ときメモ2ほぼオールスターズ海水浴
                                    作:木村征人



この創作小説は『ときめきメモリアル2』(コナミ)の世界及びキャラクターを使用しています。



     
 
 月日が経つのは早いもの
 後、半年足らずで高校生活に終止符が打たれる。
 それをまるで忘れるかのように海へやって来た。しかもいつものひびきの市にある海ではなく、ひびきの市からかなり離れた穴場というにふさわしい海だ。たしかに、人は結構いるがシーズン真っ盛りの、人と人の間に海水があるような海岸とはだんちであった。
 ギラギラと照りつける太陽。それに負けじと砂浜も熱くもえる。
 照りつける太陽から逃れるようにビーチパラソルの下で折り畳み式のデッキチェアに寝かしていた体を半分起こし、かけていたサングラスを下にずらし惨劇の場を遠くから眺める。
「何やってんだか……」
 好戦的な人間(特にほむら)が伊集院メイをボコボコにしている。その周りをクルクル回りながら「ああ、メイ様の代わりにわたしをぶってぇ」と危ない言葉を出しながら咲之進が踊っている。陽ノ下光と麻生華澄の幼なじみである藤井豊が呆れるのも無理がなかった。
「どうしたの、そんなところに座ったままで」
 八重花桜梨が見下ろしながら豊に笑いかける。
 夏の暑さを一瞬忘れるような涼しげな笑み、しかしそれ以上に優しく豊にだけ見せる笑顔だった。
「…………」
「どうしたの? ぼーっとして」
「あ、いや何でもないよ」
 花桜梨の笑顔に思わず見とれていたなんて言えるはずもなかった。
「せっかくみんな一緒にきたんだから、もっと楽しまないとね」
「ああ、そうだな。……でも、あれが終わってからな」
 豊が指を差す方向には、まだ惨劇は繰りひげられていた。
 さて、なぜひびきの市から離れた、しかもみんなで海に来たかというとそれは今から一ヶ月ほど遡る。
 テスト期間直前、社会の時間、豊のクラスの男子生徒による不用意な一言がとある先生の機嫌をそこね、その生徒を張り倒した後半分以上ある時間を切り上げ出ていってしまったのだ。普段なら喜ぶ事ができるが今はテスト前、その生徒はクラス全員にボコボコにされた。しかも、次の授業では中断された部分をあっさり飛ばされいた。
 そんなことがあって仕方なく光のいるクラス、つまり社会で飛ばされたところが分かるクラス。教えてくれそうなところで真っ先に思い当たったのは光だった。
 昼休みに引き受けてくれた光の説明を聞きながら、テストがうざいとかだるいとか言っていると、いつの間にいたのか麻生華澄が「それじゃあ、夏休みにみんなで海に行きましょう」と言い出した。
「でも、いつも人がいっぱいだからなー」
 そういいながらぼやいていると、
「それならいいところがあるよ」
 いきなり湧いて出た匠が、穴場の海水浴場を教えてくれた。一見いいやつなのだがここは匠の匠たる由縁、海水浴へ行くことが一気に広まり、あれよあれよという間に一クラス分の人数が集まった。ほんとうならもっと大人数になってもよかったのだが、生徒会はほむらと共に委員会の仕事、後はその日の都合とか、受験勉強とかで不参加。この海水浴に参加するのは生徒だけではなかった。この原因というかきっかけを作った麻生華澄、他数名の先生も参加することになった。ついでに言うなら泊りがけと言うのも知らない間に決まった。
 校長の許可を取ろうとして掛け合ったところ、あっさり了承。校長も行きたがっていたが丁重にご遠慮願った。真夏のくそ熱いときに、さらにむさ苦しいのがついてきたらうっとうしいことこの上ない。しかもふんどし派だろう、たぶん。
 出発の日。大人数でぞろぞろと電車に乗るのも……ということでレンタカーで大型バスを借りた。しかし、ここでの問題は誰も大型免許を持っていないと思われたのだが……
「大型免許もっていたんですねぇ」
「わははははは、昔知り合いからトラックの運ちゃんが似合うってゆわれたッスからねえ」
 社会科の先生、つまり中村加奈先生が、バスを運転していた。
 ねじりハチマキをして、たばこをくわえたまま嬉しそうなかおをして、でっけぇハンドルを回している、半袖姿で作業用ズボンの加奈先生が安易にそして具体的に想像できた。
「たしかに、加奈ネェなら似合いそうだな」
「やっぱりそう思……ほ、ほむら会長!?」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 豊の言葉に全員が驚きの声を発した。
「よぉ!」
「『よぉ!』じゃねーよ! 一体どこに……ってその体型ならどこにでも隠れられるか……」
「おまえ、今失礼な事言わなかったか?」
 豊は軽く咳払いをして、
「それより生徒会の仕事は?」
「にげた」
 さも当然という風に言ってのけた。
「あ、あっさりと……とにかくもどるぞ!」
「無理ッス、もう手後れッス」
「ニヒヒヒヒヒヒヒヒ、そういうことだ」
 加奈先生の言葉にほむらは意地の悪い笑みを浮かべた。
 確かに予定では、夕方について次の朝から泳ぐことになっていた。しかし、今から戻るとなると、着くのは深夜、もしくは明け方になってしまう。
 要するに確信犯と言うやつである。
「大丈夫だって、ここにいるなんて絶対に分からないって!」
(むりだ!)
 豊は心の中で叫んだ。ほむらがこういうイベントが大好きなのは周知の事実。もちろん生徒会、委員会も知らないはずがない。
 かくして……いきなり着く前から不安だらけの旅行となってしまった。
 予定より少し遅れて民宿に到着した。着いた途端疲労が一気に噴き出したのか、加奈先生は爆睡。
 豊と花桜梨と光の三人で明日すいか割りをするために、すいかを買いに出かけた。もっとも、すいかをもらうのは明日でそれまですいかを冷やしてもらうためである。
「すいませーん! すいかが欲しいんですが……」
「あいよ、いらっしゃ……」
 中から出て来た人物を豊は指差しながら、
「舞佳さん!」
「少年!」
 二人同時に声を上げた。
「どうしてこんなにところに? まあ大体俺たちがここに来るのを華澄さんから聞いたっといったところでしょう?」
「あははははは、まあそんなところだ。しかし、両手に花だねぇ、少年」
「え? あははははは。まいったなぁ」
 豊はどちらに好意を持っているのかを聞かれないようにわざと照れたフリをした。
「それじゃあ。明日すいかを取りに行くからよろしく!」
 これ以上いてはやばいと思い、とっとと退散した。
「う〜ん、少年はどっちに気があるのかねぇ。明日が楽しみだ」
 しかし、舞佳には通用しなかった。
 
