盗っと勇者  ザ・シーフブレイバー
--  第二話  四将軍 --
                                    作:木村征人


「はえ〜」
それがライツとフィアの第一声であった。
ライツとフィアは宿場町の近くの宿で一泊した後、王都へ向かう乗り合い馬車がある駅へと向かった。が、とんでもない行列ができていた。
泊まり込み覚悟の連中もいるらしく、寝袋を広げている奴もいる。
「どれくらいで馬車に乗れます?」
ライツが近くにいた整備員らしい人に尋ねた。
「さあ……明日かもしかしたら明後日くらいになると思いますけど……」
その言葉で思わずめまいを覚える。
「……で、何でこんな行列に?」
「国王が遠征から帰ってくる日と祭りの日が重なってね。しかも、遠征に帰られる日にパレードが行わられるらしいし、それで間近で一目王様とお姫様を見ようとこれだけの人が集まったんです」
ライツにとって全然嬉しくない情報だった。そうなれば警備はいつも以上に厳重になるだろうし、それにこんな所でいつまでも油を売るつもりなど毛頭なかった。
「どうするの?」
さっきからずっと横で話を聞いていたフィア不安そうにいう。
「ん〜、えーと今がここだから……ここってどこにつながっているんです?」
ライツが近くの案内板でぶつぶつ言った後、再びさっきの整備員に尋ねた。
「え? そこかい……そこなら……」
「近くに、農村とかは?」
「うーん、少し歩くかもしれないけど……」
フィアはしばらくライツと整備員を眺めていた。改めてライツは世渡り上手だなと感心する。ギルドにいる時とまるっきり言葉づかいが違う。しかもそれほどかしこがらずとも相手に好印象を与えることが出来る、盗賊云々と言うよりも人間性だろう。
「良い方法があったぜ」
いつのまにか戻ってきたライツが自信満々に言ってのけた。

ライツとフィアは乗り合い馬車の駅を離れ、ついでに馬車が走るルートも離れ近くの農村を目指していた。
「王都へ行くんじゃなかったの?」
「もちろんそのつまりだが……」
「全然逆方向じゃない」
「まぁ、そう言わずに近くに荷馬車がないか探せって」
「それってまさか……」
「そういうこと」
つまりライツの考えはこうだ。おそらく大勢の王都今まで以上に人が集まるだろう。それに比例して食物が必要になってくる。だとすればあちこちで農作物の発注が起こっても不思議ではない。この近くにある農村に発注が来ているだろう。農作物をつんでいる荷馬車を見つけてライツはそれに便乗して王都へ行こうと言うのだ。
「あきれた……」
よくよく考えれば、かなりお気楽な思い付きだ。発注が来ているとも限らないし、荷馬車が通るとも限らないのだから。しかもかなり図々しい。
しかし、世の中何とかなるもの。
「ほ、ほらあれ!」
フィアが指差した方向には、小柄な人の良さそうな中年ぐらいの男が荷馬車に乗っていた。ちなみに、荷台にはあまり荷物を積んでおらず、かなり隙間が空いていた。
「あれに乗せてもらいましょ!」
「いや、待て!」
ライツがフィアを制し、しばらく考え込んだあと、
「あっちにしよう」
ライツが指差した方向には、顔つきがごつく大柄で腕っ節が強そうな同じく中年ぐらいの男が荷馬車に乗っていた。こちらは逆に大量の荷物を積んでおり、ロープで固定していた。
「えー! なんでよー」
フィアはあからさまに不満の声を上げた。
「ほら、行くぞ」
この旅の主導権はライツが持っている。フィアはしぶしぶついて行くしかなかった。

