一条の闇が、光を切り裂く。
光とはまさしくライツ。伝説とされ、幾度となく世界を救い、今人ひどの希望とされている勇者。その勇者の、ライツの心の臓が粉砕された。
「うっ……あ……? ゴフッ」
ライツ自身何が起こったのか分からなかった。そして大量の血を吐き、そのまま倒れ伏した。
ケイン達の足元にまで届く帯びたたしく流れるどす黒い鮮血。ただ茫然とその姿を見つめるしかなかった。
「お師匠様!」
アルの悲痛の叫びが響く。
「ライツ!」
「ライツさん!」
フィーとミルカはライツに駆け寄り必死で回復魔法をかける。しかし、ライツは起き上がる気配はない。そう、盗賊勇者ライツは間違いなく死んだのだ――
「ふふふふ、ふはははははは」
邪悪な笑い声が響く。
そこには奇妙に捻じ曲がった二つの角が天を指し、紫色の髪が地につき、黒いローブが体を包んでいる。目がつり上り、牙の生えた精悍の男が立っていた。
その姿には今までの魔族にはない、瘴気のようなものをまとっていた。
その姿こそ、魔王カオスの真の姿であった。
「これが……魔王……」
アルが茫然と見つめる。
「親父……嘘だろ……でたらめに強い、勇者の親父が死ぬなんて……」
しばし、ケインはライツを見つめていたが……
「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
怒りに身を任せてケインは、カオスに切りかかった。
「愚か者め」
しかし、ケインがカオスに届く前にケインは不可視の力で弾き飛ばされた。
まるでバリアの様にカオスの身体は守られていた。絶対的に領域、魔界の中ではカオスの力は否応無く引き出されていた。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁ」
ケインは壁に打ち付けられる。
「礼を言うぞ、貴様らが仮初めの身体を焼き尽くしてくれたお蔭で、中に閉じ込められていた力が戻っていたんだからな」
「わ、私は魔王の手助けをしてまったのですか……」
レインが茫然と呟く。
「ふふふ、ふはははははははははははははは!!!」
カオスが笑いながら両手を頭上に掲げる。カオスの両手に力が収束する。
「な! あれはまさか!」
ケインが叫ぶ。まさしくあれは、王都を壊滅した力であった。今までは力を制御出来ず自爆の恐れもあったが、今はそれ以上の力を苦もなく使いこなせる事が出来る。
巨大な力が球体の様に形作り、そして――
「死ね!」
その言葉と共に六人に向かって放たれた。
ギュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
人間の叫びとも聞こえる音と共に、力の奔流が六人を飲み込もうとする。
バヂィ!!
飲み込まれる寸前、弾かれた音が響く。
「お袋! 女王!」
ケインがその姿に驚く。
フィアとミルカがケインの前に立って防いでいた。
二十年前、三つ首のドラゴンのブレスを防いだ防壁呪文であった。
「なんとか防げましたね……」
「ええ、でも……これはきついわね……」
「そうですね、あの三つ首のドラゴンとは比べ物にならない力ですね……」
「ふっ、ドラゴン風情と一緒にされては困る」
カオスが邪悪な笑みを浮かべる。カオスが更に力を込める。
「きゃああああああああ」
二人が吹き飛ぶ。なんとか防ぐ事はで来たが、二人は吹き飛ばされた衝撃で気を失っていた。
「次は本気でいくぞ……」
「な、なんだと……」
ケインが驚愕する。先ほどの力でも既にとてつもない脅威であったにもかかわらず、未だに手を抜いていたのだ。
「させません!」
レインがカオスの前に立ち呪符を構える。
ゴウ!
