『Tears -Bygone days-』                             
This is Memories Off 2nd story....
...written by Maru.


第一幕「ほたるの音と静流の想い」 第二幕「静流の音とほたるの想い」 第三幕「救われた希望」 第四幕「二人は希望」
第五幕「芽生えた希望」 第六幕「智也と信」 第七幕「健と信」 第八幕「荒んだ音色」
第九幕「虚ろな音色」 最終幕「美しき音色」 エピローグ「Tears -Bygone days-」



   
第一幕「ほたるの音と静流の想い」

鍵盤の音が部屋の中に響いていた。
黙々と鍵盤を弾く少女。
その指は地面を跳ねるウサギのような・・・そんな感じに見える。
だが、その指の感じとは対照的に、表情は少し、悲しみを帯びているような気がする。
少し大人びた顔つき。
・・・が、鍵盤を弾くその手が止まると同時に、張り詰めていたような気が一気に抜ける。
表情も、先程までとは違っていた。
大人びた雰囲気など微塵も見せずに、歳相応の顔つきへと、変化する。
ほうっ、とひとつため息をつく少女。
リボンで束ねて垂れている二つの髪が、その少女の気持ちを表している・・・・ように見えた。
「・・・よいしょっと」
小さく声を出しながら、椅子から立ち上がる。
そして、礼儀良く、ピアノに向かって綺麗なお辞儀をした。
「・・・ベートーベンの悲愴・・・でした」
誰もいない部屋で一人呟く。
以前のように、感想を聞く相手もいない。

-『よかったよ』
-『もう、健ちゃんってば、そんな感想しか言えないの?』

・・・そんな稚拙な感想でもよかった。

-『僕に上手な感想を言えって言うほうが無理な話だよ・・・』
-『上手な感想を言って、って言ってるんじゃないの』
-『健ちゃんの思ったことを聞きたいだけ』

そう。
思っていたことを聞きたかっただけ。
愛する人の想いを知りたかった。
ただ、それだけ。

-『・・・だから・・・良かった、と僕は思う』
-『・・・・・・』

そうやって怒ったふりをしてみたりもした。
そんなやり取りが楽しくて。
困った顔をしている健がまた、愛しくて。

-『・・・・・・魔法みたいだった』
-『え・・・?』

魔法みたいだった。
その言葉の持つ響きは。
一瞬にして私の心を震わせて。

-『・・・ほたるが曲をひいてる間、魔法にかかっているようだった』

一瞬にして私の心を掴んでしまうような。
そんな言葉だった。
・・・そんな・・・人だった。

「魔法・・・かぁ」
そう呟いてみてふと思う。
今の私にそんな音が弾けているのだろうか、と。
最近まで、ほたるは健を想ってピアノを弾いていた。
言わば、ほたるのピアノは、健あってのものだったのだ。
健が傍にいない状態の自分に、そんなピアノが弾けるのだろうか、と。
それに・・・

『何でほたるはピアノを弾いてるの?』

その疑問が、浮かんでは消えることを繰り返していた。
ほたるがそんなことを考えていると・・・

パチパチ・・・・

誰もいないはずの部屋から、柔らかな拍手が一つ。
ほたるが後ろを振り向くと、そこにはにこやかに微笑んだ、一人の女性が立っていた。
「ほたる、そろそろ休憩したらどう?」
ほたるがピアノを弾くきっかけになった人物。
今まで憧れてきた女性。
目標としてきた女性。
そして・・・健のいない今のほたるに、一番必要な存在。
「もう、お姉ちゃん、部屋に入るときはノックくらいしてよ・・・」
わざとらしく頬を膨らませるほたる。
それに対して、静流は呆れたような、悲しんでいるような、そんな表情をしていた。
「ノック、したわよ」
「え?そうなの?」
静流は重くため息をつき、やれやれ、といった風に首を軽く振る。
「ほたる、熱心に引いていたものね・・・・気付かなかったんでしょう?」
「じゃ、じゃあ、声をかけてくれれば・・・」
それを聞いて、静流がより悲しそうな顔をする。

・・・声なんてかけられる訳ないじゃない・・・

それが正直な静流の想いだった。
ほたるの今のピアノは、以前にも勝って素晴らしくなってきている。
・・・なってきてはいるが・・・
ほたるの今のピアノは、昔のものとは明らかに違っていた。
『悲愴』が、悲愴らしく聞こえてきてしまう。
『愛の夢』が、悲愴感溢れる曲に聞こえてしまう。
あのころの、楽しそうで、現実の世界はこんなにも素晴らしいんだよ、
ということを訴えかけていたような音とは、あまりにも違いすぎていて・・・
・・・正直、静流は今のほたるのピアノが・・・・
・・・好きではなかった。
聞いていると、悲しみがひしひしと伝わってきて。
・・・そんな風にピアノを弾いていたほたるに、声なんてかけられるわけがなかった。
「あら、ごめんなさい、そうしたら良かったわね」
しかし、静流はそんな想いをおもてに出すことなく、そう答えた。
それを聞くと、ほたるは、
「全く〜、相変わらず、お姉ちゃんは一つ、何かが抜けてるんだから」
といって、部屋の出口に向かっていった。
・・・そんなほたるを見送りながら。
「じゃあ、休憩にするね」
という、ほたるの言葉を聞きながら。
静流は、
「そう・・・」
「私もあとでケーキと紅茶を持っていくわ」
そう言って、ほたるが部屋を出るのをじっと見つめていた。



  
第二幕「静流の音とほたるの想い」

・・・バタン。
・・・部屋の扉が閉まる。
そこで、初めて静流は肩の力を抜くことができた。
ふぅっ、とため息を軽く吐く。
「全く・・・ほたるったら・・・」
ほたるがピアノの鍵盤の上にカバーをかけ忘れていることに気付いて、静流が思わず、そう口にする。
・・・今のあなたは私以上に抜けてるわよ・・・・
静流はそう思って、もう一度、今度は重いため息をついた。
「・・・ほたる・・・」
そう呟くと、静流はピアノの前の椅子にゆっくりと腰掛ける。
そして鍵盤の上に指をゆっくりと置いてみる。
無機質な鍵盤。
その鍵盤で、ほたるはあれほどの音を出していた。
音色に、自分の想いを乗せて。
それが、どれほど凄いことなのか、静流には分かっていた。
「私には・・・・・・」
・・・軽く鍵盤を押してみる。

♪・・・・

無機質な音がひとつ、部屋の中で響いて、消えていった。
・・・目の前にある『愛の夢』の楽譜。

♪・・♪・・♪♪・・・

静流は無意識のうちに、一小節だけ、ピアノを弾いていた。
・・・やっぱり・・・
「ほたるの方が断然上手かっ・・・・」
静流はそこで言葉をとめてしまった。
おかしなことに気付いたからである。
ここにあるのは『愛の夢』の楽譜。
しかし、先程ほたるが弾いていた曲は・・・・
「・・・・・・『悲愴』だった・・・・・・」
そう。
ほたるが弾いていた曲は明らかに『悲愴』だった。
いくらピアノをやめて数年がたっているとは言っても、さすがに『愛の夢』と『悲愴』を聞き間違えたりはしない。
ほたるは、目の前に『愛の夢』の楽譜を置きながら、あえて『悲愴』を弾いていたのだ。
・・・・もしくは、無意識に・・・・
「・・・・・・」
静流は言葉を失った。
ここで、ようやく健がほたるにとって、どれだけ大きな存在か、思い知らされたようだった。
分かってはいた。
健がほたるにとって大切な存在だったということは。
・・・・そう。
大切な存在『だった』、ということは・・・
しかし、今のほたるには、健が以前よりも大きな存在になっている。
近くにいなくなって、余計に大きな存在に・・・
「・・・このままじゃ・・・」
きっとほたるはノイローゼか何かになってしまうのではないか・・・・
・・・それは、静流にとって、確信めいた推測だった。
大きな不安が静流を包み込む。
・・・こうしてはいられないわ・・・
早くしないと、ほたるが・・・・
焦る気持ちを抑えきれず、静流は急いで自分の部屋へと戻っていったのだった。
・・・ある考えと共に。



