ひびきの高校史上最大の受難 ACT3 
                                    作:木村征人



この創作小説は『ときめきメモリアル2』(コナミ)の世界及びキャラクターを使用しています。



 人災とは時と場合によっては天災よりもとてつもなくタチが悪かったりする。
 そう、今回なんかとくに……
 
        
 
 ひびきの高校生徒会室で必死で仕事をこなしている女の子がいた。
 炎のような赤い髪が腰の下まで伸びており、男にしか見えないような体型をしているが間違いなく女の子。背もそれほど高くなくつい最近も小学生と間違われたこともあったらしい。ちなみにその間違えた人物は蹴り飛ばされ病院に入院している。
 生徒会長を勤める彼女にとって、生徒会の学務を勤めるのもまた当然だろう。ただ、赤井ほむらという彼女を知らない人間にとってはだが……
「あの……会長?」
 周りで恐がっている連中を代表して少しびくつきながら声をかける女生徒がいた。
 綺麗な髪と整った顔立ちとは裏腹にいつもメガネの奥に潜む怪しい瞳で睨みつけ、『校則破るやつに明日は無い!』をモットーにしている橘吹雪は今、その光景に恐れおのののいていた。
「はい、なんですか? 橘さん」
 額に浮かぶ汗をぬぐいながら答えた。その汗はまさしく一生懸命に仕事をこなしたものが流せる輝きを持った汗であった。
「………………」
 その光景をじっと見詰めていた吹雪の中でなにかが弾けた。
「いひやぁぁぁぁぁぁぁ、うそよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 いきなり奇声を上げた。
「あの……橘さん?」
 その変貌をびくつきながら眺めていた桜木和馬が声をかけた。
 他の生徒会員はほむら、吹雪の変貌にただただおびえているだけだった。
「うべろみべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 吹雪はさらに長い髪を振り乱しながら狼狽していった。
「いやだから……」
「のびろぎれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 
 ごめしっ!
 
 和馬のコブシが吹雪のこめかみへピンポイントに突き刺さった。
 
「えーっと、その装置が……」
 殴られたダメージからあっさり立ち直った吹雪は一応平静を取り戻した。ちなみにこめかみにバンソウコウが貼られていた。
「つまりその性転換装置が……」
「ちがう! 性格転換装置です!」
 訂正、完全に平静は取り戻していないらしい。
「その性格転換装置で会長の性格が正反対になったらしいと?」
「そういうことです」
「何でわかったんだ?」
 近くにいた生徒会役員の一人が素朴な疑問を尋ねる。
「いや……光がいきなり『何で勝手に引っ越しちゃうのよぉぉぉぉぉぉ。引っ越した後、どれだけ根に持ってたのか分かる? 分かるわけないわよねぇぇぇぇぇぇぇぇ!』って首しめられた。たぶん、光もその装置にやられたらしいな」
「…………」
 全員押し黙る。少なくともみんなは陽ノ下光というのは明るく優しい女の子ということは知っている。
「その後匠に聞いたところ学校中は今その装置のせいで被害が広がりつつあるって……」
「それでいま陽ノ下さんは?」
「なんか茶道部の畳の目を数えてる……」
 和馬はため息を一つついた。
「ま、とにかく今のところそれほど実害は無いようですし……」
 そう言う吹雪にうながされて全員ほむらを見つめる。
 ほむらは少しおびえたような素振りを見せ、いきなりウルウルと涙を浮かべながら、
「……お願い……いじめないで……」
 そう、つぶやいた。
『うるぐぅぉぉぉぉ』
 それを聞いた全員身もだえする。中には体中かきむしっているものもいる。
 
