勇者へのエチュード 
--  第八話 遥かなる時空の彼方へ --
                                    作:木村征人



「どうするのかね? 帝王ジェラード」
 巨大なガラス玉が連なる暗く壮言な大部屋。世界中の国王がこのガラス玉に映り話し合っていた。もちろんこのガラス玉は魔道具で出来ている。世界中で顔を見せて通信できる。
 もっとも使用用途のなさと、あまりに高価な為国王ぐらいしか持っていなかった。しかも相互においていかなければならない為、国王の人数分の魔道具が必要であった。
 そして今、世界中の王――ただしアリオスト王国を除く――の会合が始まっていた。今の異様な状態を打開する為である。
 ライツ達がアリオスト王国に向かって数日経った後異変が起こった。アリオスト王国から三本の塔の周りにまで闇が広がった。その闇の正体をつかむ為調査を行なわれたのが闇が広がった後一週間たっていた。
「現状はどうなっている? 」
 一人の王の質問にジェラードが答える。
「はい、今もなお闇は広がりつつあります。その闇に包まれた場所はもはや人が住めるような場所ではなく、生物はおろか植物も死の世界と化しています。
 しかも一年後にはこの世界を覆ってしまうと言われています。
 そして……」
 ジェラードは自分の不安を見せまいとして一拍おいた後、
「そして勇者も王都へ向かった後現在行方不明となっております」
 ジェラードの言葉がどよめきを起こす。しかし、ただ一人例外がいた。デラス皇国の老王ジュエムであった。
「ふぉふぉふぉ、勇者とやらも所詮その程度な者よ」
 その言葉にジェラードは怒りを覚えるがおしとどめる。
「それは……どのような意味なのでしょうか……?」
「つまり勇者も魔族の前では無力ということ」
 その言葉に他の王が立ち上がった。
「ま、魔族だと! ばかな、空想の化け物のはずだ」
「空想ではない、確かに存在するのだ。ジェラード公は知っておるようだったが?」
「ぐっ……あなたは……なんて不用意な言葉をだすのですか……」
 ジェラードの言葉通り、王達は落ちつきなくうろたえている。
「簡単なことじゃ、わが国が魔族を倒すということだ」
「なっ! あなたかたが魔族を倒せるというのですか」
「そうだ。元々魔族がアリオスト王国を占領していることを知っていたのは我が国が世界最大の魔法大国だからこそ。ならば我が国のみが魔族を倒せることが出きるということだ。魔族には魔法の力が必要不可欠だからの。
 たとえば……わしの側近のシルバ」
 ジュエムの後ろから男が現れた。白い神官服をまとっており能面のように眉一つ動いていない。
「こやつは例え並の魔法使いを千人相手したとしても引けを取らぬ。シルバ程ではないにしても有能な魔法兵を多数抱えておる。
 他の国の協力など要らぬ魔族などわしらの国だけで十分じゃ。特に勇者の存在を盲信しておる国など特にな」
 ジュエムの姿がガラス玉から消えた。
「帝王ジェラード、とにかくデラス皇国に任せてみようではないか」
「…………」
 そう言い残し全ての王が姿を消した。
 『ふうっ』とジェーラドは溜息をつく。それを見かねたレインがジェラードに話しかける。
「ジェーラド様、ジュエム皇は――」
 その言葉をジェラードは制した。
「分かっている。彼もまた世界を救おうとしているのだ。それを止めることは出来まい。それよりあの計画はどこまで進んでいる?」
「はい、数日中には確実に」
「そうか、もしデラス皇国が駄目であった場合世界を救う計画はこれしかないからな」
 デラス皇国を見捨てるようなものだが、今は自分が出来ることをするのが最重要である。ライツがアリオスト王国に向か追うとした時、この考えを伝えていた。ライツもこの作戦を伝えた時感心していた。
 もし自分が駄目だった場合、これを実行してくれとライツは言っていた。まさに最後の作戦とも言えた。しかし、
「ですが、あの計画を実行するには……」
「ああ、ライツの、勇者の存在が必要だ……
 ライツ、お前は今どこにいるんだ」
 ジェラードは苦々しく呟いた。
 ライツは必ず戻ってくると言っていた。この作戦を成功させるために。