 さて、旅の疲れもあって年寄り連中(失礼)は、さっささと寝てしまった。で、起きている連中はお約束な怪談話で盛り上がる予定だったが、なかなか怖い話と言うもの難しい。結局、話し方が一番うまい匠の独壇場になった。
「きゃああああああああああああああ!」
「光、匠の話よりお前の叫び声が、怖い」
「だって、だって……」
 豊の腕に光が抱きついている。
「だいたい、何で俺が殺人鬼なんだ?」
「わたしが一番不幸な気が……」
 豊と花桜梨が少し不満そうに言う。
「まあまあ、話に親近感があったほうがいいだろ?」
「でも、あたしやみんなを殺さなくても……」
 光はまだ涙目になりながらも、少し落ち着きを取り戻して来た。
 パリン
 部屋の中心でガラスの割れたような音が響く。
「………………」
 水を打ったような沈黙。
「い、いまのって……」
「いうな、匠。みんな分かっていて黙ってるんだから……」
「う、うん」
「妖精さんですわ〜」
 白雪美帆の言葉に、(ズザザザ)っとほとんどみんな(花桜梨以外)は美帆から離れる。
「いやですわ、妖精さんたら〜」
 何やら楽しそうに何かと会話しているのを眺めながら、
「なあ、今白雪さんと話してるのって……」
「ああ、少なくとも妖精じゃないだろうな」
 匠の率直な疑問に素直に答える豊。
「しかし、八重さんは冷静だね」
「ああ、花桜梨さん。そろそろ戻ろうぜ。みんないなくなったし」
 美帆の行動によって、みんなとっとと逃げ出していた。
「花桜梨さん?」
 花桜梨の異常に気付いたのか、手で花桜梨の顔前を振ってみる。
「気絶している……」
 仕方なく花桜梨を部屋から運び出すが……
「お、重い……」
 花桜梨が起きている時には絶対に言えないセリフだった。
 ちなみに、美帆はずっとほったらかしだった。
 