・・・一方、ほたるは部屋に戻っていた。
・・・扉には鍵をかけて。
そして、手に持った、ある物を眺めていた。
その手の中にあるのは・・・
・・・スピードモンスター。
健に、ほたるがプレゼントした物だ。
そして・・・
・・・返された物。
別れる時に、手渡された物。
ほたるはそんなスピードモンスターを眺めて、右手でそれを愛しそうに撫でていた。
ほたるは、ここ1ヶ月、毎日これと同じことをやっている。
・・・想い出を懐かしむように。
「・・・ねえ、健ちゃん・・・ほたる、健ちゃんのこと、すごく大好きだったんだよ?」
部屋の中で、一人、呟くほたる。
・・・ほたるの意識は、もはや現在にはなかった。
想い出の中でくすぶる色鮮やかな健との日々の記憶。

・・・登波離橋での健への告白。

あの時、健ちゃんはびっくりしてたけど、ほたるの想いを受け入れてくれたよね・・・?
それがたとえ、いい加減な気持ちだったとしても・・・
ほたるは・・・嬉しかったよ。

・・・初めてのキス。

世界が一面真っ白で、空気が体を刺すような寒さだったよね。
ほたるは、一生懸命セーターを織ったけど・・・
・・・少し大きすぎちゃって。
でも、健ちゃんはそれをほたるに上から被せてくれた。
『二人で入るにはちょうどいい大きさだよ』
って。
そんな健ちゃんの優しさが、すごく、すごく嬉しかった。
健ちゃんは暖かくて・・・
・・・健ちゃんと触れ合った唇も・・・
・・・温かかった。

・・・何気無い日常。

何か特別なことがなかった日も、ほたるには大切な想い出だよ。
健ちゃんと一緒にいられれば、それで・・・
・・・ほたるは幸せだった。
でも、でも・・・

・・・ほたるの意識が現実へと戻る。
部屋の中を見渡し、そこが日本ではないことをあらためて確認させられると・・・
・・・ほたるは、悲しくてしょうがなかった。
「健ちゃんはもういない・・・・」
震える声で、無理やりそう呟くほたる。
自分に現実を分からせようとして。
そんなほたるは、今にも壊れてしまいそうなほどに、儚かった。
「ほたるのそばに・・・健ちゃんはもう、いないんだ・・・・・・」
そして、ほたるは崩れ落ちた。
顔に両手を被せて。
ほたるは涙をぽろぽろと零していた・・・
・・・・・・零すしかなかった・・・・・・



  
第三幕「救われた希望」

「くそっ、ここまで忙しいとは・・・」
愚痴をこぼしながら、手を動かす少年。
「こら、三上!!ぶつぶつ言ってないでさっさと動かんか!」
ここで一番偉い人なのだろう。
少し頭の薄い、小太りの中年が、智也に檄を飛ばす。
「はーい!!分かってますよ!!」
「・・・全く、あのハゲオヤジはうるさいんだよ・・・」
大声で返事をし、その直後、小声で文句を言う。
全く、性悪なやつである。
・・・ここは郵便局。
冬休み、年末年始の郵便物の多さに、郵便局はバイトを募集することが多い。
智也の住んでいる地域も、そのためバイトを募集していた。
これを知った智也は、簡単な気持ちで応募した訳だが・・・
実際に、受かって仕事をやってみれば、尋常な忙しさではなかった。
さすがに追加でバイトを募集するだけのことはあって、手紙の量は半端なものではない。
それをいちいち見てまわるのだ。
いくら、仕分けは機械がやってくれるとは言え・・・
「これはいくらなんでも・・・」
・・・辛すぎる。
・・・それに今日の智也には、大切なことがあった。
「大体、今日は12月24日だぞ!?」
「なんで俺はこんなところで、こんな知らないやつらの手紙なんかをいじくってなきゃならんのだあぁぁぁぁ!!!」
だが、そう叫んだところで、智也の仕事は早く終わるはずもないし・・・
「三上ぃ!!!真面目に仕事をやれぇぇ!!!」
・・・あのハゲオヤジに目をつけられて、余計に上がりの時間が遅くなるだけであった。
・・・まあ、元はといえば、『クリスマスイヴ』の存在を忘れてバイトをいれていた、智也が悪いのだが・・・
・・・それにしても、考えるだけで恐ろしかった。
実のことを言うと・・・唯笑は、智也が今日、バイトを入れてしまったということを知らない。
智也のことを信じて・・・
今日の、智也と過ごす特別な日を、心待ちにしながら家で待っているのである。
そんな唯笑を裏切ってしまえば、その後1ヶ月は・・・
・・・読者のご想像にお任せする。
・・・とにかく、とんでもないことになるであろうことは、智也の脳裏に嫌というほど浮かんでくるのであった。
かおるには散々、
『あ〜あ、やっぱり智也って、そういう男だったんだ〜』
と、からかわれ、詩音には無言で、冷たい目で見られ、そして噂を耳にした信には、
『くそ〜、智也っ!!唯笑ちゃんを大事にしないのならば、この超優しい信さまに譲れっ!!』
と、半ば本気で言われ、そして唯笑には・・・・
「・・・うわぁぁぁっ!!!俺はどうしたらいいんだぁぁぁ!!!!!」
「うるさいぃぃぃ!!!働けばいいんだぁぁぁぁぁ!!!!!」
・・・ハゲオヤジに更に目をつけられた、智也であった。
すっかりうなだれて、視線を落とす智也。
・・・と、ひとつのエアメールが地面に落ちていた。
「まったく、けんかを売ってるのか?このエアメールは・・・」
智也がそうエアメールに八つ当たりする。
ちらっと送り主の名前が目に入り・・・
「・・・・・・あれ?」
そこで智也の動きが止まる。
送り主の名前は・・・

『白河静流』

智也にはその名前に見覚えがあった。
「・・・白河静流、白河静流・・・」
その名前を繰り返して口にしてみるが、後一歩というところで出てこない。
「白河・・・白河・・・」
「静流・・・・静流・・・・?」
智也は少しおかしなことに気付いた。
このこんな難しい名前を初めて見た人が、『しずる』とあっさり読めるわけがない。
きっとこの名前に何か・・・
そう思った智也は、何度も頭の中で繰り返してみる。
・・・静流・・・静流・・・
「・・・・・・・・静流!」
智也は記憶の中にその名前を見つけた。
「そうだよ、小夜美さんの親友の白河静流さんじゃないか・・・」
智也は、その時のことを完全に思い出していた。

