セレナがゾウザに向かって構える。その隙にレインは護符の五望星をかたどる為に走り出す。
「ヴォルト!」
雷がゾウザを捕らえるが紙一重で避ける。
「どうしたんだい? 内緒話をした割にはその程度なのかい?」
「やっぱりね……思ったとおりだわ」
セレナが腕組をしながらバカにした様に睨む。
「あなたはただ死人を蘇らす能力しかないわ。後は逃げ回るしかのうのないザコ魔族と言うわけね」
セレナは鼻で笑った。
「貴様……なら俺の力を見せてやろう」
ゾウザは子供口調ではなく重々しい男の声へと変わった。
ゾウザがセレナに向かって飛ぶが、
「ノーム!」
精霊魔法を使い大地の壁で防ぐ。
「その程度なの? ……えーと、この、こ、この――ヘタレ魔族!」
ズゴシャ!
さすがにこれは聞いたらしくゾウザが思いきり転倒する。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!」
何がいいのかわからないが、グッとガッツポーズを取るセレナ。
「な、中々言ってくれますね……」
ゾウザは平静を保とうとしているが顔が引きつっているのが手に取る様に分かる。
それを見ていたレインは呆れながらも素直に感心していた。
「な、なるほど、勇者に教わった魔族の戦い方という奴ですか」
レインは思い出していた。かつてジェラードと勇者について話しをしていたことを。
ケイン達がアリオスト王国に旅だった少し後のことである。
「ジェラード様いくらあの男がこの国を救った者とはいえ少々勝手にさせ過ぎではないでしょうか?」
「レイン……勇者はどのようなものだと思う?」
「勇者ですか? 人々を救う為に戦う人間でしょうか?」
レインの言葉を聞いて笑い声を上げる。
「ジェラード様?」
「いや、すまぬ。あまりにも基本的な言葉のものだな。ライツはそのようなものからあまりにもかけ離れているぞ」
「そうなのですか? しかし、勇者は実際世界を救い、ジェラード様を救ったのではないのですか?」
「確かにな……しかしあいつはたまたまこの国や世界を救っていたにすぎない。」
「たまたま……ですか?」
「ああ、勇者と言うものはよくよくトラブルと出会う運命らしいからな。だからこそ勇者は成長が著しいと言われている。いや勇者だけではない、その旅に同行した人間も何らかを得ている。私もその一人だからな。
もしお前が勇者と共に行っていたらどうなっていたのだろうな」
ジェラードはレインに向かって笑みを浮かべていた。
確かに魔族を相手にしている姿は王女とは思えないな。
もし許されるのであればこの戦いが終わった後、勇者と共に……いや、すでに彼らと共に戦っているか。
「………………しかしジェラード様。こういう成長の仕方もありなんでしょうか?」
ヘタレへタレと連発しているセレナを見て、レインは頭を押さえたくなった。。
それでもレインは四つ目の護符を設置した。
「これで後二枚!」
ゾウザは笑みを浮かべていた。
そしてセレナは……
「まだやるの? このヘタ――」
なにこの感じ……今までにない力? 炎の精霊力が増しているの?
「氷のいななき、セルシウス!」
ゾウザの足に氷が絡み付く。
「今です! レインさん」
その声と共にレインが構える。
「五つの司りし聖なる力よ、今解き放たん! ドラグーン!」
五つの護符からドラゴンの咆哮のごとく白い光が舞う。
「愚かな……この程度の策など!」
ゾウザが魔法の範囲外から逃げる。
「赤き炎、紅蓮ごとき……」
セレナが呪文を唱える。しかし、どこかうろ覚えのような口ぶりであった。
「……炎の力見せよ! イフリィィィィィト!」
炎の巨人がセレナの目の前に現れる。イフリートはゾウザの鎌と鎌を持っていた右腕を焼き尽くしながら叩き落した。
そしてレインが呪符を完成させる。
「五つの司りし聖なる力よ、今解き放たん! ドラグーン!」
再び五つの護符からドラゴンの咆哮のごとく白い光が舞う。
元々、セレナの提案により二重に護符が仕掛けられていた。ゾウザがあの魔族ほど単純とは思えない。ならばわざと一度目は外させてそれを狙ってセレナが迎撃する。
もっともサラマンダーよりも上位の炎の精霊イフリートが召喚できたのは予定外だったが。
そしてセレナの言葉に少なからずゾウザが動揺していたのも忘れてはならない。
「出きるはずがない! イフリートの召喚など! たとえエルフとはいえこれほど魔法を二重に仕掛けるなど! 貴様らは一体!」
白い光に食らわれるがごとくゾウザがもだえる。