 翌朝、怪談話をした部屋も一応誰かが寝泊まりする部屋だが、部屋を変えてくれとみんなで泣いて頼んでいる風景が見られた。
 そして、当初の目的の海水浴。麻生華澄が寝ぼけることもなくばっちり起きたと言えばみんなの今朝の行動は分かるだろう。
 ちなみに総番長、筋肉番長、火の玉番長、木枯らし番長らは山へ昇って更なる番長の極みとかの修行しに行った。当然ながらバイト番長はいなかったことを付け加えておく。今、かきいれどきだし……
 全員水着に着替えて海岸に来たところでいきなり脱落者が一人、言うまでもなく穂刈純一郎だった。海を目の前にして砂浜で血の海を作っていた。
「さーてと、俺はナンパしに行くかな」
「上手いもんがあるといいッスねぇ」
 結城鋼先生と加奈先生は泳がずにフラフラしていた。
 手当たり次第にナンパしまくって振られつづける鋼先生と、手当たり次第食べ続けながらナンパしてくる相手を張り倒し続ける加奈先生の対照的な構図がが日没で続いていたと言う。
 さて、みんなでパシャパシャと泳いでいると、いきなり!
 ズバシャァァァァァァァン
 大きな音を立てながら水中から潜水艦が現れた。
「おいおい、誰だよこんな非常識をするやつは?」
「こんな事するやつは、一人しかいねーだろ」
 ほむらがビッと指差すと、
「やい! 出てきやがれ、伊集院メイ」
「にゃーはっはっはっはっはっ、庶民共久しぶりなのだ」
 ほむらの指摘どうり中から伊集院メイが出て来た、もちろん咲ノ進も一緒だ。
「……そういえば匠が誘ったけど、『メイは庶民と遊んでいるほど暇ではないのだ』と言って断ったって聞いたけど……」
「…………………………」
 豊の言葉にメイはすっかり黙ってしまった。
「さみしかったんだねぇ……」
 豊がぼそりとそういうと、
「そ、そんなことととは、ないぞ、お主らと、遊びたいなんて、全くもって不本意なことだぞ、メイは。だいたいメイは――」
 どもりと本音を交じらせながらしゃべり出した。
「ま、いいけどね。俺はかまわないけど。どうだ? 会長」
「あたしは別に構わないぜ」
「分かればいいのだ!」
 全く分からないのだが、とりあえずメイも加わることになった。
「豊くんの携帯が鳴ってるわよ」
 花桜梨が豊に携帯を手渡す。
「ああ、サンキュウ。誰だろう、名前が出てないな
 はい、もしもし?」
「そっちに会長いる!?」
 とてつもなく重苦しい声が聞こえた。しかし、確かに聞き覚えのある声だった。
「た、橘吹雪さん!」
「そっちに会長いる!?」
 ほむらは、手をクロスさせて必死に×マークを作っている。
「ええ、いますよここに」
 豊は正直に答えた。
「てめぇ、なんで教えるんだ!」
「え? 教えろと言う意思表示じゃなかったのか?」
 つかみ掛かるほむらに、ひょうひょうと答える。もちろんわざとだった。もっとも後で吹雪が怖いと言うのもあるが。
「しょうがないわねぇ。で、橘さんはどうしたの?」
 あきれながら、花桜梨は吹雪がどうなったか聞いて来た。
「え、ああ。会長がいるって教えたら切れた」
「切れたって、あの橘さんがあっさりと?」
「もしかして、ここに来る気じゃあ……」
 吹雪はもちろん免許を持っていない。電車に乗ると言う方法があるが、道順がとにかくややこしい。車にした理由もこれが含まれていた。
 あとは、ヒッチハイクか徒歩しかないのだが……後者の理由が全くないとは言えない。
 吹雪は今いらついている。人はいらついている時ほどじっとしているのは嫌なはず。つまり車を待つ気にはないだろう。当然電車でおとなしく待ってはいない。とすれば、選択肢は一つしかない。
「ま、まさかねぇ……」
「あは、あははははは」
 ぬぐいきれない不安をかき消すには笑うしかなかった。そして……
「おーい、すいかもって来たよー」
 光がすいかを持った手をぶんぶん振りまわしてもって来た。
「あれ? 一個だけか?」
「うん、舞佳さんが『すいか割りした後でもどーせみんな食わないだろう』って……」
「身も蓋もないな、あの人は……確かにそうかもしれないけど。
 おーい! すいか割りをするぞー!」
 みんながどやどやと集まってくる。
「すいか割り? なんだそれは」
 メイがきょとんとした顔で聞いてくる。
「だっせぇ、知らねぇのかよ!」
 ほむらが思いっきり馬鹿にして言う。
「うるさいのだ、いいから教えるのだ」
「要するに、すいかを壊せばいいんだよ」
 豊がメイに目隠しさせて木の棒を渡す。
「ふん、そんな簡単なことでいいのだな」
 くるくるとメイを回すと少しふらつきながらなんとかバランスを取り戻し進んでいく。
「もっと右だぞ、右」
 ほむらがここぞとばかり嘘を教える。もちろんあたるはずもなく(スカッスカッ)と外している。そういうのもそれはそれで楽しい。しかし、メイはそういかなかった。
「む〜、咲ノ進!」
「はい」
ドグォォォォォォォォォォォォオン
 いつの間に爆弾を埋め込んでいたのか、すいかの真下の地面が大爆発をおこした。すいかはもちろん粉砕、それだけでなく砂が舞い上がりみんなの頭へ雨のように砂が降りかかった。みんな砂まみれになった。
 一人大量の砂に埋もれた不幸なやつがいたがあえて言わないで置く。
「にゃぁぁぁぁぁはっはっはっはっは、どうだこれでよいのであろう。
 …………ほえ?」
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
 みんながメイを睨み付けている。それに気付きそのままメイは黙り込んでしまう。
「えーと、…………あはは」
「『あはは』じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
 メイに向かってみんなが殴り付ける。
 ここで長くなったがやっと冒頭にリンクする。
 光と佐倉楓子、寿美幸が新しいすいかを買いに行った。寿ねらいの匠もついていった。少々人数が多い気がするが、寿のことだからなんかやらかすだろうと言って誰も反対はしなかった。
 ちなみに今度は数個のすいかをもって来たが、やっぱりあまりみんな食べなかったが、ほむらと加奈先生が食いまくっていた。
 
