『背負ったもの』 written by まる |
目の前に果てしなく広がる黄金色の海。
視界の全てが黄金色に輝いているのだ。
神秘的な光景である事に間違いはないのだろうが・・・
俺は、遠くまで広がる神秘・・・
・・・みなもが最後に海という名のキャンバスに描いた小さな奇跡よりも、
ひざの上で目を閉じたまま動こうとしない、その微かな存在に目を当てていた。
・・・・・俺は今どういう表情をしているのだろう・・・・・・
悲しそうな顔をしているだろうか。
泣いているのだろうか。
それとも、みなもの幸せそうな顔を見て微笑んでいるのだろうか。
・・・自分が今どんな表情をしているのか、それさえも今の俺には分からないのだ。
それほどに、俺はみなものことが好きだった。
大好きだった。
・・・愛していた。
しかし、今はそんな言葉も朝のひんやりとした空気に溶けていくだけで、みなもにそれが伝わることはなかった。
「・・・そうだ」
「今、みなもの願いを叶えるよ・・・遅すぎるかもしれないけどな・・・」
俺はそう言うと、海岸沿いを歩き始める。
ゆっくりとゆっくりと、一歩一歩を大切にしながら歩く。
みなもとの想い出を・・・
かけがえのない、ここ1ヶ月の大切な想い出のひとつひとつを・・・
みなもと重なり合っている背中から、再び思い出しながら。
・・・いや、思い出すというのは不適当かもしれない。
みなもとのかけがえのない想い出を、俺が忘れることなんて一秒もなかった。
忘れていないのだから、思い出す必要もない。
・・・想い出を、再確認させられた・・・とでも言うべきか・・・
その再確認した想い出のひと欠片に、俺は考えるよりも早く、動かされていた。
「在原業平・・・だったっけ。
・・・・・・ごめんな、みなも。
こんなちっぽけな願いしか叶えてやる事が出来なくて・・・」
そのとき、俺の肩からたれているみなもの髪がさらっと揺れた。
なんだか・・・・みなもが返事をしてくれたような気がした。
「それは・・・・許してくれるってことか?」
・・・さらり。
「そうか・・・・ありがとな、みなも・・・・」
・・・なんだか涙が溢れてきた。
何故だかは分からない。
分からないが・・・止められなかった。
みなもの髪と話しているのはおかしな姿なのかもしれないが、
それでも俺は構わず話し続けた。
「・・・みなも、俺はさ、みなもと一緒にいられた時間が・・・・一番幸せだったんだ。・・・みなもは俺と一緒にいられて幸せだったか?」
・・・さらり。
「・・・だよな。・・・本当に楽しかったよな。最初に逢ったのはみなもが電車に乗り遅れそうになってた時だったっけ」
・・・・・・。
・・・揺れない。
「・・・違ったっけ?・・・・・・・・・・ああ、そうか。乗り遅れそうになってたんじゃなくて、降り遅れそうになってたんだ」
さらり。
「ははっ・・・変な話だよな、降り遅れそうになるなんて。でも、みなもらしいといえばみなもらしいか・・・・おっと」
話しているうちに海岸の端まで来てしまっていた。
俺はきびすを返して、元いた所の方に向かった。
・・・・・・・海の風はかたく、そして冷たい。
冬が間近に迫る11月の空気が、俺の肌に突き刺さる。
頬を伝う涙を風が撫でていくたび、冷たい痛みが俺の両頬を刺激する。
・・・しかし、俺はその痛みを心地良く受け入れていた。
「・・・でも、やっぱり痛いよな」
みなもを支えている俺の両腕も、その痛みを受け続けていた。
普通ならその痛みに耐えかねて、とっくに降ろしているのだが・・・
・・・みなもは普通ではなかった。
みなもは軽い。
・・・いや、軽すぎるのだ。
玄関に来たとき、痩せこけているとは思ったが、背負ってみると思っていた以上に軽い。
今のこの見た目よりも軽いのだ。
・・・重さを感じないといってもいいくらいだ。
それに・・・今は降ろしたくなかった。
どうしても、みなもを背負っていたかった。
・・・しっかりと、みなもの存在を確認したかった。
「なぁみなも、・・・業平に・・・・・なれたかな・・・?」
・・・さらり。
「・・・ありがとう、みなも・・・・・・」
ほんとうに・・・・ありがとう・・・・・・
「・・・・・・あの雨の日だったよな、みなもをはじめて負ぶったのは・・・」
さらり。
「でも・・・あのときとは違う・・・」
「みなもは・・・軽いんだよ・・・・・!あの時よりもずっとずっと・・・・軽くなってく!!」
「消えていくのか?このまま・・・・。俺を残していなくなるのか!?」
「嫌だ!嫌なんだよ・・・・・・もう・・・何も失いたくない・・・・・大切な人をもうこれ以上失いたくないんだよ!」
俺は何も言わないみなもに叫んでいた。
全く意味の無い、無駄な行為なのだろう。
みなもは・・・何も返してはくれないのだから。
でもそれは仕方が無かった。
みなもとの想い出が、走馬灯のように俺の頭の中を駆け巡っていたから。
全く・・・変な話だ。
命が消えかかっているのは、俺じゃなくてみなものほうなのに・・・
・・・・みなもは今、どんな事を思っているだろうか?
