R.O.D−Fly high− 第二章 イントロダクション |
作:木村征人 |
ピピピとどこかで小鳥の鳴く声がする。雲ひとつないさわやかな朝、ではなく分厚い雲が空を覆っている。もうすぐ雨が降るのであろう。じめっとした空気が辺りにまとわりつく。 せっかくの日曜日をフイにするような天気もこの男には関係ないようだが。 「ふあああ〜〜〜〜〜〜」 昼前。大きなあくびをしながら本を片手にトコトコとリビングにやってきたのは、つい最近この高町家の居候になった龍哉(たつや)・フィールドであった。 「あら、龍哉。遅いお目覚めね」 龍哉を出迎えたのは、茶色がかった長い金髪の少女、フィアッセ・クリステラが笑顔で声をかけた。 「う〜、朝方まで読んでいたもので……」 まだ眠いのか……目をこすりながら答える。それでも椅子に座って、持っていた本を読み出すのはさすがと言うべきか。 「美由紀も朝から見かけないんだが知らないか? 朝の練習サボったんだが……」 雨と汗にぬれた体を手ぬぐいで拭きながらリビングで入ってきたのは高町恭也(たかまちきょうや)。小太刀二刀・御神流の師範代である。趣味は釣りと盆栽という結構渋い一面もある。 「ああ、美由紀さんなら僕の部屋で寝てますよ」 美由紀、高町恭也の義妹にあり、また弟子にもあたる。愛書狂の龍哉にはおよばないものの、読みたい本が百冊あれば、すべて読むまで寝ようとしないほどの読書家である。最も途中で力尽きて龍哉の部屋で今は寝てしまっているが。 ちなみに龍哉は睡眠欲、食欲をすべて捨てて読書欲に向ける。今のところ、自己最多は十七日、飲まず食わずついでに寝ずに読み続けた。さすがに生死の境をさ迷ったが、『この世の全ての本を読むまで死ねない』と、絶叫しながら不屈の闘志で復活した。それだといつまで経っても死なないと言う突っ込みは置いとくとして、こと本に関しては不死身なのかもしれない。 「かぁーっ…………ZZZZZZzzzzzzz」 三つ編みにやや大きなメガネをかけた少女、高町美由紀が仰向けになって大きな口を開けて眠っていた。 高町なのは 高町家での最年少であり、高町恭也の半分血がつながった妹である。ツインテールが印象的な高町家のアイドル的存在である。 「なーのはちゃん」 「あ、龍哉おにーちゃん」 AV機器をいじくっていたなのはを珍しいそうに眺めていた龍哉が声をかけた。 「ここにいる人間は結構こういうのに疎そうに見えたのにな……」 ぱらぱらと説明書を読み始める。文字中毒者はとにかく読めれば良いらしい…… 「そうだよねぇ。おにーちゃんもおねーちゃんもそういうのに全然興味ないみたいだし。録画はいつもなのはの役目だし」 うーんと、困ったような顔を浮かべる。突然ぱっと顔をほころばせ、龍哉の手を取る。 「そうだ。龍哉お兄ちゃん。ビデオの録画やってみる?」 「えっ……」 なのはの言葉に龍哉がうめく。恭也達に負けず劣らず龍哉も機械に疎い。 「ここのボタン押すんだよ……」 なのはが龍哉の腕を引っ張って録画ボタンの前まで指を伸ばさせる。 後は、数センチ先にあるボタンを押すだけなのだが。 「爆発しない?」 「機械オンチの人ってよくそう言うよね」 龍哉の言葉になのはは苦笑いを浮かべた。 高町桃子 高町家の大黒柱。なのはの実の母であり、恭也と美由紀の継母。もっともこの家にいるものは関係なく母親的存在なのだが。 喫茶店『翠屋』のオーナーであり、店長である。一流の菓子職人であり、フランスとイタリアで修行した後、大手ホテルでパティシエをしていた経験もある。 「その……あのいらっしゃいませ」 「はい、もういちどぉ♪」 エプロンをつけた龍哉が、席についている桃子を相手に接客の練習をしている。 高町家の居候になるなら喫茶店の手伝いが出来たほうがいいと桃子が言い出したのだ。それは建前で、やや内気な龍哉の性格を少しでも改善させようというのが狙いであった。 