盗っと勇者  ザ・シーフブレイバー
-- 第十話 二人の勇者 --
                                    作:木村征人


 アイザ城――もともと研究施設の為に建てられたものでありそれほど大きくはない。
しかし、中身は要塞並みの施設があちこちに設置されている。その為、その中に潜入する者などいなかった。
たった一人を除いて……
 その人物は夜明けと共に再び訪れた。
「最初来た時は夜中で気付かなかったが、なかなか綺麗な城だな」
 普段なら閉まっている城門はすでに開いていた。人の気配はまったしない。しかし、すでにこの城のどこかにいるはずである。
「しょうがない……手当たりしだい探すか……
 この城の構造はよく分からないんだよな……」
 あちこち眺めながら場内を歩き回った。金目のものが目にいくのは哀しい盗賊の性(サガ)だろう。
「ここは……」
 ライツは少し広めバルコニーに出た。
「ミルカと初めて出会った場所か……あの時は侍女だと思っていたからな……なんだか懐かしいな……。
 まだ、半月近くしか立っていないのにな……あの時はこんなことになるなんて思いもしなかった。だけど……今は間違い無く俺はここにはいる!」
 ライツが振り向いた先にはシュバルツが立っていた。
「来たか……ライツ」
「やっぱり、勝負をするのか?」
「ここを選んだ理由は貴様には分かるだろう」
 シュバルツが背中の長剣を抜いた。そして、ライツも小剣を抜いた。二人ともドラゴンスレイヤーではない。
「俺の始まりの場所だからだろう?」
「そうだ! そしてあの時、俺はこの城にいた。ただの盗っとだと思っていたがな」
 シュバルツの振り下ろした剣を受け止める。

 ガキッ

 剣が交差する音が鳴る。そして、

 ズガガガガガガガ

 ライツの真後ろの床に割れる。
「なに? 一体何が起こった?」
 剣の衝撃で起こったことなどライツは知ることはなかった。マルスと戦ったときはマルスの頭を傷つけたが、
力の弱いライツは剣を受け止めきれず、そのまま衝撃が真後ろに飛んだのだ。
 シュバルツの攻撃が続く、剣のスピードはジョノバほど早くないが常人よりははるかに早い。
「くっ」
 ライツは城内へ逃げ込み、柱の裏へ隠れる。
「強いと思ったけどまさかここまでとはな」
 シュバルツはライツの隠れている柱に近づき、剣を水平に構え、そのまま柱を刺した。柱を貫通した剣がライツの真横を通る。
「なっ! 冗談だろ!」
 ライツは横に飛ぶが、柱を斬りながらライツの飛んだ方向に剣が向かう。
「ちぃぃぃぃぃぃ!」
 剣でなんとか防ぐがそのまま吹っ飛ぶ。
「この俺が剛剣を扱う事も知らなかったのか?」
「剛剣? 剛剣どころじゃねぇぜ。柱に突き刺しただけならまだしも、いとも簡単に柱ごと斬ることが出来るなんてな!」
元々剣で物質を斬るにはスピードに乗った状態が通常である。しかし、柱を剣に突き刺した状態から強引に剣で柱を斬った。
並みの力では到底無理なのだ。しかも、剣の最も斬れる角度を少しでも間違えれば剣は折れていた。
 ライツは今度は階段へと逃げる。
 何とかシュバルツにドラゴンスレイヤーを抜かせるようにしないと……おそらくシュバルツはドラゴンスレイヤーの特性を知らないはずだ。
 ライツも全く無策と言うわけではなかった。ただ、かなり分の悪いかけである事は間違いなかった。
 ライツが階段を駆け登りジャンプする、その刹那にシュバルツの剣が階段ごと貫く。
「どうした? おまえの力はそんなものか!」
 シュバルツが叫ぶ。
「おまえはどうしてそこまで俺と闘いを望む?」
「おまえさえいなければ俺は勇者になれた。俺は大切なものもすべて失った! 残されたのはこの剣だけだ!」
「俺の剣が欲しいならくれてやるよ」
「頂くさ、おまえの命とともに、な!」
 シュバルツの剣が真上から振り下ろされる。ライツは体を回転させて避ける。シュバルツの剣が床に刺さる。
「はっ!」
 ライツは腰にかけていたドラゴンスレイヤーを抜き、シュバルツの長剣を叩き切った。
「ふっ、ついに抜いたか……」
 そう言ってシュバルツは大剣を抜いた。同じくドラゴンスレイヤーである。
 ついに二つのドラゴンスレイヤーが対峙した。

 ヒュン!

