどね! だから浅倉さんは下の階に行ったんだ。そこをカーリィに待ち伏せされた……そして犯人は……」
 そして夕方、浅倉を一人目が死んだところに置き、みんな感覚が麻痺しているのか浅倉が死んでいた場所でも平気で夕食が取れる様になっていた。
「明日、無事に生き残ればやっと帰られるのね」
 奈美がグッと伸びをする。
「そうだな……」
「どうしたのボ〜っとしちゃって……」
「いや、犯人が分かったけどどうしたものかなと思ってな……」
「そうなの! それじゃあ三つの殺人は?」
「ああ、そのトリックも分かった。犯人は阿久津さんだよ……」
「え? でも、カードを受け取ったって……」
「ああ、狂言だと思う。取り逃がしたとか言うつもりだろうな。さも自分が狙われた様に……」
 しかし、空馬の推理とは裏腹に……
「バカな……こんな方法を使ってくるだと……俺の身体は一体……なんだこの痺れは……ガハッ……息が……」
 そのまま安久津は動かなくなった。

 少年の手を包むようにして『それ』が銃を構える。
「いいか、よく狙えよ。外すな」
 『それ』は少年に銃を握らせていた。そして狙いは少年の母親……
「頭に狙いを定めてやれ。苦しむ暇のないようにな」
「あ……ぁぁぁ……」
 少年が震える。そして『それ』は少年の指の上から引き金を引いた。
 ドンッ
 重い音がした瞬間、女の頭が吹き飛んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 空馬が叫び声を開けてはね起きた。
「…………どうしたの空馬くん……」
 奈美が寝ぼけ眼で起きる。
「なんでもないよ……」
「そう……」
 またポテンと奈美が寝転がって眠りにつく。
「昨日の続きか……
 俺の手には未だにあの感触が母さんを撃ち殺した時の手が……」
 ギリッと空馬は苦々しく呟いた。

