盗っと勇者 ザ・シーフブレイバー -- 第十二話 レジョンドオブシーフ -- 作:木村征人 |
ドラゴンスレイヤーを持ち、ドラゴンに乗る盗賊が、三つ首のドラゴンへと立ち向かう。 「さて、どうすっかな? 不完全といえどもあの巨体だし……」 「どちらにしろ、近づくしかないけどね。ブレスも効かないと思うし…… ライツ……」 「いい案でもあるのか?」 「うん、かなり危険だけどやってみる価値はあるけど?」 「ドラゴンスレイヤーが効かないときは、それしかないな……」 スピアーは周りのドラゴンに目もくれず三つ首のブレスを避けながら近づく。 「かなり強烈なブレスだな……」 「もう少し……懐にもぐり込めればブレスはないから……」 「食われないようにしてくれよ!」 「わかってるよ、それより振り落とされないようにね」 大きな口をあけてスピアーを狙う。一口で丸のみされてしまうだろう。 スピアーは縦横無尽に飛び回りライツは剣を抜く事すら出来ず、しがみつくのがやっとであった。 「ちぃ、こんな事なら手綱でも買っておくんだった……」 さすがにスピアーでも手綱をつけられるのは嫌がるだろうが…… 突然スピアーが急停止する。目の前にドラゴンの顔が通りすぎた。スピアーの飛ぶ方向を予測していたようだが、スピアーのほうが一枚上手だった。 「今だよ!」 スピアーが叫ぶ。ライツのすぐ横にドラゴンの首があった。 ドラゴンスレイヤーを抜いて、ドラゴンの首に切りつけた。 ガギンッ! 「くっ! 巨体に見合うだけの強度は持っているという事か……」 ドラゴンスレイヤーはあっさり弾き返された。グロッグの魔法で強化されたドラゴン並、いやそれ以上だろう。 目を狙ってもいいのだが、それによって滅茶苦茶に暴れられても困る。だとすれば…… 「やっぱり、おまえの考えを実行するしかないな」 「うん!」 スピアーはいきなり高度を上げた。三つ首のドラゴンの真上にはドラゴンが群れを成している。その中へスピアーは突っ込んでいく。 「いきなり、おまえは何を!」 「言ったでしょ? かなり危険だって」 「確かに言ったが、行動の主旨がよめねえぞ!」 確かにスピアーの行動ははっきり言って自殺行為に等しい。今いるドラゴンはざっと見ても百近くはいる。その密集地帯に入るのだから、八方から襲われるのは目に見えている。いくらドラゴンスレイヤーといえども遠距離からブレスで狙われたりすればやられるだろう。 「こんなにドラゴンがいるのは弱点があるからなんだ!」 「弱点?」 「とにかくあの数を相手にやるしかない!」 「わかった!」 『バシン!』と自分の頬を叩いて気合を入れ、そして鞘から剣を抜く。 近くにいたドラゴンの首を切る。そして、次のドラゴンの顔を真っ二つにする。 スピアーもまたブレスでドラゴンを打ち落とす。 「くっ、まずい」 遠くにいたドラゴンがブレスを吐く。ライツに直撃する刹那。 ブレスは急激に角度を変えて他のドラゴンに当たる。 「な、なんだ今のは! スピアーもしかしておまえが?」 「そうだよ、僕の得意技なんだ。範囲は狭いけど一時的に空間を曲げられるんだ。ただし、一度に一箇所しか無理なんだけど」 「もしかして、前の飛行船の砲弾がそれたのも、そうなのか?」 「結局、曲げきれなかったけどね」 ドラゴン達の攻撃は増すがドラゴンスレイヤーとスピアーの能力で何とか持ちこたえていた。 「くそっ、次から次へと!」 「ここだ! ライツ、下にクリスタルが見えるだろう?」 「ああ、あれを壊せばいいんのか?」 「ちがうよ、あの中に入るんだ」 「なんだって! 入る事が出来るものなのか……あれは?」 この高度からクリスタルに叩きつけられれば命は無い。 「ドラゴンスレイヤーを持っている君なら……信じられないかい?」 「信じてるさ、おまえの言葉ならいつも」 「……そうか…… 今だ飛び降りて!」 クリスタルの真上でライツ飛び降りた。 落下している途中、ドラゴンが襲いかかってくる。 「せい!」 ドラゴンスレイヤーを振り下ろし撃退する。 別のドラゴンがブレスを吐く。 「ちぃぃ!」 しかし、再びライツに当たる直前にブレスが曲がる。 「あいつがやってくれたのか!」 ライツが見上げた瞬間、スピアーはドラゴンのブレスによって貫かれた。一箇所しか使えない特殊能力をライツに使ったのだ。 「……ぁぁぁぁぁ。ス、スピアァァァァ!」 「初めて僕の名前を呼んでくれたね。う、嬉しいよ。もう僕は、く、悔いは……な……いよ……」 次々と襲いかかるブレスにスピアーは包まれた。 馬鹿野郎! 