Detective Player --- 最終話 カーリィ 解決編--- 作:木村征人 |
拳銃の銃口を押しつけられ、一瞬ドキリとするがすぐに撃つ気はないらしく安堵の息をつく。 くちゃっと、ガムを噛みながら続ける。 「どうして分かったの?」 女性の声が響く。 「工藤隆志が殺されたことを考えれば想像がつく。 工藤隆志は警察に捕まっている間に殺したんだろ? 刑罰が決まるまで留置所で拘束されていたと考えれば……」 「なるほどね……殺したのはさすがにまずかったようね」 カーリィが感心した様にうなずく。 「留置所は犯罪者を捕らえるところだが、逆を言えば日本で一番安全な場所だ。その場所に怪しまれずに入れる人間は……警察関係者しかいないんですよ。 だが、あの場にいた戸川さんや月森は、俺のことをよく知っている。奈美が俺の助手なんて言い方はしないはずだ。だとすればあなたしかいないんですよ。 山崎夏子警部」 そう、この事件の全てはカーリィ、山崎夏子であった。 「それで私の目的はわかったのかしら……」 そう言って髪を揺らす。 「俺なりに考えついたのはこの二つ。 一つ目は俺達に語り部にしたかったんだろ。死体に紙を握らせた見立て殺人は、組織はいつでも殺せると言う暗示をかける為。 西山さんは組織に恐怖をしたからそれで気付いたよ。 下手に全員殺すよりも、新たに組織を調べようとする奴を、ひきとめる役を演じさせる。自分に再び組織の刃が伸びるのを恐れてな。 二つ目は警察とMINの介入を避ける為」 「……私も出来ればやりたくなかったんだけどね、MINとか言う奴が余計な手出しをしなければね」 「確かに組織はほとんど公にされていない。しかしとんでもない情報力を持つMINがいつ公表するか分からない。もしそうなれば警察も動かざる負えないだろう。 だからこそ組織の力を見せ付ける為にこんなことを思いついた。MINも公表すれば命はないぞと言うメッセージを込めたんだろ。MINの情報力を逆に利用してな。おそらくMINの耳にもこの事件の事は届くだろうね。 そして、警察の連中は戸川さんほどの人間も簡単に殺せる組織なんかに関わりたくないと思うだろう。誰も命をかけてもまで職務を全うするなんていないからな。 例え無能と呼ばれてもあんた以外、組織の捜査をする奴はいないだろうね。組織に属する人間と気付かないままね」 夏子はフゥと溜息を着く。 「よくそこまで分かるわね……恐れ入ったわ……あなたを先に殺すべきだったわね」 その言葉に空馬は動揺を見せる。銃口がいつ火を吹くか分からない。そのプレッシャーと必死に戦っていた。 心臓の鼓動が自分でも分かるほど早く脈打つ、『落ちつけ』と自分言い聞かせる……所詮無駄なあがきと悟り、声が震えない様に注意しながらゆっくりと口を開く。 「あんたには負けるよ……、計算され尽くした殺人を成功させてきたんだからな」 「なるほどね……私の仕掛けたトリックも分かっているのね」 「ああ、第二の殺人である高梨まゆなさんの事から話そうか……一人目が殺された後、俺達の軽いプロフィールを話しを流したのもトリックのうちだろ?」 夏子はなにも言わない。空馬は更に続ける。 「まゆなさんは死神のカードをもらって怯えていた。誰かに頼りたかった。だが、俺や奈美だと守れる保証はない。 だからといって誰がカーリィか分からない。だが、組織に敵対する人間や警察なら関係している人間ならと考えたんだろな…… そんな時にお前がまゆなの前に現れた。おそらく、犯人が捕まったとか、保護しに来たとか言ったんだろう。そう言えば確実にまゆなさんは確実にあんたに頼る……あんたも殺しに来たとは思いもよらなかっただろうね」 カーリィが薄く笑う。 「さすがね……でも、三つ目の殺人、浅倉昇は私には不可能じゃないかしら。私には彼を巨大なやりで突き刺す事は不可能なはずよ」 まるでクイズを出すように軽快に話す。それを死の恐怖と戦いながら答える、空馬。 遊んでいるのだ、山崎夏子、いやカーリィは。 絶対的な勝利を確信し、空馬の推理が少しでも外れるものなら、殺すつもりなのだ。 ここからが本番だな………… 空馬は息を整えて口を開く。 「第三の殺人は、第一の殺人に直接関係している。 浅倉昇さんはオレンジジュースを飲みに行こうとした所を、待ち伏せされたあんたに殺された」 「へぇ、でもどうしてオレンジジュースだと分かったの?」 「朝倉さんが殺された後、浅倉さんが見たビデオを見て分かったよ。 『一九五六年、アメリカで上映された映画に、ポップコーンとコカ・コーラという二つの瞬間的な文字情報を挿入してあったので、映画館ではポップコーンと売上げが増加したといわれている。