爆風がカオスを包む。
「やりましたか――!」
爆風の中から手が飛び出し、レインの腕を掴む。
『グジャ』っとレインの腕を握りつぶす。
「ぐあ!」
レインの叫び声と共に顔を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。
「たああああああ!」
今度はアルが頭上からアルがカオスの頭部に短剣を叩きつける。
防ごうともせず、アルを睨む。
「そんな脆弱に力で私に触れるなぁ!」
ゴウッとアルがケイン同様、不可視の力に弾き飛ばされる。
「所詮、人間の力とはこの程度か……茶番は終わりだ。死体すら残さず吹き飛ばしてくれる」
先程よりも巨大な力が収束しつつある。
「かなわない。かなうはずがない。どうすれば……どうすればいいんだぁぁぁぁぁぁぁ!」
ケインの叫びに答えたのは――
「赤き炎、紅蓮ごとき、炎の力を見せよ。イフリィィィィィィィィト」
炎の巨人がカオスに襲いかかる。
「ぬぅ!」
カオスとイフリートの両手が組み合わさり、さながら力比べの状態になった。もちろんカオスが溜めた力は霧散している。
「ケイン……大丈夫?」
「セレナ? お前なのか……ってなんでアクアさんも!」
セレナが現れたよりも、イフリートを召喚したことよりも、何故かいたアクアの姿にケインは驚いた。
「…………で、あの角の生えた人は誰?」
セレナの言葉に危うくケインは転倒しそうになる。
「分からずに召喚呪文使ったのかよ……あれが魔王カオスだよ」
ケインは頭を押さえながら言った。なんだかこの頃、アクアの性格に似てきたなと思うケインであった。
「あれがカオス……だったらイフリートが抑えてくれてる間に」
セレナは頭上に両手を掲げた。
その瞬間、まばゆい光が辺りを包む。そして――
「私の腕が元に戻っている」
目を覚ましたレインが自分の腕を見つめる。レインの砕けた腕が元に戻る。
「痛みが引いていく」
アルが頭を振りながら起きあがる。
「この温かい光は……」
フィアがミルカが起きあがる。
「これは回復魔法?」
「違うな――」
フィアの疑問に答えたのは……
「親父!」「ライツ!」「ライツさん!」「お師匠様!」「勇者殿!」
全員がライツの名を呼ぶ。
「ったく、死にかけたことは何度もあったが、本当に死んだのは初めてだ」
頭をかきむしりながら、他人事の様に呟く。
「死んだ?」
「それではこれは蘇生魔法なのですか?」
魔法に詳しいレインが聞く。
「違うな……これを見ろ」
ライツがペンダントをケインに投げて渡す。
「これは!?」
砕けたはずのペンダントは徐々に――まるでペンダントが意思を持っているかのように元に力に戻りつつある。
「魔法の余波だから少し遅れて元に戻っているな」
「じゃあやっぱり魔法?」
フィアがケインの手にあるアルペンダントを覗きこむ。
「ああ、それも時間を戻す魔法のな!」
「なっ!」
ライツの言葉に皆が驚く。
時の魔法、それは不可能とされている魔法である。当然ながらそんなものが存在すれば、この世のありかたの全てが否定される。歴史そのものを動かせるからだ。
まさに世界を手中に出きる力を持っているに等しい。
「それもただ時間を戻すだけじゃない。ただ時間を戻しただけなら記憶もなくなるわけだが。必要なところだけ、ピンポイントに時間を戻しやがった。
その証拠にしっかりと俺は記憶が残っている。みんなもそうだろ?」
皆がコクコクとうなずく。
「まったく、運命の三女神の三人分の力をたった一人で受け継いでいると思ったが外れたな。あれはまさしく時の女神そのものだ……しかも、豪華な土産も持ってきてくれたしな!」
「土産?」
ケインが眉をひそめる。少なくともアクアのことはないだろう。
「四大精霊だよ。もしかしたらカオスかもしくはシゲンが、セレナが四大精霊を扱う事が出来るのを知ってセレナを誘拐しようとしたかもな」
「どういうことだ?」
「四大精霊ほどの力を得れば、人間の身体を借りなくてもカオス以外の魔族でも実態化出きるからな。
もっとも今はそれ程の力が俺達の味方になっているがな」
みんなが四つの光に守られる様にたっているセレナを見つめる。代わりにアクアがその視線に気付き、手を振る。
「とにかく、これで振り出しに戻ったが……どうするかな……」
ライツが立ち上がりながらカオスとイフリートを見つめる。
「人間の僕になりさがった貴様程度に屈するとでも思ったか」
カオスがイフリートを吹き飛ばす。
「せめてここが魔界じゃなければな……」
そんなケインの呟きを聞いたのか、
ズワッ!
