『代役』
                             作:メンチカツ

キーンコーンカーンコーン・・・・・・
ガラッ・・・・パシャンッ
鐘がなり、先生が教室に入って来る。
これから3時間目だ。
「よーし、授業始めるぞぉー」
ふぁ・・・またつまらない授業が始まる。
まぁ、いつもの様に寝ちまうからいいけどね。
そう思い、腕を組み、寝ようとしたときだった。
「せんせー、たまにはなにか違う話ししてよぉー」
クラスのムードメーカー的存在の田中がいきなりといえばいきなりな事を言い出す。
「田中ぁ、いま授業中だぞ?」
「たまにはいいじゃないっすかぁー」
「たまにもなにもないだろう。授業とは、勉強する時間だぞ」
「ちぇー、夢が無いなぁ」
・・・・・授業中になにか話しをしてもらっても夢なんぞ無いと思うが。
しかし、その言葉に反応したのか先生はその話しに乗ってしまった。
「・・・・よぉしわかった。それじゃぁお前の望み通り夢の無い話しをしてやろう」
・・・・先生、田中はきっと夢のある話しを期待してたと思います。
まぁ、俺の心の中のツッコミは置いといて、先生の話しが始まった。
「じゃぁ、まずみんなに聞こう。歴史ってなんだと思う?」
「・・・・過去に起きた出来事?」
「まぁ、正確では無いがそんな感じだな。もう戻る事の出来ない、過ぎ去った時間・・・・こんなとこか?」
「せんせー、それがなにか?」
「まぁまぁ、話しは最後まで聞くもんだ。・・・・じゃぁ、歴史を変える事は出来ると思うか?」
「歴史を変える?・・・・過去を変えるってことですか?」
「そう思ってもらってもいい」
・・・・・・・過去を変える・・・・そんなこと・・・・出来るはずが無い・・・・・・
どうやら俺も、少し先生の話しに興味が沸いているようだ。
「無理に決まってますよー」
「ああ、そうだな。無理だ。・・・・じゃぁ、皆の目の前にタイムマシンがあったとしたら・・・・どうだ?過去は変るか?」
タイムマシン?そんなもの、この地球上どこを探したってありはしない。
「・・・・・タイムマシンがあったら・・・・」
「そうだ。未来や過去を自由に行き来出来るんだ」
「それなら変えれると思います!」
「他のみんなはどうだ?」
『変えれるーーー!!』
「・・・・・残念ながら、それでも無理だ」
・・・・え?過去に行ければ、歴史を変える事なんて簡単じゃないのか?
いつのまにか俺は、先生の話しに興味深々になっていた。
「どうしてですか?」
思わず俺は先生に質問していた。
「お?めずらしいな、三上が起きてるなんて」
・・・・・知ってやがったのか!完璧にカモフラージュしたはずなのに!!
「そんなことよりも先生、どうして過去に戻れても歴史を変えることは出来ないんですか?」
「ああ、・・・・・そうだな。歴史はシナリオの出来上がった台本だと思えばいい」
「台本?」
「そう。もう決まってしまっているんだ。配役もイベントも、そしてストーリーもな」
・・・・・・・決まっている・・・・すべてが・・・・
「でも、よくある例えですが競馬のあたり馬券を覚えておいて、過去に戻って買うとかすれば・・・・・」
「確かにそうやって当てる事は出来るだろう。だけどな、歴史には戻ろうとする力・・・・調整力があるんだ」
「調整力?なんですか?それは」
「例えば、三上がそうやって馬券を当てたとする。だが、歴史はそれを調整しようとする。そうするとどうなると思う?」
「・・・・・・わかりません」
「お前が当てた代わりに、他の人間が当たらなくなるんだ」
「他の人が?」
「そう。さっきも言っただろ?歴史は出来上がった台本だと。劇の本番前に役者が病気になったらどうする?」
「・・・他の人が・・・・その役を・・・・」
「そう。代役って奴だな。さっきの例えで言えば、競馬を当てる役者と外す役者、又は競馬をやらない役者を入れ替える・・・こんな感じかな?」
代役・・・・例え誰かが幸せになっても、他の誰かが不幸になる・・・・・
「じゃぁ、例えばですけど、ナポレオンが有名になる前に殺されていたら!?」
「おいおい、あまり熱くなるなよ。・・・まぁ、例えナポレオンが何らかの事情で歴史に名を残さなくても、代わりに他の誰かの名前が残る・・・それだけだ」
「・・・・・・歴史は変ってるじゃないですか」
少し興奮していた俺は、先生の言う通り少し気を抑えながら言った。
「確かに歴史に残る名前は変る。だが、実際に起こってる出来事は変らない。ナポレオンが英雄と呼ばれたのなら、代わりになった人間も英雄と呼ばれる事になる。名前なんて、歴史の表面に過ぎないんだ」
「・・・・・・・・説明ありがとうございました」
俺はなぜかショックを受けていた。
何の興味も無いはずだった話し。
しかし、気が付けば俺は熱く語っていた。
なぜ?
答えなんてとっくにわかっている。
心のどこかで、もしかしたら・・・と思っているんだろう。
 
