勇者へのエチュード
--  第十九話 勇者VS魔王 --
                                    作:木村征人


 ライツの剣がフィアとミルカの魔法が次々と魔族を打ち砕いていく。それに続き、兵も魔族を叩き潰す。そして――
「勇者様、これで魔族は全滅しましたね」
「いや……」
 一人の兵の言葉にライツは否定する。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 死体の中から生き残りの魔族がライツの背後を襲う。
 ブオォォォォォォォ
 ライツが剣を構えると同時に風の嘶き、魔族を切り刻む。
「ゼロだ……」
 魔族が倒れると同時にライツは呟く。
「ライツさん、風牙の剣を完全に使いこなしていますねぇ」
「そうね……姉の影響があったせいかもね」
 ミルカとフィアがライツを眺めながら呟く。今のライツの姿からは微塵の哀しさも見えない。いや、見せていなかった。
「よし、俺達は城内に行くぞ。他のみんなはここで待っていろ」
「私達も同行――」
「駄目だ!」
 同行を求む兵の言葉をさえぎった。
「おそらく捕まっている人間が出てくるだろう。そいつらを頼む。
 それに――ふっ、それに息子がちゃんと勇者になったか確かめないとな」
 勝てるとは限らないと言おうとしていたがみんなを不安させない様におどけて見せた。

 ケインとレインはカオスと戦いを繰り広げていた。
「はあぁぁぁぁぁ!」
 ケインが剣を振るうが、カオスはそれを避けケインの横に回りこみ。
「なに!」
 ケインを吹き飛ばす。その吹き飛んだ方向にはレインが構えておりレインを巻き込みいっしょに転がる。
「すまん……」
 逆さまになりながらケインが謝る。
「いいえ……それより魔王のスピードは尋常ではないですね」
「ああ、スピアーの力だろうな。あれで剣を持っていたと考えたらぞっとするな……」
「知り合いですか?」
「ああ、千三百年前にな」
「はあ……まあ、後で事情を聞かせていただくとして。あのスピードについていければいいんですが」
「無理なことを言ってもしょうがないけどな……これじゃあジリ貧――な!?」
 二人が固まっているところを狙ってカオスが攻撃してくる。その瞬間何者かが二人の襟首を掴み飛びあがる。

 ドゴオォォォォォ

 床が砕け散る。
「ふぅ、なんて力だ……なるほど親玉だけのことはあるな」
 二人を助けたのライツの弟子アルであった。

 ライツ達もケインの下へ向かう。城の入り口に入ったとき大勢の気配を感じた。
「ストップ!」
 ライツがフィアとミルカを遮る。その気配に対して剣を構えるが、
「人間……ですよね?」
 先頭に立っていたぼろぼろの男女がライツに訪ねて来た。
「捕まっていた人達か?」
 ライツは剣を納めながら逆に訪ねた。
 女性がライツの顔を見て、いきなり名乗り出た。
「ええ、私は四将軍だったシルフィードと言います」
「四将軍……お前達が助けたのか?」
「いえ、恥ずかしながら俺達も牢屋に閉じ込められていまして」
 アゼルが頭をかく。
「それでアルと言う人が魔族を倒し、私達を助けてくれて……」
「アルが!?」
 その言葉にさすがのライツも驚いていた。お世辞にも魔族を倒す力があるとはとても思えない。ここに残っている魔族は上位クラスに間違いないそれをアルが倒したとはとても信じられなかった。
「やれやれ、後でアルを問い詰めてみるか。とにかくここを抜ければすぐ外に出る。後は兵達が体を休めているからそこで手当てを受けてもらえ。怪我をしている者もいるようだしな」
「はい、それでは私達はこれで……」
「ああ、後は俺達に任せてくれ」
「それじゃあライツ急ぎましょ!」
「え?」
 その言葉に慌ててシルフィードとアゼルが振り向くがすでにライツ達は背を向けて遠く離れていた。
「もしかして今の人が……」
「ええ、盗賊勇者ライツでしょうね」
 四将軍の二人はあまり伝説の人物に出会ったと言う実感がいまだにわかず茫然としていた。