-『へぇ・・・・しらかわしずる・・・さんって言うのか・・・この人』
-『・・・でも『しずる』って、どういう字、書くの?』
-『ちょっと待ってね・・・・・・・・・はい、こういう字』
-『・・・へぇ〜・・・『静かな流れ』、で静流か・・・綺麗な名前だね』
-『そうね、あたしもそれ『だけ』は認めるわ』
-『なんか、嫌味な言い方だな・・・・。・・・で、この人が・・・・』
-『そうよ、私の一番の親友。まあ、昔の写真だから今とは少し違うけどね』
-『さすがに小夜美さんもまだまだ若いね』
-『・・・どういうことよ?』
-『あまり深い意味はないです』
-『・・・まったく。で、話を戻すけど』
-『もう一度言うけど、私の一番の親友。智也君で言うと、かおるちゃんみたいな存在かな』
-『なるほど・・・信って言われなくってよかった』
-『うふふ・・・智也くんったら・・・・でも、言われてみれば信くんに近いかも』
-『うげえっ・・・やめて下さいよ・・・』
-『うん、まあ、その二人、どっちでも近いかな』
-『でね、静流には妹がいて・・・ほたるちゃんって言うんだけど』
-『この写真のここにいる小さな女の子ですか?』
-『ああ、そうそう。でね、その子がピアノがすごく上手で・・・・』

・・・そうだ。
確かにこの字を小夜美さんは紙に書いていた。
『静かな流れ』で静流・・・
智也の記憶に鮮明に浮かんできた記憶。
それは確かなものだった。
「・・・ま、だからって俺には何の関係も無いけどな」
そう呟いて、それを拾い上げる。
そして、仕分けされた棚に入れようとするが・・・
しかし、またしてもそこで智也の手が止まる。
宛先の最後が気になる名前だったからである。

『朝凪荘』

「朝凪荘?」
・・・ちょっと待て。
信からの話じゃ、確か朝凪荘は・・・・
「燃えたはずだ・・・」
朝凪荘は、もう存在していない。
このまま放っておいたら、この手紙は届け先に届かないだろう。
もし、この手紙を俺が見つけていなければ・・・・
・・・・・・。
そして、智也は少し考えた末・・・
・・・棚にしまおうとしていた手を戻し、エアメールをポケットにしまったのだった。
・・・そのとき、智也の手には何か四角いものの感触があった。
・・・手紙ではない、何かが・・・



   
第四幕「二人は希望」

ここはルサック。
クリスマスも、クリスマスイヴも、客は引っ切り無しに来ていて、大忙しだった。
その割りに、12月26日現在では、すっかり客足も途絶え、暇で暇でしょうがないほどである。
・・・ある人物にとっては、それがありがたそうであったが。
「いやぁ〜、お客様は神様!!ぜひ、もっと来てほしいものですなぁ〜〜」
信は、奥の方で相摩姉妹と話をしていた。
そして、心にも思っていないことを言う。
本心は、きっとこんな感じなのであろう。
『へっへっへ、このまま客がこなきゃ、棚からぼた餅だぁ〜〜!!』
・・・それは、作者にとって、確信めいた推測だった。
「・・・とは言うものの、このままお客さんが来なきゃ、働かざるもの食うべからず、ていうことわざに反するよなぁ〜♪」
ニコニコ顔でそんなことを言う。
そんな信の言葉に、説得力など皆無であった。
「・・・ま、実際、このままの状態だったら、タンスからゴマ団子だよなぁ♪」
思った通り、そんなことを考えていたようだ。
・・・しかも、『タンスからゴマ団子』、なんてことわざは無い。
「信さん、そんなこと言っちゃ、店長に悪いですよ・・・」
と、弱々しく望が意見する。
「それに、『タンスからゴマ団子』、なんてことわざはありません」
ちょっと厳しめなつっこみをいれるのは希。
ここらへん、この二人は性格が正反対だ、というのが良く分かる。
だからこそ、この二人は一緒にいてはじめて、釣り合いが取れるのであろう。
「わあってるよ、気分的に棚からぼた餅よりも、強めにいきたかっただけだ。強めに」
何が強めなのかは知らないが、信はわざと間違えたらしい。
しかし、そんな信に希が厳しい一言を放つ。
「・・・というより、信さんの場合、ゴマ団子、というよりホウ酸団子じゃないですか?」
「ううっ・・・希ちゃん、相変わらず、いいとこつくねぇ・・・」
そう言って、信が胸の辺りを押さえて苦しむふりをする。
すると、相摩姉妹は、まったく同じ笑い方をするのであった。
・・・ここらへんは双子だな、と信は思った。
「・・・でも、希ちゃん、ほんと良いところを突いてるよ」
少し信は真剣な表情になる。
そんな信を見て、相摩姉妹は二人とも、真剣に信の話に耳を傾ける。
二人の経験上、こういうときの信のする話には、聞いておいて損をするようなことが無い。
・・・というより、聞いておくと、ためになるような話ばかりであった。
信は二人をちらっと見ると、話を続ける。
「『タンスからゴマ団子』」
「つまり、何もしなくても、良いことや物が転がり込んでくる、って意味だ」
・・・信は、そのとき二人の男を思い出していた。
三上智也。
伊波健。
・・・そういやあいつらも何もしてなかったくせにかわいい女の子が集まってきてたよなぁ・・・
少し羨ましく思いながらも、信は話を続ける。
「・・・それに対して、『タンスからホウ酸団子』」
先程、希が言ったことだ。
「何もしなければ、災いが降りかかってくる・・・」
「つまり、何かをしなければ、良いことは起こらない」
まさに、自分のことだな、と信は思った。
自分はあの時、何もできなかった。
ただ、地面が赤く染まっていくのを・・・
智也が泣き叫んでいるのを、見ていただけだった。

だから俺には、幸せは来ないんだろうな・・・

・・・そこまで考え、気分が落ち込みそうになる信。
しかし、信は人前でそんな落ち込んだ自分を見せるようなタイプではない。
だから、信はそこで一度息を深く吐き、気分を落ち着かせて・・・
「・・・言い換えれば」
話を続けたのであった。
「言い換えれば・・・『何かをしたら、良いことが起こるかもしれない』」
「はぁ・・・そうですね・・・」
感嘆したように、軽くため息をつく望。
一方、希はうんうん、と頷いていた。
「まあ、ここまでは当然の話だ」
「ここで、ちょっとこの二つを組み合わせてみたとする」
二人は小首を傾げる。
ここでも二人の動きはぴったり同じ。
そんな二人を見て、思わず顔がほころぶ信であった。
「・・・ゴマ団子と・・・」
「・・・ホウ酸団子を・・・ですか?」
疑問に思い、尋ねてくる希と望。
その問いを聞き、信はこくりと頷く。
「ゴマ団子は、『動かなくても、何か良いことが起こるかもしれない』」
「ホウ酸団子は、『動かなければ、災いが降りかかる』、もしくは、『動けば、何か良いことが起こるかもしれない』」
「よーく考えてみなよ」
そう、信に言われ、うーん、と唸りを上げて考える二人。
信は一分ほど待ってみたが、二人はいっこうに答えを出せないようだった。
そこで、信は助け舟を出すことにする。
「よし、それでは、稲穂シントだ!!」
そう言って、信は二人を見つめるが、二人は信を見つめたまま動かない。
「・・・・はぁ・・・・俺の高等なギャグに気付いてくれるのは、智也と、音羽さんと、たるたるだけってことかぁ・・・」
ため息をついて、呟く信。
・・・どうやら、『稲穂信』と『ヒント』をかけたギャグだったらしい。
・・・この場に流れる変な空気。
この異様な雰囲気を晴らすべく、信が言葉をつむぎ出す。
「・・・おほんっ」
わざとらしく咳払いをする信。
その行為に、ようやく二人の硬直状態は解けたのであった。
「いいか?この二つをあわせて考えてみなよ」
「・・・もし、動かなかったとしたら・・・?」
信がそう二人に問い掛ける。
「・・・良いことが起こるかもしれない・・・」
「でも災いが降りかかるかもしれない・・・ですよね?」
二人はおたがいの顔を見合って、確かめ合うようにそう信に尋ねた。
それを聞いた信は、一度だけ縦に首を軽く振る。
「では・・・動いたとすれば?」
「何か良いことが起こるかもしれない・・・ですよね」
望はそう答えた。
・・・が、信はしばらく黙ったまま、二人を見つめているだけだった。
その信の行動に、少し二人は戸惑う。
そして、希がそれに耐えかねて声をかけようとした、そのとき・・・
「ほんとにそれだけか?」
突然信がそんなことを言う。
「えっ・・・?」
当然、二人に返す言葉はなかった。
そして、しばらく三人は黙ってままでいたのだった。



