勇者へのエチュード
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第十一話 砂漠の都  --
                                    作:木村征人



 途中、砂漠のバザーへ行く途中の行商人の馬車に乗せてもらい。巨大なオアシスによって作られた町バルドーラへ着いた。
今はまだ昼間だが、夜になればあちこちで露店が開かれる。とりあえず七人は宿で今晩に備えて昼寝をすることになった。
 が、ライツは途中で目が覚め少し外で散歩した後、再び宿で自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いているセレナを見つけた。
「セレナ王女、眠れないのですか?」
「あ、ライツ様。ええ、母様たちはぐっすり眠っていますけど」
「まあ、色々とあって気が張っていたんだろうな」
「二人ともライツ様を信用しているんですね」
「そうかな? よく分からないけどな。
 それよりセレナ王女は一人っ子でしたね?」
「ええ、そうですけど……」
「もしかしたら……いや、それよりもセレナ王女は精霊魔法は何が使えるんですか?」
「えっと、風のシルフ、炎のサラマンダー、水のウンディーネ、大地のノーム。
 残りの精霊はまだ契約をかわしていないので」
 精霊魔法は通常の魔法と違い精霊と契約を交わさなければならない。場所的なものもあってセレナは他の精霊は契約できていなかった。
 もっとも契約を交わせる素質も必要だが。
「それでしたらこれを」
「これは?」
「氷の精霊セルシウスの力が込められたクリスタルです。これなら契約を交わすことができるはずです」
「わぁ! ありがとうこざいます。さっそく試してきますね」
 セレナが飛び跳ねながら表に出ていくのを見送ると、
「やれやれ、せわしない人だな。さて、俺はもう少し寝るかな」
 『うん』っと伸びをした後部屋へ戻った。
 日は暮れて、町は本当の姿を現す。
 人は己の欲望を満たすべくものを捜し求める。特に女性陣は……
「さてとかしましい人達はおいとくとして」
 セレナ、アクア、フィア、ミルカはすでにいない。
 ついでに言うならライツが持っていた宝石の半分をひったくって行った。おそらく色々と買い漁る気だろう。スピアーが旅で必要なものを負担してくれるので先立つものが心配なくなったのだ。
「俺は剣を探しに行くが二人はどうする?」
「ふぁ。俺はどこかで飯でも食ってくるよ」
 まだ寝たりないのかあくびをしながらケインが答える。
「私は情報屋へ行きます」
「そうか、それじゃあまたあとでな」

「うーん、あんまりたいしたのねえな」
 ライツはあちこちの行商人の店を覗いたが、たいした物ではなかったりまがい物などがほとんどであった。
「ん? へえこの時代にもあるんだな」
 ライツはナイフを手に取り、
「これをもらおう。いい武器が手に入る場所を知らないか?」
「それならこの町の奥に行けばいいものを置いているはずですぜ」
 そう言って行商人は手を差し出した。
「がめついなぁ……ほらよ」
 ライツは小ぶりの宝石を投げてよこした。

 町の奥へ行くと一人の男が剣を鞘から納めた後、金を払っているのを見つけた。遠目でも分かるかなりの代物であった。
 ライツは行商人の老人に走り寄った。
「さっきの男が買ったような剣はもうないのか?」
「あれ一本のみでございます」
「ちっ!」
 ライツはさっきの男を追いかけた。
「真の武器はは人を選ぶ、あの剣は二人のどちらを選ぶのかの」
 行商人の老人は静かに言った。
 男が酒場に入っていくのを見つけた。
「すまないが……合い席いいか?」
「ああ、構わないが。席は空いているぜ」
 ライツはウエイトレスに頼んだ後、その男の正面に座った。
「ラム酒をくれ。お前に用があってな」
「ほう……で用件は?」
「その剣を譲って欲しい。その剣を売ってくれ。その剣を買った三倍払ってもいい」
 ライツは男に詰め寄った。
「悪いがこの剣は売れないな。やっと見つけたんだこの風牙の剣はな」
「ふうがのけん?」
「なんだ知らなかったのかよ」
「ああ、ちらりと見かけただけだがかなりのものだと思ってな」
「見る目はある様だな。いいかこの魔剣はそこら辺の剣とは格が違う。
 どういう方法かは知らないが精霊の力を封じ込めている剣がこの世に数本ある。その中の一つがこれだ。この剣には風の精霊シルフが封じ込められている。
 たとえば……」
 男がちらりと店の脇を見る。
「てめえ!」
「お! やろうってのか?」
 店の端で酔っ払いがいきなりケンカを始めようとしているのを、
「フンッ!」
 男が剣を振るった。

 ズギャギャギャ!

 剣によって牙のごとく巻き起こるかまいたちが酔っ払いのいるテーブルを真っ二つに破壊した。
「すげぇ……」
「あのー、困るんですけど……弁償してくれませんか?」
 少し幼さを残したウエイトレスがはらはらと涙を流していた。
「まあ、そういうわけだ。またな」
 ライツは男が店を出ていくのを追いかけようとした時ウエイトレスに捕まった。
「さっきの人の連れですよね。代わりに弁償してください」
「ああ、全くもう! ほらよ」
 ライツは宝石を一つウエイトレスに投げてよこした。捨て値で売っても店を丸ごと改装できるだろう。
 ウエイトレスに呼びとめられた気もしたがそんなのに構っている暇はなかった。
「しつこいな」
「悪いが、売ってくれるまでついてまわるつもりなんでね」
「何をやっているんだ?」
 二人のやりとりに割って入った人間がいた。
「スピアー!」
 二人は同時にその名を呼んだ。
「なんだお前の連れだったのか」
「ここで会うとは奇遇だなリグレス」
 リグレス? この男が。四聖士の一人の魔剣使いじゃないか。
 勇者スピアーと共に戦った人間は三人いる。ウルズ王女もその一人である。スピアーを入れた四人の仲間たちを四聖士と呼ばれている。四将軍の元となった言われている。
 よくよく考えるとライツもその四聖士がいたのだ。
「それで何をやっているんだ?」
「その……譲って欲しいものがあるんです」
 スピアーに見つめられライツはしどろもどろになった。
「そいつが風牙を売ってくれといっている」
「なるほどな、お前が捜し求めていた剣の一つだからな。
 ライツ、こいつのことだからどんな大金を積まれても売らないと思うが」
「だからといってあきらめる事は出来ません」
 ライツも頑として譲らなかった。

