----- レジェンド・メイカーズ!! -----
第2章『世界の真実、集う運命』その5
作:メンチカツ



 ミリアのもとへと向かう途中、街の様子が目に入った。街への被害は無いといっても過言ではないだろう。梁滋の「街への被害を最小限に抑えろ」という命令を忠実にこなした結果ということか。
 きっと防御魔法だけ唱えまくったんだろうね。
 だが、闇の使いは未知の敵だ。その姿も、その力も全てが不明。
 ミリアのことだから、きっと一人で戦っているだろう。
 正体不明の敵との戦闘では、他の人たちを護りきれるかわからない。だから一人で戦う。
 ミリアはそんな性格をしてる。
 だから……早く助けてやりたい!
 街の様子を見ながら考えていると、梁滋が不意に話しかけてきた。
「おい、明。あの異形はなんでいきなりランクアップしたんだ?」
 あの異形。コスモスが倒した、ランクS以上の奴のことだろう。
 しかし、これについては私もはっきりとはわかっていない。
 いったいなぜ、あの異形はランクアップしたのか?
「私の推測でも良いなら話すけど?」
「ああ、推測でも何でも良いから話してくれ。ソーサリー・ギルド団長として情報は集めておきたいからな」
「わかったわ。時間無いから手短に話すわよ」
 今は一刻も早くミリアの応援に駆けつけなければならない。一切無駄なことは出来なかった。
 だから私は一切の無駄を省いて説明した。
「簡単に言うと、あの異形は……」
「あの異形は?」
「最初に戦ったあのカブトムシみたいな異形を喰ったんじゃないかと思うの」
「異形を……喰った!?」
 そう。私の考えでは、あの異形はカブトムシ型の異形を喰ってランクアップ……いや、『進化』したんだと思う。
 もちろん普通の『食べる』という意味ではなく、他の異形の能力を何らかの方法で抽出・吸収し、自分の能力へと変換した。もしかしたら、他の異形の能力を喰うことがあの異形の能力だったのかもしれない。
 しかし問題は、なぜ知能を持つランクS以上になったのか。
 これについては自信は無いけど、ある程度の仮説は立ててある。
 私たち人間も、昔はただの動物だった。だけど、道具を扱うことを覚えてから脳が複雑化・進化し、そして今に至る。
 ならば異形も元は生物。進化することは可能ではないか?
 他の異形の能力を吸収することにより、その能力を有効活用できるよう対応した結果、脳が複雑化し、急激に進化したのではないか。
「……ふぅ、お前さんの推論には頭が下がるな。まったく」
 私の話を聞き終えた梁滋がぼやく。
 その時、急にコスモスが足を止めた。
「どうしたの?コスモス」
「いや、フェレットがとまってくれって……」
「フェレットが?」
 いったいどうしたというんだろう?今は一刻も早く急がなくちゃ行けないのに……
 見ればフェレットは、耳を立ててあたりの様子を伺っている。
 そして私達の進行方向の左側の壁を向いて叫んだ。
「梁滋!その壁を破壊して!」
「はぁ!?いきなり何言ってやがる!」
「いいから早く!なるべく破片が出ないようにして!」
「……ち、無理言ってくれるぜ」
 呟きながらも梁滋はフェレットの言ったとおりに壁を破壊することにした。
 腰の長剣を抜く梁滋。
 そして梁滋の叫びが木霊する。
「いくぜ!『超衝圧壊』!」
 梁滋は長剣の面の部分で思い切り壁を叩く。梁滋のあの破壊力で叩こうものなら剣のほうが折れてしまいそうなものだが、梁滋の剣が折れることはなく、叩きつけた際の異常なまでの衝撃で壁が粉砕される。
 文字通りの粉砕だ。あたりが先ほどまで壁であった粉塵で、見通しが悪くなった。
「梁滋!受け止めて!」
 なおも梁滋に指示を出すフェレット。
 だが、いったい何を受け止めろというんだろう?
「ゲホゴホ……何を受け止めろってんだ!……!?」
 梁滋も私と同じように思ったらしく、フェレットに反論する。
 だが、その時粉塵が拡散し、何かが吹っ飛んできた。