  
第五幕「芽生えた希望」

沈黙開始から数分たった頃、黙ってうつむいたままの二人に、信は声をかけた。
「それだけじゃない。まだあるんだ」
言葉と言葉の間に僅かな間を置いて。
「・・・いいか・・・?」
その信の声を聞いて、二人はようやく落としていた視線を上げたのだった。
「動かなくても起こるはずだった幸せはどうなる・・・?」
「あっ・・・」
気付いたように二人が声を漏らす。
「動かなければ起こるはずだった災いはどうなる・・・?」
・・・そう言って信が二人を見ると、無言で信のことを見つめていた。
少し照れくさくなった信は、二人の顔から少しだけ視線をずらす。
「・・・分かった?希ちゃん、望ちゃん」
「はい・・・」
感心して、声が出せなくなっている二人。
そんな二人に言い聞かせるように、信は話を続けた。
「要するに・・・」
「動けば、もともと起こるはずの幸せは手に入るし」
「もともと起こるはずだった災いも避けられ」
「そして動かなければ手に入らなかった、新たな幸せまでもが、手に入ってしまう」
「・・・・かもしれない」
最後に信が呟いた言葉は、本当に小さなものだった。
しかし、相摩姉妹はその信の小さな言葉を聞き逃してはいなかった。
「かも知れない・・・って、どういうことですか・・・?」
当然の疑問を望が口にする。
それに対して、信はひとつため息をついた後、こう言った。
「今俺が言ったのは、全て「可能性」に過ぎない」
「馬鹿みたいにじゃんじゃか幸せが降るかもしれないし・・・」
「結局何も変わらず、災いが振るのみ、かもしれない」
その信の言葉を聞いて、少し暗い顔をする希と望。
そして、希がポツリと呟く。
「・・・結局、結果が同じだとしても・・・」
「結果が同じだって解り切っていたとしても、信さんは動くんですか?」
不安げな表情で信を見つめる二人。
そんな二人に、信はこう言った。
「いいか、おふたりさん」
「二人の名前はなんだったっけ?」
そんなことは信も知っていた。
あえて、聞いたのだ。
その問いに対し、二人が自分の名前を口にしようとした・・・まさにその時。

ピロッピロッ・・・・ピロッピロッ・・・・

来客を表す音が鳴った。
そのため、ドアに背を向けた形で話をしていた信は、勢いよく振り向く。
「いらっしゃいま・・・・なんだ、智也か・・・」
客が智也であると知り、少しがっかりした素振りを見せる。
・・・もちろん内心は、久しぶりの親友の訪問に喜んでいるのだが。
「どうした智也、なんか食ってくか?」
その問いに対し、智也は軽く首を横に振る。
「いや、いい。それより信、この手紙なんだが・・・」
そう言って、智也はポケットから一枚のエアメールを取り出す。
それを見た信は、小首を傾げて智也に尋ねる。
「そのエアメールがどうかしたか?双海さんの友達か?」
「んなもんわざわざここに持ってくるか」
そこで信は一瞬考える。
・・・エアメール・・・?
「・・・・・・まさか!?」
信には心当たりがあった。
そして、その手紙には、とても、とても大切なことが書かれているのかもしれない。
何の根拠も無くそう思った信は、
「悪い、すぐ行くから外で待っててくれ!」
そう言って、店長に了解を取って、急いでルサックを出ようとした。
・・・が、視界の端に、先程の答えを待つ二人の姿。
信は、はやる気持ちを抑えつつ、その二人の前で足を止めた。
「・・・もう一度聞こう。二人の名前は?」
先ほどと同じ質問。
「希です」
「望です」
二人は、ほぼ同時に用意しておいた答えを言った。
「・・・なら、俺は動くと思うね」
その信の答えに二人は怪訝そうな顔をする。
それはそうだろう。
自分の名前を言っただけで、その答えを出されたのだから。
しかし、信はそんな二人の様子を気にすることなく、言葉を続けた。
「結果が同じだとしても・・・やっときゃ良かった、なんて、後で後悔なんてしたくないしな。・・・それに・・・」
「どんな時でも僅かながらにでもあるはずだ」
「二人の名前どおり・・・」
「・・・『希望』が!!」
信はそう大きな声で叫ぶと、ドアを開けて外へと出て行った。

希望。

その言葉を噛みしめながら信を見つめていた二人だったが、正気に戻ると、二人はおたがいを見つめ合った。
「・・・・もしかして、望も?」
「そういう希ちゃんだって」
「・・・・」
二人は少し黙ったまま、視線を交わすと・・・
『正々堂々と勝負だからね!!』
と、大きな声で叫びあっていた。
・・・信にも幸せがやってくるのかもしれないな・・・
・・・と、こっそり客席の奥の方でそれを見ていた智也は思った。
・・・そう。
信の知らないところで、信の新しい幸せは動き始めていた。
信に、新たな『希望』が芽生え始めていたのだった。