「んー、夕方になると少し寒いわねぇ」
 豊と花桜梨は岬にある展望台に昇って夕日を眺めていた。
 豊はシンプルな青のパーカー、花桜梨は少しシックな色のパーカーを水着の上から着ている。ここへ来る前に二人で一緒にショッピング街で買ったのだ。
「きれいね」
「ああ」
 豊は夕陽色に染まる花桜梨の顔を見つめていた。
「なにしてるのぉ?」
「おわ!」
 いきなり寿美幸が姿を現した。
「な、なんだ寿さんか……どうしたんだ?」
「うん、この先にね引き潮の間だったら歩いて島まで行ける場所があるんだって」
「へ〜」
「そんな場所があるんだ」
 豊と花桜梨は正直に感心した。
「だけど、渡ってから満ち潮になると帰ってこれなくなるけどね。
 今から行ってみない?」
「………………」
「………………」
 しばしの沈黙、
「ん? どうしたの」
「えっと、俺たちまだ他の場所に行かないと行けないから、なぁ花桜梨さん」
「う、うん。そうよね。それじゃあ私たち急ぐから」
「それじゃあしょうがないねえ。一人で行ってくるよ」
「う、うん。それじゃあ」
 豊と花桜梨はとっとと逃げ出した。
 一時間後、
「うわ、なんだこのでっけえゴキブリ」
「つっついてやれ」
「まだ生きてるぞ、いじめちゃえ」
 満ち潮に流された寿美幸が浦島太郎のカメよろしく子供たちにいじめられていた。もっとも助けてくれるような人が運良く通りがからなかったが。
 
 そして夜。
 民宿に帰ったみんなは風呂へみんな上がり込んだ。
 なぜかこの宿は女風呂がやたらと広く、男風呂がめちゃくちゃ狭かった。
 両風呂の隔たりの壁の上部に少し隙間がある。つまり、女風呂の話し声は丸聞こえである。
 
「一文字さんて胸大きいのね」
「や、やだなあ、僕恥ずかしいよ」
 
「花桜梨さんの奴何言ってるんだか……」
「うっ……」
 純が鼻を押さえると、
「こんなのところで鼻血だすな」
ゴスッ
 洗面器で頭を殴り倒した。
「おい、いくらなんでもカドで殴るなよ。倒れたまま起き上がらないぞ」
 鋼先生が注意を促すが、
「じゃあ、先生。湯船を血で染めたいですか?」
「う! それはまあ嫌だけど……」
 となりからキャイキャイと声が聞こえてくる。そして、
 ゴチーン
 聞いてるだけで痛くなってくる音が響いた。
「今の音たぶん寿さんだろうな……」
「そだね……」
 頭を洗っていた匠がさして心配せずに答えた。
 