俺のことを思っていてくれてるといいな・・・・
みなもの想い出の一番大切なところに・・・俺がいたら嬉しい。
「・・・・・ほんとにいろんなことがあったよな・・・・・・」
「オチバミに行ったり・・・」
「郵便局を描いたり・・・」
「古典を勉強したり・・・・」
「・・・・・・ほんとに短い間だったけど・・・」
「俺の思い出は・・・みなもで満た・・・されてるん・・・だ・・・」
涙が・・・涙が止まらない・・・・!
ちゃんと言葉を口にすることもできない・・・!
「だから!お、俺は笑って・・・・見送るからなっ!今まで・・・今までほんとにありがとうって!!」
・・・・・・
・・・・みなもの答えは返ってこない。
いや・・・
・・・髪が・・・揺れない。
「なんで・・・なんでだよ!!何で笑って見送っちゃ駄目なんだよ!!笑って見送って欲しくないのか!?」
・・・・・揺れない。
「じゃあ・・・・なんで・・・・」
「・・・・・・・・さん」
・・・なんだか、みなもの声が聞こえた気がした。
「・・・・・・」
「智也・・・さん・・・・」
背中から確かに聞こえる!
「みなも・・・・・・・か?」
俺はみなもを負ぶったまま、首だけを後ろに向けて聞いてみた。
・・・さらり。
みなもが微かに頷いていた。
さっきから髪が揺れていたのはみなもが頷いていたからだったのだ。
みなもは・・・生きていた。
「・・・智也さん・・・みなもを見送る時は・・・笑って・・・見送って欲しいよ・・・?」
「・・・・でも・・・でもね?・・・こほっ・・・見送って欲しくは・・・・ないから・・・・」
「まだ・・・智也さんと・・・一緒にしてみたい事が・・・・いっぱいいっぱいあるから・・・・」
「智也さんと・・・・もっともっと・・・一緒にいたいから・・・・・こほこほっ・・・」
時折咳き込みながら、それでも一生懸命に話そうとしていた。
背中越しにみなもの体温が伝わってくる。
そして、俺は実感した。
みなもはまだ生きているんだと。
それなのに、俺はもうみなもが遠くに行ってしまった気になっていた・・・
・・・心臓の鼓動も弱々しいながらも打っているのに。
荒くて不規則だけど息だってしているのに。
こんな弱くて情けない俺とでも、一緒にいたいと言ってくれているのに。
なのに俺が諦めてどうする!!
今、みなもを救えるのは俺だけなんだ!!
