盗っと勇者  ザ・シーフブレイバー
--  第三話    兆し --
                                    作:木村征人


 ライツたちが王都についたのとほぼ同時に王達も到着した。
 街はなぜか道に並ぶ出店の店主以外に人の姿はなかった。
「どういうことこれ?」
「さあな」
 フィアの問いかけにまったく関心なく答える。実はライツには大体の察しはついていた。
 ザワザワザワ
「ん? あっちのほうがなんか騒がしいわね。行ってみましょ!」
 フィアがライツの手を引っ張りながら騒ぎのあるほうへ向かった。ライツもおとなしく着いていく。
 そこにはとんでもない数の人が立ち並んでいた。どうやらそこは街で一番大きい大通りらしい。見物にきた人が表に飛び出さないように兵士たちが必死に押さえている。その中にはマルスやジェノバの姿も見える。
「あー! もうこんなに人がいたんじゃ前にいけないじゃない。何があるの!」
「なんにもないよ。もうすぐ来るらしいけど……」
 文句を言っていたフィアに対し、前にいた見物客の一人が迷惑そうに言う。
「なにが?」
「そんなことも知らないのか? 遠征から帰ってきたこの国の王が帰って来るんだよ」
「へー。でもこんなに人がいたんじゃ見えないじゃない。
 ………………」
 何を思ったのかいきなりしゃがみこんで人ごみの中を四つん這いになりながら人ごみの中に入っていく。
「お、おい。フィーいきなりなにを……」
 さすがにライツも慌てる。当然だろうとても女の子のしかも二十歳前のやることではない。
「ライツも早くおいでよー」
「しょうがないなー」
 しぶしぶライツもフィア同様四つん這いで人ごみの中に入っていく。
「ふう」
「ぷはー」
 人ごみを抜けるとひざを払いながら立ち上がる。
 そしてタイミングよく王の一団が近くまできた。
 ワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
 いきなりとんでもない歓声が響く。
 パレードはたくさんの兵士の中心に王と王女の姿が見える、ただし王女たちは馬車ではなく底が球体のように丸くなっており宙に浮いている魔道具に乗っている。ただしこの魔道具は難点がある。宙に浮いているといってもだいたい十センチ。移動もできないのでそれを馬が引いている。それとなんだか半分に切った卵に乗っている気分になること。
 その両脇にはシュバルツとメラがいた。
 王は手を振って歓声にこたえているが、王女は目を閉じてうつむいている。群衆は王女の奥ゆかしさに感銘しているが、さすがに寝ているとは思わなかっただろう。
「んっ? どこかで見たことあるな?」
 いまだに大地の宝石を盗んだときに出会った少女が、侍女だと思っているライツは実は王女だとは気づかなかった。
 そして、パレードは滞りなく終わった。
 パレードが終わるやいなや、あちこちで見世物小屋やらストリートパフォーマンスやら、買い物客でいっぱいになる。それ以上に街を巡回する衛兵が目を光らせる。
 ライツはフィアを噴水広場で待たせ、裏通りへと入っていった。
「おい、そこのおまえ待て!」
 しかし、運悪く衛兵に見つかってしまった。
「やべ!」
 ダッシュでライツは逃げ出した。持ち物検査なんてされれば一発で終わりだった。
 道幅の狭い曲がりくねった道を走り抜ける。しかし、衛兵は必死でついてくる。
「ったく、しつこい!」
 曲がり角を曲がった後、衛兵はライツの姿を見失った。
「どこへいったんだ?」
 衛兵が通り過ぎるのを待ってライツは降りてきた。ライツは街灯にしがみついて衛兵をやりすごした。
「ふぅ。まったく、五メートルに二、三人いるとはね。ここまで警備が厳重だと嫌になってくるな。仕方ないほとぼりがさめるまで待つしかないな」