「この馬車、王都へ行きます?」
「何だおめえら? 確かに王都へ行くが……」
「乗せてもらえます?」
「なんだとぉ!」
「ひぃ!」
フィアがライツの後ろに隠れる。
「やっぱり、止めない?」
「大丈夫だって」
「何こそこそ話してんだ?」
「えーと、宿場町へ行ったんだけど馬車に乗るためにかなり待たなければならないから出来ればこの荷馬車に乗せてくれないかなーって」
「そんなに王都に行きたいのか?」
「滞在費も馬鹿にならないし……」
「座るところは無いぜ」
「木箱の上でいいです」
「あとで金を要求するかもしれないぜ」
「人を見る目には自信がありますから」
男が薄く笑みを浮かべると、
「乗れ!」
一言そういった。

 二人は荷台の木箱の上に座った。
「おまえ名前はなんて言うんだ?」
「ライツ、こっちはフィーいや、フィア」
フィアはまだ脅えている。
「おじさんの名前は?」
「ゴーランだ」
しばらく荷馬車に揺られていると、
「そろそろ理由教えて?」
こそこそとゴーランに聞こえないように小声でフィアがライツに話し掛けた。
「なんの?」
「こっちの荷馬車を選んだ理由」
「ああ、そのことか。
あれは多分おれたちと同業者だろうな、もっともあっちは詐欺だと思うがな」
「え……なんで?」
「そういう目をしてた」
「それだけで?」
「それに荷物も少なすぎる。人を乗せるみたいな配置の仕方をしてたしな。
多分あの後宿場町へ向かったんだろうな。そいつらをだまして金品を取り上げるか、高額な馬車代を請求するつもりだったんだろう。 納得したか?」
「あーあ」
フィアは仰向けに寝転んだ。まざまざと自分との違いを見せ付けられた。ギルドではいくら自分が副頭領に近い地位があるとはいえ、それはあくまででバルザがいてこそ成立するものである。
 もしもバルザがいなくなれば自分はどうなるんだろう。おそらく自分は頭領になることはないだろう。その力も技術もまったくない。それどころかギルドにいることもなくなるのかもしれない。
 バルザは自分には何も教えてくれなかった。たとえ自分の娘でもあのバルザなら三度は千尋の谷へ突き落とすだろう。やっぱり本当の娘じゃないからかな、そんな馬鹿な考えすら浮かんでくる。
フィアは小さい頃、友達がいなかった。盗賊ギルドの子供ということが原因だろう。たとえ友達が出来ても、親が会わないように言いつけたり、『もううちの子供と会わないでくれ』と面とむかって言われたりもした。
 そんな折り、フィアと同年代の男の子が盗賊ギルドに拾われた。それがライツであった。時々フィアと遊んでいたが、バルザやギルドの連中にライツはよくしごかれていた。フィア自身、ライツと遊んだ記憶はほとんどないが嬉しかったことはよく覚えている。
 年月が経つにつれ、フィアと同年代のものが盗賊ギルドにいるのもそう珍しくなくなってきた。ライツと同じくらいの年齢のものはフィアのことをフィーと呼んでいるのも、フィアがそう呼んで欲しいと頼んだせいであった。フィアが寂しがり屋な性格のあらわれであろう。形だけでも友達みたいなものが欲しかったのかもしれない。
小さい頃からフィアを知っているものたちは、「お嬢様」とか「フィア様」とか呼んでいる。もっともバルザの一人娘だという理由だけではないが。

