勇者へのエチュード
--  第十三話 勃発!  --
                                    作:木村征人




 ケインが軽く咳払いをして、話そうとした時、
「あ! ストップ」
 ライツがケインをさえぎった。
「何するんだよ」
「悪い、先にスピアーをすませてからにしてくれねぇか?」
 ライツがスピアーの方へ向きなおした。
「スピアー、先にお前の用事を済ませてくれ?」
「え? いいのか」
「ああ、俺達の用事はその……スピアーがいると少しやりにくくてね」
 さすがに未来へ帰りたいと言い出すのは気が引けた。どう考えても変に思われるし……
「あー、びっくりした」
 あっさり目を覚ましたシェル(ススが多少ついているものの何故か無傷)が絶対連れていけと言い出すに決まっていた。
「まぁ、お前がそう言うなら」
 心を落ちつかせる為軽く咳払いをする。
「ドラゴン、あなたが強力な剣を持っていると聞きました。ぜひそれを授けてもらえませんか?」
「ふむ……よかろう。しかし、持てることが出来ればな」
 ドラゴンは口の端を曲げて笑った。
 ケイン達はことの成り行きを息を飲んで見守っている。
「よく見ておけよケイン。伝説ではドラゴンから剣を授かっただけとしか書かれていない。どのように授かったのかはまったくの謎だったんだからな」

 ンンベェゲェェェェェェェェェェェェェエ

 いきなりこの世のものとは思えないうめき声をドラゴンは上げた。
「ぺっ!」
 ドラゴンは口の中から吐いた剣をスピアーの手の中にはきだした。
 その光景を見て盛大に転倒するケイン達。
「何をずっこけているのだ?」
「あー、なんでもない。なんでもないです」
 ライツが手をパタパタと振る。
「ふむ、まあいい。それはともかく持てることが出来た様だな」
「は、はあ……」
 ドラゴンの言葉に曖昧に答えるスピアー。授かった剣は唾液でベトベトになっていた。
 史上最強の剣は史上最悪に汚かった。
「た、確かにこんな形で剣をもらったなんて言えんわな……」
 さすがにライツも幻滅した。自分もこの剣で戦ったことがあるが、こんな形で手渡されていたとはさすがに哀しかった。
「そ、それでどうするんだお前は?」
 スピアーは極力平静を保ちながらライツに向き直った。
「えっと、ここでお別れということになりますね」
 ライツは苦笑いを浮かべた。
「…………そうか」
 スピアーはどういうことか聞きたそうであったが、ライツの顔を見てなにも聞かなかった。
「また、会えるかな?」
 スピアーは右手を差し出した。
「ええ、会えますよ。少なくとも貴方はね」
 ライツは少し躊躇(あの剣を受け取った後で当然だが)したがスピアーとがっちり握手を交わした。
「ケイン、基礎はほぼ完璧だ。だけどここからはお前自身でのびていけよ」
 ケインとも握手を交わし、シェルを引きずりながら山を降りて行った。
 その背中をみんな見送っていた。
「スピアーさん、どうかーお元気でぇ」
 ミルカの言葉を背に受け、スピアーはこちらを振り返らずただ手を上げていた。
 下手にいるとそれだけ別れにくくなるのだろう。その事を分かっているだけにスピアーは簡単な別れですませたのだ。
 ライツは自分の気持ちを切り替えるように頭を振り、
「さて、ケイン。今度こそ頼むぞ」
「ああ。
 ドラゴン。俺達は過去に飛ばされてきたんだ。未来に帰して欲しい」
 あまりにも簡潔な言葉にドラゴンは驚いた顔をしたが、器用にあごを触りながら、
「ううむ、確かにわしなら時空の壁を突き破ることも出来ようが。最低でも五十年の誤差が出来てしまうがよいかな?」
「ごっ! 五十年!」
「おぬしらにとってはかなりの年月であろう」
「ど、どうする親父?」
 さすがにこの答えは予想していなかったようでライツは首を振った。
「はあ、どうする? こうなったら最低でも元の場所に戻れるだけでも良いんじゃない?」
 フィアの言葉にライツはハッと顔を上げた。
「ドラゴン、正確な場所が特定できるものがあればなんとかならないか? その時代に作られた衣服とか道具とか」
「ふむ、それならば二十年の誤差ですむのう」
 ライツは再び考え込んだ。
「これでも、二十年か……もっと特定できることはないのか?」
 ケインがいらだたしくドラゴンを問い詰める。
「ふむ……ここと元の時代をつなぐものがあれば簡単なのだがな」
「まるでなぞなぞだな……」
 ケイン、ライツとフィアは考え込んでいるが一向にアイデアが浮かんでこない。しかしまったく意外な方向から解決策が見出される。
「あのー、ライツさん?」
 遠慮深くアクアがチョイチョイとライツの肩を叩いた。
「これだと駄目なんですか?」
 アクアはポケットからそれを取り出した。
「それはラグナ! あっ!」
 ここに来た頃のアクアの言葉を思い出した。
『会社の近くに楔に突き刺したはずのラグナも全く動かないですしぃ』
 ラグナは二つで一つの魔道具、片方が今も元の時代に突き刺さっているはず。だとすればこれ以上のものはなかった。
「すげぇぞ! よくやった! ただのおまけかと思ったら結構役に立つんだな!」
「は、はぁ……」
 ケインの無遠慮な言葉にさすがにアクアも顔をしかめる。
 ケインはラグナを受取り、
「ドラゴン、これだとまだ駄目か……?」
「しばし、待て………………………………
 ふむ、なるほど。おぬしら中々大変なことに関わっている様だな」
 その言葉に全員がパッと笑みを浮かべる。
「そ、それじゃあ!」
「多少、誤差が生じるかも知れんが許せ。しかしその分サービスしてやろう」
「サービス?」
 セレナが不思議そうな顔を浮かべるが、聞く間もなく六人が光に包まれる。
「では、ゆくぞ」
 光と共に六人は消えた。