 フィアは噴水広場で座っていた。ボーっと三人の女の彫像を眺めていた。見知らぬ男がフィアをナンパしに来る。ため息をつきながら無視を決め込む。
「やれやれ……」
 やっぱりフィーはかわいいもんな。ナンパしたくなる気持ちもわかるような気がする。俺より年下なのに落ち着きがあるし、俺みたいに頭より体が先に動くタイプじゃなくて、考えて動くタイプだもんな。
 フィーは少し着飾れば、貴族の娘として十分通る。どう見ても盗賊にはむいてない、詐欺でもするのかと思った時期もあったがその様子をなかった。
 頭領も娘は大事ってことなのかな……
「フィー!」
 ライツがフィアに近づくと先ほどまで話していた男が舌打ちしながら立ち去った。
「まったく……遅いわよ……待っている間大変だったんだから……」
 ぶつぶつ言っているフィアを見下ろしながらライツは少し苦笑いを浮かべる。
「で、どうだったの? 宝石は売れた?」
 ライツは首を横に振りながら、
「いや駄目だ。予想以上に衛兵がピリピリしてて、迂闊なことすると捕まりそうだ。実際、さっき追いかけられたし」
「ふ〜ん、でどうするの?」
「そうだなぁ、近くの街のギルドで連絡とってもらおうと思う。それでもこの祭りが終わるまで待つしかないと思うけど、どの道今日はどこかの宿に泊まって明日いくつもり……」
「ふ〜ん、じゃあ今日はゆっくり見物できるの?」
 フィアはわざと気のない返事をした。もともとフィアがついてきたのは王都でいろんな物を見て、いろいろと買って回りたいという願望があった。そのためフィアはかなりの持ち合わせがあった。
 そのことをライツに悟られたくは無かった為だった。
「宿代ワリカンだからな……」
「あう……」
 もっともライツには通用しなかったが……
「そう言えば、この彫像何なのかしら?」
 噴水広場には、三人の女性の彫像が立っていた。
「ああ、運命の三女神(ウィールド・シスターズ)だろ?」
「うぃーるど・しすたーずう?」
 フィアがオウム返しに聞く。
「昔なんかの本で読んだことがあって……
 ええと確か、過去のウルズ、現在のヴェルザンディ、未来のスクルドを総称して運命の三女神と呼ばれている。神々の時代に実在したらしいけど……
 絶対に揃うことのない姉妹、会うことを許されない姉妹。っていわれている」
「ふ〜ん、もし会うとどうなるわけ?」
「さあな、世界の終わりとか破滅とか言われているらしいが……実際は知らん」
「なーんだ、あんまり知らないんだ」
「しょうがねぇだろ、本にはそれ以上載ってなかったんだから」
「はいはい、それじゃあ、どこかに行きましょ!」
 ライツとフィアは祭りを楽しんでる間、城では……
 年は五十を過ぎたころだろう。白髪が所々目立ち、口元が大量のひげで隠れている。昔つぶしたのであろうか片目には宝石がはめ込まれている。
 その男こそ四将軍のただ一人の智将グロッグであった。
「王よ……魔道砲の設置が整いました」
「だが、グロッグよ。大地の瞳はいまだ見つかっておらんのだろう?」
「心配は要りませぬ、あれはあくまで威力を制御するためのもの。いささか問題はありますが放射するだけなら問題はありませぬ」
「そうか! では明日決行するとしよう」

 そしてライツとフィアはというと、
「ほら、見ろよフィー。なかなかいいだろ」
 ライツは青いマントを羽織っていた。首の部分がマフラーのように包んでおらず両肩でとめるタイプで出来ている。
 いささか盗賊には不似合いだが、なかなか似合っていた。
「へー、ライツにしてはいい物選んだわね」
「これなら、たくさんのお宝を運べるからな」
「…………………………」
 やっぱりライツは実用第一だった。
 フィアはブレスレット型の魔道具を買った。普通のを買うつもりだったが、ライツがこっちのほうが言いといったのでこちらに変えたのだ。ほんの少しだが身を守る効果があるらしい。
 翌朝。ライツ達は王都からすぐ近くの街へ向かうため街道を歩いていた。
 普通よりも少し広めの街道はよく整備されていたが、街道から離れると腰下まで草が生い茂っていた。
 そして城では魔道砲の準備が整えられていた。
「グロッグ将軍、準備が整いました。しかし、大丈夫なのでしょうか?」
「さあな、所詮は実験だ。案ずることはない。撃てっ」
 二つの宝石が光り輝く。
 魔道砲とは魔力を大砲のような役目を行い、十数秒間膨大な魔力を放射しつづけるのだ。
 バギッ
 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
 発射の瞬間、砲座がいきなり崩れた。そのため砲台が下へ向き王都の街から少し離れた場所へと放たれた。そしてその威力にもてあそばれるかのように砲台が徐々に上を向き、ほぼ真下に放射された魔力も大地を削りながら前へと、距離を伸ばしていく。
 その直線状にはライツとフィアがいた。
「何!?」
「え?」
 異常に気づいたライツはフィアを真横に押しのけた。
「駄目だ、直撃する」
 ライツに直撃する瞬間、ライツの持っていた大地の宝石が光り輝いた。
 まるでライツを守るかのように魔力の壁を作るが、その無尽蔵なエネルギーを完璧に防ぐことは出来なかった。
「ぐぅ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ライツは全身に痛みを感じまったく動けなかった。フィアはライツのおかげで助かったが魔道砲の衝撃波で草むらの中で気絶していた。
 そして、魔道砲は海を数キロに渡って割りながらようやく止まった。
「グロッグ様、やはり大地の瞳がなければ暴走してしまいます」
「ちっ、砲台と砲座の修理を急げ。砲座をもっと頑丈に作っておけ」
 グロッグの周りにいた衛兵が騒ぎ出した。
「おい、なんだあれは?」
「あれは一体?」
 衛兵は大地の瞳によって作られた魔力の壁に驚いていた。
「あれは、もしや!
 馬車を出せ。今すぐあそこに迎え!」
 グロッグはその正体にいち早く気づいた。

