盗っと勇者 ザ・シーフブレイバー -- 第九話 十年前の傷跡 -- 作:木村征人 |
街から歩いて一日ぐらい離れたところ。そこには人の住んでいる形跡はなかった。かつて人が日常としている場所ではなかった。まるで人が来るのを拒むかのように瓦礫が敷き詰められ、その間に雑草が生えている。廃墟とすら呼べないような廃れた場所であった。 しかし、そこは確かに人が住んでいた。少なくとも一人の男の記憶の中には…… 「ここがライツの……」 「ああ、俺の生まれ育った村だ」 そう、かつてグロッグによって滅ぼされた村。ライツの忌まわしい記憶。そして、伝説の剣が眠る場所。 そこにライツは訪れた。アジトの連中はすでに王都へ向かい。そしてフィア、アルはライツについてきた。スピアーに乗っていくと言う意見もあったが今の状態でドラゴンを発見されると下手に混乱を招くと言うことで結局歩きになった。 「どこに剣があるんです? お師匠様」 「まあ、その話しは後にしようぜ、まずは腹ごなしだ」 そう言って背中のリュックから野菜や肉をだし、こしょうを振った後適当に串に刺す。 そして、アルがしょっていたリュックの中からコンロを取り出し、スイッチを押すと炎が吹き出す。それを二秒ほどあぶるとフィアやアルに手渡す。 このコンロ、魔道具の一つ。すべての物質を貫通する炎が吹き出す。野菜であろうと適当にぶった斬っても均等に中まで一瞬で熱が通る。燃やしている間調味料を使えないという料理人泣かせな一面も持つが、それほど味を気にしないライツにとっては丁度いい道具であった。 元々、軍事利用の火炎放射器に使われるはずだったが余りにも使用用途がないため(人も家も燃やすんだったら貫通してもしなくても一緒)調理用に改造した所、これが馬鹿売れ、兵器開発していた企業だったが、今では調理専門店となったという裏話もある。 ほとんど食べずにここに来たのでいもを焼いたり、魚焼いたりと次々食っている。ちなみに煮ることは出来ない。 串に刺さっている肉をかじりながら話しをしている。 「しかし、フィーが魔法を使えるようになるとはな……」 あの時、そうグロッグに胸を着かれた時、旅立ちの日に木のコップが真っ二つに割れたときに感じた奇妙な予感は、木のコップと同様に自らの命が終わるときと悟ったが自分は未だに生きている。これから自分の運命に起こることなのか不安にかられていた。 「そうね、いままで魔法なんて気にしてなかったけど……まあ、姉さんが使えたんだからね」 「そうだな……しかしなんだおまえらどうして武器なんか持ってるんだ?」 「なんで?」 二人の腰には剣を抱えていた。フィアは小剣、アルはライツと同じ短剣。どちらも町の武器屋で購入してものだった。 魔道具の短剣を失ったライツは右腰に一本だけ短剣を持っていた。 「二人とも剣術なんかやったことないだろ?」 「でも、ないよりましでしょ?」 「だったらお師匠様、剣を教えてくださいよ」 二者二様の反論が帰ってくる。 「まったく……ついてくるのを許したのが間違いだったな……」 食べながらぼやいていると向こうで人影をライツは見つけた。串を投げ捨てその後を追いかけた。 「ライツ!」 「お師匠様!」 二人の声に呼ぶ声を背中に受けながら、ライツは角を曲がった。 そこは墓地であった、墓石には何も彫られてなかったが確かにそこは墓地だとわかった。そこには六十を過ぎた老婆といってもいい女の人が供え物をしていた。 「おばさん!」 振り返った老婆は不思議そうな顔をしていた。 「やっぱりそうだ、姉さんにいじめられたり、父さんに叱られたりしたときよくおばさんの家に逃げ込んでただろ」 「…………………」 「わすれちゃったのか、ライツだよ」 「ライツ……ライツちゃん?」 驚いたまま老婆は固まっていた。そしてようやくフィアとアルは追いついた。 「そうか……近くの村に住んでるのか……」 「何人か、どうにか逃げ延びた人たちと身を寄せ合いながらね。若い人たちは仕事を見つけたりして暮らしてるけど、年寄りわね……」 「それでも、生きていてくれて良かったよ。 そうだ、村で祭ってた御神体ってどこだったかな?」 「それだったら、中央広場にだと思うが……」 「あ、確かにあそこなら…… フィーとアルは先に行ってくれ。