盗っと勇者 ザ・シーフブレイバー -- 第一話 赤い瞳 -- 作:木村征人 |
昼間照り付けていた太陽もすっかりくれ世界が闇につつまれた頃、昼間でも薄暗い森の中を十歳位の少年が泣きながらたった一人で歩いていた。 「うう、ぐす……ひっく……」 やがて、少年は洞窟の前までたどり着いた。 洞窟というにはあまりにも大きく一軒家なら五、六個は楽に入る大きさだった。 「どうしたんだ、ガキんちょ」 洞窟の中からうっとうしそうな声が聞こえる。 「だれ?」 「お前はどうしてここにいるんだ?」 少年の質問には答えず再び少年に聞いた。 「ひっく、お父さんもお母さんもお姉ちゃんもいなくなったの……」 「なんだ迷子か……どこから来たんだ?」 「多分あっちのほうから」 少年の指差す方向には赤く燃え上がる炎が見える。つまり、少年は何者かにより村が焼かれ運良く逃げ出せたと言うことだろう。 「焼き討ちか……しょうがないな。 僕が近くの町へ連れていってあげるよ」 そして…… 「ここから先は君一人で行くんだ。十分ほど歩けば町に着く。 運がよければ誰かが拾ってくれるだろうね」 「一緒に行ってくれないの?」 「僕の姿を見られるのは少しまずいからね。悪いけど一緒に行けない」 「う、うん。分かった」 「じゃあね」 少年が町の中へ入るのを見送った後、再び洞窟へと帰っていった。 そして、約十年の月日が流れた。 つけられてるな…… 街を出てから、男は気配がずっと後をつけているのは分かっていた。 そのうちあきらめるだろうと思っていたが、どうやらその気はない様だ。 宿場町へ行く途中の山道、道の脇には木が生い茂っており、身を隠しやすいのだが、気配を消す気が無いのか、消し方を知らないのかバキバキと枝を折る音を当てながらついて来ている。 男は小さくため息をつき、気配がする方へ小石を投げた。 「イタッ!」 茂みの中から小さな声が届く。声の高さからして女だろう。 「まったく……ついてきているのは分かっているんだぜ」 「何だ気づいてたの」 茂みの中から残念そうな言い方をしながら女が出てきた。 この二人はおそらく顔なじみなのだろう。 「当たり前だ。気配を消すぐらいしろよ」 「でも、ここまで黙っていてくれたんでしょ?」 いたずらっ子のようにペロッと舌を出しながら少し意地悪く言う。 確かに、旅に出てから半日以上つけているのに気づいていながらほっといていた。すぐに見つけて追い返す事もできたのだが……つまり旅に同乗する事を了解したのも同然であろう。 「まあ、そうだけど……何でついてきたんだ。 これが目的か?」 皮袋をぐるぐる回しながら言う。 もともと旅に出ることになったきっかけは、皮袋に入れている宝石がであった。 そう、それは昨晩の事…… 静かな夜はいきなり崩れ去る。城中にあちこちで光が灯ると共に衛兵の声が聞こえる。武器や火薬の量から言って城というよりも要塞と言ったほうがよいだろう。 この世界では魔法を使える者はほとんどいないのだが、魔力を帯びたの道具――魔道具や魔具と呼ばれている――は広く活用されている。中でも代表的な者は今衛兵達が持っている。光の魔法(ライティング)の力を持ったカンテラである。ランプよりも明るく、油も使わない。町などの街灯にも使用されている。 つまり、実害のない魔道具は一般的に使われているのだ。 それはさておき、 「へっ。ちょろいもんだぜ」 少し目付きの悪い男が窓から半分体を出しながら、指で赤く輝く宝石を真上にはじき再びつかむ。今城中の人間が躍起になって宝石を盗んだこの男を捜しているのだ。つまりこの男はいわゆる盗賊というやつだ。 「さてと、とっととおサラバするか」 城の中庭にはこの騒ぎに目を覚ましたのか、十七、八歳の少女が出歩いていた。綺麗な長髪で物腰がやわらかというかのほほんとしている。起き出したばかりだろう、体のラインがはっきりと分かる薄着をまとっている。ちなみにあまり胸はない。 「なんだかものすごく失礼なことをいわれたような気がしましたけど…… なんの騒ぎなんでしょう?」 未だに状況が把握できないのかきょろきょろとしている。 シュタッ! 「キャッ!」 盗賊が突然上から飛び降りて来たのに驚いて少女は声を上げた。 (しまった、城の侍女に見つかったか!) 暗くて顔ははっきりと見えないが、声と雰囲気で女の子だと盗賊は悟った。 盗賊は誰か呼ばれるかと焦るが少女から意外な言葉を発した。 「ああ、驚いた。あなたは誰?」 普通、こんな姿を見ると大体想像がついてもよさそうなのだが、どこか間が抜けているらしい。 「……………… ええっと、あの俺盗賊なんだけど……」 「まあ!」 少女はおっとりとした感じそういった。あまり驚いている感じはない。 これ以上討論するだけ時間の無駄だと悟り、 「はぁ、あの俺もう行っていい?」 