いきなり辺りの気配が一変する。
「な、何が起こった?」
アルもその気配に気付いたのか辺りを見回す。
「おい、親父……まさかこれ……」
「ああ、まさしくこれは……」
ケインは前にこの気配の場所にいた。そしてライツも知っている。その場所とはまさしく、
「うん、精霊の里だね!」
ティピがケインの頭の上に乗り、叫ぶ。
「どうやら精霊王も力を貸してくれるらしいな!」
ケインがニヤリと笑う。その顔はまさしくライツの笑みと似ていた。
「な、なにこれ! 力が溢れ出るみたい!」
フィアがグッと握りこぶしを作る。
「そう! 人間には本来以上の力を。そして逆に魔族は!」
ライツがカオスを睨む。
「ぐっ……これは……」
カオスが片膝をつきながら、顔を抑える。
「今が絶好の好機だな」
ケインが精霊の剣を構える。
「ああ。だがケイン。お前はセレナの所へ迎え!
今なら俺達でも時間稼ぎぐらい出来る」
「どういうことだ?」
「バカかおまえ? おまえの手に持っているものはなんだ?」
「あ――」
ケインが間の抜けた声をあげる。
「気付いた様だな。ならばさっさと行け!」
ケインはセレナの所へ向かい、ライツ、フィア、ミルカ、レイン、アルはカオスへ向かう。
アルが先陣を切って、カオスの気をそらし、その隙にライツが風牙の剣でカオスを斬る。
「ぐあぁぁぁぁあ」
フィアとミルカ、そしてレインが魔法で攻撃を更に加える。
そして、アクアが、
「がんばれ〜」
と無責任な応援を送る。
「ふっ、さしずめ協奏曲(コンチェルト)と言ったところか」
ライツが笑う。それは勝利を確信した笑みであった。
そしてケインは、セレナの元へ辿りつく。
「セレナ頼む……」
「ええ、任せておいて」
セレナは呪文を唱え始める。
「きさまらぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
カオスが再び頭上に手を掲げる。ふたたび力が収縮し球体をかたどる。
「また、あの技!」
セレナが悲痛な声をあげる。先ほどと違い、まるでこの世の全てを飲み込む様に、力がカオスに集中する。
「ぐっ! なんて力だ。精霊の里の影響化でも、これほどの力を。
身体をバラバラにされそうな圧迫感だ」
ライツが圧力に耐えながら苦悶する。
「先ほどとは桁が違います。前のは私達でなんとか防ぎきれましたけど……
今度のは……」
それでもミルカは防御魔法を唱える。それに続いてフィアも唱えるが……
「カァオォォォォォォォォォォォス!」
勇者が魔王の名を叫んだ。
大精霊は人間には召喚できない。だが六つの精霊と契約し、女神の力を持っているセレナは別であった。
勇者と女神。この二人が出会うのは起きるべきして起きたのだ。
「そうか! だから精霊王は大精霊を探す様に言ったのか!」
そう、精霊の剣が真価を発揮するには五つの力が必要であった。
「万物を司りし精霊よ、今こそ姿を示せ」
元素の精霊マクスウェル。
「時空の力を司りし精励よ、今こそ姿を示せ」
時の精霊ゼクンドゥス。
「眩き白き輝きよ、今こそ姿を示せ」
光の精霊レム。
「黒き暗黒の精霊よ、今こそ姿を示せ」
闇の精霊シャドウ。
この四つの大精霊の力そして――
「カオス! お前の相手はこの俺だ!」
そして勇者!!