「ジェノバさん」
「あ、ミルカ王女」
「何の騒ぎなの?」
「はい、なんでも大地の瞳が見つかったとか……」
「大地の瞳が……
 もし、宝石を盗んだ男性が見つかったらどうなるんでしょうか?」
「間違いなく極刑になります」
「ジェノバさんお願いがあります」
「はい、なんでしょうか?」
「その人を何とか助けられないでしょうか?」
「しかし……」
「お願いします」
 ミルカ王女は頭を下げた。そこまでされるとさすがにジョノバは断れない。
「わかりました、何とかやってみます。ただし、牢屋行きは間違いないでしょうが……」
「それでもよろしいです、お願いします」
「はい、では!」
 分からない、なぜミルカ王女が……しかも男だとなぜ知ってるの?
 ジェノバは不審に思いながらもグロッグ達を追いかけた。

 大地の瞳の魔法壁が消えたころ、グロッグ達が現れた。
 き、貴様は……いったい……
 朦朧とした意識の中、なんとか目を開けようとする。
「ふん、貴様のようなやつが、な!」
 ドッ!
 グロッグがライツの腹にけりを入れる。
「グ、ガハッ」
「うらむなら、自分をうらむがいい」
 グロッグを剣を引き抜き、ライツの首に剣を突きたてようとした時、
「待ちなさい!」
 ジェノバがそれを呼び止めた。
「ジェノバ、どういうつもりだ」
「その男を殺すことは許しません」
「なんだと! ジェノバ! 貴様は大地の瞳を盗んだ男をかばうというのか」
「黙りなさいグロッグ! これは王女の命令なのよ」
「王女だと……」
 ……これ以上言いあうだけ無駄か、ここで下手にかんぐられるよりは、さつさと大地の瞳で魔道砲の完成させたほうがいいな。
「ちっ、その男を牢屋に入れておけ」
「はっ!」
 グロッグは近くにいた衛兵に命令した。
「おら、立て!」
「このマントは邪魔だな」
 ブチブチブチ
 ライツが羽織っていたマントを引き千切った。

 ライツが連行された後、フィアは目を覚ました。幸運にも生い茂っていた草むらに体が隠れていたおかげで助かったのだ。
「あー、ひどい目に会った。ライツどこ?」
 フィアは引き千切られたマントを見つけた。
「これはライツのマント。ま、まさかあの光に飲み込まれて……」
 フィアはがっくりと膝をついた。

 城に着くころ、ライツは目を覚ました。
「ここが……この国を支配してる城か……」
 ライツは少し奇妙な違和感を感じた。
 地下に連れて行かれ、
「ここに入りな!」
 短剣や七つ道具を奪われ、ライツは牢屋に入れられた。
「いつになったら出られるんだ?」
「さあな、一生だろうよ」
 衛兵は鼻で笑いながら言った。
「案外すぐかもしれないぜ」
「まぁ、せいぜいそう願いことだな」

「ジェノバさん」
 帰ってきたジェノバにミルカ王女に声をかけた。
「ミルカ王女」
「ありがとうございます、私のお願いを聞いてくれて」
「いえ、しかしあなたのようなお方があのような者をかばうなど……」
「変ですか?」
「え、いえ……すいません」
「くすくす、もうひとつお願いしてよろしいかしら?」
「はい」
「私の部屋はどこでしょうか?」
「…………………………」

 地下では数人の衛兵が見張りを努めていた。
「どうだあいつの様子は」
「ああ、宝石を盗んだやつか、おとなしいもんだぜ」
「ま、そんなものだろ。大胆なことをするやつに限って臆病者なんだろうよ」
「だといいんだがな……」
「なんか気になることでもあったのか」
「いや、何かを待っているような雰囲気なんだよな」
「待ってるって、なにを?」
「さあな、そこまでは……」
 そう、ライツは待っていた。この城で何かが起こると予感して……
 『予感』それは誰もが持っている魔法なのかもしれない。               



>>4話へ



 感想BBS




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送