「そうですね、見つかると大変ですから」 盗賊はとっととその場から逃げ出した。 「あんなのでも侍女が勤まるもんだな」 盗賊は逃げながらそんなことをつぶやいた。 「こんなところに居られましたか!」 盗賊がいなくなった後やや遅れて衛兵達が少女のもとに駆け付けた。 「どうかしたのですか?」 「このあたりで怪しい輩を見かけませんでしたか?」 「いえ、見かけませんでしたが……」 「そうですか、では部屋にお戻り下さい。まだ辺りにいないとは限りませんので。部屋までお送りしますよ、姫様」 「わかりました、お願いします」 そういった後、少女いや王女の胸元のペンダントが月の光に反射しキラリと光った。 「ホントによくやるよな、おまえは」 お世辞にも柄がいいとは言えない男がさっき城から宝石を盗んだ盗賊、ライツ=ハーベルトを小馬鹿にした。 今年で十九歳になるライツだが、少し切れ目な瞳と職業柄鋭い顔つきのせいで実際の年齢よりも年上に見られる。申しわけ程度に蒼いバンダナを巻き、ライツは長い間切っていない後ろ髪を竜のひげで束ねている。別にファッションとかではなくただ人に切ってもらうのがメンドくさいだけである。その証拠に自分で切ったせいで並びがバラバラになっている前髪が物語っている。 装備は主に七つ道具(本当はもっとあるのだが)と両腰の短剣。片方の短剣にはちょっとした仕掛けをしている。そして両腕に暗器を持っている。 実はライツには、子供の頃の、九歳より前の記憶が無かった。ここに拾われる所までは記憶しているのだが。だいたい親の顔ぐらいなら覚えていそうなものだが全く覚えていない。 思い出そうとすると霧がかかったように全く思い出せなかった。 「んだよ、バイザーお前から持ち掛けた話だろうが」 ライツが不機嫌そうに反撃する。 「賭けのことか? お前が城からお宝を盗めるかっていう」 「そうだよ」 そんなことを言い合っていると、 「ほら、見ただろ。賭けは俺の勝ちだな」 「ち、わかったよ」 周りにいた盗賊仲間も賭けに参加していたらしく、ニヤニヤした笑いや舌打ちしている。 ここは盗賊ギルド、いわば国公認の盗賊のアジトである。国の政にも色々ある。あまり表沙汰にしたくないことを、内々に処理したりするために盗賊ギルドは不可欠であった。そういう役割があるために少々のことは見逃しているし、盗まれたほうが悪いとされている。もはや盗賊ギルドが国公認となっているのは周知の事実なのだ。 「まったく、無茶するんだから」 階段からライツとほぼ同年代の女の子が降りて来た。 「フ、フィー。聞いてたのか?」 「当たり前よ、そんな大声でしゃべってたら」 ライツの言葉に両腕を腰に当てて、ため息をつく。 彼女の名はフィア=ハザード。ライツらは親しみを込めてフィーと呼んでいる。絶世の美少女とまではいかないが、きりりとした眉目のととのった顔立ちをしている。 ポニーテールでまとめた髪を解くと腰上にまでになるだろう。ライツよりも一つ年下なのだが、ライツのずぼらな性格に対して、何事もきちんとしなければ気がすまない性格をしているせいか時々お姉さんぶった態度をする。時々猫みたいな印象を受けるが、本人はそのことを気にしている。 特に目がつくのが高価そうなペンダント。今も明かりに反射し光り輝いている。 そして、このギルドの頭領の一人娘である。もっとも、血のつながらないのだが。 「まあ、いいわ。お父さんにはあたしが口添えしてあげるわ。 で、どうなの?」 「なにがだ?」 「お宝よ、お・た・か・ら。どれぐらいの価値があるの?」 なんだかんだ言っても、城から盗んだもの、やはり興味はあるのだろう。 「さあな、今イーヴァに鑑定してもらってるところだ」 イーヴァは、ここの盗賊ギルドでは一番目利きの持ち主。下手な鑑定士よりもよっぽど信用が置ける。 イーヴァはライツが盗んで来た宝石をテーブルの上に置くと、軽くため息をつき、 「だめだな、見たことのない宝石だ。ルビーにも見えるが違うし、王都で専門の鑑定士に見せないと分からないな」 「うーん、王都かぁ」 ライツは宝石を指でもてあそびながらうなる。 この国というか大陸は、もともと百五十年前は戦乱が絶えなかった。だが、ブレイ=シーバという男がこれを治めた。そして、広大な大陸を一つの王城では治められないと述べ、国を四っつに分けた。 中心にブレイ=シーバが城を建て、もっとも多くの土地を治め、それを囲むように北、南西、南東にそれぞれ小国と円形の塔を作り上げた。 実質的にブレイ=シーバがこの大陸に王として君臨するため、その力を区別するため城ではなく塔を建てたのである。 これは、城に何か事件があればすぐに動けるように、そして塔の一つに不穏な動きがあればすぐに鎮圧できるという処置であった。