  
第六幕「智也と信」

信は勢いよくドアを開け放った。
・・・が、そこには智也の姿は影も形もなかった。
「・・・まったく・・・どこに言ったんだ?智也のやつ・・・」
もう一度辺りを見回してみるが、やはり智也はどこにもいない。
すると・・・
「おう、信。早かったな」
そう背後から声がかかる。
後ろを振り向くと、そこには智也が立っていた。
さも、当たり前のように。
しかし、それは今まで智也が店内にいたことを表している訳で・・・
「・・・ま、まさか智也ぁ!!さっきのこと・・・・」
先程の叫びを聞かれたということを表している訳で・・・
「ああ、もちろん」
その時点で、信のおごりが決定したことを表していた。
がっくりとうなだれる信。
しかし、今はそんな場合ではないことに気付き、慌てて顔をあげた。
「・・・で、エアメールは?」
「ここにあるぞ、ほれ」
智也がポケットから再びあのエアメールを取り出す。
信は少々強引にそのエアメールを受け取った。
「いやな、宛先が朝凪荘ってかいてあったからさ、信ならそこの住人知ってるか、と思ってな」
伊波健。
宛先の隣にそう書いてある。
そのときの信には智也の言葉もほとんど耳には入っていなかった。
信はなぜか妙な胸騒ぎがし、急いで送り主を探す。
「朝凪荘って燃えたんだろ?死者がいなくて良かったらしいけど・・・」
・・・やはり。
信が思っていた通り、その送り主は白河・・・
・・・!!
違った。
信の思っていた送り主とは違っていた。
「静流さん・・・」
信はてっきりほたるだと思っていた。
ほたるが寂しくなって、健に手紙を出したのだと。
それなら話は簡単だ。
ただこれを健に届けて、励ましの手紙か何かを健が送れば済む話だ。
だが、送り主が静流となると話は違う。
おそらく、この手紙の内容は・・・・
そう考えたところで、信は居ても立ってもいられなくなった。
「ありがとな、智也!お前のおかげでまた一人、救われる子が増えるかもしれない!!」
エアメールを握りしめて走り出す信。
その手に、何か四角いものの感触があった。
・・・なんだろ、これ・・・
・・・まあ良い、今の俺にそんなことを気にしている余裕は無いな。
・・・・・・いや、あっちにそんな余裕がないのかもしれない。
・・・ウィーンにいる、たるたるのほうに・・・
「・・・おい、信!!」
急いでいる信に、遠くの方から智也が声をかけた。
信は、少し立ち止まって智也のほうを見る。
「『また一人』ってどういうことだよ!!俺は今まで誰も救った覚えなんて無いぞ!!」
・・・はぁ・・・まったくお前は・・・
そう心の中でぼやきながら、大きくため息をついた。
「そんなこと俺が知るか!バーカ!!」
信は大声でそう叫ぶと、再びものすごい勢いで走り出す。
智也がまだ何か叫んでいるが、信は気にしなかった。
・・・あいつはあれで良いんだな・・・
・・・お前は気付かずに人を救うことができる。

唯笑ちゃんも。

音羽さんも。

双海さんも。

みなもちゃんも。

みんなお前に救われた子ばっかりじゃないか。
なのにお前は、救おうともしていないし、救ったことにも気付いてない。
・・・まったく、お前には頭があがらないよ・・・

・・・俺も、お前に救われた一人だしな・・・

信は、そこでいったん立ち止まってため息を大きくつく。
そして、今度は何も考えずに、健の今住んでいるアパートへと走っていった。
・・・ただひたすら、走っていった。



  
第七幕「健と信」

「はぁ・・・はぁ・・・」
信が健の住むアパートについた頃には、すでに日は完全に沈んでいた。
電燈だけがちかちかと音をたて、その光が消えたりついたりする度に、信の気は焦っていく。
なぜかその点滅が、ほたるの危険を知らしているように思えてならなかった。
「まさか・・・イナケンのやつ、いないんじゃないだろうな・・・・・・」
信がちらっと見た健の部屋。
そこに明かりはついていなかった。
「こんなときにいなかったら・・・許さないからな、イナケン」
信はそう呟くと、アパートの階段をのぼり始める。
一歩一歩が遅く感じて、自分の足に少し腹が立った。
健の部屋は205号室。
二階の一番奥の部屋だ。
「そういや、朝凪荘でも205だったな」
そんな懐かしい記憶を思い出しながら、駆け足で健の部屋の前まで急ぐ。
立ち止まってドアの前に立ってみるが、やはり、部屋の中に人がいる気配はなかった。
・・・くそっ、マジでいないんじゃないだろうな・・・
そんな嫌な予感を振り払う為に、信は拳を力強く握りしめた。

ドンドンドン!!

「おい!イナケン!いないのか!?」
・・・返事は無い。
・・・くそ、もう一回だ!

ドンドンドン!!

「おい!イナケン!寝てるなら起きろ!」
・・・やはり返事は無い。
「くそっ、どこに行ってやがるんだ・・・」
信は思考を巡らし、健が行きそうなところを考えてみる。
・・・スーパーに買い出し・・・
・・・図書館で受験勉強・・・
・・・翔太の家で遊んでるとか・・・
・・・まさか、まだつばめさんのこと探し回ってるんじゃないだろうな!?
「大馬鹿野郎!たるたるが大変だって時に何してんだ、イナケンのやつは!!」
思わず感情的になって叫ぶ信。
しかし、そんなことをしても何の意味もないことは、信にも分かっていた。
「・・・まずはスーパーだな・・・」
冷静になって、とりあえず健のいそうな場所をあたってみることにした。
再び走り出す信。
・・・が。
ドカンッ!!
「うわっ!!」
走り出す方向を良く見ていなかったため、何かとぶつかってしまう。
信が、ぶつかった時に閉じてしまった目を開けてみると、そこには・・・
「イナケン・・・!」
スーパーの買い物袋を持った・・・
・・・健が立っていた。
「信くん・・・ほたるが、どうかしたんですか・・・?」
健が不安そうな面持ちで信のことを見つめていた。
・・・どうやら、信の先程の叫びを聞かれていたらしい。
・・・それなら話は早い!!
そう思い、信は、いきなり本題に入った。
「イナケン、詳しいことは俺にもよく分からん、だがな」
ポケットから、あのエアメールを取り出す。
「この送り主、誰だと思う?」
「・・・ほたるですか?」
健は信の問いに、少し考えてそう答えた。
しかし、その答えに信は横に首を振り・・・
「・・・・・・静流さんからなんだよ」
そう答えた。
さすがにそれは、健も予想してなかったようで、驚きがはっきりと顔に出ていた。
「たるたるからじゃなく、わざわざ静流さんの名で送られてきた」
「と、いうことは、だ」
ということは・・・
その答えは、信はもちろん、健にもたやすく想像がついた。
ほたるの名前ではないことは、この手紙がほたるに秘密で出されたものだということを表している。
静流単独の行動だということだ。
静流がほたるに内緒でしなければならないこと。
しかも健に関わってくること。
そんなものは・・・・

・・・ほたるのことしかあり得なかった。

「ありがとう信くん!!悪いけど、話はまた今度で!!」
健は礼を言い、信の差し出したエアメールを手にする。
そして、買い物袋を放ったままで、鍵を開けて部屋の中に消えていった。
「・・・馬鹿やろう、イナケンにする話なんてもう無いんだよ」
そう呟くと、信はきびすを返して階段へと向かう。
・・・手にはちゃっかり、健の食料を持って。
「ま、このくらいのお礼は貰ってもバチは当たらないよな」
そう言って歩いていく信は、明らかに微笑んでいた。
・・・ただ一つだけ手に持った牛乳パックを、上に投げては掴むことを繰り返しながら。
そして一度だけ、明かりのついた健の部屋を振り向いてちらと見、より微笑むと、

「幸運を祈る、イナケン」

最後に呟き、腹をすかせたトモヤに牛乳をやるのを楽しみに、自分のアパートへと帰っていった。



  
第八幕「荒んだ音色」

健は部屋の中に入って明かりをつけた。
・・・右手に握られたひとつのエアメール。
握ったときの感触で分かったが、手紙のほかにも何かが入っているらしい。
薄くて、四角い何か。
まあ、それは開けてみれば分かる、と健は考えて、封を切ろうとする。
「はさみ、はさみ・・・・」
ひとまずエアメールをテーブルの上に置き、台所にあるはずのはさみを探す健。
健は意外に几帳面で、わざわざはさみで封を切ろうとしているらしい。
引き出しを開けて、はさみを見つけた健は、テーブルに置いたエアメールを見る。
「わざわざ静流さんから・・・・」
静流の名前で送られてきたエアメール。
一体何があったというのか。
・・・健の心で不安な気持ちがどんどん膨らんでいく。
・・・本当になんなんだ・・・?
健にはいくら考えてみても分からなかった。
・・・いや、正確に言えば、健にはひとつだけ確信していたことがある。
・・・この手紙の内容は、相当重い話である、ということだ。
それは、『白河静流』という字を見れば一目瞭然だった。
この文字は明らかに・・・・