 ふらつきながらも和馬と吹雪は強靭な精神力でなんとか持ちこたえた。
「た……多大なる精神的脅威はあるものの、それほど実害は無いと思う、多分……」
「そうですね、生徒会の仕事もはかどりそうですし……」
「だ、だけどそういうわけにはいかないんや……」
 いきなりくそ怪しい関西弁をが聞こえた。
 吹雪と和馬はその声のした方向へ振り向くと、生徒会の扉の前に自称関西出身の西村靖宣が立っていた。立ち聞きしていたのだろう、フラフラになっていた。
「どういうことだ?」
「実は八重花桜梨がいきなりとげバットを持って復讐する為に出ていったんや」
「とげバット?」
 『とげバット』というにはバラの茎のようにハリが出てたり、くぎを打ち込まれたバットのことである。
「追いかけて行った奴がそう言ってたんやけど、あいつはえろう(無茶苦茶)頼りなから多分止められないやろうね。もし殺傷事件なんて起こしたりすると確実にひびきの高校の責任になるやろうね」
「…………………………まずい! まずいわ! そんなことが起きれば…………ああ! 私の完璧な人生設計がぁぁぁぁぁぁぁ……それとひびきの高校が!」
 多分に私情が入っているが一応ひびきの高校のことを案じているらしい。
「それでどうしたらいいんだ?」
「多分……その装置をなんとかすればみんな元に戻ると思うんやけど……」
 西原があごをなでながら答える。
「うーん、その装置を作った奴を探さないといけないんだな……
 でも一体誰が……?」
「なに言ってるの、こんなタチが悪いものを作る人は一人しかいないじゃない!」
「あ! そう言えばあいつしかいないね」
 そう言って三人は生徒会から飛び出して行った。
 ちなみに他の生徒会のメンバーはまだもだえていた。そして、ほむらは……
「はー、生徒会の仕事ってとっても楽しいわ」
 
「いたぞ!」
 三人が目線の先には短髪、小身長、軽体重、ほむらに負けず劣らずの幼児体型、そして犬猿のなかの伊集院メイを見つけた。メイは奇妙な飾りに彩られた鏡を持っていた。
「伊集院さん、みんなを元に戻しなさい! あ、会長はそのままでいいから」
「橘さん!」
 西原と和馬が吹雪をにらむ。
「失礼……はあ、みんな元に戻しなさい」
 咳払いを一つつき、少々自嘲気味に言った。
「いやなこったなのだ!」
 吹雪の言葉にそっぽを向いた。
「ちっ、こうなったら力ずくで!」
 和馬がにじり寄ったとき、
「どうしたんですか?」
 メイの背後にいつも奇妙な髪型をしている白雪が現れた。
「チャーンス、なのだ!」
 メイが鏡を白雪に向けた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 白雪が倒れると、脱兎のごとくメイは逃げた。
「大丈夫? 白雪さん」
 西原は白雪を抱き起こした。
「ええ、大丈夫です。それではごきげんよう」
 いつもと変わらない物腰で歩いて行った。
「え? は、はあ……」
「白雪さんには効かったのかしら?」
「さあ?」
 吹雪と西原は首をひねった。
「おーい! メイを見かけなかったか?」
 廊下の角から上杉祐次が姿を現れた。
「ああ、いたんやけど逃げられてもうた」
 西原は首を振って答えた。
「にげられた? やっぱり例の奴でおまえらも探してたのか……」
「そういうおまえも?」
「ああ、はっきり言ってほっとける状態じゃないからな」
「一体なんでこんなえらい(大変な)ことに?」
「なんかどっかの高校から実験の為に人格を全く逆にする鏡をもらったらしい……」
「なるほどね」
 メイが白雪に向けた鏡、おそらくあれがそうだろう。
「鏡を割れればみんな元に戻ると思うが……」
 上杉は最後にそう一言付け足した。
 
「そこのおじょ―さぁぁぁぁぁぁぁん! 僕とお茶しませんかぁぁぁぁぁぁ」
 廊下に大声が響かせ、こちらに走ってきた。
「なあ、あれってもしかして……」
「ああ、純やな」
 穂刈純一郎はいつもキリッとした表情ではなく、にやけた顔になっていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 吹雪を一昔前のナンパ師みたいな口調で、口説いていた。
「どう? 茶でも……他にも色々と!」
「おい純!」
 上杉が純の肩をつかむと、
「フンッ!」
 