 バキィィィィィィィ!

 町の壁が砕ける。
「モンスター!」
 砕けた壁からまるで体中毛だらけの巨大なゴリラのようなモンスターが現れた。
 その突然の招かれざる侵入者に町は混乱に陥る。
 モンスターの動きは早く、露店をなぎ倒しながら暴れている。
「なんでこんなところにモンスターが」
 スピアーは剣を構えた。
「この風牙で!」
 リグレスは剣を振るうが、別の方向から来たモンスターに飛ばされる。
「リグレス!」
 ライツがモンスターを切りつけるが、
 ガギッ!
「なに!」
 ライツの剣はそのハガネの体毛で弾かれる。
「だめだ。こいつの体毛は硬すぎる」
 スピアーも同様だった。
「剣さえあれば………………
 よし!」
 ライツは駆け出した。
「借りるよ!」
 ライツはリグレスが落した剣を拾い上げた。
 なるほど、いい剣だ。手に吸いつく様に、手の一部みたいな感じだ。
「来な、化け物ども」
 ライツの剣がモンスターは切り裂く。その存在に気付いた他のモンスターがライツに向かう。
 三体のモンスターがライツに向かう。その一瞬後ライツはモンスターの後ろに立っていた。少し遅れてモンスターは血を吹き出して倒れる。
「たあぁぁぁぁぁぁ!」
 騒ぎを聞きつけたケインが精霊の剣でモンスターを倒す。巨体だけあってケインの攻撃も当たる。
 ケインの無駄の多い動きに対し、ライツは洗練されていた。まるで踊っている様にライツは剣を振るう。剣を振るうごとにモンスターは倒れていく。
 一体のモンスターが逃げ出そうとしていた。
「まずい、表通りに出るつもりか!」
 モンスターが進入したのは裏通り、人がそれ程いないのだが。表通りはさすがに違う。最悪死人が出るかも知れない。
「風の牙を使え!」
 リグレスであった。
「そうか!」
 ライツが剣を振るう。

 ギュバババババババババ

 巻き起こる風の波がモンスターを粉砕する。
「ふぅ、これで終わりか……」
 ライツは風牙の剣を返そうとすると、リグレスは首を横に振った。
「持っていけ」
「えっ?」
「おまえが持っていた方がいいらしいな」
「ありがとう」
 ライツは頭を下げた。
「よかったのかリグレス?」
 スピアーが笑いながら聞いてくる。スピアー自身もライツが持つにふさわしいと思っているのだろう。
「ああ、どうやら俺は剣の腕前を先に鍛えた方がよさそうだ。それまでこちらの剣がお似合いだな」
 リグレスはライツが前の町で買った剣を拾い上げた。
 ライツはしばらく剣をもてあそんでいたが、
「そういえばスピアーは情報を手に入れたのか?」
「いや、呼峰山(こほうざん)はさすがに知らないらしいな」
「呼峰山を探していたのか」
 呆れたようにリグレスを言った。
「知っているのか?」
「ああ、ここから北をずっと行ったところにある。昨日シェルはそこに行くと言っていたが」
「あいつか……また変なものを作ったんじゃないだろうな」
 スピアーが頭を抱える。
 シェル……あの旧文明を研究していた四聖士の一人か……この頃から四人は知り合いだったんだな。
 そういえばリグレスが様々な剣を持っていたが風の剣は譲り渡したとあったな。なるほどこういうことか……
「それじゃあ次の目的地は呼峰山か」
「ああ、そこにドラゴンがいると聞いてね」
「え? 聞いたかオヤ……兄貴」
「聞いたよ」
 ケインは興奮したように言ったのに対してライツは落ちついていた。
 呼峰山の名前を聞いた時見当はついていた。スピアーがドラゴンスレイヤーを手に入れのはその名前の山であった。
「何かあったの?」
 のほほんとした声で言ったのはセレナであった。アクアもフィアもミルカも一緒だった。
「おまえらな……」
 その姿を見てライツは溜息をつく。
 四人とも着ている服が見事にすり変わっていた。おそらく今までずっと店を巡っていたのだろう。

 そしてゼイラード帝国では、
「帝王ジェラードよ、お主の策に賛同させてもらおう。他の国も同じ意見だ」
「アリオスト王国の盗賊ギルドもこの策に賛同し千人以上集まったと報告がありました。数日後に決行する予定です。
 しかし…………この策にはどうしても必要な人間が……」
 ジェラードは心配事が一つあった。ジェラードの策には絶対的なカリスマを持つ存在が必要になる。それをライツとケインに託すつもりだったが居場所が分からない今どうしようもなかった。
「それならば我らに任せてもらおう!」
「おお、そなた達は!」
 二人の老騎士がジェラードの前に現れた。
                               



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