R.O.D−Fly high− 第三章 HGS |
作:木村征人 |
朝、高町家では家族全員集まって朝食を取る。もちろん新たに居候する事となった龍哉・フィールドも一緒だ。 「あうう、はい、恭ちゃん」 「うむ」 ほとんどポロ雑巾状態の美由希がごはん大盛りの茶碗を恭也に手渡す。昨日、朝の練習をサボったせいで、いつもの三倍以上厳しくしごかれていた。 それはともかく、その光景を龍哉が箸をくわえながら不思議そうに眺めている。 「恭也さんと美由希さんは結婚されているんですか?」 ブシュ! 恭也と美由希がごはんを吐き出す。 「しししししししし、師匠。そうだったんですか!?」 「おおおおおおおお、お師匠。そうやったんですか!?」 晶とレンが声を震わせる。 フィアッセと桃子は何故かにこにこしているが、なのはは状況がわかってないのかきょろきょろしている。 「え、あ、その、はううぅぅぅぅぅー」 美由希が真っ赤になりながらうつむく。 「待て、ちょっと待て!」 混乱する朝食の場を治めるがごとく恭也は珍しく声を荒げた。 「俺と美由希は血が繋がっていないとはいえ兄妹なんだ! だからそう言う事実はまったく、完全無欠にない!」 キッと龍哉を睨みつける。 「あ、そうなんですか。てっきり苗字が同じなのに全然似てなかったので」 恭也の剣幕に押されて龍哉はすっかり恐縮してしまった。 「そんなに……力いっぱい……否定しなくても……確かに……ぶつぶつ」 美由希はなにやら不満げにぶつぶつ呟いていた。 「しかし、今更学校に行くなんて思わなかったな……」 恭也達が通う学校、私立風芽丘学園の門の前で龍哉はあくびをかみ殺しながら呟いた。 確かに大英図書館のエージェントして働いていたのだからこういう普通の高校生として過ごすことなど予想していなかっただろう。つーか、達也の年齢はまったくもって不明なのだが。 学園に通う生徒がじろじろと龍哉を見ている。学生服はまだ持っていないため私服で来ている為、というよりもこの時期に大きなコートを着ていることが異様に見えたせいであろう。 教科書は恭也のものを徹夜で読破して記憶している。しかもこの学園の一年から三年の教科書すべてをだ。 その為、またしても明け方まで起きていたが。 龍哉は恭也と一緒のクラスになり。恭也の友人、赤星勇吾(あかぼしゆうご)と月村忍(つきむらしのぶ)を紹介された。この二人のことはおいおい話すとして…… 昼休み、龍哉と恭也はレンと晶達が待っている食堂へと向かった。 ついでに、忍や赤星も一緒だ。 「花見ですか?」 龍哉は首をかしげた。 「そうですー、桃子さんとフィアッセさんが毎年楽しみにしとるんですが、今年はなかなかええ場所が見つからんのでみんなに集まってもろたんです」 レンがそういいながら頭を抱えている。 毎年高町家で行われる花見の場所探しは、子供たちの役目である。翠屋で働いている、桃子とフィアッセに感謝の気持ちを込めている意味もある。 言ってみれば、高町家の母の日、姉の日である。 「でも、僕はここの地理には詳しくないから役に立たないと思いますよ。 あ、でも僕がこの町に着いた時、沢山のサクラが咲いている山がありましたけど、あそこは駄目なんですか?」 龍哉の言葉にレンはパタパタと手を振った。 「あそこは私有地でだめなんですー」 「あのー、なんのお話をしているんですか?」 おずおずと、レンの後ろからそう言ったのは神咲那美(かんざきなみ)であった。 あまり面識がないらしくどうしようかと思っているところを恭也がみなに代わって話した。 「実はな――」 恭也はことのあらましを説明した。 「そうなんですかー、それだったら何とかなると思いますよ」 間延びした口調で柔らかな笑みで答える。 「ほ、ほんとうですか!」 那美の意外な言葉に晶の大きな声が響く。 「は、はい。あそこはあの……」 那美が言いよどんでいる意味に気付いた龍哉は頭を軽く下げる。 「龍哉・フィールドです。よろしく」 それに習って、那美も頭を下げる。 「か、神咲那美です。 その龍哉さんが言っていたサクラが咲いている場所はわたしがお世話になっている寮のオーナーさんの私有地なもので大丈夫と思いますよ。ちょっと待っていてくださいね」 那美は持っていた携帯でそこの寮にかけていた。 