・・・震えていた。

小刻みに字が震えていた。
それは、普段冷静な静流さえも、まともに字が書けなくなるほどのこと。
つまりは・・・ほたるに余程のことがあった、ということなのだろう。
・・・だが、その出来事がなんなのか。
それは、この手紙を見てみなければ分からない。
そしてついに、健は意を決したのか、エアメールにはさみを入れた。

ジョキジョキ・・・

・・・嫌に紙を切る音が耳につく。
この部屋にある音は紙が切れている音のみだった。

ジョキジョキジョキジョキ・・・

・・・くそっ!何でこういう時に限ってなかなか切れないんだよ!
そう思う健。
・・・だが、紙は普通に切れている。
健の気がただ焦っているだけなのだろう。
嫌な時間というものは、人は長く感じてしまう。
それほど・・・健はなぜか不安だった。

ジョキッ!

ぽとりと落ちる、切れた紙片。
健はエアメールを逆さまにする。
そして、中に入っているものを出そうと、上下に振った。

カタン・・・

初めに落ちてきたものは手紙ではなく・・・
「・・・カセットテープ・・?」
何もラベルの貼られていない、どこにでも売っているカセットテープだった。
・・・これに何が・・・?
疑問に思う健。
しかし、それを考える暇無く・・・

カサッ・・・

質素な白い便箋が2枚、落ちてきた。
どうやら、それ以外にはもう入っていないらしい。
「まずは手紙を読むか・・・」
無音状態の部屋がいつになく嫌で、自分の声でそれを誤魔化そうとする。
・・・しかし、すぐに声は消えていった。
・・・・・・。
無音。
・・・・・・よし、読もう!
健は気を引き締めて、便箋を開いた。

『・・・健くん、静流です。
とりあえず、時間がないの。
一緒にカセットテープが入ってたわよね?
ほたるの曲が録音してあるんだけど・・・・
・・・聞いてみてくれる?
聞いた後に二枚目は見て・・・   静流』

・・・なんでほたるのピアノなんか送ってきたんだ・・・?
そう思いながらも、健はすぐにCDラジカセにカセットテープを入れた。
・・・再生ボタンを押す。

・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
かしゃっ!

しばらく聞いていた健だったが、耐え切れなくなり停止ボタンを押した。
・・・なんなんだ・・・この音は・・・
とても聞いていられるような曲ではなかった。
おそらく、この曲は健の記憶に間違いがなければ、『悲愴』である。
・・・いや、なのだろう。
リズムは狂い、時々途切れ、音自体が荒んでいた。
・・・これがほたるのピアノ・・・?
その事実は到底信じられるようなものではなかった。
・・・ほたるのピアノは、聞く人を魅了して、音に想いを乗せることができて、それで・・・・
健は昔聞いたほたるのピアノを懸命に思い出しつつ、その音を言葉で表現する。
それは、いくら挙げてもきりがなかった。
そしてそのピアノは、とにかく素晴らしいピアノだった。
なのに・・・
「この音がほたるの音だって言うのかっ!?」
どう変わればこんなに違う音になるのか。
・・・いや、変わったなんてものではなかった。
・・・まるで別人。
「・・・そうだ!!」
これはきっと別人が弾いたもので、それで静流さんが僕を騙そうとこんなことをしたんだ!!
そんな考えを無理やりに出す。
本当は健自身が分かっているはずである。
こんな冗談は静流は絶対にやらない。
そのことを。
しかし、健はそのことを分からないふりをして、その考えを押し通す。
・・・きっと、二枚目に『冗談だよ、健くん驚いた?』なんて書いてあるに違いない・・・
そう無理やりに思うことで、健は二枚目の便箋を開く。
あり得ないとは心の奥底で知りつつも、『冗談』という内容を求めて。

『・・・聞いた・・・のよね。
・・・健くん、嘘かもしれないと思っただろうけど、これが今のほたるのピアノ。
ほたるの音。
ほたるの・・・・心情。

・・・私・・・どうにかしようとはしたの・・・必死に・・・
・・・でも、日に日にほたるの音は荒んでいって・・・・
・・・それで、最近は『悲愴』しか弾かないの。
・・・目の前には『愛の夢』の楽譜しかないのに。
・・・それにね、ピアノを弾き終わった後、部屋にこもって、一人でずっと泣いてるみたいなの・・・
・・・ねえ健くん・・・?
どうしたらいいの?
どうしたら私・・・・

・・・・・・お願い、健くん・・・・・・
ほたるを・・・
・・・あの子を助けてあげて・・・?
・・・健くんがまだ・・・・・・・・・・』

・・・そこから先は文字が滲んでいてよく分からない。
・・・おそらく、静流が泣いていたのだろう。
だが、ここまでの文章だけでも、どんな状態なのかは健にはよく分かった。
ただでさえ、ほたるのピアノをずっと聞いてきた健なのだ。
先程のほたるの荒んだピアノを聞いただけで、身にしみるほどよく分かっていた。
・・・ただ、認めたくなかっただけ。
あのほたるのピアノがこんな風になってしまったのを認めたくなかっただけなのだ。
「・・・そうだ・・・ほたるは今、ぼくに助けを求めているんだ」
「きっと・・・ぼくに助けを・・・」
この手紙は、静流を通じた、ほたるからの助けを求める手紙だった。
静流はきっと、ほたるの音から、健への助けを求めているんだと確信したのだろう。
だからこれは静流からではなく・・・
「ほたるからの・・・・手紙」
小さく呟く健。
そして健は、ほたるを助けようと決意した。
「ほたる、待ってろよ・・・今、ぼくが助けるから」
「もう僕は・・・ほたるの所まで行って、抱きしめることも・・・・
「・・・優しく包み込んでやることもできない」
「・・・・・・でもぼくは・・・」
「ぼくは・・・・・・・・・」

・・・・その日、健の部屋の明かりは、夜遅くになるまで消えなかった。



  
第九幕「虚ろな音色」

「・・・・・・」
ほたるはピアノの前に置かれた椅子に腰掛けて、鍵盤を見つめていた。
ずっと、ずっと。
昨日の朝からまったく寝ておらず、さらには食事も昨夜食べたパン1枚のみ。
そのパンも、全く味なんて分からなかった。
ただ・・・静流が涙を流して差し出してきたから、食べただけ。
それに、ピアノを弾く気なんて全くなかった。
目の前にピアノはあるのに。
・・・ほたるは、ピアノを弾く意味が全く自分の中に見出せなかった。