満足したみたいに自分勝手に死にやがって。 ライツの瞳から滴が流れた。 「南無三!」 ライツは身を縮めてクリスタルの……中に入る事が出来た。 「ん……つ……ここは……」 ライツは体を持ち上げた。ライツがクリスタルの中に入る事が出来、どれくらい経っただろうか……数秒ぐらいして初めてライツは気絶していた事を知った。辺りを見回すが見た事もない……というかまるで別世界に来たような感覚にとらわれた。 床がクリスタルブルーに彩られ、霧のようなものが辺りを包んでいるがそれも少し青みがかっている。なんだか空間自体が揺れているような感じもする。 「これは?」 ライツは近くに飾られていた水晶に気付く。 「よく来ましたね……ライツ」 どこからともなく声がする。辺りを見まわすが誰もいない……そして水晶前に女性が現れた。 その女性は白い布をただ巻きつけたような服装をしており、絹のような黒髪がかなり長く腰下まで伸びている。凛とした表情の下は力強い意思を感じる。まるで神殿の巫女のような神々しささえ感じられる。 「映像?」 ライツは前に巨大なグロックが城で映し出されたのを思い出した。 「少し違います。確かに私は実体は無いですが、話す事も出来ますし、考える事も出来ます。思念体のようなものと思ってもらえばいいですね。 少しお話をしましょうか……」 「悪いがそんな暇は無いんだ…… こうしてる今もドラゴンの犠牲になっている人がいるかも知れないんだからな」 「大丈夫です、ここの時間軸はかなり早いんです。実際あなたもかなり長い時間気絶していましたが、外の時間は全く経っていませんよ」 「そうなのか? うー……それならまあいいけど」 なぜだかライツは信じられる事が出来た。それは彼女から来る雰囲気もあっただろうが……それよりも…… どっかで見た事があるんだよな…… 「まず私の紹介したほうがいいですね、私は運命の三女神の一人ウルズです」 「な、なんだってぇ!」 ライツは驚きの声を上げた。 「そうか、髪が長くて分からなかったがメラにそっくりだ」 「そうですね、メラは私の生まれ変わりですから……」 「だけど、今ここにいるのは?」 「思念体みたいなものですよ。わたしはここにあってここにない存在なのですから」 「わかったような……わからないような」 いまいち理解できなかったが一応納得する事にした。 「あなたは聞きたい事があるのではないですか?」 「そうだな……まずはあの巨大なドラゴンは一体何なんだ?」 「これはもともと……あなた方が神々の時代と呼ぶ時代のドラゴンです。その強大さゆえに作り出すには強力な魔力を持つ者、つまり三女神の一人である私が生贄とされたのです」 「生贄か……だからグロッグは三女神の一人であるミルカを拉致したのか」 「そして、同時に勇者と呼ばれる人物がいました。わたしを助けるために命がけで戦ってくれました。とても優しく博識でそして勇敢な人でした。少し不器用な人でしたけどね」 ウルズは思い出したようにクスリと笑った。 「私は彼に好意を寄せていました」 シュバルツとメラの関係によく似ているな。 「勇者だとするとこのドラゴンスレイヤーを持っていたのか?」 「はい。しかし、その頃のドラゴンは今の比ではなかったのです。そのドラゴンによってドラゴンスレイヤーは真っ二つに折れてしまったのです。 私とそして彼は最後の手段としてその身を犠牲にしドラゴンを封印したのです。私は命を落とし水晶となり、彼はドラゴンスレイヤーと共に記憶を封印し、ドラゴンとなったのです」 「ドラゴン……まさか!」 「はい、あなた方にはスピアーと言ったほうがいいですね」 「そうか……だからあいつはドラゴンなのに色々知っていたのか……」 「しかし、そこに目をつけたのがグロッグでした。わたしも勇者を存在させる為にドラゴンスレイヤーの封印をときました。しかし、グロッグは私が思っていた以上の存在でした。ドラゴンスレイヤーを持つことが出来る存在、勇者の資質を持つシュバルツに呪いの呪符をほどこし、意識をそぎとり、シュバルツの命を手中にしたのです。 私はあせりました。しかし、幸運にも二つに砕けたドラゴンスレイヤーの片割れをスピアーと出会っていたあなたに託したのです。本来ならば呪いを解かれたシュバルツが勇者となり、あなたはその従者となる予定でした」 「従者……」 ライツは少し苦笑いを浮かべた。 「しかし、二人はお互いいがみ合う存在だったのです」 「ちょっと待ってくれ、シュバルツはともかく俺は!」 