盗っと勇者  ザ・シーフブレイバー
--  第七話  王都潜入 --
                                    作:木村征人


 ドラゴンがベジタリアンだということでみんなをあきれさせたりという一幕もあったが旅路はおおむね順調であった。
 もちろん荷馬車ということもあって乗りごこちは最高というわけではなかったが……三台の荷馬車が綺麗に並んでいる。ライツ、フィア、ミルカ、アルは同じ荷馬車に揺られていた。イーヴァやバイザーなどほとんどの者がついて来ていた。もちろん目的もそれぞれ違うだろうが・……
「まさかおまえも来るとはな……」
 ライツが頭をかきながらあきれていた。
「当たり前です! お師様にどこまでも着いていくって決めたんですから」
 ぐっとコブシを握り締め雄弁に語るアル。
「お師様はやめてくれ、それになんかプロポーズみたいで余計いやだ」
「くすくす、なんか兄弟みたいね……」
 フィアが二人のやり取りを見ながらそんなことを言う。
「姉弟か……」
 ライツがシーラから譲り受けたペンダントを見つめる。
「ライツ?」
 フィアが不思議そうにライツを覗きこむ。
「いや何でもない。気にするな」
 ライツはペンダントを襟元に戻した。
「そういえば城にしのび込む作戦はどうするんですか?」
 アルがライツに聞いた。
「それなら町に着いた後、頭領が説明してくれるはずだ」
 見るとバルザは城の図面を書いていた。それを不思議な顔をしながら三人は眺めていた。
 ちなみにミルカは寝ていた。相変わらずのお気楽な王女様であった。

 そして、城では……グロッグ側に着いた衛兵たちが少しづつ落ち着きを戻しつつあった。
「あいかわらず、シュバルツ将軍は機嫌が悪いな」
 衛兵らは反乱のがあった日以来、一言も言葉を発していないシュバルツに少し不安を感じていた。
「おまえ知らなかったのか? マルス将軍、いや元将軍とシュバルツ将軍は、将軍に任命されたのはほぼ同期だったんだぜ。しかも親友といえるほどの仲だったらしい」
「……ならどうして……」
「さあな……ある日を境にシュバルツ将軍はグロッグ様の操り人形になった。何があったのかはしらないが……」
「何を無駄話をしている!」
 メラが衛兵たちに怒鳴りつけた。
「はっ! すいませんメラ将軍」
 三人の将軍がいなくなり(二人は死に、そして一人は王となった)副官であったメラは将軍に任命された。残り二つの将軍の席はシーラを殺した部隊長かと思われたがシーラに手傷を負わせた覆面の男が将軍に任命された。そしてもう一人は……
「どうしたんだい?」
「いえなんでもありません!」
「ふうん……まあいいや」
 新しい将軍はそのままさして気にもとめずそのまま通り過ぎた。
「まったくなんであんなのが将軍になれるんだ?」
「さあな……」
「この国はどうなるんだろうな……」
「…………さあな……」