「うお!?」
 梁滋は受け止めようとするが、唐突過ぎて上手く対応できずに吹っ飛んできたものと一緒に倒れこんだ。
「……く〜、いったいなんだってんだ!」
 怒鳴りながら起き上がり、吹っ飛んできたものを見た梁滋は愕然とした。
 横たわっていたのは女性だった。
 全身にひどい怪我を負っていて、パーマの掛かった青い長い髪が乱れている。
 ……ミリアだった。
「ミリア!!」
「え!?」
 梁滋の叫びに驚きの声を発したのはコスモスだった。
 ……まぁ、ミリアはコスモスのお気に入りだったみたいだし。驚くのも無理は無いか。
「誰が……こんなひどいことを……」
「誰って……闇の使いしかいないじゃない」
「闇の使い……許さん!」
 ミリアの姿を見たコスモスは怒り心頭になる。
「どうしてくれるんだい?」
『!?』
 突然の声に振り向くと、崩れた壁の横に一人の少年が立っていた。
 姿かたちは普通の子供だ。何の変哲も無い普通の子供。
 ただ、その服装、髪の色、瞳の色が尋常ではなかった。全身にぴったりと張り付くような闇色のスーツ。髪も瞳も深い黒色で、見ていると吸い込まれそうだ。
 闇の使いを見たコスモスの眼が妖しく光る。
「お前か。ミリアさんに怪我させた奴は」
「うん、そうだよ?それがどうかしたの?」
 コスモスの問いに明るく笑って答える闇の使い。
「じゃぁ、死ね」
 そういい捨てると、コスモスは腰の刀を抜き放って走る。さきほどの異形との戦闘時よりも早く、一瞬のうちに闇の使いの下へとたどり着く。
「!?」
 そのコスモスの足の速さに驚いたのだろうか?闇の使いに驚きの表情が現れる。
 コスモスの刀が薄い光を帯び……いや、刀だけではなかった。コスモスの刀に生まれた青い光は、そのままコスモスの全身をも包み込む。
「てめぇに見せてやる。俺のあだ名の由来をなぁ!!」
 言うコスモスは刀を左から右へと一閃させて叫ぶ。
「『葵流迅剣術奥義・壱の太刀・封陣』!」
 叫んだ直後コスモスの体が消え、闇の使いの後ろに現れる。そして振りかぶった刀を振り下ろし、闇の使いを斬り付ける。
「うああぁぁああ!」
 闇の使いが叫ぶ。その全身を青い光が包み込んでいる。
「『弐の太刀・風月』!」
 振り下ろされた刀を振り上げて斬り付け、そのまま遠心力を利用して回転し、さらに斬り付ける……はずだった。
 が、しかし。
「……くっ!いい気になるなぁ!!」
 そう叫んだ闇の使いの全身から邪悪な黒い光が放たれ、攻撃途中だったコスモスが吹き飛ばされる。
 コスモスは2階建ての家の屋根に受身も出来ずに激突して、屋根に埋まった。
「……ぐっ……かは!」
 多分数本骨が折れたのだろう。コスモスは起き上がることも出来ずに喘いでいた。
 コスモスが戦っている間、私はミリアに回復魔法をかけていた。大きな傷は何とかふさいだから命に別状は無いはず。
 コスモスのほうを一瞥して、闇の使いがこっちへとやってくる。
「さすが、闇の使いってところね」
 私は何の気なしにそういったつもりだった。
 だけど、その答えは意外なものだった。
「闇の使い?なんだいそれ。もしかして僕のこと?」
「闇の使いじゃない!?」
 どういうことなのだろう?梁滋から聞いた話では、異形3体に闇の使い1体のはず。異形は3体とも倒したから残るは闇の使いだけのはず。
「ああ、そうか。なるほど。君たち虫けらは僕たちのことを闇の使いと呼んでいる。そうだね?」
「……私達は人間よ。虫けらじゃないわ!」
 確かにいままで一度も目撃例・接触例が無いため、私達はあいつらのことを定説で闇の使いと呼んでた。
定説って言っても、一部の人間しか知らない上に事実かどうかもわからないあやふやなものだ。
 そう、コスモスが話した勇者の伝説の話のように。
「まぁ、どうでも良いけどね。君たちはここで死ぬんだし」
「死ぬのはあんただけよ」
 闇の使いの台詞を否定して後ろに現れたのは……ミリア!?