『ほたるはなんでここに来てるの・・・?』

・・・ピアノを弾くため・・・

『なら、ほたるはなんでここに来る必要があるの・・・?
ピアノなら日本でも弾けるよ・・・?』

・・・もっと上手くなりたかったから・・・

『なら、ほたるはなんで上手くなりたかったの・・・?』

健ちゃんに・・・・
・・・健ちゃんに、追いつきたかったから・・・・

『なら、ほたるはなんで健ちゃんに追いつきたかったの・・・?』

・・・健ちゃんに・・・ふさわしい女の子になりたかったから・・・

『なら、ほたるはなんでふさわしい女の子になりたかったの・・・?』

・・・健ちゃんが、大好きだったから・・・
・・・誰が見ても、お似合いのカップルだって思われるように・・・

『なら、ほたるはなんで・・・・
・・・・なんで、健ちゃんと別れてもピアノを弾き続ける必要があるの・・・?』

・・・・・・・・・。

『ねえ、なんで・・・?』



『・・・健ちゃんはもう、ほたるの傍にはいないんだよ・・・?』



・・・答えられなかった。
ほたるはこの自問自答に答えることができなかった。
健と別れた後も自分にピアノを弾く理由があるのか。
・・・理由はあった。
少なくとも、健と別れて、ウィーンにきた時までははっきりと。
・・・しかし・・・
それから健のいない日々が続くうちに、ほたるにはその理由が分からなくなっていた。
健との想い出が脳裏に蘇るたび、その理由は少しずつ、形が見えなくなっていく。
まるで、霞がかかっていくように・・・
ほたるは少しずつ、ピアノを弾く理由を見失っていったのだった。
「・・・ねえ健ちゃん・・・」
・・・最近のほたるが口にする唯一の言葉。
「なんでほたるは・・・」
「・・・・・・なんでほたるは・・・・・・」

「・・・・・・それでもピアノを弾くんだろうね・・・・・・」

・・・鍵盤の上に指を置くほたる。
弾く気は全く無いにもかかわらず、指が勝手に動いてしまう。
その指が弾く曲は、ほたるが弾きたいような、柔らかく、優しく、包み込むような曲ではなかった。
まるで今の自分の気持ちを表すような・・・・
・・・乱暴で、いびつで、荒んだ音の羅列に過ぎない。
・・・目の前においてある楽譜も『愛の夢』なのに。
それなのに・・・・
・・・今、ほたるの指が・・・心が奏でた曲は、『悲愴』だった。

・・・なんでぇ・・・?
なんで『悲愴』なの?
こんな曲、聞きたくない・・・!!

「ほたる・・・入るわよ・・・」
「『悲愴』なんて悲しい曲、聞きたくないよぉぉぉぉ!!!!!」
「ほたるっ!!??」
静流が部屋に入るや否や、ほたるの叫び声が聞こえてきた。
「ほたる!!しっかりして!!早くこっちにきて!!」
今の叫び声を聞いて、慌てて部屋から連れ出す。

そして、静流が自分の部屋に連れて行くまでの間も、ほたるは泣き続けていた。
部屋について、静流が髪を撫でている間も、ずっと・・・
・・・静流の胸の中で、泣き続けていた・・・



  
最終幕「美しき音色」

「・・・ほたる・・・大丈夫・・・?」
胸の中で泣いていたほたるに、泣き止んだ頃を見計らって訊ねる静流。
・・・こくり。
胸の中で、首の動きだけで返事を返すほたる。
泣き続けたおかげか、ほたるはもうだいぶ落ち着きをみせていた。
「・・・ねえ、おねえちゃん・・・?」
よく聞いていなければ聞こえないような、そんなか細い声。
しかし、静流はそんなほたるの小さな言葉も聞き逃さない。
「何・・・?」
包み込むような優しい声。
柔らかく、安心感を覚える静流の声。
その声はまるで・・・
・・・昔、ほたるが健に聞かせていたピアノの音色のようだった。
「・・・なんでほたるは、ピアノを弾くんだろうね?」
胸の中の声は、くぐもって、聞き取りにくかった。
・・・しかし、静流はやはり、きちんと聞き取っていた。
「・・・さあ・・・私には分からないわね・・・」
静流は迷うことなく、そう答えた。
思いがけない答えに一瞬驚くほたるだったが、それでもすぐに納得したのか、
「・・・そうだよね、お姉ちゃんにも分からないよね・・・」
そう答えて、再び黙り込んだ。
そんなほたるを見、静流は優しく包んでいた両手を緩めると、ほたるを少し、右手で押し返した。
「・・・おねえちゃん・・・?」
不安の色を浮かべるほたるに、静流はまっすぐな視線を投げ返した。
「分かる訳ないわ・・・それはほたるが持っている答えがあるはずだから・・・」
「・・・・・・でもね」
そう言った後、静流は優しく微笑んで、
「・・・でもその答えを見つける手助けはできる」
ほたるの手に、ひとつのエアメールを乗せた。
ほたるはそれをゆっくりと確かめる。
「・・・え・・・?」

『伊波健』

そこにはその文字が大きく書かれていた。
ほたるは、もう見ることは無いであろうと思っていたその名前に、戸惑いを覚える。
驚いたような、嬉しそうな、悲しそうな。
そんな複雑な表情で、静流を見つめる。
・・・静流は、こくんと軽く頷くと、それっきり何も言わなかった。
そんな静流の反応に、ほたるは戸惑う。
しかし、ほたるは手紙に視線を移し、その手紙を読んでみることにした。
裏返したその表の面には、この家の住所と、
『ほたるへ』
という、あまり綺麗とはいえない字で書かれたものがあった。
「・・・ふふふ・・・健ちゃん、相変わらず字がへたっぴなんだからぁ・・・」
そう言って微笑むほたる。

・・・こんなこの子の笑顔を見たのはいつぶりかしらね・・・
そう思って微笑んだ静流。
安心感を覚えた静流は、黙って自分の部屋を後にしたのだった。

・・・ビリッ!!

エアメールの封を手で破る。
その中を見てみると、カセットテープがひとつと、便箋が二枚、入っているのみだった。
他に入っているものはない。
・・・静流の送ったエアメールと、全く同じであった。
そして、ほたるはその二つを見比べると、便箋のほうを読むことにしたのだった。

『よ、ほたる。
伊波健こと、伊波健だぞ。』

『それにしてもほたる、元気にしてる・・・?
・・・って、元気にしてない訳が無いよね、だってほたるだもん。』

元気じゃないよ・・・
ほたる、寂しくて・・・

『・・・でさ、ほたる、ピアノ、どう?上手くなった?
ほたるのことだからきっと、ぼくが驚くくらいに上手くなってるんだろうね。』

・・・ううん、ほたる、だんだん下手になっていくんだよ・・・?
自分の音が、自分の音じゃなくなってくんだ・・・

『・・・でもね、もし・・・もしだけど、悩みがあって、上手にピアノが弾けないとしたら・・・
一緒に入ってた、カセットテープを聞いてよ。
何か、悩みを解決できる糸口が見つかるよ。
・・・・たぶんね。』

・・・悩み・・・?

そうそう。
二枚目は、悩みが無いのなら捨てちゃっていいから。
悩みがあるのなら、カセットを聞いてから読んで。   健』

・・・一枚目はそこで終わっていた。
「・・・悩み・・・」
・・・ほたるは迷うことなく動いていた。
カセットを手にし、セットする。
そして、軽く深呼吸をし、再生ボタンを押した。
・・・・・・
・・・健の声が流れ始めた。

『よ、ほたる。
・・・どうした?
ぼくの知ってるほたるにしては、情けない音出して』

・・・・え?
ほたるの音が情けないって、何で知ってるの・・・?

