勇者へのエチュード 
-- 第三話 王都崩壊 --
                                    作:木村征人



 朝、港町フーリーから一人の男が帰って来た。
「二十年前とはかなり雰囲気が変わったな。
 まあいい。さて家出した我が息子を探しにいくとするかな。どこかで馬でも借りることが出来れば今日の晩にはなんとか着けるんだがな」
 
 そう言いながら地面に楔のようなものを突き立てた。
 その頃ライツ達は馬車で名所をあちこち周っていたのだが、
「えーと、こちらが別名ドラゴンの爪跡と言われてますぅ」
 ガイドのアクアが手で示す。王都の近くから続いている半円に削られた道のようなものが続いている。
「もともとぉ、魔道砲の実験に照射されたせいらしいですぅ。勇者さんが、この魔道砲を防いだといわれてますが本当かどうかいまだに不明ですぅ」
 といった感じに王都の南へと向かい、
「えーと、こちらがドラゴンの墓地といわれますぅ。勇者が倒したドラゴンがそのまま残ってますぅ」
 確かにドラゴンの骨らしきものはある。
 しかし、いまいち張りぼてに見えるのは気のせいだろうか? のり付けされた跡が微妙に見えるんだけど……
 ケインが呆れながら眺めている。横を見るとセレナも同様のようであった。
「さて皆さん、馬車を降りてください。こちらがかの有名なドラゴンスレイヤーですぅ」
 そのドラゴンスレイヤーは何故か岩に剣が突き刺さっていた。
「戦いを終えた勇者が再び剣を抜ける者が現われるまでこの岩に突き立てたそうですぅ。今までもいろいろな人が挑戦しましたが抜けることは出来なかったそうです。どうです挑戦して見ませんか?」
 剣を岩に突き立てるという行為にいまいち意味がわからないが。一応ケインやセレナ、ついでにティピも剣を抜こうとしたが当然無理であった。当然この剣は抜けないように細工してある。
「でもでもぉ、ドラゴンスレイヤーはこの大陸だけで十三本あるんですよねぇ。不思議なこともありますねぇ」
「おいおい……」
 ケインは頭を抱える。
 ちなみに昨日またドラゴンスレイヤーが一本追加され十四本。来月辺りにはもう一本増えているかも知れない。
「さて、ここから西の塔が二本立っているのが見えますか? 半分しかない塔はグロッグが大陸を征服する宣戦布告のために破壊したものです。その後取り壊しの声があったのですが、そのままに保存という状態にされすぐ隣に新しい塔が建設されました」
 などと嘘と本当が入り混じった。その大半が嘘であったがともかくツアーは終わった。
 再び、近くの町の宿で泊まり、いよいよ明日は王都へ。
 その晩、夜が明ける数時間ほど前王都の盗賊ギルドでは、
「お、お頭ぁ!」
 奥にいる盗賊ギルドをしきる頭目を呼んだ。
「なんだ騒々しいぞ」
「い、いきなり変な男がお頭に会わせろと殴り込んで来やがった!」
 
 ドガァァァァァァ!
 
 仲間の盗賊が扉を突き破って吹っ飛んで来た。その扉の奥からロングソードを腰に持った男が現れた。
「な、なに……も……の……」
「お前がここの頭目か……」
 奥に座っている四十過ぎの男を睨みつけた。
「間違いない……全然変わっていない……どういうことだ?」
「俺を知っているのか?」
「ああ、昔アイザ城の一件の時に俺も参加していた。ここにいる古参どもはあんたの顔を知っているはずだ。もっともあんたは俺をその他大勢としか見ていないから知らないのは当然だがな」
「ほう、だったら話は早い。あんたらに依頼したいことがある。これが依頼料だ」
 そう言って男は金の詰まった小袋を手渡した。
「ほう、それだけの大金をもらえれば文句はないな。もっともあんたほどの男が依頼するということはそれだけ大仕事なんだろうな」
「なに、簡単なことだ。もうすぐここで大混乱が起きる。その時に王都にいる人間を逃げることが出来るように誘導してくれ」
「大混乱? なんでそんなことが分かるんだ……?」
「まあ、ちょっとな……」
 男はニヒルに笑った。
 