観客はこの映画を見て、知らず知らずのうちにポップコーンやコカ・コーラが飲みたくなったのだ。このような事象をサブリミナル広告といい、現在ではテレビCMに使うことを禁止されている』だったか?」 「へぇ、物知りね」 「あの時、俺達に映画を見させた時、浅倉さんのだけサブミリナル映像を流したんだろ? 映像の合間にオレンジジュースの絵柄が写っていたよ」 「そうよ……でも、その後はどうするの?」 「第一の殺人は……彼の性格を利用したんだろ?」 空馬がいきなり話しを変えたのを以外な顔をしたが、空馬が第一と第三の殺人が直接関係しているという言葉を思い出し、そのまま聞き流す。 「あいつの傲慢な性格、一番にならない気が済まない性格を利用したんだろう。あいつが上座に座るということは初めから分かっていたんだろうな。現に俺が座ろうとしたら強引に俺をどけさせたからな」 「そうよ、それがどうかしたの?」 「あの男を食堂で殺したのは。その男の死体を運ぶ手間を省く為、だろ?」 「どういうことかしら?」 「あのやりは例えあんた一人、女の体重をかけて指し込んだとしても、貫通することができない。協力者が必要だ」 「へぇ、その協力者というのは?」 「第一の殺人で殺された男さ。あいつの体重を付け足せば優に百キロは超える。背負っても良いし、ロープで自分と一緒にくくりつけてもいい。 どれでやったか分からんが、それを使えばやりを貫通させる事も、吊るし上げる事も可能だ」 その答えに簡単の息を漏らす。 カーリィはいわば芸術家である。殺しを専門とする歪んだ芸術家。それを理解出来るものは少数。しかし、空馬は違った。 的確な推理で自分の芸術を理解している。カーリィはその共感者を得た事に打ち震えていた。 もっとも、空馬自身はそのことに気付くはずもないが。 「さすがね、そのとおりよ。なかなか面白い演出だと思ったけどあっさり見破られたわね」 「そうでもないさ。組織と敵対している点でまゆなさんが頼れる人物、朝倉さんを吊るせる体格の良さからして阿久津さんが犯人と勘違いしていたからね」 「そうなの? だったら殺さない方が良かったかしら……」 「ああ、確かにな……もし殺されてなかったらあんたが犯人とは思わなかっただろうね」 「なるほどね、それは計算外だったわ……さすがに私も心の中までは読めないからね」 「そして、第四の殺人。安久津幹夫の密室殺人……」 「へぇ、あれも解けたの。あれは結構自信あったのにね」 「自信か……確かにな……よくもあれだけ凝ったものを作ったと感心するよ」 「へー、あなたに誉めてもらえるなんて光栄ね」 「今までで一番厄介な密室なのは確かだね。 まあ、密室と言うのはふさわしくないかもな」 「どういう事かしら?」 「あの部屋は完全な密室じゃなかった。ドアの覗き穴にはレンズが入っていなかったからね」 「それで?」 「阿久津さんは結構あれで注意深い人だからな、当然チェーンもしていた。だけどあなたはそれを逆手に取ったんだ」 「………………」 「ドアをノックして、阿久津さんの注意をドアにひきつける。その次にレンズのない覗き穴に紙を筒状にして差し込む。 今までの殺人は部屋の外だったり、招き入れたりだったから油断も生まれる。 そして、阿久津さんはなんの躊躇もなく紙を取ろうとした瞬間、あんたは筒状の紙に毒針を忍ばせ、紙を抜き取ろうとする瞬間、筒の間から毒針を差し込んだ。 手の平の刺された後はその時に出来たんだろうな。安久津さんが紙を握り締めたままなのも計算に入れていたんだろうな。もし、安久津さんだけが紙を握り締めていたらこのトリックがばれるかも知れない。だからこそ、今までの死体に紙を持たせそれを覆い隠した。いかにも見立て殺人だけが目的の様に見せかけてね。 どうだ?」 空馬がまたくちゃりとガムを噛んだ。 「ふっ、あははははははは。そうよ、ご名答。たいした名探偵だわ。あなたを見くびりすぎたようね」 「俺を先に殺さなかったのはあなたのミスだな」 「そうね、でもそのミスはすぐに修正されるわ」 カーリィが拳銃に力をこめる。 「そうかな? もう一つミスがあるぜ」 「空馬くん!」 「坊主!」 二人がいる砂浜に向かって、奈美、そして戸川が姿を現した。 「ばかな! なぜ生きている」 驚愕している夏子を横目で見て空馬は薄く笑う。 「天というのは天蓋の事だとまゆなさんの時に分かっていたからね。だったら、それなりに対処法はあるさ」 「そ、それじゃああの死体は……」 「まったくお前と言う奴は安久津の死体を持ってきた時には驚いたぞ」 「阿久津さんぐらいしか戸川さんと同じ体格がいなかったからね」 戸川の言葉に頭を書きながら答える。 