『・・・・・・ほたる』

『・・・ピアノ、好き?』

・・・好きだよ。
・・・でも・・・

『・・・・ぼくは好きだよ』

『ほたるの弾くピアノ』

え・・・・うん、ありがと・・・
・・・でももう、ほたるにはあの音は・・・

『・・・・話は変わるけど・・・・ほたるはなんでピアノを弾いてるの?』

・・・分からないんだよ・・・・健ちゃん・・・
その答えがほたるには・・・

『・・・誰かのため?』

・・・違う。

『・・・自分のため?』

・・・それも何か違う。

『・・・何かのため?』

そんなんじゃない。

『・・・・・・ぼくはサッカー、好きだったなぁ・・・・・・』

うん、それは分かるよ、健ちゃんのこと、ずっと見てたもん。

『・・・確かにやるからには勝ちたかったし、上手くもなりたかった』

『・・・でもね?』

『・・・・・・勝つためにサッカーをやってたわけでもないし』

『・・・・・・上手くなりたいからサッカーをやってたわけじゃない』

『・・・・・・やりたかったからやったんだ』

・・・!!

『ただ単に、好きだった。それだけだよ』

好きだった・・・だけ?

『・・・・ほたる、ピアノ、今でも好きなんだろ?』

・・・・・・・・・うん。

『好きだから、いくら音が荒んでいても、弾いてたんだろ?』

・・・・・・うん。

『・・・ほたるが本当に好きな曲・・・・』

『・・・『悲愴』を』

・・・うん!

『・・・・・・早く気付け!!ほたる!!』

『ほたるはピアノが好きなんだ!!大好きなんだ!!』

ほたるはピアノが大好き・・・・

『・・・ふぅ・・・』

『・・・ほたるはさ、サッカーをやってる時のぼくがかっこいい、って言ってくれたよね?』

うん、サッカーをやってる時の健ちゃん、すっごくかっこよかったよ。

『それはさ、きっと好きなことを思いっきりやってたからじゃないかな?』

好きな・・・ことを?

『現に、ほたるはピアノを弾いてる時が一番輝いてた』

『勝ち負けに関係なく、輝いてた』

『・・・勝ちたい、って言うのは目標に過ぎないよ』

『理由はきっと、みんな好きだからやるんだ』

好きだからやる・・・

『好きじゃなきゃ、誰もやらないよ』

好きじゃなきゃ、やらない・・・・

『・・・ほたるはピアノが好き』

『ぼくはピアノを弾いているほたるが好き』

『・・・たとえそれが恋人として、じゃなくても・・・』

『・・・ぼくはほたるのことが好きだ』

健ちゃん・・・
・・・ありがと。
・・・なんかほたる、勘違いしてたみたい。
健ちゃんはもう、ほたるの一番近くにはいないけど・・・
それでも、健ちゃんはほたるのことをすごく大事に思っていてくれるんだね。
ほたるの近くに、まだ健ちゃんはいるんだね!!

『じゃ、最後に一言』

『・・・・ほたる、頑張れ・・・・!!』

・・・テープはそこで終わっていた。
・・・時間にして、3分程度。
しかし、その中に録音されていた声には、それ以上の内容が詰められていた。
・・・詰まりきらない、健の想いと共に。
・・・ほたるは、最後に残った、2枚目の便箋をゆっくりと開く。
・・・・・・そこに書かれていたのは僅か三行。

『好きだったら弾いて!
目標は、留学期間を終えて日本に帰って来たときに・・・
・・・ぼくを感動させること!!いいな、ほたる!!』

・・・たったそれだけだった。
しかし、この文面に向かって・・・
「うんっ!!」
そう力強く頷いたほたるは・・・
・・・間違いなく、満面の笑顔だった。
そして、いきなり立ち上がると、部屋を一目散に出ていった。
・・・笑顔と共に手紙の上に零した、一粒の涙を残して・・・

♪・・♪・・・♪♪・・・♪〜〜

「・・・!!この曲・・・ほたる・・・・・・よかった」
静流も、この瞬間、一粒の涙を零した。

・・・・・この日は一日中、魔法が流れていた。
ほたるという名の少女が奏でる、魔法の音色が・・・



  
エピローグ「Tears -Bygone days-」


「どうもっ!!白河ほたること、ほわーる白玉です!!」
「やめろ〜〜!久しぶりに会って、ほたる的ギャグなんか聞きたくない〜〜」
「いいの〜。健ちゃんたちには、今日はお客様として来てもらってるんだから♪」
「たるたる、相変わらずいいキレしてるな〜〜。ね、望?」
「はい、信さんのシュールなギャグにぴったりですね」
「ったく〜、望はいい加減に俺のこと『信』で呼んでいいのに〜」
「・・・でも・・・希ちゃんが・・・・」
「・・・気にしないで、望・・・私は智也さんを狙うから」
「へっ?希ちゃん、俺がどうかした?」
「だめだめぇ〜〜〜!智ちゃんは、唯笑のなんだから〜〜!」
「こらぁ!!何度言ったら分かるんだぁっ!!俺はお前の所有物じゃないっ!!」
「・・・えへへ・・・そうだね」
「・・・望・・・やっぱり私、まだ信さんのこと、諦めない」
「希ちゃん・・・・信さんは、ゆずらないよ」
「・・・ほう・・・信、お前もずいぶん偉くなったものだなぁ・・・二股とは」
「違う!!決して俺はそんなつもりではないぃっ!!な、イナケン、俺はそういうやつじゃないよな?」
「・・・信くんのことは・・・なんとも」
「うおぉぉっ!!イナケン!!お前はなんて薄情なやつなんだぁ!!」
「信くんだもんねぇ・・・」
「ゆ、唯笑ちゃんまで・・・・」
「信くんだもんねぇ・・・」
「たるたるまでぇ・・・」
「・・・こんばんは・・・」
「・・・あ、つばめさん、待ってたんですよぉ・・・」
「ごめんなさい、風が私を呼んでいたから・・・」
「・・・そうですか、それならしかたないですね」
「・・・・何が仕方ないのかさっぱりわからんぞ、イナケン」
「信くんにつばめさんの感覚は分からないですよ」
「・・・ま、何にしてもこれでそろったな。・・・俺と唯笑ペア・・・信と相摩さんペア・・・伊波とつばめさんペア」
「そうですね。・・・じゃあほたる、弾いてみせてよ」
「うん、分かった!このほわーる白玉のピアノ演奏、とくとご覧あれ!」
「だからそれはもういいってば・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」




・・・・この日、留学期間終了後、はじめてほたるはピアノを弾いた。

誰もが心を奪われ、感嘆し、酔いしらされたその音色。

全てが終わっても、誰一人として言葉を発するものは無い。

そして、立ち上がった健の手には、ひとつの花束が握られていた。

差し出される花束。

伸ばされるか細い手。

その二つが重なり合った時、二人は笑い合い、おたがいに涙をひとつ、零していた。

・・・最後に弾かれた『悲愴』。

その音色が奏でたように、二人は過去の想い出を慈しんでいたのだった・・・





Fin




あとがき______________________________________


ども、久しぶりのSSを書いた、まるです。
いやぁ・・・これだけの長さのSSを書いたのは初めてですよ。
しかも、「二日」で。
・・・いやぁ・・・粗が目立ったとしてもしょうがないやね、あははーーーっ♪
・・・すいません、逃げです。
自分的には良い作品に仕上がったと思うんですが、どうでしょうか。
では、感想、特に意見、批判などをお待ちしてますよーーー!
ここを直せ!!というのは、特に大歓迎です〜〜♪
それではっ!!


まるでした♪(ごきげんよう♪)



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