キーンコーンカーンコーン・・・・・・
3時間目が終わった。
俺はちょっと風に当たろうと思い外へ出るため昇降口へ向かっていた。
その途中・・・・
「うわ!?」
誤って階段を踏み外し、落下してしまった。
その時の事だった。
キィィィィィィィイイイイイィィィィィィン・・・・・・
光が辺りを包み込んだ!
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!」
 
「・・・・も・・・・や・・・・・」
どこからか声がする。
「・・・と・・・や・・・・・」
声が近づいて来る。
バタンッ!!
「智也!!早く起きなさい!!」
!?・・・・・・母さん?
まさか!と思い、時計を確認してみる。
・・・・・遅刻では無い様だ。
というか、今日は休みだった。
なぜか手には、紅い紐の付いた鈴を握りしめていた。
「ほら、先生から電話よ」
一体なんの用なんだ?
「もしもし、電話代わりました」
『おう、三上。今起きたのか?』
「!?鈴木先生ですか!?」
『なんだ?そんなに驚いて』
鈴木先生・・・・・中学時代の先生だ。懐かしい・・・・。
「お久しぶりです。どうしたんですか?」
『???お久しぶりって・・・昨日も会ったじゃないか』
・・・・・え?どっかであったのか?
『それより三上、早く学校来い。約束だろ?』
「約束?」
一体・・・・なんのことだ?
『おいおい、とぼけるなよ。昨日約束しただろ』
「・・・・・なんのこと・・・ですか?」
『・・・・本当に忘れたのか?今日学校で先生の手伝いをしてくれるはずだろ?』
・・・・約束・・・・その言葉に、何かが引っかかっていた。
そう、先生との約束。その言葉が、俺の中で引っかかっていた。
 