 そして翌朝、みんなが朝食の為に下に降りたが、安久津だけが姿を現さなかった。
「おい、まさか……」
 月森が明らかに動揺していた。
 そんなはずはない……あの人が犯人のはずだ……
 空馬の考えをよそにみんな安久津の部屋へと向かった。
「おい! 安久津いるのか? 返事しろ!」
 戸川が乱暴にドアを叩くが反応はない。
「鍵がしまっている様ね……ドアを破るしかない様ね……」
 戸川、月森、山崎がドアに体当たりする。数度体当たりしてドアを破るが……
 ガギッと鈍い音をたてて扉が開ききらず止まる。
「チェーンまでしているの!?」
 山崎が悲痛に叫ぶ。
 再び三人はドアに体当たりしてチェーンを吹き飛ばす。
 部屋の中央で安久津は倒れていた。
 率先して空馬が頚動脈に指を当てたが……
「死んでるよ……」
 それだけ呟いた。
「空馬くん……」
 奈美が不安そうに呟く……
「分かってる……」
 どういうことだ……彼が犯人じゃないのか……それとも自殺か? 
「おい……またメモを持っているぞ」
 月森が安久津の右手を指差す。それを聞いて空馬は慌ててメモを奪い取る。
『女神は天を落とし終末を迎える』
 本当に短くただそれだけであった。
「終末か……次の殺人で最後らしいな……」
 ちっ、自殺じゃなかったのか……俺の推理は外れていたのか……
「でも、今までと違って外傷がまったく見当たらないわね……」
 西山が鋭く指摘する。
「そういえば確かに……あのメモを信用するなら毒物で死んだと言うことになるけど……」
 月森がはっとした様に言う。
「今頃気付くなよ……死因はこれだよ……」
 空馬は安久津がメモを持っていた手の平を見せた。手の平の中央に小さな赤の点のような凝固した血がついていた。
「多分ここを刺されたんだろうね。それにしても今までの殺人とはまったく形式が違うのは気になる……」
「バカね……それよりももっと重要な事があるでし?」
 西山が考え込みながら呟く……
「ああ、完全な密室と言うことだよな……チェーンまでつけて、窓も閉まっている。
 まゆなさんの時とは違う。完全な密室だな」
 ダンッ! いきなり大きな音が響く。見ると山崎が壁を叩いていた。そのまま何も言わず部屋を出て行った。
「多分悔しいんだろ……立て続けに死人の山が出てるし、組織のことについても何の足取りはつかめてないからな……」
 月森が空馬に聞こえる様に言う。
「お前はトリックは分かっているのか?」
 月森が珍しく空馬に聞く。
「なんとなくは……だけど一度洗い直しだな」
「よし、俺も付き合う」
「は!?」
 月森の突然の言葉に空馬は驚く。
「あんな山崎警部を見ているとな……」
「もしかして……おまえ……」
 空馬の言葉に軽く咳払いして、
「とにかくどこから調べるんだ?」
 月森は空馬の背中を押し手部屋の外へと出した。
 空馬は食堂へと向かった。奈美も月森も一緒である。
「ここから始まったのよね」
「ああ、そうだな……第一との殺人は分かったんだが、第三は阿久津さんが死んでから考えたんだけど……」
 首なしの死体にかけられたシーツをめくる。
 月森と奈美は顔をそむける。空馬はその死体をまじまじと見つめる……
「やっぱりな……死体を動かした跡がある。
 と言うことはあれは誰でもできたと言うことだな……」
 そして空馬は浅倉が吊るされていた部屋へ行き、
「床に奇妙な後は無いか調べてくれ」
「なんでそんなことを……」
「浅倉さんは天井近く吊るされていたんだ。もし槍を刺そうとすれば天井が邪魔して刺せない。と、すれば吊り上げる前に槍を刺したと考えるのが当然なんだけど、いくら痩せていても男。五キロの槍二本、合計十キロの重さも加わっていることになる。
 それを吊り上げるには安久津さんか戸川さんぐらいの体重がいるんだけど……」
「あ、だから阿久津さんを犯人だと思ったのね」
「それだけじゃないけどな……まあそういうことだ。阿久津さんが殺された今、他の方法を考えたんだけど……その証拠を掴む為にここを調べる必要がある」
 理由に納得した月森と奈美ははいつ配って色々調べていた。そして空馬は椅子やテーブルを調べていた。
 空馬は染みのついた椅子を見つけ当てた。
「ん? この椅子か……ふき取ったあるな……」
「おい、空馬これのことか?」
 月森が指差す。そこには二つ小さな穴が開いていた。
「ああ、これだ。多分浅倉さんを槍で突き刺した跡だろうな……」
「それはどう言う……」
「俺が阿久津さんを疑ったのはあの人の力なら槍を貫通することは出来ると思ったからなんだ。
 さすがに俺もこんなやり方で刺したり吊るしたりするとは思わなかったからな……」
 月森は勝手に納得している空馬を指差しながら奈美を見るが、奈美は肩をすくめ首を左右に振った。
 空馬は腕をまくるような仕草をして、
「さてと、次は阿久津さんの部屋だ……気合入れないとな……
 何せサッパリトリックが分からないんだからな……」
 鍵が壊れた扉を開ける。安久津さんは布団をかぶせられ、それ以外は普通の部屋と何ら変わりなかった。
「一番不思議なのは……今までやたらと仰々しい死に方が多い中、安久津さんだけが何にもないんだよな。
 犯人のミスだよな……みんなに恐怖感を植え付ける為にあんなことををしたかったんだろうけど……」
「ふむ……何か理由があると言うことか……」
 月村が腕組みをしながら考え込む。
「しかし、このドアどうするの? やっぱり誰かが弁償するのかな……」
 奈美がとぼけた事を言う……
「…………頼む奈美……真面目に考えてくれ」
 空馬が両肩をつかみながらうなだれる。
「空馬くんが分からないのに、あたしが分かると思う?」
「確かにそうだな……俺が悪かった」
 空馬は素直に頭を下げた。
「そう素直に謝れると腹が立つわねー」
 奈美が半目で睨む。
「とにかく……何でもいいから気がついたこと言ってくれればいい……それが鍵になる場合があるからな……」
「気がついたことと言われてもねー。
 あれ、ドアを壊した衝撃で外れちゃったのかしら?」
「何がだ?」
「ほらここにあるものがないでしょ?」
「ドアを壊した衝撃で外れるものじゃないだろ……」
「そうよねー、最初からついてなかったのかな?」
「まあ、そんなところだろ……」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! わからねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 いきなり月森が切れた。
「考えすぎてショートしやがったか……」
 頭をかきむしっている月森に呆れている。
「しなかったと言うことは出来なかったと言うことだろ……で、なんで出来なかったと言うことはしたくても出来なかったからで、だからしなかったからと言うことは出来なかったから――」
 どうやら無限ループにはまりつつあるらしい。
「ふー、何やってんだか……」
 空馬が頭を押さえる。
「ちょっと待て! まさか!」
 空馬がいきなり布団をはがし、安久津の右手を見た。そして今度は奈美の方を見た。いや、奈美の方ではなく――
 なるほどそういうことか!
 空馬はにやりと笑った。
「まてよ……なるほど。全ての殺人はこれを隠すためのカモフラージュって訳か……
 サンキュ、月森。お前のおかげだ」
「お、おう……」
 空馬から礼を言われ思わず言いよどむ。
「こんなとこにいたか……昼飯が出来たから早く来いよ」
 いつのまにか戸川がドアの入り口に立っていた。
「もうそんな時間か……」
 月森と奈美に続いて部屋を出様とした時、
「飯食った後、俺の部屋に来い」
 戸川は空馬の顔を見ずに言った。