 そして、一昼夜がすぎライツらは王都に着いた。
「で、どこに泊まるんだ?」
 ついた早々ラいつはバルザに聞いた。
「いくらなんでもこの顔ぶれで街に入るわけに行かない、しかも王女がいるからな。ここは元締めを頼るつもりだ」
「元締め?」
 ライツは眉をひそめた。元締めというのはこの国の盗賊ギルドの頂点に立つ人物であるのだがライツは会ったことはない。そんな者をいまいち信用する気にならなかった。
「信用できるのか?」
「さあな……」
「失礼な奴らだな」
 その言葉にライツは振り向いた。そこには三十代半ばといった感じの男が立っていた。バルザはすでに四十代を過ぎているそう考えればかなり若いだろう……
「あんたが元締めか……」
「ああ、ルシード=バードだ。ルシードでいい。
 …………若い元締めだなと思われているようだな…………まあ無理もないがな。
 こっちにアジトがある。ついて来な。
 それとこれは返すぜ」
  短剣をライツに投げて渡す。それは紛れもなくライツのものであった。
「…………………」
 ルシードがライツの短剣を盗んだことに誰も気づかなかった。ルシードは元締めの力をまざまざと見せつけた。
 その腕前にみんな呆然となっていた。ただバルザだけ複雑な笑みを浮かべていた。
 そして王都から離れた所に地下へと続く隠し階段へと下りていった。広い大間へと連れられた。あちこちに通路が見られるがおそらく王都のあちこちへと続いているのだろう。
「なるほどね……ここなら誰にも気づかれずに行動できるな」
「適当なところへ座ってくれ……」
 ここのアジトにいる者も数十名集まっていた。かなりの広さがあるこの部屋も手狭だった。ルシードはボードを引っ張ってきた。そしてバルザがここに来るまでに書いた城への地図を張りつけた。
「これで城のみとり図だ。王女これであってるかな?」
「え? ええ、たぶん」
 城でよく迷子になるミルカに聞くだけ無駄だった。
「それで作戦は?」
 そして作戦会議が始まった。。
 すごいな……地下牢までほとんど完璧に書いていやがる。
 ライツは素直に感心した。地下牢から出口まで行ったことのあるライツにとってはその緻密さがよく分かった。
「簡単な作戦だ。まず城の中にいる衛兵たちを誘い出す……」
「どうやって?」
「簡単だ……街に火をつければいい」
 ルシードがとんでもないことを言い出した。
「ちょっと待てよ!」
「まあ、落ち着け」
 怒鳴りだしだライツにバルツがうながした。
「本当に火をつけるわけじゃない。俺だって稼ぎ場所がなくなると困るからな。ボヤ程度の騒ぎをあちこち起こす。まだグロッグが王となってからまとまっていないからな。まあ、一つの所に二人いれば十分だろ……」
「なるほど早いほうがいいってわけか……」
 本当ならもう少し後のほうがいいとライツは思っていた。慎重なバルザらしくないと思っていたがそういうわけがあると理解していた。
 それを見抜いていたルシードにも口に出さないまでも敬意を表していた。
「その後もおそらくまだ城に衛兵は残っているだろう。そこで城門で騒ぎを起こす。おそらく火をつけたほうがおとりだと思いこちらが本隊だと思うだろう。だが、これもおとりだ」
 ニ重のわなをつけるというわけか……
 ライツはその様をシミュレートしている。
「たけど元締め。各地のボヤ設置、そして城での騒ぎ……かなりの人数が必要じゃないんですかい?」
 ライツの見たことのない人間が元締めに聞いた。おそらくここのアジトの人間だろう。
「ああ、ボヤ騒ぎにはここのアジトの者を三分の二いかせる。城での騒ぎは残りとバルザ達に任せる」
「そして、城へ忍び込むのはただ一人でいい。その役目はライツ……おまえに任せる」
「え…………」
 一気にライツに視線が集まる。
「おまえは城の地下牢に入れられたよな。だったらここの誰よりも城に詳しいはずだ」
「だけど……俺はそんなに詳しいわけじゃ……」
「アイザ城に忍び込んで大地の瞳を盗んだおまえだ。三つの瞳を盗むだけでいい……おまえがやれ! 俺が行ってもいいがこいつらを指揮しなければならないからな」
 盗賊が衛兵とやりあおうというのだ。有能な指揮が必要になる。つまり、バルザとルシードである。
「しょうがないな……俺がいてもあんまり役に立ちそうにないからな」
「それじゃあライツ……おまえは地下牢の隠し階段から行け」
 バルザが地図に指差しながら説明する。
「そこから階段を上って屋上の魔道砲の宝石を盗む。後はおまえの持っている短剣を使って城壁の外から下へ降りればいい。おまえは地下牢から屋上への道筋を頭の中にたたき込め! 結構は八時間後だ! 解散!」
 みんながバラバラになった後ライツは一人で地図を見ていた。必死に自分の頭の中に地図をたたき込んでいた。何が起こるか分からないため、城の全図を必死でたたき込んでいるのだ。この地図はバルザがライツのためだけに書いた。その期待をライツは裏切りたくなかった。
「ライツ……」
「ライツさん」
 ライツが振り向くとフィアとミルカが立っていた。
「がんばってよ、ライツ」
「おねがいします……」
「おまえらはどうするんだ?」
「留守番してるよ」
「私もアル君と留守番です」
「そっかー、まあ安心しろ。絶対に瞳は奪ってやるよ。
 なんたって俺は盗賊なんだからな!」
「そういえば、ライツさんとはじめて出会ったのは、ライツさんが瞳を盗みに来た時でしたね」
「う〜、その話しはやめてくれ」
「ライツの軽薄な行動でこんな風に役に立つなんてね」
 フィアがけらけら笑いながら馬鹿にしてる。

 そして深夜、正確には夜明けニ時間前……
「上が騒がしいな……時間ぴったりに始まったか。城門で騒ぎが始まるまでもう少し待つか……」
 そして、ライツは全身を集中させる。この目の前の扉を空ければ地下牢に出るのだ。
「いくか……」
 そして、ライツはゆっくりと扉を空けた……
「そこの方……」
 地下牢へ進むと牢屋の中から声が聞こえた。
「誰だ……? 声からして女みたいだけど……」
「衛兵の方ですか?」
「だれだ……あんたは……」
「私を知らないということはもしかして衛兵の方ではないのですか……?」
「俺は盗賊だ。そういうあんたこそ誰だ?」
「信じないかもしれませんが私はこの国の女王です」
「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!」
 ライツは自称女王に向かって驚きの声を上げた。