この道をまっすぐ行けば着くから」 「ライツは?」 「俺は少し行くところがあるから……」 そう言ってライツは歩き出した。 「それじゃああたしも行……」 振り返って少し笑みを浮かべたライツを見てフィアは黙ってしまった。 「それじゃあ、あとでな……」 「う、うん。先に行ってるね」 「どうして、お師匠様に着いて行かなかったんです?」 「うん、なんとなくだけどライツの行く所が分かったから……」 ライツは瓦礫の前に立っていた。かろうじてそこに家が立っていたことがわかる。 「父さん、母さん。十年も経ったけどやっと帰ってきたよ」 片膝を突きながら瓦礫となった自分の家を見つめた。 「姉さんはそっちに行ったよ、俺とミルカをかばってね…… ほんと……にば……かだよ……な……」 ライツはうまく言葉を出せなくなってきた。そして…… 十五分後、ライツはフィアとミルカと合流した。 「わるいな、待たせちまって……」 「ううん……いいのよ」 ライツの目が赤くなっているのを二人は気付かないフリをした。 中央広場ではには四角形の石が敷き詰められその中央に台座の上に銅像が立っていた。らしいのだが…… 「勇者の像があったんだけど……」 「…………銅像つぶれちゃってるね」 「……ですね。 それで剣はどこにあるんです?」 「それが……わからないんだ」 「はあ……」 二人同時にため息をついた。 「しょうがないだろ、グロッグがここに攻めて来た時も見つからなかったんだからな」 「どうして見つからなかったって分かるの?」 「あいつが持っていたのは半分だけだったからな……」 「あいつ? 半分?」 「この台座、動きませんかね?」 ライツの言葉を聞いてなかったアルは台座を指差した。 「よし、押してみるか」 ライツとアルの二人は台座を押してみるが全く動く気配はない。 「駄目ですね」 「ああ……」 息を切らしながら二人は座り込んだ。 その頃町の入り口にライツ達の後を追ってきた人物が立っていた。 「へえ、まさか生きてるなんてね」 そして、もう一人遠くでその情景を眺めていた人間がいた。 「やはり、あの男が……そうなのか……」 三人とも台座の前で座り込んでいた。 「はあ……どこにあるんだろうな……」 「他の場所とかは……」 「それはないとは思うが……だいたい村としては小さいほうだが結構な広さだぜ。全部探そうと思っら三日以上かかるぞ。今日中にここを出なければならないんだからな。 タイムリミットはほとんど無いんだし……」 「そうよね……」 「…………………」 「どうした? アル、もぞそもぞして?」 「いえ、なんか座り心地が……」 「下は石だからな、当然だろ」 「いえ、なんか床が出っ張ってるみたいな感じで……」 「! ちょっとどけ!」 「うわっ、どうしたんです?」 ライツはナイフを取り出しアルが座ってるところ、つまりアルの座っていた場所には段差があり、そこにある段差を削り出した。 「やっぱりな……どうやらここが入り口らしい」 「どういうこと?」 「まあ、見てなって」 フィアの質問に答えながら、ガリガリと段差のある場所を削っていく、すると五メートル四方にへこんでいる場所があった。 「これは?」 「ああ、目の錯覚を利用したものだな。ほんの少しだけ床がへこんでいる場所には丁度敷き詰められている石のつなぎ目だから分かりにくい。 まあ、アルのお手柄というところだな」 「えへへへへへへへ」 アルが照れながら頭をかいている。 「で、どうするの?」 「多分、扉になっていると思うから何か開くようなものが……このボタンか……」 ライツがボタンを押すと床がスライドし、階段が現れた。 「ここだな…………」 「はぁー、こうなってたのね」 「ここからは俺一人で行く、ここで待っててくれ」 「うん、いってらっしゃーい」 「と、そのまえに……」 ライツは袋の中から三センチくらいの棒を取り出した。そして、ライツが何かいじくると、棒がいきなり延びて入り口の両端に棒がかけられた。 「入り口がしまると大変だからな」 これも魔道具の一つで、三センチから二十メートルまで伸縮自在の棒である。 ライツはカンテラを着けて階段を降りて言った。 そして、ライツの姿は見えなくなった。 「お師匠様行っちゃいましたね……」 しかし、フィアの返事は無い。 