勇者へのエチュード
--  第十二話 ドラゴンの山  --
                                    作:木村征人



「はあ! とお! てや!」
 ケインが大きな木剣を振り回している。
「もう少し脇を締めて、剣を振る時にではなく剣が当たる瞬間に力をこめるように」
 それに対してスピアーが剣を受け止めている。
 バルドーラを出てから、宿に一泊することになった。町らしいものは辺りになくはたして宿としての経営が成り立つかどうかは怪しかったが、やたらとこぎれいでサービスに高級な紅茶を出してくれた。
 シェルはその宿で出会った。どうやら強引について来るらしい。
 新しい爆弾でドラゴンを倒すと豪語しているが、実際怪しい。
 ライツは椅子に座りながら二人を眺めていた。
「ケインがうらやましい?」
 フィアがライツに紅茶を手渡した。
「なんだフィー。気付いていたか」
「ええ、ミルカも気付いているみたいよ。あの子も結構鋭いところあるから」
「そうか……」
 かつてライツとフィア、ミルカ達と共に戦ったもう一人の事を思い出していた。それこそ四聖士だとライツは思っている。
 不思議なものだな……昔、俺ともう一人勇者が争い、そして今自分の息子が勇者になろうとしている。そして初代勇者のスピアーと二十年の時を経て再び旅をしているとはな。
「そういえばなんでケインに剣を教えなかったの?」
「俺は我流なんだ。戦いながら剣を覚えたようなものだからな。型も何もない」
 再びライツはスピアーを見る。あまり期待しないでくれと言っていたが、スピアーの教えは完璧といってもよかった。
 ケインが少しでも変な癖をつけようとすればすぐに修正する。基礎から丁寧に教えている。それが手取り足取りでなく、木剣だが実戦形式で教えている。
「はあはあ、ありがとうございました」
 ケインが大量の汗を流しながら頭を下げる。ケインは精霊の剣と同じぐらいの大きな木剣を持っていた。自分の剣の間合いを知る必要もあるし、なによりも筋力をつけるためにライツが強制的にもたせた。
「そうだな……ライツ。お手あわせをお願いできるか?」
「え、俺?」
 スピアーの言葉にライツは驚いた。
「丁度良いじゃない、ほら」
 フィアはライツの背中をポンと押した。
「フィー……そうだな」
 ライツは手頃な木剣を拾い上げ、スッと体勢を低く構えた構えた。
「珍しい型だな」
「我流でね……いくよ」
 ライツの剣がいきなりつきあがる。スピアーの顔に当たる直前、スピアーは防ぐ。今度は突きで狙うが紙一重で避け、スピアーが振りかぶり、横腹を狙い水平に薙ぎる。ライツがそれを受けとめた瞬間、スピアーは剣を放した。空いた手で肘打ちをみぞおちに叩き込む。
 ライツがくの字に曲がる。スピアーの放した剣が地に付く前に掴み、ライツの眉間につきつける。
「ま、参りました」
 その言葉を聞いてスピアーはにっこりと笑う。
「かなり早いな……初動の剣がほとんど見えなかった」
「姉譲りでね。でもそういいながら剣筋を完全に読んでましたけど」
「剣先が少しぶれる癖があったからな、それを直せばスピードも威力ももっと上がるよ」
「…………はい」
 すごいなこの人はたったあれだけで俺の癖を見抜くなんて。
 一応剣の鍛錬は終えた。明日はドラゴンの山に向かう為に早めに休むことになった。
「あれケインは?」
 フィアは飲みかけのティーカップを受け皿に置いた後、にこやかに笑った。
「セレナが雷の精霊ヴォルトの強い場所を見つけたから、ボディガード代わりに連れていかれたわよ」
「ほぅ」
「やっぱりあなたの子供ね……」
「そういうこといわないでくれ、だけどセレナはこれで六精霊全部召喚できることになるんだな」
「あの子の才能も尋常じゃないからね」
「ああ、それに……もしかしたら」
「?」
 フィアは小首をかしげて不思議そうにライツを見つめた。