話はすぐにまとまったのか、数回言葉を発した後、あっさりと携帯を切ると、 「はい、ちゃんとゴミを片付けてくれればOKだそうです」 にこやかにそう言った。 「それはもちろん、任せてください」 レンと晶がぐっとガッツポーズを取る。 「神咲先輩も赤星先輩も来て下さい」 「え、良いんですかー?」 「ありがとう、行かせてもらうよ」 晶の言葉に二人は嬉しそうに答える。 そんなやりとりを嬉しそうに眺めていた忍に気付いた龍哉は、そっとレンに耳打ちした。そこで初めて気づいたのか、忍の顔を見つめる。 「そういう事は自分で言ったほうがよろしいかと思いますぅ」 「え、でも……高村家の新参者の僕が言うのもなんだし……」 ぽりぽりと頬をかきながら、言いよどむ。 「そないな事は気にしないほうがよろしいかと思いますが」 「そ、そうかな……えーと、月村さんも花見一緒にどうですか?」 「え、わたしも?」 龍哉の言葉は意外だったのか、忍はぽかんと口を開いて驚く。 「そうですね、月村先輩がよければですけど」 晶も同意する。 「ありがとう、行かせてもらうわ」 少し顔を紅く染めて忍は笑顔で答えた。 「あれ? そういえば美由希さんは?」 龍哉は思い出した様にみんなに聞いたがみんな横に首を振った。 その頃…… 「ええと、ここでもないし、ここもないし……あううぅぅぅう、どうしよー」 美由希は恭也から花見会場が決まったことを聞かされるまで、ずっと図書室で頭を抱えながら花見の場所を調べていた。 放課後。 「あれ、フィアッセさんどうしてここに?」 校門ではフィアッセが龍哉を来るのを待っていた。 「今日、龍哉病院行くんでしょ? 病院の場所知らないと思ったから」 「あー、そういえばそうですね。すっかり忘れてました」 「もう、せっかく桃子に休憩もらったのに」 フィアッセは翠屋が一段楽したのを見て、休憩をもらいそのまま龍哉を迎えに来た。もっとも、すぐに下校中のお客で修羅場になるのですぐに戻らなければならないが。ちなみに恭也や美由希に店の手伝いをしてもらうようにあらかじめ頼んでいた。 「すいません、それじゃあお願いします」 海鳴大学付属病院、海鳴市最大の総合病院である。そこにフィアッセと恭也、そしてレンの担当医がいる。 「フィリスいるー?」 病院内の一室をフィアッセと龍哉は訪れた。龍哉は部屋の中をきょろきょろと見まわしたが誰もいなかった。 「留守みたいですね……」 「あ、フィアッセ。来ていたんですか?」 その声に気づき、龍哉は慌てて振り向くとそこには小柄な少女が立っていた。龍哉は何故かあちこちに引っかきキズが生々しく残っている少女を見てぎょっとした。 「フィリス、また行ってたのね」 フィアッセはやれやれと腰に手を当ててため息を吐く。 「あのその引っかきキズは?」 龍哉が少したじろぎながら質問する。 「あははは、私、体質的に動物に嫌われるタチでして……」 フィリスが罰の悪そうに答える。 「それなのに裏庭にいる野良猫の世話をしているのよ」 続けてフィアッセが龍哉の疑問に答える。 「はあ……それであのここの先生は?」 辺りを見回すがそれらしき人はいない。 「あの……私なんですけど」 少女は少し苦笑いを浮かべる。 銀髪の外国人は歳は分からないが、中学生のように見える。 「はっ?」 あっけにとられた龍哉は間の抜けた声をあげる。 「フィリス・矢沢です。ちゃんと免許はありますよ。ついでに言うならフィアッセと同じ歳ですよ」 「うっそだぁぁぁ!」 フィリスの言葉は龍哉に力一杯否定された。 「あの……龍哉ほんとなのよ……」 フィアッセが達也を諭すようにいった。さすがにフィアッセが言うことには疑う余地はないらしい。 「あの……この方がフィアッセさんのカウンセラーの担当医で例の病気、そして遺伝子治療の世界的名医なんですか?」 龍哉の言葉にフィリスはさっきの否定されたのが気に入らなかったのが少し頬をふくらましていた。 「世界的かどうかは知りませんけど、フィアッセの担当カウンセラーですよ」 「フィリス、龍哉は……」 「ええ、ジョーカーさんという方から聞いています。私やフィアッセと同じHGSですね。