光を放つ勇者ケイン。闇を包む魔王カオス。相反する二つの存在がついに雌雄を決する時が来た。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ケインとカオスが吠える。
「ふ、二人ともすごい力ですね」
レインがおののきながら呟く。
「ああ、だがこの勝負ケインが不利だな」
ライツが汗をぬぐう。
「どういう意味です?」
ミルカが聞く。
「どんなに威力があっても所詮は剣。カオスはあの球体を放つんだろ?」
「ケインはあのパワーに真正面からぶつかるしかないんですね……」
ライツに継ぐ博識なレインが呟く。
「それじゃあ、ケインは……」
「いや、だからこそケインは精霊の剣の力を最大まで引き出そうとしているんだ。もっとも、カオスも同様に最大まで力を集中しているがな……
しかもケインはぶっつけ本番……どこまで力を引き出せるか……」
フィアの言葉にライツは否定とも肯定とも取れない答え方をする。
「どちらにしても、もう既に賽は投げられている。後は吉がと出るか凶と出るか……」
アルがそう結論づけた。
「そうだな……ケインを……息子を……勇者を信じるしかないな……。
そして――そして勝負はこの一瞬で決まる」
ライツの言葉に答えるかのようにケインの精霊の剣が白き光に、カオスの球体が黒き塊へと変化する。
光の御柱の如く放射する精霊の剣を掲げ、カオスへと向かう。
「死ねぇ、勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ケインが剣を振り下ろすよりも早く、カオスが放つ。
「!」
ギュアァァァァァァァァァァァァァ!!
闇の奔流がケインを包む。
「ケイン!」
セレナが叫ぶ。
その叫びと共にケインが闇を『裂いて』現れる。いや、正しくは闇の力を精霊の光の力で中和させたのだ。
「カオスよ、滅びろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「まだだ! 神に、勇者に屈するかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
光と闇が交錯する。その刹那!
ザシャアァァァァァァァァァァ!!
―――――――――――――――――――――――――――――――
雷鳴の如く轟き、永遠とも思える音が全てを包む。
ケインの精霊の剣がカオスを貫いていた。
精霊の剣の光が消え、カオスの身体から剣を引きぬくと同時にカオスが倒れる。
ケインは精霊の剣を杖変わりに、体を支えながらみんなの方を見つめる。
「やったの?」
その状況を凝視していたセレナが呟く。
「ああ、カオスから放たれていた力はもうない。まだ身体をとどめているが直に、その姿も消えるだろうな」
ライツが親指をグッと立てる。
「やったわね、ケ――」
突然セレナがバランスを崩す。ケインが咄嗟にセレナを抱きかかえる。
「どうしたんだ?」
ケインが優しくセレナの方を抱きかかえる。
「まあ、当然だな。イフリートの召喚、時間の作動、加えて四大精霊の召喚。それだけ立て続けに巨大な魔法を使えば体力が尽きるのも当然だな。
それにしても………」
しばしライツは二人を見つめ、
「なんかこう……数年後の二人の姿を見てるみたいだな」
「えっ……」
「あっ……」
その意味が分かったのか二人とも顔が紅く染まる。その寄り添う姿はまるで夫婦の様であった。
「くくくくく、呑気なやつらだ」
和やかな雰囲気に水を差したのはカオスであった。虫の息であったがまだ生きていたのだ。
「どういう意味だ……」
ケインが再び精霊の剣を構えるが、ライツが制する。
「私を倒したとて、装置がある限り魔界は広がり続けるぞ。魔界となった場所はおぬしらが生きていられる土地ではないだろう。
滅びるのが早いか遅いかの違いだけだ。
ふふフフフふふフ、ハハハはははハハハハハハはハハハハハハは」