 頭上はるかに奇妙な円形の物体が浮いていた。
「ねぇ、あれなーに?」
 空を眺めていたフィアが指差していた。
「ん? あれは確か気球ていう奴だよ」
「気球?」
「よく知らないけど、数人ほどで空に飛べる現代技術の最先端らしいけど……」
「がははは、おめぇ、古いなぁ」
 ゴーランが勝ち誇ったように笑った。
「どういう意味なんですか?」
「今じゃ王都は飛行船というのを開発しているらしい、気球と違って何十人も乗れる代物らしいな」
「へー、すごいな。結構詳しいんですね」
「まあな、ちょくちょく仕事で行くがな」
「だったら前から思ってたけどああいう大きな町だと治安とかは大丈夫なんですか?」
「それなら大丈夫だ。なんたって四将軍がにらみ効かせているからな」
「四将軍?」
「ああ、三人の武に一人の智を誇る王都自慢の将軍たちだ。もともと、三人は塔の中から選りすぐられたもの達だがな」
 前述した王都の周りに位置する三つの塔からは服従の意味として塔の中から最強とされる騎士もしくは兵士をそれぞれ一人王都の警護を任命される。それと同時に副官と多くの部下を持つことができるのである。
「やっぱり強いんだろーなぁ」
「当たり前だ。
 そういえばその四将軍が宝石を盗んだ盗賊を血眼になって探してるらしいけどな」
 ドキィ!
 自分でも顔が引きつってるのがわかる。
「そ、それで四将軍ってどんな人がいるんです?」
「まず、どんなものでも一刀両断する剛剣シュバルツ。変幻自在の槍の使い手マルス将軍。女だがいつ切ったのかわからないほどの高速剣のジェノバ将軍。そしてグロッグ将軍、まあこいつは作戦指揮とか参謀だろうがな」
「ふ〜ん、誰が一番強いのかしら?」
 好奇心にかりたてられたフィアが身を乗り出して聞いてきた。
「さあな、それは誰かはわからねえが、うわさだとシュバルツ将軍らしいがな」
「シュバルツ将軍か……」

 そんなことを話している時、場所は変わって王都では、
 軽くウエーブがかかった長い髪、大人の女性の雰囲気をかもし出している。おそらく笑顔をかけられただけで大抵の男はころりと転んでしまうだろう。
 彼女の素性を知らない声をかけてきた男達を片っ端から張り倒していた。
 あちこちので店に挨拶しながら巡回していた女将軍。
「ジェノバ。そっちはどうだ?」
「至って平和よ、ただナンパしてきた男達を除いてね。で、そちらはどうなの? マルス」
「多少乱闘騒ぎがあったがそれ以外はおおむね順調だ。
 ま、俺達四将軍の噂があるんだろうな、いい意味でも悪い意味でもな」
 マルスが愛嬌のあるやや丸っこい顔が笑顔を見せる。ジェノバ同様四将軍らしくない。また、トラブルに巻き込まれるのも彼の特徴である。事実、さっき起こった乱闘騒ぎもマルスも少なからず関係している。ちなみに、マルスもジェノバに転んだ一人である。
「確かにね、わざわざ私達に喧嘩をしかける物好きはそういないでしょうね」
「それで、あっちのほうはどうだ?」
「どっちかしら?」
「両方かな……」
「どちらもノーね、宝石を奪った奴も弟も……」
「どちらも情報が少なすぎるからな……南西の塔周辺の二十歳前後の盗賊なんてな。
 ………………どうした?」
「いえ、なんでもないわ……」
 まさかね……
 実はそのまさかだとはジェノバは夢にも思わなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 突然人垣の中から叫び声が上がった。
「なに事?」
「なんだ?」
 二人が同時に声をあげた。
 声のしたほうに行くと、剣を持った男がいた。しかもこの男は正気の目をしていなかった。
 周りには剣を切りつけられた人達がうずくまっていた。
「魔剣か……やっかいね」
 魔道具が出回っている現在、時々こういう厄介な代物が出てきたりするのだ。中でも魔剣の類が一番厄介で取り付かれたものは誰かれかまわず切り付ける上、並の兵士十人が束になっても敵わない力を持っている。
「仕方ないわね、私は剣を処理するわ。あなたは男をお願い!」
「はいよ!」
 男が魔剣を振り下ろす。ジェノバを脳天から叩き切るつもりだ。
「くっ!」
 ジェノバは白刃取りの構えを取る。
 ギン!
 魔剣はそのままジェノバの体の足元まで突き抜ける。その瞬間マルスがみぞおちをついて男を眠らす。
「大丈夫か? ジェノバ」
「ええ、これぐらいの相手なら怪我しないですんだわ」
 手に持った魔剣の刀身を振り回す。男の持っていた魔剣の刃が半分から無くなっていた。つまり、ジェノバはもともと白刃どりではなくて素手で魔剣をへし折るつもりだったのだ。しかも、それをいとも簡単にやってのけた。
 マルスはジェノバがすでにそうすることを知っていた。ジェノバなら簡単にやってのけると分かっていた。そして、マルスでも当然やってのけただろう。
 魔剣を持った人間をおさえるよりも魔剣の破壊を最優先とした。もちろん一人でもいけたのだが人民の安全を最優先も意味している。そして自分らの強さを更に民衆にしらしめることとなった。