・・・俺は固く決意して、みなもを一度降ろす。
みなもはぺたんとしりもちをついて座り込んだ。
自分で立っていられる力ももうないのだろう。
俺もしゃがんで、みなもと同じ目の高さにまで体を低くする。
そして、いつのまにか流れていたみなもの涙を腕で一気に拭い取って、みなもに話しかけた。
「・・・俺も一緒にいたい・・・・・」
「・・・うん」
「だから・・・みなもの言ってた『今を一生懸命生きる』っていうのはやめないか?」
「・・・どういうこと・・・ですか・・・?」
「俺は・・・・今よりも未来が欲しい。みなもと一緒に楽しく過ごすことのできる未来が・・・」
みなもはその言葉を聞くと、みるみる顔をくしゃくしゃにさせ、涙をあふれださせた。
「・・・・・・・みなもも・・・一緒に・・・・・・いつまで・・・も一緒・・・にっ・・・智也さ・・・んとっ・・・!!」
みなもは泣きながら俺に想いを伝えてくれた。
最後のほうは嗚咽で途切れ途切れだったが、みなもの想いは重く切なく俺の心に響く。
だから俺は、その言葉を聞いて思わずみなもを抱きしめていた。
「智・・・んっ・・・」
・・・そしてみなもの唇をふさいだ。
数秒間の交わり。
みなもの唇は温かかった。
キスをしている間、みなもは俺の背中に手を回し、服をぎゅっと握っていた。
・・・嬉しかった。
なんだかみなもに頼られてる気がして・・・・
みなもに本当に必要とされてるのが分かって・・・・
・・・俺は、みなもと未来を歩みたい。
大切な時間を共に生きていきたい。
・・・俺は唇を離す。
そしてみなもが俺の背中から手を離し、俺の右手を両手で握り締めた。
みなもの手は異常に冷たかった。
このまま俺の手を握り続けていたら、みなもの手は粉雪のようにふわっと解けてしまうのではないか、と思わせるほどに。
「あった・・・かいよ・・・」
「そうか・・・?」
「うん・・・・・・・・・みなもの・・・手・・・冷たいでしょ・・・・?」
今にも消え入りそうな声でみなもが聞いてくる。
「・・・・・いや、あったかい」
「・・・嘘なんて・・・言わなくて・・・いいよ?」
「嘘じゃない。・・・確かにみなもの手自体は冷たいけど・・・・・・それ以上にここがあったかくなるんだ」
そう言って俺は左胸の辺りを指差す。
「心が・・・満たされるんだ・・・・」
「智也さん・・・・・」
みなもは俺の手を握る手にぐっと力を入れた。
そして俺の目を見据えて口を開いた。
「・・・みなもは・・・智也さんと過ごした・・・この1ヵ月が・・・・・・人生の中で一番・・・幸せな時間だったよ・・・?」
・・・・みなもが玄関で言った言葉だ。
途切れ途切れで苦しそうだったが、あの時と全く同じ言葉。
「俺もだ・・・・」
みなもはそれを聞いて、『うん・・・うん・・・』と、小さく微笑みながら頷いていた。
「でも・・・・」
「・・・まだ終わりたくないんだ・・・」
俺の、本当の気持ち。
「今までみなもと過ごした1ヶ月よりも・・・」
嘘偽りない・・・
「・・・幸せな時間をこれから過ごしていきたい・・・」
俺の・・・
「・・・みなもと一緒に」
確かな願い。
みなもは、俺の腕にしがみついて、声をあげて泣き叫んでいた。
一言、
「・・・ありがとう・・・ございます、智也さん・・・!!」
と小さな声で呟いたのをきっかけにして。
「だから・・・背負わせて欲しい」
「・・・みなもを病院に連れて行くから」
「・・・うん」
泣きながら、一言、そう答えるみなも。
その答えを聞き、俺は立ち上がり、みなもに背を向けて再びしゃがむ。
俺の肩に弱々しく両手が乗せられ、体を背に乗せ、みなもの全体重が俺の体へと預けられた。
俺は勢いよく立ち上がると、すぐさま歩き出す。
病院へと向かって。
「・・・なぁ、みなも?」
「・・・はい、なんですか?」
本当に小さな声で、みなもの返事が聞こえる。
「・・・・・・まぁいいや」
「・・・気になるなぁ・・・」
あえて言うまでもなかった。
『好き』、なんて言葉は。
・・・智也さん、ある人がこんなことを言っていました。
『人とは、壊れる為に生まれた存在である』