にごった笑いを響かせながらカオスは姿が消えうせていった。
ケイン達はその姿に戦慄を覚えていた。
神々への恨みか……お前は最後まで……
ライツはそのカオスの姿をあまりにも哀れに思えた。
「おそらくこれがそうだな……」
ライツが蛇と人間が巻きついた様に見える不気味な柱のような……いや、まるで墓標のようなものを見つめていた。もし、人間の墓変わりに作られていたのならかなり質の悪い代物だろう。
あれからすぐにみんな手分けして探したが、すぐに見つかった。こんな怪しげなものはそうそうお目にかかれない。
「精霊の剣で壊せないのか?」
ケインが剣を構える。
「多分無理だろうな……発動前ならともかく、これを破壊すると言うのは直結している魔界を破壊するのと一緒だからな」
「そうでしょうね……簡単に壊せるモノならカオスも言わなかったでしょうし……」
ライツの言葉にレインが付け加える。
「それに……例え壊せたとしても魔界を滅ぶのは避けたい……」
ライツの呟きにみんなが驚き見つめる。
「どういう意味だ。親父?」
ケインが怒りの宿った瞳で見つめる。
「そのままの意味だがな」
「なに言ってるんだ親父! カオスのようなヤツラがいた世界だぞ! そんなものは滅びた方がいいに決まっているだろ!」
「お前は魔界がカオスのようなやつらばかりだとなぜ分かる?」
「え?」
ライツの今までにない怒りの顔にケインは驚く。
「これは戦争だ……お互いに譲れないものがあったこそ戦った。
魔界の様子は俺も知らない。戦いをしたくない奴もいるかも知れない」
「そんなのは憶測だろ」
「そうだ、俺もそしてお前もな。神が正義で魔族が悪というのはない。
戦争に正義も悪なんてものは存在しない。それを俺は二十年前に学んだ」
そう、二十年前のグロッグは確かに大罪人だが、その理由は存在していた。人間の罪としてな。
ライツ自身、あの時は無我夢中で闘っていたが、戦いが終わった後、もしドラゴンスレイヤーが砕けていなかったらどうなっていたか、不安になる時がある。
結局、誰が悪なんてものは決められない。どんな英雄も見方を変えれば極悪人になるだろう。
正義、悪と言うのは誰が決めるのだろう。自分たちが正義であり、敵が悪であると言う見方しかできない。それが戦争である。
ライツはそれを女神から教えられた。ライツなら正しい道を進めると信じて……
「敵いませんねこの人には」
レインは感嘆の溜息をついた。
「はっはっはっはっ、お前らしい考え方だな!」
背後から聞こえた声に全員が振り返る。その声の人物は――
「ジェラード!? 一介の王がこんなとこに来ていいのか?」
ライツがその姿に驚いた後、呆れた様に言う。
「この国の女王と王女が最前線で戦っているのに、俺だけが傍観するわけにはいかんだろう。
お前が現れたと言う情報がもう少し早く届いていればよかったのだがな。
まあ、とにかくラグナで飛んで来たのはお前が生きているのを確かめたかったのもあったがな」
そう言いながマントをひるがえした。
「さっきまで死んでいたがな」
冗談だと思ったのだろうライツの言葉を無視して柱を見つめる。
「それよりもこれをどうにかするかだな」
「なあ、親父。これが広がる闇を、ようするに魔界を作り出す事をやめさせる事が出来ればいいんだろ?」
未だにケインは納得しないものがあったが、とにかくこれをどうするかが先決であった。
「ああ、確かにな……」
ライツが腕を組んで考え込む。
「出きるんじゃないのか? お前達なら」
ジェラードがみんなを見つめる。
「四聖士のお前らなら出来るんじゃないのか?」
ジェラードの言葉にライツはうなずく。
「確かに出来るかも知れないな。四聖士には運命を変える力があると言われているしな。
ケイン、セレナ王女、アル、レイン。俺はお前達が四聖士だと確信している。
お前達ならもしくは……」
四人が全員、グッと拳を握り締め、互いに目を見合わせて、皆ゆっくりとうなずいた。
四人ともやるべきことは分かっていた。
