『翼』
作:まる



地面の上の一羽の燕。
翼は傷つき、ただバタバタと翼を動かしていた。
決して飛べることない翼で
再び青を駆け抜けようとしていた。

燕は歩けない。
それにこの燕は飛ぶことさえできない。
私はそんな燕をただ見守っていた。
手を伸ばせば、その燕を助けることが出来るのに。
・・・・だって、私は考えていたから。
もがき苦しむ燕を目の前にして、私は一つのことを考えていたから。

・・・何でこの燕は、こんなに必死になれるんだろう・・・

・・・私は辛くなったら逃げればいいと思っていた。
辛く、悲しいことから、逃れればいいと。
どんな方法をとってでも。
・・・たとえ、諦めること、
自分の存在を失うことでさえも、私はいいと思っていた。
なのに・・・この燕は何でこんなにがんばれるの?
飛べない翼で、空に飛ぼうと必死になることが出来るの?

・・・ふっと空を見上げた。
雲一つない、一面の青。
この燕は空が懐かしいのだろうか。
大空に舞って、青を駆け抜けていたころが懐かしいのだろうか。
過去なんていうものために、がんばっているのだろうか・・・

―ぴぃぴぃ・・・

ばたばた、と燕が激しく羽ばたいた。
しかし空を飛べるはずもなく・・
翼は地面に虚しく叩きつけられるばかりで、いっそう傷ついていく。
・・・ぴぃぴぃ。
あれは雛の鳴き声だった。
愛するものの待つ場所。
この燕は・・・真に愛する子供たちの元へ近づこうとしていた・・・
・・・目の前の一軒家の屋根の裏。
か弱い声で母親を求める声が、悲しく聞こえてくる。

ぴぃぴぃ・・・ぴぃぴぃ・・・

・・・翼を使い、飛ぶわけでもなく・・・
母鳥は、子供の元へとずるずると近づいているのだ・・・

私は、未来を見た。
これからの未来を求め、必死に子の元へとずり行く母鳥の姿を。
今じゃない。
大切なのは今じゃない。
今もし、翼が傷つくとしても・・・母鳥は子供の未来のために、飛べない翼で未来へ羽ばたこうとしている。

・・・無意味だけど。
子供のいる真下に辿り着いたとしても、どうする事もできないけど。
せめて子供の近くに。
少しでも、近くに。
諦めない気持ち・・・何かを想う気持ち・・・
・・・・・。

私は歩を進めた。
だんだんと遠ざかっていく、燕たちの巣。
燕のためには、あそこで諦めて、楽になるのが一番いいことなんだ・・・
・・・なんて。
そんなこと、少しでも思っていた自分って・・・なんだろう。
燕を見捨てようとしていた自分は・・・なんだろう。

・・・私も未来を見ようと思った。
嫌というほど、素敵な未来を見てやろうと思った。
私の傷ついた翼でも、きっと飛べるはず。
あの燕が行かんとしていたような、幸せな未来に・・・



今・・・私のバッグでは

あの燕と

4羽の雛たちが

幸せな未来を夢見て、ひっそりと寝静まっていた。





燕さん、傷ついた翼でも、私と一緒に羽ばたこうね!








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