 そしてセレナは意外な――本当に意外な人物の姿に茫然としていた。
「あらー、奇遇ですねぇー」
 意外な――本当に意外な人物、ダークエルフでガイドののアクアが何故かそこにいた。
「いや、奇遇とかそんな次元の問題じゃないと思うんですけど……なんでここに?」
「逃げ回っていたらー、何故かこんなところに出てしまったんですー。出口知りませんか?」
「…………………………」
 セレナは本気でめまいを覚えた。方向オンチもここまで来たらは勇者級である。
「まったく……まあいいわ。出口まで案内は出来ないけど。とにかく離れないでずっとついて来てよ!」
「はい〜」
 セレナの言葉にアクアは情けない声で返事した。
 二人は暗闇に吸い込まれそうな感覚に陥りながら進んでいくと
「行き止まりですか……?」
 アクアがきょとんとしている。
 そこは巨大な壁に阻まれ、その傍らに空っぽの棺桶が隅に置かれた奇妙な場所に辿りつく。
「人間……精霊使いと……ほう珍しいダークエルフか……」
 どこからともかく声が響く。セレナはその正体に気づいてしまった。
「そんな……なんで、あなた方がなんでここにいるの!」
 セレナはそのとんでもない真実に気付き、その壁に向かって叫んでいた。

「大丈夫か? ケイン」
「あ、ああ。助かったよ」
「しっかりしろよ、お前の親父はもっとすごかったんだからな」
 アルのその言葉にいささかむっとした。
「親父は関係ねぇよ。それに親父だと魔王の姿がスピアーだと知ったら攻撃できないだろうしな」
「ちょっと待て。魔王がスピアーと言うのどういう意味だ!?」
 人の姿は知らないが聞き覚えの名前が出てきたことにはアルは困惑する。
「さすが親父の弟子。知っているのか?」
「ああ、ドラゴンだけどな」
「ドラゴン? どうやら色々聞かなくてはならないようですね!」
 レインが呪符を発動させる。先ほどまでカオスがいた場所が爆発する。
「そこだ!」
 カオスの避けた場所へ一気にアルが加速する。アルが短剣で攻撃する。
 ガギッ
 アルの短剣でダメージを与える事はできないが動きを止めることは出来る。
「でゃあ!」
 ケインの精霊の剣が初めてカオスに当たる。
 続けてレインは両手に呪符を構える。
「炎嶽砲」
 炎のうねりがカオスを飲み込む。
「があぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 カオスがもだえる。
「いける! これなら勝てる!」
 ケインが拳を上げてガッツポーズを取る。 
「おのれ……こんな身体でさえなければ……………」
 カオスが炎を振り払う。
「まだまだ、元気一杯といった感じだな。何か決め手さえあれば……」
「ありますよ……」
 ケインの言葉に答えたのはレインであった。
「ドラグーンを使えば……あるいは……」
「ドラグーン?」
「ええ、五つの護符の力を使った私の最大魔法です。それを使えば倒せるかと……」
「わかった。ようするにお前はそれを作る準備する為に、攻撃に参加できないんだな?」
「ええ、任せます」
「よし、行くぞアル!」
「てめえに言われるまでもねぇ!」
 ケインに呼び捨てにされて少しむっとする。
 ケインとアルが飛び出す。

 セレナは立ちつくしていた。その封印された四つの力を前に……
「わしらを連れていけ……手遅れになる前に……」
「手遅れ?」
「そうだ……今のカオスを倒せるだろうが……倒せば大変なことになる……
 だからこそお主も本当の力に目覚めなければならぬ」
「私の本当の力?」
「そうだ、お前の精霊力を使えば我らの封印を解く事が出来る。そしてお前に力をいや、お前が持つ本当の力を目覚めさせいやろう」
 四つの力は今まさにセレナに宿ろうとしていた。