「フィーさん……?」 振り返るとフィアは捕らえられていた。 カツーンカツーンとライツの足音だけが響く。 「かなり深いな……」 そして、最下層までくると…… 「これか……」 壁に剣が鎖でがんじがらめにかけられていた。剣の長さは小剣ぐらいであった。 剣の柄に恐る恐る掴むと…… シュオォォォォォォォォォォォォ 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 ライツは何かが頭の中に何か入ってくるような感覚があった。 「これは!」 この剣の記憶だろうか……闘いの映像が鮮明に頭の中に流れ込んできた。激しい闘いが巻き起こる。中でも三つ首のドラゴンの闘いが…… そこで映像は消えた。 「はあはあはあはあはあ、なんだったんだ……今のは…… これは本当にドラゴンスレイヤーみたいだな、でも……これは……やっぱり思ったとおりだ」 少しくらくらする頭をたたき起こしながら階段を上っていく。 そして、表に出ると…… 「お師匠様!」 「ライツ!」 「フィー、これは一体?」 子供の死神! ライツは一瞬そんな言葉がよぎった。アルとそう変わらない年齢だろう。真っ黒な服で身を包み、体に不釣合いな大きなカマを持っている。そのカマはフィアの首筋に当ててあった。 「驚いたよ、まさか生きてるなんてね。グロッグ様は胸を撃ちぬいたって聞いたけど……まあいいや、その剣を貸してくれないかな?」 まるで友達にものを頼むような口調で言う。 「ちっ! 勝手にしろ」 フィアを人質にとられているライツは従うしかなかった。 ライツは少年の足元に剣を投げ渡した。それを拾うと…… 「聞いたよ、シヴァをを倒したんだってね。って言っても分からないか、あいつは無口だからね。シヴァというのは覆面の男のことだよ。四将軍の一人だったんだけどね。僕は四将軍の一人テディだよ。 なかなかかわいい名前でしょ?」 軽口を続ける、テディ。そして、フィアの首筋からカマをのけてライツの胸にめがけてドラゴンスレイヤーを投げた。 「なっ!」 反射的に後ろへ飛ぶが、左胸に剣が…… そしてそのまま倒れ込んだ。 「ライツゥ! よくも!」 フィアは剣を抜きテディを刺そうとするが、 「ふん」 「きゃっ!」 フィアは剣ごと弾き飛ばされる。 「だめだよ、女の子がそんな物騒なものを持っちゃ」 「同感だな……」 ライツは剣を持ちながら立ちあがった。 「へぇ、本当にしぶといね」 「あつつつつつつ、どうやらドラゴンスレイヤーは認めた人間には刺さらないように出来ているらしいな。それでも結構いてぇけどな」 「なるほど、一筋縄で行かないわけだね」 テディが呪文を唱えだした。 「なんだ? この異様な雰囲気は!」 「あははははははは、楽しいショウの始まりだよ」 地面が掘りあがり、そして死体がはいでてきた。 「ゾンビだと!」 「グロッグ様は昔ここでたくさん人を殺したらしいね。君が寂しがってると思うから会わせて上げるよ」 服がぼろぼろになっており白骨に近い、いや白骨などときれいなものではなく、土色に染まっており何とか人と見分けられるようなゾンビがあちこちに現れた。 「ひっ! ラ、ライツ……」 「お師匠様……」 「大丈夫だ……俺がこなご……な……に……」 ライツの目に男と女のゾンビが映った。 「どうしたの? ライツ」 「まさか、そんな、確かに記憶にある。あの服は…… 父さん、母さん……」 「え? ライツ今なんて……」 「へぇ、それはいいこと聞いた、。 あははははははは、感動の親子の対面だね」 ライツの親のゾンビが近づく。 「あ、あ、あ……」 ライツは全く動かない。 「あははは、恨みを晴らすといいよ」 「恨みですって!」 フィアが語気を荒げる。 「だってそうだろ? 村が攻められたとき子供の身代わりになって死んだんだからね。そんな子供がのうのうと生きてて自分だけ死ぬなんて馬鹿みたいじゃないか」 「そうなのか? そうなのかよ……父さん、母さん」 父親の手がライツの首に回る。ゆっくりと首を締め付ける。 「うっ……俺を殺すのか? 父さん……」 バキン! ライツの首を締め付けていた腕が割れる。 「お師匠様! フィーさんを連れて逃げてください!」 「アル……おまえ……」 アルがライツの前に立つ。