 そして、盗賊ギルドではフィアとミルカ、アルが留守番していた。
「暇ねー」
「くう……」
「ミルカさん寝ちゃってるね」
 そして二人はため息をつく。
 ガタン!
 寝ていたミルカがいきなり立ちあがった。
「呼んでる……」
「呼んでるって……誰が……くっ!」
 フィアが頭を押さえた。
「ど、どこへ行くの?」
 アルはフィアとミルカが出て行く二人を追いかけた。

「あんたが女王だって?」
「やはり信じられませんか?」
「悪いけどね」
「でしょうね、それであなたはこの国に盗みに入ったのですか?」
「ちがうよ、この国を救いにきた」
「どういうことですか?」
「ミルカ王女の依頼だ、グロッグの反乱によって乗っ取られたこの国をな」
「ミルカが……それで夫は?」
「死んだよ……」
「なっ! そ、そうですか……」
 その狼狽振りを見てライツはこの人がなんとなくだが……女王に思えた。
「悪いが今はあなたを出すことは出来ない、足手まといになるからな……」
「確かに……仕方ありませんね」
「ま、事が終わってからだね、あなたを出すのは……」
「わかりました……」
「それじゃあ」
 そういって、ライツはその場を去った。
 地下牢から出ると……
「……何でこんなところに?」
 その人影にライツは驚いた。
「アル!」
「お師様、良かった……まだここにいてくれて……」
 アルはライツに近づいた。
「どうしたんだ……何でここに?」
「城門の衛兵は大体かたづきました。それよりも大変なんです! フィアさんとミルカさんがこの中に入っちゃったんです」
「なんだと!」
「二人が城の中に入っていくのをみたから、頭領に知らせるとお師様に伝えろって……」
「ったく、次から次へと……」
「?」
 ライツの言葉にアルは不思議な顔を浮かべた。
「俺は宝石を奪った後、上から順番に二人を探す! おまえは地下牢に行って鍵を探せ。そこに女王と名乗る人物がいる。外に案内してやれ」
「は? それってどういう……」
 意味がわからないっといった感じのアルを残して……ライツは屋上へと向かった。

 そして、ライツは初めて魔道砲と対面した。
 ライツは自分の命を奪われそうになった兵器と出会うのは奇妙な感じをしていた。
「これが三つの瞳か……」
 一つは昔盗んだ真っ赤な宝石である大地の瞳。後の二つは透き通るような青色と淡いグリーン色の宝石であった。三つの宝石とも吸い込まれそうな感覚にとらわれる。
 ライツは三つの瞳を皮袋に入れた。
「さて、後は二人をどうやって探すかだけど……」
 ヒュン!
「!!」
 真横から飛んできたクリスタルを必死に身をそらせてライツは避けたのだが!
「なっ!」
 そのまま軌道を変えてライツを狙う。それを膝を折って避ける。
 その後クリスタルは覆面の男へ戻った。よく見るとクリスタルには糸がついていた。
「ちっ、俺と同じ魔道具を使うのかよ……素直に通してくれそうにないな」
 ライツは知らない……姉を失う直接的な原因を作った人物だということを……なるべくしてなった姉の仇打ちによる闘いが始まった。

 そして、アルによって救い出された自称女王は……
「お久しぶりです……」
 バルザとルシードが頭を下げた。
「おお、バルザにルシード……久しぶりですね」
「女王もお元気そうで……」
「娘たちは元気ですか?」
「はい……」
「あのー……話しが見えないんですけど……」
 珍しくアルが質問の声をあげた。
「俺とルシードは元々四将軍だったんだよ」
「ぅええええええええええ!」
 その場にいたほとんどの者が声をあげた。
「ま、古株以外は知らないのは当たり前だな」
 イーヴァが冷静にうなづきながら言う。
「ルシードはここに残って城の情勢を調べることだったがグロッグのほうが一枚上手だったな」
「ああ、うまく情報操作されたからな」
 魔道砲は元々王の暴走とされていた。しかし、その情報は実は偽者と気付いたのは反乱が起きた後であった。
「しかし、女王。グロッグが三人の王女求めるのは一体……それに三つの瞳も……」
「そうですか……ですが三つの瞳だけではそれほど恐れることはありません。あなた達に授けた……二人……そしてミルカ……」
「ええ、四将軍がそれぞれ預かりました。俺とルシードで一人預かり……もう一人は追っ手に殺されたと聞きましたが……」
「いえ、おそらく生きているでしょう……そう運命づけられた三人なのですから……」
「………………おい、アル!」
「は、はい」
「二人が城に向かったときのことを詳しく話しせ!」
「実は……」
 アルは二人の変貌振りを告げた。
「な、なんだと……………」
「い、いけません! 運命の三女神(ウィールドシスターズ)を会わせては! 三人と三つの瞳が揃えば世界が……」
 女王はひどく狼狽していた。そして……
「……世界が滅びます」
 ゆっくりとそう告げた。



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