 まずい!ミリアの髪が金色になってる!
「梁滋!伏せて!!」
「おう!わかってらぁ!」
 さすが梁滋、すでにフェレットを抱えて距離をとっている。
 私もすばやくその場を回避した。
「な!……何時の間に!?」
 闇の使いが驚愕して振り返るがもう遅い。
 その瞬間。
 ミリアの魔法が発動する。
「『フェルボル・プランタ・トゥレパドラス』!」
 ミリアがかざした手のひらから、炎の触手が十数本現れ、闇の使いに絡みつく。闇の使いを完全に絡め捕ったところでミリアの手から炎が離れ、闇の使いをグルグルまきにする。
「があああああぁぁぁぁああぁぁああ!!」
 闇の使いが咆哮する。
 だが、炎の触手は決して緩むことなく、暴れれば暴れるほど深く食い込んでいく。
 この魔法は、普通の敵なら……異形のランクCあたりなら、一瞬で灰となって消えるほどの威力を持つ。Aランクでも持って数十秒だろう。
 だが、さすがに闇の使いというべきか、炎のほうが消えそうになっている。
 一方ミリアも一切の油断を捨て、更に攻撃魔法の呪文を唱えている。
 初めて戦う相手だから念には念を、完全殲滅を目標としているのかもしれない。
 ……いや、今のミリアには考えがあるのかどうかわからないけど。
「全てを破壊せし紅蓮の炎よ!殺戮の獣となりて我が敵を打ち滅ぼせ!」
 ミリアの呪文が完成する。闇の使いはいまだ炎の触手に縛られている。
「虫けらがぁぁぁぁああああああ!!」
 闇の使いがもがきながら叫ぶ。
 だが、今のミリアに一切の情けは無い。
「『フェルボル・フィエラ』!」
 続いてミリアの手から放たれた30センチほどの火炎球は膨れ上がり、ライオンのような肉食獣を模って(かたどって)闇の使いを襲う。
 炎の獣は闇の使いに食らい付き、右腕を食いちぎる。食いちぎられた右腕は黒い塵となって消えた。
「ぐぅうぅぅうああぁああぁあぁああああ!」
 更に炎の獣がその爪で切り裂く。
 ……いや、切り裂こうとしたときだった。
「虫けらが調子に乗るなぁ!!」
 そう叫んで、炎の触手と炎の獣を全身から噴き出した黒い光でかき消す。
 私は、初めて見る闇の使いの力に驚きを隠せなかった。今のミリアの魔法は、ランクSの異形すらも場合によっては一撃で滅ぼせる魔法だ。
 それを炎の触手で縛られて無防備の状態だったにもかかわらず、一度は攻撃を受けながらもそれを一発で消し飛ばしたのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……よくも僕をここまでやってくれたな!さっさと死……!?」
 激怒した闇の使いが叫ぼうとしたとき、唐突にその腹部から闇が爆発した。
 黒い光と似ているが、この闇はもっと濃密な、純粋な闇だった。
「げえぇぁぁああぁあぁあぁあああ!」
 下半身がやはり黒い塵となって消える。
 上半身だけになった闇の使いが後ろを振り向き、驚愕した。
「き、貴様ぁぁあ!なぜ貴様がここにいるぅう!?」
 私達の場所からはそこに何がいるのか良く見えない。
 そして……
「闇を汚したものには死を」
 そんな女性の凛とした声が聞こえたかと思った瞬間、闇が空間を震わせて爆発し、闇の使いは完全に消滅した。
 闇の使いが消えた後には、ひとつの人影があった。
 
 
次回へ続く。
 
 



あとがき
ミリアに起こった変化。
闇の使いの正体。
そして新たに現れた謎の人影。
その全ては次回明らかになる!
……かもしんない。?( ̄□ ̄;)!? 
 
むぅ、魔法の説明が上手くいかなかった。
難しいねぇ。
ちなみに、「フェルボル」とは、灼熱とか炎熱の意味があります。
「プランタ・トゥレパドラス」はつる性植物の意味で、
「フィエラ」は肉食獣とか猛獣類とかの意味です。
 
ではでは〜♪



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