 風きり音と共にライツの小剣が砕ける。
 かする事すら出来ないな、ばれると勝機は完全に無くなる……
 シュバルツの斬撃を受け止める。今まで以上にシュバルツの剣のスピードが上がる。
 ライツは必死で防いでいる。剣の才能は姉が四将軍になれるほどの力を持っていた様に同じ血が流れているライツもまた例外ではなかった。
その才能がシュバルツという強者を相手にしながら徐々に芽生えつつあった。
 そして戦いの場は再びバルコニーに移った。
「シュバルツ、どうしてそこまで執念を燃やせる? 復讐か? グロッグを倒すなら俺も手伝うし、おまえがドラゴンスレイヤーを使えばいい」
「ふっ、おじけついたか……」
「そう、思いたければそう思えばいいさ。俺はおまえと戦う事は本意じゃない」
「おまえを倒さないと意味が無いんだ!
 俺はおまえを倒し真の勇者にならなければならないんだ!」
「違う! 勇者というのは成るもんじゃなく、人々が呼ぶものだ。それに俺は勇者になりたいとは思わない!」
「だが、貴様はドラゴンスレイヤーを持っている。貴様は勇者ではないならなんだというのだ!」
「俺は……俺は――盗賊だ!」
「!」
 ライツがシュバルツに向かって走る。
 シュバルツが剣を振り下ろす。
 よけろ、よけろ、よけろ!
 ライツの頭に剣が徐々に近づく。ライツは上半身をひねる。
「避けられると思っているのか!」
 ライツの右肩に刃が食い込み、そのまま右肩ごと体を切断――できなかった。そしてライツは短剣を取りだし、シュバルツの首筋に当てた。
「俺の勝ちだな」
「なぜだ……なぜ斬れなかった……」
「俺もまたドラゴンスレイヤーに認められていたということだ。ドラゴンスレイヤーは、持ち主と認められた者は斬れないらしいな。
テディの時にそれを知ったんでな。もっともおまえの剣でも通用するかどうか、確証は無かったけどね」
 ライツは右肩をおさえた。
 くっ、鎖骨が砕けたか……
「それだけで……ふっ、ふははははははは。俺よりもおまえのほうが覚悟していたという訳か……」
「えっ?」
「俺はこの戦いで死んでもいいと思った、おまえが俺を倒せるような勇者ならな。だが、勝利の執着する覚悟はおまえのほうが
上だというわけか……ほんの少しの勝機にかけたおまえの勝ちだ」
 ライツは自分のドラゴンスレイヤーをシュバルツに差し出した。
「やるよ」
「なぜだ?」
「言ったろ、俺は盗賊だって……おまえが勇者になればいい。協力しよう! グロッグを倒す為に、そしてミルカを救う為に……
二人で協力すれば絶対勝てる」
「どうやらおまえの相棒が来たようだな」
「え?」
「どちらにしても手遅れだ」
「どういうことだ?」
 シュバルツがライツの後ろへと指をさした。ライツの後ろには……
「そんな! もう封印が解けたというのか!」
 そう、メラがかけた封印はすでに解けていた。国中が、いや世界中がドラゴンに襲われていた。
 ドラゴンが翼を広げながら睨みつけていた。ドラゴンは口を開く。そして口の奥が光る。
 そうか、予感はこれだったのか……あの木のコップが割れたのはこの事を意味していたのか……このまま俺は……
 そして、ドラゴンのブレスは城の上部をこなごなに破壊した。

                             



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