例えば、こんな……」 キィィィィィィン まるでガラスをすり合わせたようなかすかな音が鳴る。 フィリスの背中から昆虫のような六枚の翼が現われる。現実感のない光の翼が。 HGS――高機能性遺伝子障害病、と呼ばれる特殊な病気で、数万、数十万に一人の割合でしか存在せず、非常に幼児死亡率の高い先天疾患であるために、近年までその存在すら確認されていなかった。 「HGSの患者は、念動や精神感応といった特殊な能力と……この放熱や能力制御を行なう光の翼、『リアーフィン』を持つのが特徴です。リアーフィンの形状や能力の方向性が違うのですが……」 フィリスがフィアッセのほうを向く。フィアッセはゆっくりとうなづいた。 「フィアッセやあなたのは特殊なものです。例えばフィアッセはこの翼の、能力の代償は……」 「もしかして……声ですか?」 龍哉が思い出した様に呟く。 昔、フィアッセとはじめて出会った頃に起こった出来事。その時に龍哉は見ていた黒く輝く翼を。 「それはほんの一例。副作用の副作用にすぎません。……彼女の体熱を急激に奪う、生体熱量変換。声が消えたのは、声が消えるのは声帯周辺の熱量が足りなくなって、機能停止した時間が長かったせい。でも、もしこれを超えるほどの力を使えば……」 「……すぐにでも死んでしまう。だからこの子は成人まで生きられない」 それまで黙っていたフィアッセが続ける。 龍哉は驚いた顔をしていたが、ゆっくりと首を振りすぐに思い直した。 「でも、フィアッセさんは今日まで生きていられた。そしてこれからも……それはフィアッセさんの両親や恭也さん達、それにほかの沢山の人達がフィアッセさんを大事にそして愛してくれたからですね」 そう言って龍哉は笑顔を作った。 「そうね……」 フィアッセは幸せそうに笑った。 それに満足した様にフィリスは笑顔を浮かべ、 「それじゃあ今日のところは龍哉さんと顔合わせということで。あなたの症状は調べておきます。 翼を持たないHGS患者というのは非常に珍しいので少し時間をかかるでしょうが。 ……それはともかく少し関節がおかしい様ですね」 フィリスは黒い手袋をはめた手をわきわき動かしながら、思いっきりうれしそうな笑顔を浮かべ龍哉に近寄った。龍哉は何だがいやな予感を感じ、フィアッセに助けを求めるように視線を移すが、 「そ、それじゃあ。私は外で待ってるから」 その助けはあっさり拒否され、フィアッセは慌てて廊下へ出て行った。その直後、 「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 「聞こえなーい。聞こえなーい」 龍哉の叫び声を背中で聞きながらフィアッセは両耳をふさぎ自分に言い聞かせる様に呟いた。 「そっか、フィリス先生フィアッセの翼のこと、あなたに話したの」 パキンと口でせんべいを割りながら桃子が言う。 「はい」 リビングのテーブルの上に突っ伏しながら龍哉は桃子と恭也は話しをしていた。フィリスの整体術でも、かなりの実力を持っているが、かなり豪快な音がなり、手足が一瞬あらぬ方向へと曲げられた様に感じるほどの手荒いものだった。 その激痛は今も尾を引いており、下手に動けない状態だった。 もともと本を読む時背中を曲げる癖のある龍哉にとってこれから、フィリスの所へ行く度に地獄を体感するであろう。 それなら龍哉に本を読むのを止めれば言いのだが、それは龍哉にとって死ねと言っているようなもの、いやそれ以上かもしれない。 まさに龍哉にとってREAD OR DIE(読むべきか、死ぬべきか)である。 「でも、あの翼はとてもきれいなのにフィアッセは嫌ってるんですね」 「まあ、爆弾だしな。名前からして『ルシファー』だし」 恭也はお茶を少し飲んだ。 「AS−30。ルシファー」 三人が同時にその名を呟く。 もっとも有名な堕天使。それはフィアッセの生を食らう予言の言葉でもあった。 「でも晶やレンには話していないのに、よく龍哉に話したわね」 「僕は前にフィアッセの翼見てますし、僕自身HGS患者ですしね」 「はあ……鈍いわね……」 桃子の言葉に龍哉と恭也は理解できなかった。 |
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