もっとも、後者のほうが主となっているのだが。そのため地図には領土の分布図は載っているが国境という物は存在しない。 そして、塔が空を支える支柱に見えることから『三本の支柱が支える天空城』と呼ばれている。 ライツ達は南西の塔が立つ首都からやや離れた町の中に根城を立てている。ライツが忍び込んだ城、つまりアイザ城はもともと視察という名目で遠征して来た、シーバ家の末裔つまり現国王がいる城から宝石を盗んだのだ。もちろん警備も尋常ではない。だからこそ、この賭けを持ち掛けたバイザーもまさかライツが本当に盗みをするとは考えもしなかったのである。 いくら多少のことは見逃してくれるとはいえ捕まえられれば絞首刑は免れなかっただろう。 「国王の宝を盗んだんだ、それぐらいの価値はあるだろうな」 ドアの反対側、つまり部屋の奥から突然巨漢のひげを生やした男がニッと笑いながら現れた。 「お頭!」 「お父さん!」 「楽しそうなことを話しているようだな」 「ど、どうやって部屋に入って来たんですか?」 「決まってるだろうが、ドアからだよ」 ライツ達、盗賊の頭目、そしてフィアの父親、バルザ=ハザードは二メートル近くある。それに負けないぐらい筋骨隆々で腕が子供の胴ぐらいある。さすがに盗賊を束ねるだけあってなんともいえない威圧感を出している。 十人近くいるさして広くない部屋で誰にも気付かれる事もなく部屋の奥まで入ったのはさすがと言うべきだろう。 ゴキブリかこの人は! などということは口が裂けても言えなかった。 「えーっと、もしかして今までの話は全部……」 「ああ、聞かせてもらった!」 「あは、あはははは」 ライツは引きつった笑いを浮かべていた。 バルザは怒るとはっきり言って下手なモンスターより怖い。昔、ライツはバルザを怒らせ、そのまま一週間ほど夢にうなされたこともあった。 ま、まずい! 明日の日の出が見えんかも知れん! だが、ライツの考えとは裏腹に、 「丁度いいじゃねえか、王都に行ってこい」 「へっ?」 ライツだけでなく周りの人間も間抜けな声を上げた。 「あ、あの王都へ行ってもいいんですか?」 ライツがおずおずと聞いた。 「ん? 行かずに別の方法のほうがいいか?」 バルザが指をボキボキと鳴らす。 「い、いえ、行きます! 行かせてもらいます」 ライツが後じさりながら引きつった顔で言う。 「よーし、野郎ども。ライツの出発祝いだ。飲め!」 「おおー!」 バルザの声に応えるがごとく歓声を上げる。 「まったくただ騒ぎたいだけなのよね、みんな」 フィアがラム酒の入った木製のコップ(いつもライツが愛用している)をライツに渡す。 「あっ、サンキュ」 パキッ コップがライツの手に渡った瞬間、突然乾いた音を立ててコップが真っ二つに割れる。 「うわっ!」 「きゃっ、ご、ごめんなさい。だいじょうぶ?」 「ああ、新しいコップで持ってきてくれないか?」 「ええ、でも変ね、古くなってたのかな……?」 他のみんなは宴会に夢中で気付くことはなかった。 新しいコップに入れられたラム酒を飲みながら、ライツは奇妙な予感を感じられずに入られなかった。 翌朝、アイザ城にて。 「シュバルツ将軍、出発の準備完了しました」 この将軍の副官であろう女性が敬礼しながら報告した。 「メラか……」 このメラという女性、水晶のついた杖を後ろ腰にさしている。その杖は魔力の力を高める能力を持っているのだ。つまり、彼女は魔法を使えるということだ。 「瞳を盗んだやつは見つかったのか?」 「いえ、残念ながら……」 「引き続き捜索を続けろ」 「はっ!」 このシュバルツ将軍、重さ数十キロの鎧を装備しているというのに全く重さを感じさせない。それだけの使い手といえるだろう。 その後ろを眺めていた、メラのペンダントが輝いていた。 そして、ライツはここから半日以上かかる宿場町へと向かった。 「よかったのですかい? お頭」 「何がだ? イーヴァ」 「お嬢さんもついていっちまったし……」 実はフィアは、こっそりライツの後をつけている。 「しょうがないだろ、あいつは親に似て強情だからな」 「実の親を知ってるんですか?」 「ああ、古い付きあいだからな」 「それに……お頭の支持どうり宝石は分からないといいましたけど、あれは大地の瞳じゃないんですかい?」 「ああ、あれがあるということは何かよくないことが起こるに違いないからな」 「だから、ライツを王都へ?」 「ああ、あの宝石を王が持っていたんだ。なにか分かるだろう」 「ライツはおとりですかい?」 「言い方によってはそうなるな」 バルザは不敵な笑みを浮かべた。 それはライツに何か期待しているような笑みであった。 |
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