 そして再びライツ達、
 バキッ
「へっ?」
「きゃ!」
「どぅぉ!」
 いきなり荷馬車が傾き、ライツ、フィアが荷馬車から落ちた。
「おめぇら大丈夫か?」
 バランスを崩しただけで済んだゴーランが声をかける。
「あたたたた、なんだよ。いきなり!」
「いったーい、腰打っちゃった」
「すまねぇな、いきなりで俺も何が起こったか……」
 見てみると、荷馬車の車輪の片方が潰れていた。
「これはもう取り変えるしかないな」
「でも、これ全部下ろさないとだめなんじゃない?」
 ゴーランのつぶやきにフィアが荷物を指差しながら言った。
「しょうがないな、かなり時間がかかっちまうが手伝ってくれ」
「大丈夫だよ、これを使えばね」
 ライツが短剣をちらつかせながら言った。
「あ! そう言えばそれがあったわね」
 力仕事が相当いやだったのか、心底嬉しそうにフィアが声を上げる。
「どういうこった?」
 ゴーランの疑問の言葉に答えずライツは短剣の柄と刃が外す。その間に糸が一本つながっている。
 柄をつかんだまま刃をたらす、
「………………」
 ライツが念をこめると糸でつながった刃が動き出し、そして、荷台のヘリに巻きつく。魔道具の短剣が大量の荷物が乗っている超重量の荷台にかかわらず壊れた車輪が地面から離れる。
「ほー、珍しい魔道具だな」
「さ、ゴーランのおっさん早く取り替えてくれ」
 すでにライツは数年来の友人のような口の聞き方だった。しかし、馴れ馴れしさを感じさせなかった。
「お、おお」
 二十分ほどで車輪の取替えは済んだ。
 そして道中で一泊野宿した後、ついに王都に着いた。
「ありがとう、ゴーラン」
「うん、ほんとにありがと、それと……」
 いろいろ話しを聞いているうちにフィアはゴーランのことを怖くて乱暴なおっさんから陽気で豪快なおっさんへと評価が変わっていた。そういう印象を持っていたことに謝罪を言おうとしたが、
「がははははは、気にすんな。そう言う風に見られてるのは慣れてるからな。
 それにおまえらがいなかったら、車輪が壊れたせいで一日遅れていたかもしれないからな。ま、ここから別行動になるか達者でな。
 また縁があったら会おうや、たとえおまえらが何者であってもな」
 そう言いながらゴーランは不器用なウインクをした。
「なんだ、ばれてたのか」
 後ろ頭をかきながらライツはぼやいた。
「こそこそ話すならもう少し小さな声で話すことだな」
「あははははははは」
 ライツとフィアは引きつきながら笑った。
「それじゃあな」
 そういい残してゴーランは街中へ入っていった。
「さてと、俺達も行きますか!」
 そして、ほぼ同時に遠征先から王達が帰ってきた。
                           

 どーも、盗っと勇者お読みいただいてありがとうございまーす。
 今回、フィアによる過去とライツの評価。そして四将軍をやや重点において見ましたがどうでしたでしょうか?
 フィアとライツの印象が変わった方は結構いるのではないでしょうか?
 次回から盗っと勇者一の人気者(というか大ボケ者?)が話に絡んできます。
 というか、作者はこういうキャラクターを書くのは苦手なんですが……
 しかし、困ったことに相変わらず説明がおおいです……
 ただいまお姫様の名前を募集しています。それと新しいキャラクターも登場する予定なのでいろいろな名前を募集しています。
 名前のセンスがないものですから……
 それではまた! 第三話で! 辛口な批評もお待ちしてます。




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