 ケインとアルはカオスの力におわれながらも、食い留めていた。
 そしてケインとカオスが対峙する。ケインが精霊の剣を振り下ろす。カオスの肩に食い込むがそれを気にする素振りを見せず、カオスがケインの首を掴む。
「ケイン! 離れてください。ドラグーンが発動させます」
 レインが叫ぶ。
「俺に気にせず放て!」
「し、しかし……」
「早く!」
「わ、分かりました。五つの司りし聖なる力よ、今解き放たん! ドラグーン!」
「ば、ばかな。これは……」
 カオスが驚愕し、ケインの首から手が離れた。
「魔王と道連れか……え?」
 ケインがあきらめた瞬間、体が宙に舞う。
 アルが魔道具の糸で文字通り吊り上げたのだ。
 再び五つの護符からドラゴンの咆哮のごとく白い光が舞い、カオスを包み込む。
「これは雷式の浄化魔法!」
 カオスが叫ぶ。
「さすがに博識ですね。と言うよりその身体の媒体である方が博識なのでしょうが」
 レインがニヤリと笑う。
「――アル、ドラグーンの魔法が切れた瞬間話してくれ!」
 何かに気づいた様にケインが叫ぶ。
 ドラグーンの魔法が消えた瞬間、言われた通りアルは魔道具の糸をゆるめる。宙に浮いているケインは落下してそのままカオスへ!
「これで止めを刺す! この精霊の剣でな!」
 ケインがカオスの体を薙ぎる。
「ドラグーンでは倒せなかったのをケインは気付いていたんですね」
 レインが感心した様に呟く。
「この程度……ぐっ、貴様……ば、ばかな……
 ――早く俺を倒せ!」
 カオスの声色が変わる。
「その声……スピアーか!?」
 ケインが驚いた様に叫ぶ。カオスの巨大な力はスピアーに意識すら呼び覚ますほどの力を持っていた。
 ドラグーンの浄化の力により、カオスの力が弱まりスピアーの意識が逆にカオスを乗っ取り、ジェノバ同様表に出たのだ。
「そ、そこのお前……俺を吹き飛ばせ。俺がカオスを押さえ込んでいる内に……今なら魔法で絶対に倒せる。
 跡形もなく……俺を吹き飛ばせぇ!」
「は、はい!」
 スピアーの叫びでレイン揺り動かされる様には呪符を掲げる。ライツと出会った時に使った魔法である。
「止めろ! レインやめるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ケインが悲痛に叫ぶ。
「ふっ、ケイン…………俺はずっと昔に死んでいるんだ。それに、またケインに会えただけで俺は満足だ――」
「くっ!」
 レインはうめきながら、呪符を発動させた。

 ゴアァァァァァァァァ!

 スピアーは目を閉じ、そのまま爆風に身を任せた。
 後に残ったのはブスブスと嫌なにおいが立つ黒焦げの死体であった。
「やりきれないな……」
 ケインが苦々しく呟く。
 スピアーはこの世界を救った勇者であり、ケインとは短い間ではあるが共に旅をし、剣の師匠でもあった。その人間がこんな形で終わった……
 達成感も何もない……全てが終わった。ある意味悲壮感すらも感じていた。
 今更ながら、ライツ達が到着した。
 ライツは黒焦げになった死体を見つめる。
「どうやら全て終わったみたいだな」
「親父……」
 ケインは肩を落としながらライツをちらりと見てそのままうつむいてしまった。
 スピアーの姿を見なかっただけライツは幸運だったかも知れない。
「どうしたケイン……何があっ――かはっ!」
 ライツの体が一瞬、宙に浮く。
 黒い光がペンダントごとライツの心の臓を貫いた。

 そして、城の外では、
「どうやらライツが現れたと言うのは本当らしいな」
 一人の男が魔道具ラグナによって現れた。
「あ、あなた様は!」
 一人の兵がその男を見て驚愕した。
                            



あとがき
やっと魔王との対決。
長かったなぁ……これを書き始めたのが…………去年の暮れだから……
あ〜、考えるのやめよう。




>>20話へ



 感想BBS

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送