「だぁぁぁぁぁぁぁああ……」 龍哉が脱力しながらテーブルに突っ伏した。 「ふふ、桃子はこういうことには容赦にないから」 一部始終を眺めていたフィアッセが微笑を浮かべている。 「はぁ。もう一人のザ・ペーパーは非常勤講師でちゃんとやっているって言うのに……」 はぁ、ともう一度大きなため息をついた。 ふふ、桃子に気に入られてるって分かってないのね。 落ち込んでいる龍哉の頭をポンポンとなでていた。 「それじゃ、練習。再開しましょうか♪」 「うえぇぇ……」 呻きながら桃子の元へと向かった。 気に入られたというより、いじめて楽しんでいるみたいね。 「ほらほら、がんばりなさい。あとで、ケーキ食べさせてあげるから」 龍哉は涙を流しながら、練習を始めた。 レン、城嶋晶 この二人は高町家の台所を預かる居候である。レンは中国拳法、晶は空手の使い手である。ことあるごとに二人は喧嘩をしているのだが、喧嘩するほど仲がよいと言うものである。いつも喧嘩を止めるのはなのはである。結構この二人より立場は上なのかもしれない。 「おサルー、覚悟しいやー!!」 レンが関西弁でおサルこと、晶に向かってを棍突き出す。 「亀が生意気言うんじゃねぇ!」 晶が亀こと、レンに向かって拳を突き出す。 いつもの日常、いつもの喧嘩。これがこの二人の一種のコミュニケーションである。 交錯する二人の攻撃。 「ぬげぇ!」 叫び声をあげたのは、本を読み歩いていたせいで、周囲が見えず運悪く二人の間を通りがかった龍哉であった。 二人の攻撃を同時に受けてばったりと倒れる。 「ううううううぅぅぅぅぅぅぅうう」 うなされながら龍哉はぴくぴくと気絶していた。右ほほと左わき腹に紫色に変色したあざがあまりにも痛々しく残っている。 「晶ちゃん、レンちゃん。どうしていつも喧嘩ばっかりするの!」 さすがに龍哉に悪いと思ったのか、二人とも正座しながらなのはの説教を聴いている。 「龍哉おにーちゃんまで巻き込んで。二人とも罰として、今日中に家とお庭と道場の全部お掃除をすること!」 「え〜!」 二人が不満の声をもらすと、 「返事は!?」 「は、はい!」 なのはの大声に大きく返事して、ダッシュでかけていった。 「こ、怖い」 その光景を見ていた恭也と美由紀の顔が引きつる。いくら自業自得とはいえ、レンと晶には同情する。高町家は洒落にならないくらい広い。 現在の八人家族でも、まだ十分部屋が余っている。それに加え、松の木と池のある庭。さらには道場まである。今日中に終わるのはほぼ不可能なのは分かりきっているのだが………… 「たっだいまぁ!」 フィアッセと桃子が無事、翠屋での仕事を無事終えて帰って来た。いつもなら、レンと晶が夕飯の準備をしているのだが。 「だぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「うおぉりゃああああああああああああ!!!」 レンと晶の声が高町家に反響する。なのはの恐ろしさは兄以上にこの二人は知っている。はっきり言って鬼気迫るものがあり、恭也も美由紀も何も言えなかった。なのはも止めなかった。どうやら半分しか血はつながっていたとしても、一度言ったことは絶対に曲げないという兄の強情さは、しっかりと受け継いでいるらしい。 それでも腹が減るのだろう。三人とも、腹を押さえながらうずくまっている。 ついでに龍哉は未だに気絶している。 「いったい何があったのかしら?」 事情の分からないフィアッセと桃子は小首をかしげた。 その後、フィアッセと桃子が久しぶりに夕飯を作ることとなった。ついでに、レンと晶は残り五分の一というところで見事に力尽きた。 さて明日から月曜日、夜半すぎまでどんよりしていた雲もなくなり、きっと明日はいい天気になるであろう。 |
あとがき |
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