 昼食の後、空馬は戸川の部屋にいた。
「それで話と言うのは?」
「ああ、お前が前に久賀仁椎子の殺人を解決しただろ」
「ええ、あの電卓がダイイングメッセージの奴ですね」
「そうだ。お前に話そうかどうか迷ったが……そいつは組織の関係者だったらしい」
「なんですって!?」
「まあ、麻薬を売ったりとバイトのように考えていたらしいがな。
 だが、組織の正体を知り、抜け出そうと考えたせいで報復を受けた」
「報復?」
「ああ、自分が麻薬をうけ幻覚症状や性格が豹変すると言った副作用が生じたらしいな。それが……」
「あの事件を引き起こした真相と言うわけですか」
「そうだ。工藤隆志の事件と久賀仁椎子の事件の時に嬢ちゃんはおまえの傍らにいて何かしら手伝っていた。それでカーリィも助手だと思い込んだんだろう」
「しかし……よくそこまで分かりましたね……」
「ああ、お前『ミン』を知っているか?」
 『ミン』か……まさかな……
「いいえ……その『ミン』というのは?」
「今の情報はほとんど『ミン』からのものだ。
 年齢も性別も本名もわからんが、情報網はとてつもなく広い。
 一体どこから情報を調達してくるのかはまったく不明と謎だらけの人物だが、俺の上司からかなり信用されていてな……それに上層部にも顔が効くらしい」
 そう言って戸川はニヤリと笑った。
「なぜそんなことまで俺に……まさか!」
 元々戸川は事件のことは話しても警察内部までのことは決して話すタイプではない。と、なれば考えられることは一つ。
「そうだ。今度は俺の番らしい……」
 戸川は死神のカードを取りだした。
「後は頼むぞ……」
 そう言って戸川背を向けた。

 今度は戸川さんか……
『女神は天を落とし終末を迎える』
 今までカードの予告通りだったな……後付けかも知れないけどな。天を落とす……か……
「後を任せと言われてもな……肝心の犯人は……いや、犯人は検討ついてるな……
 始まりは全て奈美の姉の死から始まっていたんだからな!」