「勇者の仲間ならこんな事造作もありません」
レインが答える。
「勇者の仲間だって? またなの? また僕は勇者に殺されるの……」
セレナとレインは知らない。かつてライツの前にネクロマンサー(死霊使い)として現れ、敗れ去った子供がいたことを。その死体を使い、成長させた姿をゾウザが乗っ取ったのであった。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
二つの悲鳴が重なり、ゾウザが燃え尽きた。
「やっと終わったわね……」
「はい、しかしいつの間にあのような上級精霊を?」
「うーん、分からない。なんだかいきなり精霊力があがっ――きゃあ!」
いきなりセレナの姿が消える。
「だ、大丈夫ですか?」
レインが穴の底を見つめる。セレナのいた床がいきなり陥没したのだ。
「ええ、大丈夫……多分魔法の衝撃で床がもろくなっていたのね。
うー、ダイエット始めたほうがいいかしら……」
「少し待ってて下さい……今引き上げますから」
「ええ、お願い――!?」
ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
「……やっぱり先に行ってて。何か気になるの……この先の何かに呼ばれているような気がして」
「そうですか? 分かりました。ですが後で必ず来て下さいよ」
「ええ、分かってるわ」
セレナはうなづくとその通路の奥へと消えた。
城の周りの骸骨兵が光の粒となって消えていく。
そしてジェノバも……
「姉さん……」
ライツに抱きかかえられたまま、まるで天へと飛び立つようにゆっくりと姿が消えていく。
姉さん、親父とお袋によろしく伝えてくれよ。
「ライツさん」
ミルカが頭上を見上げていたライツを心配そうに呼びかける。
「大丈夫だよ。
すまないな……俺がふがいないばかりに……」
ライツが周りの兵達に向かって頭を下げる。その姿に兵達が動揺する。
「い、いえ。憎むべきは魔族です。あなたが悪いわけではありません」
「ありがとう……
おそらく城の中に入った誰かがこいつらを操っていたやつらを倒したんだろう。
後は残り少ない魔族だけだ! いくぞ!」
ライツが腕を掲げるのに同調して兵たちも腕を掲げる。
「ライツさんも成長していたんですね……」
「そうね……勇者でなく統率していく力をね」
いくら他の人間より歳を取らないとはいえやがては老いて力を失う。特にライツは個人行動が多いため、敵の裏をつく戦術と言うものを知らない。
ならばどうすればいいか。答えは簡単である。そういう人間を仲間に加えればいい。有能な人間にやらせればいいのだ。ただしそれを呼び込むことができるカリスマを持つ人物が必要不可欠となる。そんな人間はこの世に何人いるだろうか?
しかし確実にその人間はここにいる。元勇者であったライツである。魔王退治は現勇者に任せ、その裏方はライツが動かす。それこそがライツの真の役目であった。
玉座でカオスの攻撃が防戦一方であったが、戦局は変わり始めた。
「ぬっ!」
カオスの攻撃をケインは始めてかわし、その隙を付いて精霊の剣を横凪に振るう。カオスはその剣をかわしたが、ギリギリでかわされる。
「ゾウザめ、やられおったか」
「何があったのかは分からないけど――」
ケインは剣を構える。
「――これでやっと互角! いくぞ!」
魔族の全滅はもはや時間の問題であった。ライツ達は中の情況は気になるが今はここにいるしかなかった。ザコとはいえ魔族。いつ戦局が変わってもおかしくないからである。
今は城にいる連中に任せておけばいい、自分が入るのはここにいる魔族を全滅させてからだ。
「そういえばアルは大丈夫なの?」
思い出したようにフィアが聞く。
「なにが?」
「だって魔法も魔力を持った剣を持ってないんでしょ?」
「ああ、だから牢屋に向かわせた。もし人がいるなら助け出さないと行けないしな……」
「それじゃあ、魔族と出会っていたら……」
「無理だね……」
そうライツは言い放った。
アルは地下牢で片膝をついていた。
「はあはあはあ……」
「ふふふふ、あきらめなさい……勇者でもない、ましてや魔法を持たないあなたでは無理です」
「うるせえよ……一番弟子の俺がお師匠様に恥をかかせるわけにはいかねえんだよ!」
アルはライツから貰い受けた短剣を構えた。
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