 部屋の中から騒がしく話し声が聞こえる。
 コンコン
 部屋のドアをたたく。
「ん、どうぞ」
 水無月琴子が部屋の中から答えた。
「加奈先生がみんな大広間に集まるようにみんな呼んでこいって……」
 豊がそういいながら部屋を覗き込むと、
「え、あ、そうなの。それじゃあ」
「う、うん。りょ、了解了解」
 花桜梨と光が慌てて部屋をでていった。
「え、あ? 一体どうしたんだ?」
 豊が頭を掻きながら不思議そうな顔をしていると、
「まったく、にぶいわねぇ」
 水無月琴子が頭を抱えていた。
 
 大広間で全員が集まりそして宴会が始まろうとしている。
「野郎ども準備は出来たッスかぁ!」
 過半数が女の子を占めるのに野郎もなにもあったものではなかったがとりあえずみんな気にしないことにした。
「すいませ〜ん」
「なにッスか?」
「準備も何もすっかり出来あがっている人がいますけど……」
「ぬへへへへへへ……」
 さっき来た舞佳がさっそく酔っ払っていた。
「ほっとけばいいッス」
 さすがの加奈先生も呆れた。
「それではみなさん、かんぱーい!」
 そう言って舞佳がグラスを上げた。
『かんぱーい』
「ああ、言われてしまった」
 鋼先生が代わりに乾杯の音頭をとった。
 加奈先生が慌てるがすでにみんな食べ始めていた。
「ふむ。この刺し身なかなかいけるな……」
「豊君刺し身好きなの?」
「ん? ああ。花桜梨さんは嫌いなのか?」
「うん、少し苦手……豊君食べる?」
「サンキュ、ありがたくもらうよ」
「うふふふふふ、少年お前も飲まないか?」
 舞佳が一升瓶片手に豊の後ろからいきなり抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと舞佳さん?」
「ちょっと、何酒を飲ませようとしてるの!」
「か、華澄さん助けて!」
「いいじゃない、ここは学校じゃないんだしさ」
「学校じゃなくても駄目なものは駄目なの」
「そーか、それじゃあ、華澄が飲むか」
「え?」
 一升瓶を強引に香澄の口に突っ込んだ。
「はう……」
 そのまま華澄はばったりと倒れてしまった。
「ふふふふふふふ。相変わらず弱いねぇ。ほら少年、飲め飲め!」
「ま、舞佳さんそんなにくっついたら、胸が……」
「純情だねぇ、おれおれ!」
「うわ、あの、その」
むか
 花桜梨と光は豊と舞佳がいちゃいちゃ(二人にはそう見える)しているのに怒りを覚えた。
 近くにいた鋼先生と加奈先生のコップを引っつかみそのまま一気に飲み干した。もちろん中身は日本酒。
「わぁ、花桜梨、光! おまえらがそんなもの飲んだら!」
「ふみゃ」
「あぅぅぅぅぅぅぅ」
 二人とも倒れてしまった。
 もう、後は目茶苦茶である。ほとんどみんな強制的に酒を飲まされた。
 そうそうと引き上げた連中はともかく完全に巻き込まれた連中は壮絶だった。結城鋼先生と中村加奈先生は飲み比べで共に自爆、水無月琴子は純に必死に日本のあり方について語り掛ける。ほむらはキュイィインとドリルを回しながら暴れている。一文字茜がやみくもに出したパンチが寿美幸見事にヒットし吹っ飛んでいった。「あたしの酒が飲めねーのかぁ!」と叫びまくっている九段下舞佳。『パシパリミシ』といくつものラップ音を鳴らしながらもみんな気付かない。それを楽しそうに話す白雪美帆。
 そしてなぜか痙攣している陽ノ下光と一升瓶を抱きかかえて寝ている八重花桜梨。
 
「う、う〜ん」
 約一時間後、惨劇の大広間で花桜梨は目を覚ました。
「みんな、しょうがないわねぇ……」
 都合よく自分のことは忘れてた。
 そして、きょろきょろと誰も目を覚ましていないのを確かめると、豊の頬にそっとくちづけをして自分の部屋へと帰っていった。
 
おまけ
 朝早くに、一昼夜通してやつてきたらしい(服がヅタボロ)橘吹雪が、『う、頭痛い〜。死ぬ〜』とさすがに二日酔いに勝てなかった赤井ほむらを引きずって帰って行った。
 




あとがき

少々時期はずれでしたね。そう言えば今年は海に行かなかったな。
実は物語に出てきた匠の怪談話、実は例のホラーSSなんです。
しかし、どうやってあれを話にしたのは秘密だ。



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