「そうでしょうか? あなたはシュバルツの四将軍という地位の高さをねたんでいたのでは無いのでしょうか、だからこそ勇者という名を嫌っていたのではないのですか? そしてシュバルツはあなたの自由さに! だからあなたの声に耳を貸さなかったのではないのでしょうか。魂無き言葉に意味を成しません」 「…………………」 「しかし、決着のついた後あなたの本心を聞かされたからこそ、あなたを助けたのです。もっと早く和解出来ていたのなら、二人で力を合わせこのドラゴンを倒せていたはずです。いえ、その復活すら阻止できたはずです」 「確かに、俺は勇者になりたいんじゃなく、盗賊に勇者なんて似合わないと思っていた。盗賊として育った俺はどこまで行っても所詮盗賊。そこから変わろうとすら思わなかった。姉さんが死んだとき、シュバルツじゃなく俺が四将軍なら助けられたと思っていた。 でも違うんだな。変わろうと思えば変われたんだ。変わらなければならないんだな。何事にもとらわれずに!」 「くすっ、あなたはあの人によく似てますね。しかし、グロッグもまた悲しき人だと忘れてはいけません」 「どういうことだ?」 「彼は子供の頃、南西の塔の参謀を勤めていた父親を持っていました。父親はとても正義感が強く。そのころ塔の権力者達が着服し続けていた金や宝石を返し、すぐに止めるように訴えました。しかし、それを父親に擦りつけ、家族ともども死刑になるところでした。 彼は家族が逃がしてくれたおかげで何とか逃げ延びましたが、彼の心は憎悪で満たされてしまいました」 「似ているな、俺と……」 もし俺が記憶をなくしていなかったらと思うとぞっとする。グロッグを恨み、自分もまたグロッグと同じような存在となっていたのかもな。 「だからといって、許せるわけじゃないじゃねえか!」 「確かにそうです。しかし、人はいつも光の面と暗闇の面を持っていることを忘れないで下さい」 「まるでこれからも俺に勇者を続けろとでも言いたげな口ぶりだな」 「それは、あなた次第です。さて、少し長話が過ぎたようですね。 この水晶をドラゴンスレイヤーで割ってください」 「ちょっと待ってくれ、そんなことをすればあんたは?」 「消えるでしょう。しかし、私は元々ここにいない存在、この水晶を砕いて私を解放してください」 「…………分かった。本当ならあなたを助けることが出来ればいいんだけど、俺はそんな力を持っていない…………だから……すまないな…………」 「構いません、これは私の願いなのですから」 「分かった……」 「今までの思いのすべてを剣に込めてこの水晶を割ってください」 「俺の思い……」 たった二週間ぐらいしか経っていないのに色々あったな……宝石を盗んだ頃はこんなことになるなんて思いもしなかったのにな。 でも俺は今この場にいることは事実。いろいろな人が礎となって今俺がいる。 父さんや母さん、村のみんな、メラやシュバルツそしてスピアー、命を投げ出して救ってくれた。 俺はこの思いを……すべて! 剣が光り輝く。 「この剣に込める!」 あの時の予感は当たっていた、あの旅立ちの前日に割れた木のコップのように俺は水晶を割るのだ! パァァァァァァァァァァァン! 水晶が、そしてドラゴンスレイヤーが砕け散った。 ライツがクリスタルに入った瞬間、突然三つ首のドラゴンは苦しみだし光を放った。その光は世界中を覆った。光に飲み込まれたドラゴンは消えていった。家を焼き払っていたドラゴン、今まさに人を食らおうとしていたドラゴン。すべてのドラゴンが消えていった。死んだのか、それとももとの世界に戻ったのかは分からない。しかし、ドラゴンは次々に消えていった。もちろん三つ首のドラゴンも。 今まさにこの瞬間に世界は救われたのだ。 様々な噂が流れた。神の奇跡だとか、偉大な魔法使いのおかげだとか……中でも最も多く流れたのが―― 「ミルカ姫と逃げた盗賊がドラゴンに乗りながらドラゴンをこう! 『ズバッズバッ』っと切り倒していったんだ」 「王都まで連れていった盗賊がさっそうと現れ、ドラゴンを『かかって来るならかかって来い』といわんばかりにドラゴンを切り捨て、ドラゴンにのって飛び立っていったんだ」 ――ドラゴンに乗った盗賊だという。 後にその盗賊は勇者呼ばれることとなった。 国中、いや世界中で人々は救われたことに感謝し、永遠とも思える宴が行われていた。しかし、その中にライツの姿は無かった。 そして、一年の月日が流れた。 |
13話 エピローグへ |
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