学校へ着いた。
早速先生のもとへいく。
「おはようございます」
「おう、来たか。じゃぁ、教室へ行こうか」
俺達は教室へと向かった。
ガラッ
教室の扉を開ける。
そこには、机の上にプリントが並んでいた。
・・・・これは・・・・・まさか・・・・・
「先生・・・・つかぬことをお聞きしますが・・・・」
「なんだ?」
「今日は・・・・何年何月何日でしょうか?」
「・・・・いきなりなんだ?」
「お願いします、教えて下さい」
俺の真剣な表情に、からかっているのではない、と思ってくれたのだろう。
「え〜と、1992年の6月18日だな。それがどうかしたのか?」
そう、何がどうしたのかは分からないが、今日は彩花の死んだ日だった。
多分今の俺は中学生なのだろう。
信じられないが、時間が・・・・戻ったのだ。
ならば・・・・変えられるかも知れない。歴史を。
いや、変えて見せる!
「・・・・・・いえ、ありがとうございます」
俺はそういうと、手早くプリントをまとめ始めた。
それきり俺と先生が口を交わす事は無かった。
作業は、プリントを順番に一枚ずつまとめ、ホッチキスでパチン。
たかがそれだけの単純な物だ。
さすがに量が多いと気が滅入るが、今はそんなことをいっている場合じゃない。
サクサクプリントをまとめていく。
そして、作業が終わる。
「おう、ありがとうな、三上。もう帰っても良いぞ」
「はい。それでは先に失礼します」
俺は簡単に挨拶を済ませ、昇降口へと向かう。
ふと、窓を見ると雨が降っている。
・・・・・やばい。
そう思った俺は、引き返し、職員室横の共用電話へと急いだ。
そして電話をかける。
・・・・・彩花の家へ。
プルルルルルル・・・・・
頼む・・・・出てくれ!!
プルルルルルル・・・・・ガチャッ
『はい、桧月です』
「あ、おばさんですか?智也ですけど、彩花いますか?」
『ああ、ちょっと待っててね』
よかった・・・・まだ家にいるみたいだ。
あたりまえか。あのとき彩花を呼び出したのは俺なんだから。
『・・・・ごめんなさい、彩花いないみたいなのよ』
!?・・・どういう事だ!?
「すいません!」
『え?ちょっと、とも・・・・』
ガチャンッ
俺は走り出した。
胸中に疑問を抱えながら。
なぜ彩花はいなかったんだ!?
その事を考えながら、ただひたすらに俺は雨の中を走っていた。
目の前に十字路が迫る。
その向こう側に・・・・・・
・・・・・彩花がいた。
「彩花!」
信号が代わり、彩花がこちらに歩き出す。
「智也!」
・・・・その時、
一台の車が信号を無視して突っ込んできた!
ブロロロロオオオォォォ
俺は、飛び出した。
彩花の元へ。
それが当たり前であるかのように。
彩花を突き飛ばす。
「きゃぁ!」
彩花の短い悲鳴が聞こえる。
そして・・・・・・
ゴガッ!!
鈍い音とともに・・・・・俺の体は宙を舞い、・・・・・そして落ちた。
そこかしこから悲鳴が聞こえる。
ふと、俺の体を抱き上げる者がいた。
「智也!智也!!」
彩花だった。
「・・・・あ・・・・や・・か・・・?」
舌が上手く回らない。
「智也!しっかりして!お願い!死なないで!!」
良かった。彩花は助かったみたいだ。
「・・・・よ・・・・・・か・・・た・・・・・」
「何が良かったよ!・・・・・私なんかの為に・・・ともやぁ・・・・」
彩花の、澄んだ瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
その天使のような優しい顔は、悲しみで歪んでいた。
俺の頭の中を、過去の記憶がよぎる。
出会った頃の彩花。
唯笑達と一緒に遊んだ記憶。
天使の様に微笑む彩花の笑顔。
思い出される記憶には、必ず彩花がいた。
これが走馬灯と言う奴か?
そんな中、一つの気になる言葉を思い出す。
「歴史とは、シナリオの出来上がった台本のようなものだ」
・・・・・そうか・・・・ようやく分かったよ・・・・先生。
俺は・・・・彩花と役を交代したんだ。
死ぬ役を。
でもおれは、それでも良いと思っていた。
彩花が、俺の大切な人が生きているなら。
「ともやぁ!しっかりしてよぉ!おいていかないでよぉ!」
目の前で彩花が泣いている。
俺は震える手で彩花の涙をぬぐってやる。
「・・・・彩花・・・・どうして・・・・泣いて・・・るんだ・・・?」
「だって・・・・だって・・・・ヒック」
次第に体がだるくなってくる。
「・・・・さむい・・・な・・・・」
「・・・・ともや?」
「・・・あやか・・・・・どこに・・・・いるんだ・・・?」
「智也!私はここだよ!しっかりして!」
「・・・・あやか・・・・おまえは・・・・あたたかいなぁ・・・・・」
彩花の腕の中、冷たくなっていく俺の体。
その存在を主張するかのように、重みを増していく俺の体。
それに反比例するかのように、俺という存在を形作る意識は急速に薄くなっていった。
彩花はそれを感じているのだろうか。
俺の意識をこの場に留めようと、必死に俺の名前を呼び続けている。
「ともやぁ!ともやともやともやともやぁぁぁ!!目を開けてよぉ!!」
しかし、運命は残酷で・・・・・
彩花の声も聞こえなくなってきた・・・・・
そして・・・・
俺の手が・・・・
落ちた。
「!!」
彩花の顔が、恐怖にかわる。
「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そして俺は死んだ。
最愛の人を助けて。
彩花が生きているなら・・・・俺はそれで良い。
だが・・・・残された者にとって、本当に辛いのはこれからだ。
俺は、彩花のこの後の人生が気懸かりだった。
悲しみに彩られた人生。
俺はもう経験したからわかる。
どれほど空虚で、むなしいものか。
結局、歴史を変える事はできなかった。
彩花の代わりに俺が死に、俺の代わりに彩花が苦しむ。
だけど、彩花の傍には唯笑と信がいる。
あいつらならきっと彩花の苦しみをやわらげてくれるだろう。
 
チリン・・・
俺の手から、あの鈴が転がり出る。
降りしきる雨の中、まるで俺の墓標とでも言うかのようにその鈴はただ静かに光っていた。



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