 陽が暮れ、夕食の時間はまさしく最後の晩餐のようだった。誰も一言も話さず、空馬は時折戸川を見つめるが、いつもの仏頂面であったが、空馬はある種の覚悟を決めた顔つきに見えていた。
「やっと明日帰れるのね」
 夕食を終えた後、自室に戻り奈美は大きく安堵の息をついた。
「そーだな……」
 空馬はベッドで横になりながら気のない返事をした。
 天が落ちる……か……
「待てよ……もしかしたら……」
 空馬は置きあがり部屋を出て行った。

 戸川の部屋の扉を叩いた。
「戸川さん、まだ生きてます?」
「お前な……」
 戸川は呆れながら扉を開けた。
「お前……それ……」
 戸川は空馬の大荷物を見て絶句していた。

 少年が恐怖で固まる……
「あ・あ・あぁぁぁぁぁ」
 母親の死を目の当たりにしてうめくしかなかった。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ガリッと『それ』の腕を引っ掻く。
「ぐあ!」
 その腕の痛みに『それ』がうめく。手が緩んだ隙に少年は逃げ出す。
「貴様よくもやってくれたな……」
 少年はその声を背中に受け逃げた。どこまでも続く闇の中を……父親の腕に抱かれるまで……

 ドオォォォォォォ!!

 不意に大きな音がする。その音にみんな飛び起きたのか廊下に飛び出していた。そしてその中にいないのはもちろん……
「戸川さん!」
 空馬は戸川の部屋へ向かった。ドアを叩くが返事はない。
「くっ、鍵が閉まってる」
 空馬がドアに体当たりするが開かない。
「何事ですか?」
 澤田香澄が遅れて現れる。
「私達も手伝うわ! 月森くん!」
 山崎が月森を促がす。
「はい!」
 この部屋にいるであろう戸川の変わりに空馬がそして月森、山崎がドアを体当たりする。
 ガァァアンと大きな音と共に扉が壊れる。
 そこで空馬達が見たのはベッドの天蓋が落下して、そのままベッドごとつぶされた光景であった。わずかに天蓋を逃れた手がだらしなく落ち、ベッドは紅く紅く染まっていた。
 天蓋は軽く数百キロあり、とてもではないがひとの手では持ちあげるのは不可能であろろう。
「戸川さん……」
 月森はただうなだれるしかなかった。
「これが……カーリィ……のやり方……」
 西山は震えた声で呟く……
「空馬くん……」
 泣きつく奈美をただ抱き締めるしかなかった。
 カーリィの予告した殺人は全て完成した瞬間であった。
 そしてその翌朝、陽が昇る少し前に警察が全員を保護しに来た。
 空馬は軽く取調べを受けた後開放された。MINのことを聞いたが結局分からずじまいであった。

 そして空馬は砂浜に座り込み、胸ポケットのガムを口に入れた。空馬は人の気配を真後ろにうける。
「やっぱりあなただったんですね。戸川さんが殺された後あなたの部屋に扉の下からここの場所と『カーリィへ』を記したメモを滑り込ませましたからね」
 空馬は振り返りもせず続ける。
「俺が説明してやろうか?
 このゲームの全てを!
 どうだ? カーリィいや――」
 空馬がその名を呼んだ時、ゴリッと空馬の頭に硬いものがあたる感触がする。
 黒い鋼鉄が、人を傷つけ、殺す為だけに存在価値をなす『拳銃』が空馬の頭に押し付けられていた。

今回の鍵は八つ
このゲームの真の理由
第一の殺人の真相
まゆなが部屋へ招き入れた理由
ビデオのトリック
浅倉昇を吊り上げた方法
密室トリックの謎
殺した人間にメモを持たせた理由
そして――カーリィの正体




あとがき
前編と同じぐらいの長さになってしまいました。今回の謎多すぎ……掲示板がえらいことになりそうだ……
まあ、密室のトリックとカーリィの正体が分かれば及第点です。残りは、ああと納得してくれれればいいです。


ヒント
密室のトリックとメモを持たせた理由に直結します。つまりこのトリックの為にメモを作ったと言うことです。前編にもこれに関するヒントが書かれています。
カーリィの正体は工藤隆志の死を考えれば分かります。




 感想BBS




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