「いいですか、皆さん。この柱を中心にする様に四方に位置してください」
レインが三人を指示する。レインは作戦参謀といったところだろう。
「そしてこの世界を救いたいと願ってください。理由はなんでも構いません。
自分勝手な方がもしかしたらより強い願いかもしれませんが」
レインがちらりとライツを見る。
その視線をどう解釈したのか、ライツがフィアとミルカを促がす。その意味を理解したのか、四人より少し外側にライツ、フィア、ミルカが立つ。
「親父?」
「お師匠様?」
ケインとアルが不思議そうに見つめる。
「俺達も元四聖士だ。いないよりはましだろう」
それを見てジェラードも加わる。
「四聖士の代わりは無理だろうが、俺も少しは役に立たないとな」
そのジェラードを少し見つめていたライツだったが、
「これでスピアーがいれば良かったんだがな」
ライツの呟きにケイン、レインとアルが目を伏せる。いずれライツも事実を知るであろうが。だが今、この場で言うことではないのは確かであった。
そしてアクア、ティピが、
「私もお手伝いしますぅ」
「あたしもあたしも!」
ティピが内側、アクアが外側に立った。
「まったくしょうがねぇなぁ」
そう言いながらケインは笑みを浮かべる。
こうして柱を中心に二重の五望星が出来あがった。
「それではいきますよ! 皆さん目を閉じて集中してください」
皆が目を閉じる。
十人が何を願っているのかは分からない。ただ、この世界が平和になる事を願うのは全員一致していた。
そして数分後……
「これでいいのか?」
不安げにアルが聞いた。
「こういう時ピカーとか光れば分かりやすいんだけどね」
セレナが肩をすくめる。
「いや、どうやらうまくいったみたいだな……」
ライツが明後日の方向を見ながら言う。
「どうして分かるの?」
フィアが奇妙な顔をしながら言う。
「なるほどそういうことか……」
ジェラードがライツの見ている方角に気付く。その方角とは……
サアァァァァァァァァァァァ
光が城の中に差しこむ。
「朝日……」
ミルカが感動した様に言う。闇に覆われている間は陽の光など入り込まなかった。つまり……
「闇は消えた……のか? これで――やっとこれで終わったんだな……」
ケインがドサッと座り込む。それにつられて皆も座る。長時間の緊張と疲れで体力の限界が来たのだ。
「おいおい……だらしないな……」
ジェラードがへたり込んでいるみんなを見て笑う。
「そりゃ、お前は最後に現れておいしいところだけを持っていったんだから。
そりゃ、楽だわな」
ライツが恨みがましくジェラードを見る。
少し動けるまでみんな休み、なんとかみんなは腰を上げて、外へと出た。
外で休んでいた衛兵と捕まっていた人達は歓声で十人を迎えた。そして今まさに世界が一体となり、やり遂げた。新しい時代の幕開けを意味していた。
そして、ライツはいきなり手を掲げ、
「俺達の勝利だ!」
うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
ライツの言葉に呼応し、歓声を上げる。
「まったく、ライツは……」
その反応をにやけた顔で満足しているライツにフィアは額を押さえながらうめく。
ライツの言葉により、魔族との戦争が終わったのを確信し、あちこちで握手を酌み交わしたり、涙を流しながら肩を組んでいる衛兵達が勝利の余韻に浸っていた。
「そういえばこういうものを持ってきてな」
ジェラードが奇妙な、箱のようなものを取りだした。
「なんだそれは?」
ライツが訝しげに見つめる。
「魔道具ファス。瞬時に絵を完成させる事が出きる代物だ」
「どういうことだ?」
「すぐに分かるさ……」
ジェラードがケイン達とバルザとルシードも呼び寄せその魔道具を使った。
そして、その後ケインはセレナの前から姿を消した。
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