勇者へのエチュード
--  第十四話 勇者降臨  --
                                    作:木村征人




 戦いは圧倒的な数で連合軍が有利と思われた。しかし闇に包まれている世界の中では体が重く思う様に戦えなかった。
 そしてなによりも、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
 一人が悲鳴をあげる。
 確かに魔族はわずか数千。数で押せばなんとかなると思われた。
 が、突然真横から骸骨の化け物が姿を現した。よく見ればさびた剣や鎧を持っている。古くからの戦乱で地中に埋まっていた死体がゾウザの手によってスケルトン兵として敵となったのだ。
 血の歴史のしっぺ返しがここで今最悪な形で起こってしまった。
 スケルトン兵はわずか一万程度。力も魔族に劣る。だが予想外の増援、異形の姿によって、一人の兵士の悲鳴が伝染し混乱が蔓延していく。
 そして空からそれ程多くないとはいえ空を飛べる魔族から奇襲をかけてくる。魔法使いやエルフが魔法で迎撃しようとするが呪文が唱え終わる前に殺されてしまう。
 呪符使いであるレインが敵を砕いていくがほとんど意味がなかった。
「ぬぅ。やはりわしらでは……」
 バルザが苦渋の顔を浮かべる。
 どんなに数が集まっても烏合の衆。それをバルザとルシードの登場によってなんとかまとめることができると思われた。しかしその牙城はいともたやすく崩された。
「貴様ら、どこへ行くつもりだ!」
 アルの怒鳴り声も届かず我先と逃げ出すものまで出始めた。その行く手を阻むかのようにいきなり地面が盛り上がる。
「あはははははは、どこへいくつもり?」
 逃げ出そうとするした人間をゴーレムを召喚したワイズが踏み潰していく。
「ひいぃぃぃぃ、た、たすけてくれぇぇぇぇぇ」
 前方と上には魔族、左右にスケルトン兵、背後にゴーレム。絶体絶命であった。
「だめだ。このままでは……」
 レインが膝をつく。
「今の状態では全滅を待つだけだ。
 どうすれば良いんだ、お師匠様……俺は貴方のようになれません。助けてください……」
 アルの声に呼応するかのように突然天空に光の円が生まれた。
「な、なんだ。あれは……」
 一人の兵士が天空を指差す。全ての兵が戦いを止め、ワイズすらもが手を止め天を見上げた。
 光の円が地上へと魔族と人間を割って入るようにまるで御柱のごとく降り注ぐ。
「て、天空城……」
 誰かがアリオスト王国の二つ名を呟いた。
 その光の御柱の中にケイン、セレナ、ティピ、ライツ、フィア、ミルカの六人がゆっくりと着地した。
「ふぅ……まったく。作戦実行中の真っ只中に飛び込んだみたいだな」
「な、中々派手な登場の仕方をしてしまったみたいだ」
 ライツとケインが呆れながらとぼけた事を言う。
「あのドラゴンのサービスってこれのことだったのね……」
 セレナが額を押さえる。
「に、人間だよな」
「ああ、確かにそう見えるけど……」
 六人の突然の登場に兵士達は思いあぐねている。
「ライツ」
「お師匠様」
「よお、バルザにアル。久しぶりだな」
 ライツは手を振って答える。
「ラ、ライツ?」
「ライツってあの?」
「盗賊勇者ライツなのか?」
 口々にかつての勇者の名を呼び始める。
「そうだ、彼こそが伝説の盗賊勇者ライツだ」
 バルザがライツを指差す。

 オオオオオオオオオオオオォォォォォォオ

 あちこちで歓声が沸く。
「えーっと、つまり……ジェラードの作戦の真っ只中に飛び込んだよな。
 よし!
 俺は二十年前、勇者となり、世界を救った。そして今、俺の息子もまた勇者となった。
 この二人の勇者がいる限り俺達の勝利は確固たるもの。
 今こそ皆の力で魔族を滅ぼすぞ!」
 そしてライツは手を高々と上げ、
「我らに勝利を!」
 たどたどしい演説だったが十分効果があった。その証拠に。