「ど、どういう事なの? 死んだと思っていた戸川が生きていて、それで十五分後に来いて言われて。それで山崎夏子警部が空馬くんの頭に鉄砲を押し付けて」 奈美は訳がわからず、混乱するしかなかった。 「まさか、署内の人間が犯人とはな……」 戸川が唸る。 「山崎警部、坊主を解放してもらおう!」 戸川の言葉に夏子は笑みを浮かべ、、空馬を立たせて腕で少し首をしめながらこめかみに銃を押し当てた。 「それは駄目ね……犯人の男が逆上して、戸川警部と女の子を銃で撃ち殺す。そして、私はやむなく少年を銃殺。良いシナリオと思わない?」 「なに!?」 夏子の言葉に三人が驚愕する。 「あなたもミスしたのよ、探偵くん。ここに二人を呼んだのはね。戸川警部に捕まえさせようと思ったらしいけど、私は銃の扱いになれているのよ。 二人の心臓を瞬時に撃ち抜く事など造作もないわ」 「くっ……」 夏子の言葉に空馬はうめく。空馬のこめかみに更に強く銃口を押しつける。 その時、夏子の裾が少しずれて奇妙なミミズを辿ったような傷を除かせる。 「…………その傷はなんだ……?」 空馬の場違いな言葉に夏子は一瞬、怪訝な顔をするが、 「これね……昔、憎たらしいガキにつけられた傷よ……いつまで経っても消えないのよ……まったくいまいましいわ……」 空馬の記憶にもそれに傷をつけた記憶がある。それは母の仇である人間……その女の姿を鮮明にフラッシュバックさせた。 「貴様が! 貴様がおふくろを!」 空馬の叫びに夏子は驚くが、すぐにその意味を悟り。 「そうか! 貴様があの時のガキなのね」 空馬のこめかみに向けて引き金をひこうとするが、空馬は銃口をつかみ上に押し上げた。両手で引き金にかかる指を必死に防ぎながら銃を奪い取ろうとするが、 「舐めるなクソガキが!」 夏子が空馬を投げつける。 空馬は背中をしたたか打ちつけてうめく。 「感動の再会と言う事かしら……そして母が死んだ銃で、息子もまた死ぬ。出来すぎてるわね」 空馬は立ち上がって背を向けて逃げようとする。 「愚かね……」 銃口は空馬の頭を狙い、そして…… ガァン 「ギィヤァァァァァァァァァァァァァァ」 叫び声が砂浜に響き渡る。 「私の、私の手がぁ!」 砕けた手を抑えながら、悶える。暴発した銃が夏子の手もろとも粉砕したのだ。 「なぜ! なぜ銃が!? 貴様のせいか!? 貴様は何をしたんだ」 空馬はぐっしょりと濡れた汗をぬぐった。 「は、はは。まさかうまくいくとは思わなかったけどな。 口から吐き出して、銃口を上に押し上げた時にガムで銃口をふさいだ。もしかしたらと思ったけどな。ここまでうまくいくとはな」 「ガムだと……そんなもので私の銃を……」 茫然とする夏子を見て、戸川は笑みを浮かべ、 「どうやら坊主の方が一枚上手の様だったな。殺人容疑で逮捕させてもらう。それに組織の事で色々と聞かんと行かんしな」 戸川が手錠を取り出す。 「誰が! 逮捕などされるものか!」 夏子がもう片方の手で新たな銃を取りだした。 「探偵くん、本当に母親の仇を打ちたければ組織に来なさい。私のボスが命令したんだからね。ここにいるか、組織に行くかは自由だけど。 ここにいても組織はあなたを付け狙うわ。死ぬまでね。 ふふふふ、私は先に地獄へ行っているわ。待ってるわよ。 あはははははははははははは――」 夏子は大声で笑いながら自分の頭を銃で撃ち抜いた。 「空馬くん――!」 心配そうに覗きこむ奈美を空馬は無言で抱き締めた。奈美はそのまま何も言わずぎゅっと抱き締め返した。 数日後、空馬はかばんに荷物を詰め込んでいた。 「ここで待っても同じなら、俺が行ってやるよ!」 安久津からもらった組織に敵対する団体に連絡をいれた。団体は空馬を受け入れ、すぐにでも来いと行っていた。 カーリィを倒した人物としてすでに知られているらしい。そして組織もおそらく知っているだろう。 「よし。あ、これはもういらないな」 空馬はテーブルの上に眼鏡を置いた。 自分が団体に入るのは恨みなのか、それとも違う何かなのかはわからない。だが、レンズごしに真実を見ることではなく、はっきりと自分の目で見ていく決心はついた。 そして、自分をもっと知るために。 空馬はドアを開け、ふとこちらを見つめ、 「それでは、行って来ます!」 そう言って、ドアを閉めた。 主を失った部屋には、テーブルの中央に置かれた眼鏡が、陽の光を受け、うっすらと影がかたどっていた。 終 |
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