 そして、次の日の昼過ぎ。
「へぇ、ここが王都か……」
 ケイン達は王都に着いていた。ケインはきょろきょろと物珍しそうに辺りを眺めていた。セレナもきょろきょろと辺りを眺めている。もっともセレナはなにかを警戒している様だったが。
 その姿をにこやかに眺めながらアクアはケイン達に話しかけた。
「ケインさん、セレナさん、ティピちゃん。短い間でしたけど楽しかったですよ」
「あ、アクアさん。ありがとうございます。奇妙なツアーでしたけど楽しかったですよ」
「じゃあねー」
「また縁が合ったら会いましょうね」
 ケイン、ティピはそれぞれアクアと握手(ティピはアクアの指を掴んだだけだが)を交わした。
 そしてセレナと握手を交わした時、
「あの……セレナさん。あなたはもしかして……」
 アクアはセレナになにか言おうしたが、すぐに首を振って、
「楽しんで来て下さいね!」
 と笑顔を浮かべた。
 王都の中に入るとセレナはやたらと辺りを警戒し、持っていたハンカチで口を隠す簡単な変装をしていた。しかし怪しさ全開であった。
「どうしたんだ? セレナは」
 ケインはセレナの不審な行動に頭をひねっていた。
 
 そしてアイザ城では、
「なんだこの空気は……」
 アイザ城に忍び込んでいた男は辺りに立ち込める異様な空気を感じていた。
「これは瘴気といったほうがいいな。まだ相手の正体がはっきりしないが思ったよりも厄介な奴らしいな」
 そして男の背後には突然現れた剣士が剣を振り下ろした。
 ガギン
 地面に火花が散る。男は剣を間一髪避けた。
「な、なんだこいつは!」
 剣士は血のような真っ赤な鎧を着ており、無機質な目の部分だけ穴が空いている真っ白な仮面を被っていた。
「ちっ、ろくな武器を持っていないってのによ!」
 男は逃げ出そうとしたが、上空から黒装束の男がカマを振り下ろしてきた。
「うわっ!」
 ガギッ
 迫るカマを持っていたロングソードで防ぐ。
「侵入者か……いや盗賊か?」
 カマを持っていた男が呟く。
「まずいな……挟まれたか……」
 男がどう逃げるか考えを巡らせていると、
 
 ドゥオォォォォォォォォォォォォォ!!
 
 街から爆裂音が鳴り響いた。
 カマの男が爆裂音に気を取られた瞬間、男が閃光弾を投げつけた。
 まばゆい光が走る。
「くっ……」
 光が消えた時は男は姿を消していた。
「街が……なんて力だ、結局正体は分からなかったがとんでもないやつだということだけは確かだな。街の混乱を出来るだけ抑えてくれればいいんだが……」
 
 そして、ケイン達は……
「な、なんだ今の衝撃は……」
 ケインは突然起きた衝撃に尻餅をついた。
「分からないけど、城の頂上からなにか魔法のようなものを放ったような……」
 セレナがケインを助けおこしながら言う。
「あれが魔法……こんな強烈な魔法があるのか?」
「ま、街の一部が無くなってるよ……」
 上空へ飛んだティピが呟く。街のあちこちで炎が昇る。
 
 ドゥオォォォォォォォォォォォォォ!!
 
 再び、爆裂音が響く。その爆発の余波はケイン達を飲み込もうとする。
「ま、まずい。逃げきれ……」
 男が空中に居たティピをつかみ、
「ケイン! 俺につかまれ!」
「なっ!」
「えっ?」
 ケインとセレナは動揺しながらも男につかまった。
「飛ぶぞ! しっかり掴まれよ」
「ちょっ、ちょっと待てオヤ――――」
 ケインの声はかき消えた。四人の姿とともに。
 この日を境に王都は崩壊の一途をたどる。
 
「やはりまだ力の制御がきかんか……」
「仕方ないでしょうなぁ……」
 座っている男に向かって眼鏡をかけている男が呟く。
「さきほどどうやら侵入者が現われたようですが……」
「ほおっておけ……それよりもあの装置はいつ完成する?」
「しばしお待ちを。まだ魔力の充填のためには数日かかかります」
「だったらその間少し暴れさせろよ」
 蒼い服を着た男が邪悪に顔を歪ませる。
「これだから知能の無い人は……」
 眼鏡の男は溜息をついた。
「ふん、大体気にいらねぇんだよ。あの赤い鎧の奴が、なんであいつが俺達と一緒にいやがるんだ。気にいらねぇ、気にいらねぇんだよ!」
 一瞬、空気がはじける。
「仕方ありませんねえ、ここより少し西の方向にそれなりに大きい町があります。好きにして下さい」
「ひゃははははは、そうこなくちゃな!」
 蒼い服の男はこうもりのような羽を広げ飛びだった。




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