短剣を構えているが、足は震えている。 「…………ぅぅぅぅぅぅぅ」 「ライツ! いいよく聞いて!」 ライツの肩をつかみながらフィアが叫ぶ。 「フィー……」 「あなたはここを襲われた頃、小さな子供だったのよ! そんなあなたがどうして生き残れたの?」 「それは……」 「あなたの両親が命がけで……ううん、命を落としてまであなたを守ろうとしたんじゃないの? そこまでした人があなたを恨んでるの? 少なくともあたしはそうとは思えないわ」 「フィー…………ああ、そうだな!」 「お師匠様! 早く逃げて」 ライツの父親のゾンビがアルを殴りかかる。 そしてライツはそれで受け止めた。 「父さん……どんな形でも会えてうれしいよ。でも、今はごめん……」 ドラゴンスレイヤーを鞘から抜く。 剣を振り回しすべてのゾンビを破壊した。 そして、噴煙だけが残った。 ライツは膝を着いて肩で息をしている。精神的につらかったのだろう。 不意にライツの頭に触れるものがあった。それは暖かく懐かしいものでだった。 「えっ?」 巻き起こった噴煙がライツの両親の姿(ゾンビではなく生前の)として現れた。それだけではない村中で死んだ人々が現れた。 「あれがライツのお父さん」 「父さん、母さん」 ライツの母親が抱き寄せ、父親が頭をなでている。 (大きくなったな、ライツ) (私達の分までどうか生きてね) そしてその姿が徐々にぼやけてくる。 「父さん! 母さん! みんな!」 姿は完全に消えた。 「ライツ……」 「ありがとう、フィー、それにアル。大丈夫だよ俺は……」 「うん、そうね」 「僕も着いてますから」 「おのれぇぇぇぇぇぇぇ」 いきなりテディが叫ぶ。 「おまえら、僕のせっかくのショーをむちゃくちゃにして! ゆるさないよ、殺してやる! ……! ゴフッ……なんだと……」 突然テディの胸から剣が突き出た。 「………………!」 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。 「ゆるさないよ、あんただけは絶対に」 「お、おばさん……」 「あ、あれ、あたしの剣」 そう、ライツが墓地で会った老婆はここの騒ぎで駆けつけたのだ。そして、ライツが教われているのを見て、 「ゆるさないよ、私の息子を殺させはしないよ」 彼女の息子はすでに十年前に死んでいる。十年前は丁度ライツと同じ年ぐらいであった。その息子が死んだときを目の当たりにしていた彼女はすで心身ともにぼろぼろであった。ライツが自分の息子と重なったのであろう。 「この……くずがぁぁぁぁぁぁぁぁ」 テディのカマが彼女の体を貫く。 「ばかな……この僕がこんなことで……死ぬなん……」 それきりテディは動かなくなった。 「おばさん……」 「大丈夫だったかい?」 血でぬれた手でライツの頬をなでる。 「ああ、大丈夫だよ。おば……母さんのおかげで……」 「そうかい……よかった……」 そして力なく手が落ちる。 「安心して仇は必ず取るから…………」 新たな墓が増えることとなった。 そしてアジトに戻ったのは夜中だった。すると一通のライツ宛ての手紙がテーブルの上に置かれてあった。 「これは?」 ライツは手紙を読むと、急に顔がこおばり笛を吹いた。 「どうしたんだい?」 程なくスピアーがくると、 「フィーとアルを頭領のところに連れていってくれ、おまえだったらすぐに着くだろ。それに夜中だと人に見つかりにくいし……」 「うん、分かったよ」 「ちょっと、勝手に話しを進めないでよ。どうしたの急に?」 「そうですよ、お師匠様。僕も行きます」 「悪いがこれは俺一人に任せて欲しい。それから剣を貸してくれないか?」 「うん、別にいいけど……後でちゃんと来てよね」 フィアから小剣を受け取る。 「ああ、アルも」 「お師匠様、なんだか分かりませんけどがんばって下さいね」 「ああ、まかせろ」 そしてアルからも短剣を受け取る。 二人はスピアーの背に乗って飛びだった。 ライツに宛てられた手紙には、こう書かれていた。 『明日の早朝ドラゴンスレイヤーを持ってアイザ城へ来るべし。 どちらが真のドラゴンスレイヤーを持つのがふさわしいか決めるために』 |
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