人間は、いつかは死んでしまうものなんです。
でも・・・『死』という概念があるからこそ、今を一生懸命生きることができると思うんです。
『人とは、繋がりを求め、しかし繋がりを拒む、大変臆病な存在である』
智也さんは・・・私を求めてくれました。
でも、拒んでいた時もあったんだろうね。
『人とは、心を持つ存在である』
智也さんはそのために、私のことでいろいろ悩んでくれたんだよね。
心があったから・・・
『人とは、愛することの出来る存在である』
私は智也さんに愛されて・・・
『人とは、求め合う存在である』
私も智也さんとずっと一緒にいたくなって・・・
『そして最後に・・・』
離れたくなくて・・・
『人間とは・・・・・・』
だから私は・・・
『・・・・・・希望である』
智也さんに希望を持たせてもらえたんですよ・・・
・・・ゆっくりと進んでいく二人のひとつの影。
病院への道のりを、ゆっくりゆっくりと進んでいく。
二人がおたがいに託しあった希望。
おたがいに託された希望。
ふたつの希望がひとつになった今、智也は迷うことなく未来を目指して歩き始めていた。
みなもと一緒に、心を繋ぎながら・・・
・・・智也は、二人の未来を背負い、また一歩、歩を進めていた。
FIN
あとがき-------------------------------- ども。まるです。 ここまで読んでいただいて、ありがとうございます♪ これは、ずっと前に書いた書きかけのみなもSSを一日で仕上げたものです。 なので、変です。 絶対、変です。 でも今はこれが精一杯なんです。 すみません。でも自分では結構好きです。 そこら辺は個人の好みにもよるかな〜〜。 ・・・では、この後は、某HPで書いていたものより、断然短い(しかもおもしろくない)ですが、座談会を。 感想もいただけると嬉しいかな〜〜、なんてことも思います。 それでは、ごきげんよう〜〜〜♪ まるでした。 座談会--------------------------------- まる「はい、どーも〜〜まるです〜〜」 みなも「みなもです〜〜」 智也「・・・・・・」 まる「どうした智也、自己紹介しろって」 智也「何で俺がここで『三波春夫でございます』、などというベタなことを言わねばならんのだ!!」 まる「レッツゴー三匹が嫌なのか?」 智也「そういう問題じゃない!!」 まる「じゃあ、『今いくよ くるよ』?」 智也「何でそんなチョイスをするんだよ!しかもそれは二人組だろ!」 まる「だから智也は、三人目の新キャラ、『今 えなり』になれ」 智也「何で『えなりかずき』なんだっ!!」 みなも「まあまあ、智也さんもまるっちも落ち着いてください」 智也「みなもちゃんに言われちゃ、仕方ないか・・・」 まる「けっ!命拾いしたな、智也!!」 智也「なぜそんなに挑発的・・・」 みなも「さて、今回のお話は智也さんと私の二人だけの話だったわけで・・・」 まる「智也のみなもちゃんへのセクハラも多かったわけで・・・」 智也「してない!!」 みなも「されました」 智也「しました」 まる「・・・・・」 みなも「・・・・・」 智也「・・・・・」 みなも「でも、一種『和漢』だと思うよ」 まる「和漢っ!?」 智也「そうだぞ、俺とみなもちゃんは付き合ってるんだから・・・」 まる「・・・・うわぁぁーーーん!!これは彼女いない歴生きてきた年数の俺に対するいじめだぁ〜〜〜!!!」 みなも「あ、まるっち〜〜〜!!どこ行くの〜〜〜!?」 智也「・・・行っちまったな」 みなも「・・・しょうがない、今回はこの辺でお開きにしましょうか」 智也「ああ、そうだね」 みなも「それはみなさん・・・ぐはっ!!」 詩音「ごきげんよう〜〜〜♪」 智也「みなもちゃん!!」 みなも「くぅぅぅ・・・・詩音さんの見事な『崩拳』が・・・」 詩音「最後の挨拶だけは、どなたにもお譲りするわけにはまいりませんから」 智也「・・・・・・」 詩音「それではあらためて、ごきげんよう〜〜〜♪」 |
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