 どばきっ
 
 上杉は竹刀で吹っ飛ばされた。
「大丈夫か?」
「い、痛い……」
 上杉はそのまま昏倒し、
「後はお願いねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 吹雪は純からダッシュで逃げ出した。
「お嬢さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、待ってぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 さらに後を追う純。
「うー、どうする西原?」
「しゃあないな、俺達だけで探すか……」
「あの……和馬くん……」
 和馬の背後にやたらともじもじした、女生徒……いや女生徒の制服をきた坂城匠が和馬に近づいた。
「お、おい。おまえもまさか……」
「お願い、私とお付き合いして頂けませんか?」
 フルフルと体を振るわせながら和馬に近づく。
「どひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 和馬も吹雪同様、ダッシュで逃げる。
「あああ、おまちになってぇぇぇぇ」
 匠はハンカチをくわえながら涙を流し追いかける。
「はー、結局俺一人で探さなあかんのか(探さないといけないのか)……」
 西原は頭を抱えた。
 不意に後ろから聞きなれない言語が聞こえる。
「この声は水無月さん?」
 ズシャ
 振り向いた瞬間西原はこけた。
 黒いコートに上着、そして真っ黒なサングラスのいでたちのいわゆる『マトリックス』ファッションの水無月琴子がいた。
「……………………」(英語)
「お、思いっきり他の文化(?)に感化されてやがる」
「……………………」(多分スリランカ語)
「性格が変わったせいでここまで変わるか? 普通」
「……………………」(多分ジャマイカ語)
 メイの居場所を聞こうと思ったが何を話しているのか分からなかった。
「それじゃあ、もう行くから……と、そうだ水無月さん。こういうのもってない?」
「……………………」(多分ポルトガル語)
 
 メイを探してグラウンド……
「ったく、どこに行ったんや?」
「おらー、そんなことで甲子園に行けると思っているのか!」
 
 ぼぎん!
 
 エラーした野球部を金属バッドで辺りに響くほどどつきまわしているのマネージャーはまさしく……八重花桜梨の友達である、K.Sであった。
「……………………見なかったことにしよう…………」
 西原が去った後、名称不詳の野球部のマネージャーは、
「このやろ、トンネルなんかしやがって、死ね! 死ね!」
 
 げしっ! げしっ! げしっ!
 
 動かなくなるまで踏み続けた。
 
「…………寿さん?」
「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」
 地面に『の』の字を書いていた。
 不幸にも負けない、いつもの明るさは無く。ゴキブリ頭の光沢はほとんど無かった。
「く、暗い……待てよ? 性格が反対ということは……いやでも……」
 
 ずごしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
 
「ひぁぁぁぁぁぁ!」
 どこからとも無く突っ込んできたトラックに吹っ飛ばされた。
「あ、やっぱり。性格が正反対も不幸になるのは一緒やな……」
 
 ひゅるるるるるるるるるるるる…………ごしゃ!
 
「ふぎゃ!」
 吹っ飛ばされた寿は体育館の裏へそのまま落下して誰かの頭上に落ちた。
 そこには目を回した寿と……
「ぐるじいのだ、はやぐどぐのだ!」
 メイは寿の下敷きになっていた。
「見つけたで、伊集院!」
 寿の体から這い出ると、
「ふん! なのだ。 これをくらうのだ!」
「させるか!」
 メイが鏡を向けた瞬間、水無月から借りた手鏡を向けた。
「…………」
「効いたんか?」
「へへー、何なりとお申し付け下さい……なのだ……」
 いきなりメイは土下座した。
「なんか、激烈に幸福に満ち溢れるんは何故なんやろう。っとそれより、その鏡を渡せ!」
「へへー、どうぞ。お受け取り下さい……なのだ」
 メイから鏡を受け取り、そして… 地面に鏡を叩きつけて割った。
「はっ、メイはなんてことを……ああ、閣下に怒られるのだ……」
「安心しいや、あれはどのみち失敗策や」
「どういうことなのだ?」
「白雪さんには効かなかったんやからな」
「そんな馬鹿な! 山猿にも八重にも陽ノ下にも効いたのだ。信じられないのだ」
「ま、それはともかく……こいつらをよろしく頼むな……」
 西原が指差した方向には被害にあった人達がメイを睨みつけていた。
「ひ、ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 その日、隣町までメイの叫び声が聞こえたという。
 
「ただいまー」
「あ、おかえりなさーい」
 ひびきの高校から帰宅した白雪の目の前には同じ顔、同じ髪型の女の子が居た。
「あ、姉さん、帰ってたんだ」
「何か変わったことあった?」
「うーん、相変わらず姉さんのところは騒がしいわね」
「はあ?」
 双子の姉は何がなんだかわからないような表情を浮かべた。


あとがき

スレイヤーズの鏡よ鏡がモチーフです。
なんか時代ずれしているようですが、これ書いてる頃マトリックス全盛期でしたので。
外国語書けたらよかったのにね……



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