勇者へのエチュード
--  第十五話 それぞれの戦い  --
                                    作:木村征人




 セレナ、レイン、アル、そしてケインは城の中へと進入した。
 ライツはこの四人、つまり四聖士に全てを託した。
「俺はこっちに行かせてもらう」
 アルは城の入り口にある脇の道へと向かう。
「牢屋に人がいる可能性があるからな。おまえらは先に行っててくれ」
 アルは二十年前の牢獄の場所を覚えている。
「わかった。だけど後で絶対に来いよ」
 ケインはアルにそう叫んだ。
 そして城の大広間……
「待っていたよ……」
 広間の中央に鎌を携えてゾウザが立っていた。
「ケイン、先に行って!」
 セレナがゾウザの目の前に立った。
「だけどセレナ一人で魔族を相手に……」
「安心してください。私もここに残ります」
 続いてレインがセレナの横に立った。
「婦女子を一人で戦わすわけにはいきませんからね」
 レインは呪符を取り出した。
「僕は別に構わないよ。どうせカオス様に敵うわけがないんだから」
 ゾウザか子供みたいな口調で答える。
「せっかくだからご好意に甘えましょ、魔王を倒すのは主役の、勇者の役目なんだからね」
「分かった。先に行ってるぞ」
 セレナの言葉を受け、ケインがゾウザの脇をすり抜け奥へと向かった。
「勇者かどうかはともかく主役というのはいささか疑問ですが」
「あは、あはは、私もそう思う」
 レインの冷淡な言葉に乾いた笑いを浮かべる。
「それはともかくこの輩をさっさと倒しましょうか」
「ええ!」
 レイン、セレナが戦闘体勢に入った。
「ふふ、少し趣向を凝らしてみようか?」
 ゾウザが軽く手を振ると男が地面から姿を現した。
「貴様は……」
 レインが驚きの言葉をあげた。

 アルが牢獄に辿りつくと牢屋には無数の人達捕らわれていた。デラス皇国の兵隊は全滅している。おそらく闇に包まれた町に住んでいた人々だろう。
「大丈夫か?」
 アルが牢屋に閉じ込められている人間に近づく。
「あなたは?」
 ひどく汚れた男がアルを見つめる。
「助けに来た。今表では世界中の人間が、そして今勇者が魔王を相手に皆戦っている」
「早く逃げろ。ここにも魔王の手下が!」
「手下?」
 アルが背後に迫る気配を感じだ。
「おまえは……」
 あるが短剣を構える。
「私の名はシゲン。カオス様の参謀を務めております」
 シゲンと名乗った男がずれ下がった眼鏡を少し上げる。
「あなたには死んでもらいます」
「悪いが簡単には死ねないんでね!」
 アルはシゲンに斬り込んでいく。

「さて、俺達はザコの相手をするか」
 ライツの出現により兵の士気も上がり、陣形も取れてきている。敵の全滅には時間がかかるだろうがそれ程困難な事ではなくなっていた。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 兵団の中から悲鳴が上がる。
「何が起こった?」
 兵団を蹴散らして赤い鎧をまとった剣士がライツの前に現れた。
「貴様か……」
 ライツが風牙の剣を構える。

 そしてケインも玉座の前の扉を今開けようとしている。
「ここに魔王が……ティピは後ろに下がっていろ」
「う、うん……気をつけてね」
「分かってる。開けるぞ」

 ギィ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 重苦しい音を立ててゆっくりと扉を開く。
「来たか……」
 魔王がゆっくりと立ちあがった。
「そんな! 何故あなたがここに!」
 ケインは剣を抜くことすら忘れ立ち尽くした。

 ゾウザの前に現れた男は瞳に光はなくただ立ちつくしていた。
 セレナは知らなかったが、レインは知っていた。その男を。
「シ、シルバ……」
 レインは名前を呼ぶがまったく反応を示さない。
「誰なんですが? あの人は」
「デラス皇国国王の側近だった男だ。死んでいたと思っていたが」
「そう、死んでいたよ。僕の能力は死人を生き返らせること。ただし僕の駒としてね。ゾンビみたいなものかな」
「貴様……」
 飄々と答えるゾウザに怒りを覚えるレイン。
「外のスケルトンも僕が作ったんだよ。僕は色々と趣向をこらすのが好きだからね。他の人も気に入ってくれれば良いけど」
「趣向?」
 セレナは顔をしかめた。

 ライツと紅の騎士は幾度となく打ち合う。
「痛! 重い剣を打ちやがる」
 紅の騎士の剣が消える。
「なに!?」
 ライツは反射的に顔の真横に剣を立てて防ぐ。
「は、速い……剣筋が見えない」
 ライツと紅の騎士のつばぜり合いにより二人の足元の地面が陥没する。
「力はシュバルツ以上かよ……しかもこいつは魔族じゃない。
 ……なるほどゾンビか……だがいくらゾンビで力が上がっているとはいえこのスピードと力、そして剣の読みの速さは天性のもの……
 何者なんだ?」
 ライツは一歩引いて、再び突っ込む。

 ガギッ

 二人の剣が交差する。紅の騎士の剣の衝撃がライツの真後ろで大地を削る。そしてライツの剣の衝撃は――
「知っています。私は……この人を……」
 ミルカが紅の騎士を見つめる。
「ミルカ知ってるって……」
「フィアさんは知らないのも無理ないです。ライツさんもたった一目会っただけですし……でも、私は何年もの間彼女と一緒にいましたから……」
 ――ライツの剣の衝撃が紅の剣士の仮面と兜に真っ二つに割る。
「彼女?」
「ええ、元四将軍にしてたった一人の女性。音よりも速いと言われた高速の剣士……」
 仮面と兜が地面に落ち素顔を現す。
 その素顔はまさしく……二十年前ミルカとライツを救うべく自ら命を散らした。悲劇の女剣士、ライツの姉ジェノバであった。
「シーラ……姉さん……」
 ライツは服の上から形見のペンダントを握り締めながら茫然とその顔を見つめた。



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