 翌日の朝早くドラゴンがいるという山へ向かった。
「う〜、楽しみやなぁ。ドラゴンに会えるやなんて!」
 シェルが身震いしながら叫ぶ。
「シェルが女性で発明家というのも驚きましたけど、やたらとはじけてますね……」
「分かるだろ……俺があまり会いたくなかった意味が……」
 ライツの言葉にスピアーは更に深いため息が出る。
 どの書物にも性別も性格も正確に書かれていなかったからなぁ。
「いきなりティピを解剖しようとするには驚いたけどな」
 ケインの髪の毛に隠れているティピを気にしながら言う。
「それよりー、またドラゴンさんに会えるんですよねー。楽しみですー」
「また?」
 ミルカの不注意な発言にシェルが聞き返す。
「うわわわわわ、なんでもない。なんでもない」
 フィアが慌ててミルカを押さえ込む。
「そういえばそうですね、確かライツさんたちは……はう!」
 今度はアクアがしゃべりそうになった時に、セレナが鋭く突っ込む。
「セレナさん、痛いですぅ」
「はいはい、少し静かにしてね」
 そう言ってセレナが促がしいるがアクアが道脇の花に近寄った。
「きれいな花ですねー」
 パクッ
 いきなり花がアクアの手を飲み込んだ。
「みぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
 取って取ってくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「あら、触虫植物ですねー」
 アクアが泣いているのをのんびりとミルカが物珍しそうに眺める。
「騒がしいパーティーだな」
 その光景を眺めていたスピアーがぼやきに、
「そうだな……」
 ライツも同意する。
「でも、大丈夫なのか? まがりなりにもドラゴンなんだろ」
 ケインが心配そうに呟く。
「確かにな……今はおきらくでいいが山頂近くには慎重にしないとな」
 スピアーは腰の剣をぐっと握った。

 頭上には幾重にも雷鳴とどろく呼峰山の山頂。
 ケイン達は大きな岩陰から覗きこむ。どうやらドラゴンは寝ているらしい。
「すげー、鼻息だな……」
 突風のような鼻息で飛ばされないように岩陰に隠れていた。
「それじゃあ寝ているうちにとりあえず爆破を――」
「やめい!」
 爆弾を準備しようとするシェルをケインがどつきまわす。
 それを無視しながらミルカがドラゴンにトコトコ近づきにこやかに笑いながらドラゴンを覗きこむ。
「あらあら、どうやらドラゴンさん狸寝入りしているようですねぇ」
「むぅ、気付いていたか」
 ゆっくりとドラゴンが起きあがる。
 スピアー、ライツが剣を構えるが、
「ちょっと待った!」
 ケインが二人を制する。
「何をするんだケイン?」
「そうですね、このドラゴンは悪い人に見えませんね」
 ケインの変わりにアクアが答える。
「それってつまり……」
 ライツが頭をおさえる。
「蛙の子は蛙と言ったところね」
 フィアは納得したようにうなずいた。
 かつてライツもドラゴンと出会った。一般に知られるように戦って配下においたのではなく、共に戦う仲間として。
 ライツはすっかりドラゴンとの戦闘を予想していたが、ケインが目の前にいるドラゴンの本質を見ぬいた為すっかり拍子抜けしてしまった。
「ほう、なかなか面白いやつらが揃っておるのう。だからこそブレスで焼き殺さなかったがな」
 ドラゴンが笑顔を浮かべた様に見えるがただ恐い。ドラゴンと戦わずにほっとする一同だがただ一人例外がいた。
「納得できるかー!」
 シェルが叫びながら爆弾を投げようとする。
 ドラゴンの軽く吹いたブレスがシェルの手に持っていた爆弾に引火し、

 ズドドドドォォォォォォォォォォォォォォォォン!

 大音響が響く。
「あ、あう……」
 爆発で出来た巨大なクレーターの中心でこげていた。痙攣してしているからには生きているのだろう……たぶん。
「このバカ……」
 スピアーは本気で呆れていた。
「とにかくだ……ドラゴンが協力的なのは助かる。ケイン、お前が話しをつけろ!」
「え? お、俺が!」
「当然だ。ドラゴンの本質を見ぬいたのはお前なんだからな。それにドラゴンに気に入られたみたいだしな」
「昔のライツみたいにね」
 フィアがしつこく繰り返す。
「だからそれを言うな」
 それを横目で見ながらケインは軽く咳払いを口を開いた。
                                  



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