「ん……ここは?」
 ケインは見なれない天井を目にした。ガチャリと部屋の奥にある扉が開く。
「目覚めたか?」
 扉の向こうからライツが現れる。
「うえ〜ん、良かったよぉ」
 ベッドに座っていた泣きつきながらティピが抱きつく。
「親父……」
 ライツは慌ててケインの言葉を押さえた。
「ここではお前の兄ということになっている。さすがにこの顔でお前の父親というのは無理があるからな」
「……まあいいけど、ここはどこだ?」
「宿屋だ。お前は三日も寝たままだったんだからな。とにかく目が覚めて良かった」
「そんなに……」
「しかし大変なことになった。何せ今はアルド暦五百二十七年なんだからな」
「どういうことだ? 今ウリエス暦千二百九十五年だろ?」
「ウリエス暦に変わるのは三十年後だ」
「ボケたのか?」
 ケインの言葉にいささかむっとしたがかるく咳払いする。
「ボケたのでも冗談でもない。今は確かにアルド暦五百二十七年にいるんだ。俺達は」
「それってつまり……」
「ああ、約千三百年前の時代に飛ばされたらしい」
「嘘だろ……」
 ようやく泣き止んだティピがケインの肩に乗る。
「ううん、ライツの言ったとおりみたいだよ」
「……ティピ。お前えらく落ちついているな」
「まあ、長い人生。こういうこともあるわよ」
 長い人生……そういえばケインが子供の時から姿形は変わっていない。
「ティピお前、いくつだよ」
「やーね、乙女に歳を聞くなんて失礼だよ」
 そう言ってティピはそっぽむいた。どうやらとても長生きしているらしい。
「そういえばお袋達とセレナは?」
 ライツは首を振った。
「さあな、近くにはお前とティピしかいなかった。俺達と同じようにこの時代に飛ばされたと思うが、どこにいるか検討もつかんな」
「…………なんで俺達は飛ばされたんだ?」
「これはあくまで憶測だが、魔族が住む世界、魔界を無理やり作ったんだろう。
 元々二十年前のドラゴンの召喚で世界自体の次元が不安定だったからな……その余波で時空の穴に吸いこまれたんだろうな」
「やたらと詳しいな……」
「まあな、まあ俺も女神から受け売りのだがな」
 ライツは二十年前に出会った女神を思い浮かべていた。
「…………まあいいけど、それよりこれからどうするんだ?」
「ああ、まず三人を探す、そして元の時代に戻る方法を探す。その為にも情報を集めないとな」
 それと俺にも魔族を倒せる剣がないとな。
 ライツは魔族に無力だったことを痛感していた。魔法を使えるフィー、ミルカ、セレナ、そして精霊の剣を持つケインらは魔族に十分対抗できるが、ティピと同レベルに今のライツは役立たずであった。
「それにしてもよくここの宿代払えたな?」
「ああ、俺は金よりも宝石を持つ主義だからな。交渉も通貨よりも宝石をちらつかせた方がうまく行く場合が多い。
 実際、俺が盗賊ギルドの交渉に使う時はほとんど金や宝石で扱ってるしな」
 ライツの説明が一区切りついた後、新たに女性が部屋に入ってきた。
「あのー、お食事を持ってきました」
「え? もしかして……」
 ケインは驚いた。
 料理が乗ったトレイを持ってきたのは褐色の肌に長い耳、そしてどこかポワーンとした顔つきの女性。ガイドのアクアであった。
 ケインの顔を見ると、トレイを投げ捨ててケインに抱きついた。
「おっと!」
 ライツがトレイをダイビングキャッチする。料理は少しもこぼれていないところはさすがであった。
「な、なんでアクアさんがこんなところに」
 思いがけない人物の登場にうろたえた。
「彼女とはついさっき会ったばかりだ。ティピが教えてくれた。お前らの知り合いだとな」
 トレイを持ちながら眺めていたライツが呟く。
「でも、どうしてここに?」
「ケインさんを見つけて駆け寄った途端になんだか分からないですけど吹き飛ばされたみたいな感じがあって、目が覚めると見たことのない場所だったんで、途方に暮れているあたしをティピちゃんが見つけてくれたんです」
「だけど俺達とわかれた後、親父が盗賊達に頼んでみんなを非難させたはずじゃあ……」
「ああ、俺が王都の盗賊ギルドに頼んで王都にいる人間を近くの町まで避難させるように指示した」
 アクアは恥ずかしそうにもじもじしながら、
「あの……確かに近くの町まで連れて行ってもらったんですが……
 …………………その町で迷子になってたんです」
「それでもガイドかよ…………しかもなぜ迷子で王都に戻る………………」
 ケインは頭を押さえる。
「ミルカと同類項か……」
 ライツも呆れている。
「でも、ここって一体どこなんでかぁ?
 会社の近くに楔に突き刺したはずのラグナも全く動かないですしぃ」
「まあ、当然だな……瞬間移動できても時間移動まで出来ないからな。しかし良く買えたな、ラグナは即日完売だったはずだが?」
「あたしはよく迷子になるのでお店の人が発売日前日に売ってくれたんです」
「なるほど……」
 アクアのもっともな答え方にライツは苦笑いを浮かべた。
「あの〜、それで状況が全くわかりませんけど」
「ケイン、お前が説明してやれ」
 ちゃっかりライツは運ばれてきた食事を食っていた。
「えー、なんでだよ! あ〜そうだな…………そ・う・だ」
 ケインが悪どい笑みを浮かべる。
「今飯を食っているのが、俺の親父でアクアさんが会いたがっていた。勇者ライツだよ」
 しばらくアクアの口がぽかんと開けた後、
「ええぇぇぇぇぇ! そうなんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ケイン、てめぇ」
 ライツは自分があまり勇者と名乗りたがらない、父親の性格をよく知り、アクアが勇者に会いたがっていると知っての見事な作戦であった。
「わぁわぁわぁわぁわぁ、あたしずっとファンだったんですぅ! あのあのあの、サインしてください! それよりも握手が……どうしましょどうしましょ」
 普段からは想像も出来ない言動が飛び交う、かなり舞いあがっているらしい。
「あの……いや……その……な……」
 どうしようか困っているライツを尻目にケインとティピはのほほんと食事をとっていた。



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