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 さっきよりもはるかに大きな歓声が響く。
 いいねぇ……癖になりそうだ。
「あーあ、変な癖覚えちゃったみたいね……」
 フィアがライツの表情の裏を読みとって呆れていた。
「あははははははは、勇者だって?
 おもしろそーじゃない」
 ワイズの笑い声と共にゴーレムがきしみを上げて動く、あたかも獣のいななきのごとく。
 ライツがジャンプしてワイズに斬りつける。
 しかしワイズは片手で受けとめる。
「この程度なの?」
 ワイズがにやりと笑った瞬間、
「剣に宿りし力よ、今こそ示せ。
 風の牙!」
 ズギャギャギャギャギャギャギャギャ
 ワイズの腕が吹き飛ぶ。
「ひ、ひぎぎぎぎぎぎ、き、貴様!
 ゆ、許さない。たかが人間の分際で!」
 ワイズがゴーレムの体の中に取り込まれていく。
「融合? いや、鎧代わりに中に入っただけか。
 ケイン避けろ!」
「え!?」
 ケインがとっさに剣を構える。
 剣ごしから強烈な衝撃が伝わり、ケインが吹っ飛ばされる。
「な、なんた今のは?」
「どうやらワイズのせいでゴーレムの反応速度が増したみたいね」
 倒れたケインを抱きかかえながらフィアが呟く。
「セレナ王女は炎の精霊魔法を、フィアとミルカも炎の魔法の準備してくれ。ケインと奴でゴーレムに穴をあけるからその中に叩き込め」
 ケインとライツが剣を構える。
「俺が引きつけるからケインから先に攻撃しろ」
 ライツが真正面に立ちはだかる。その隙にケインは横に回りこみ。
「てやぁぁぁぁぁぁ」
 斜めに斬りつける。続いてライツが逆方向から斜めに斬りつけ、
「風の牙!」
 風の衝撃で小さな穴が空く。
「今だ!」
 ライツの声と共に、
「サラマンダー!」
「龍演舞!」
 セレナ、フィアとミルカの声が重なり、炎の渦がゴーレムの穴に吸い込まれゴーレムの中から焼き尽くす。
『ぎいやぁぁぁぁぁぁぁぁ』
 ゴーレムの中から断末魔が聞こえたような気がする。
 ゴーレームもワイズも跡形もなく消し炭となった。
「おお、あの化け物をあっけなく倒すとは……やはり勇者だったんですね」
 ライツには何となくその衛兵に見覚えがあった。
「お前どっかであったような……」
「あ、はい。この間の無礼はどうかお許し下さい」
 衛兵が膝を着いて頭を下げる。
「ああ、おまえか!」
 ライツはポンと手包みを打った。ライツが女王を助ける時に百人の衛兵を引き連れた隊長であった。
「はい、いかように処分して頂いても構いません。ですが、部下だけはお許し頂きたい」
 もともと人情味あふれる人間である。ただ職務に忠実で生真面目過ぎるところもあるが。はっきり言ってライツには苦手なタイプである。
「あー、えーとそうだな……だったら俺達と一緒に戦ってくれ。それでいい」
「はい、分かりました。がんばります」
 まるで子供のような言葉でうなずいた。
「セレナ王女とレインは城の中の魔族を、アルは地下を調べてくれ。
 そしてケイン、お前は……親玉を頼んだぞ。
 俺とフィア、ミルカ。そしてバルザとルシードはここの指揮を。
 空の魔族に対しては魔法使いとエルフは盾を持っている兵と二人一組になれ。兵は防御に徹して呪文を唱え終わるまでなんとしてでも死守しろ」
「あのー、私は?」
 アクアが自分を指差した。
「………………とりあえずエルフ達の所にいてくれ。
 いくぞ!風の牙!」
 かまいたちが敵をなぎ倒し、城の入り口までの道を斬り開いた。
「アル、これを使え!」
 ライツはアルに短剣を投げた。ライツが前にバザーで買ったものであった。
「これは……サンキュ。お師匠様」
 レイン、セレナ、アルは城へ向かって走りだした。
 ケインも向かおうとするが、ライツが引きとめた。
「ケイン、お前はなんのために戦う?」
「俺は―――――――」
「へ?」
 ケインの言葉にライツはぽかんと口をあけた。ケインは顔を少し赤らめてしてみんなを追いかける様に走りだした。
「どうかしたんですか?」
 ミルカがライツの変な顔を見て、不思議そうな顔をした。
「いや、あいつ……旅がしたいってさ」
「は?」
「過去に戻った時みたいに旅をしたい。世界中を旅してみたいから、この世界を守りたいて言い出しやがった。まったく自分勝手な言い分だがな」
 ライツは嬉しそうに笑った。
 ケイン、勇者のエチュード(練習曲)は終わりだ。これからプレリュード(前奏曲)が始まる。頼んだぞ!
「よし、とっととザコどもを片付けるぞ」
 ライツは剣を振るった。



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