「準備OKです。ジェラード様」
 レインが戦闘用の服を着込み、背後には多数の兵が控えていた。
「よし、皆の者よく聞け。これは今までの歴史において最大の決戦となる。なんとしても魔族ども滅ぼさなければ我々に明日はないと思え!
 出陣だ!」
 その言葉と共にレインはラグナのボタンを押した。
 ゼイラード帝国の全兵士がアイザ城のすぐそばまで転移した。
 いや、ゼイラード帝国だけではない。アル率いる盗賊ギルド、そして同じくラグナを手渡された世界中の国王の元、志願した兵達。その中にはエルフやダークエルフ。ゴブリンすらも多数いる。
 世界中に多数の人間を運べる改良型のラグナを渡し、同時刻にアイザ城のそばに転移し総攻撃をしかける。これこそジェラードの考えた作戦であった。
 十万をゆうに超える大部隊であった。

「なるほど、人間たちも中々やるようですな」
 シゲンが眼鏡をスッと上げて冷ややかな瞳で眺める。
「いい退屈しのぎになりそうね、私から行かせてもらうわ」
 ワイズが立ちあがり飛び出して行った。
「それでは私達も行くとしますか……」
 シゲンの声と共に皆が去る。その場はカオスだけとなった。

 その大部隊を指揮をするのは、
「われら二人が指揮をさせてもらうぞ」
 二人の巨漢の老兵がその十万に向けて声をあげた。
 その言葉にどよめく、皆自分たちの上官が指揮すると思い込んでいたのだから当然であった。
「おまえらは何者だ?」
 その中の不満の声をあげる。
「四将軍の一人、バルザ」
「同じくルシード」
「お・お・お・おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
 その言葉に歓声が上がる。
「それではあなた達が勇者の父代わりとされたバルザと、勇者へと導いたルシードなのか!」
 この二人は突然の魔族の攻撃により負傷し、残りの四将軍が二人を逃した。その傷が癒えた後、ゼイラード帝国へと赴いた。
 そこでレインと出会い、ジェラードの前に現れた。
 勇者が伝説視とされていたならば、それにかかわった者たちは英雄視されている。だからこそジェラードもこの二人に指揮を任し、作戦を決行した。
 多少、事実と違ったがこの際どうでもよかった。
 人間、エルフ、ダークエルフ、ゴブリン。連合軍と魔族との戦いの火蓋がついに切って落された。



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