『智也の思い〜奇跡は次元を越えて〜』
                             作:メンチカツ


 
雨が降っている。
 
サァーーーーーー・・・・・・・・
 
雨が降っている。
俺は一人、昇降口で立っていた。
今日は、先生に呼び出され、学校でプリントの折り込みを手伝わされた。
そして、その作業が終わり、やっと開放されたと思ったら・・・・・・・
雨が降っていたのだった。
「・・・・・彩花にでも来てもらうか・・・・」
俺は一人そう呟き、学校の中へと戻って行った。
そして学校に備え付けられている、公衆電話の前に立つ。
金を入れ、受話器を持つ。
ゾワッ・・・・・・
「!?」
一瞬、寒気のような物が、体の中を通りぬける。
雨が降っている所為だろうか?
そのまま気にも止めずに番号を押していく。
「うう〜、寒い寒い」
ピッポッピピピップッパ・・・・・・・・・
プツップルルルルル〜、プルルルルル〜・・・・・・・・
「早く出てくれぇ〜」
プルルルルル〜、プルル・・・・ガチャッ!
『はい、桧月です』
「あ、智也ですけど、彩花さんは・・・・」
『なんだ、智也?私よ、彩花』
どうやら都合良く彩花が出てくれたらしい。
『それでなにか用?今日は先生に呼び出されてたんじゃないの?』
「ああ、その用事はもう終わったんだ。それで、帰ろうとしたら雨が降っててさぁ・・・・・」
『・・・・・・・はぁ、はいはい、わかりましたよ。傘持って行けば良いのね?』
「ああ、そうしてくれると・・・・・」
ゾワゾワッ
急に不安感が募る。
もしかしたら学校にいると危ないのか?
ならばなおさら早く彩花に傘を持って来てもらわねば。
『どうしたの?智也』
「いや、なんでもない。傘、早く持って来てくれな」
『うん、いまからだと・・・・そうねぇ、15分くらいかな?』
「わかった。んじゃぁまってるから」
『うん、じゃぁ切るよ』
「ああ」
ガチャッ
電話を切る。
まだあの不安感は消えていない。
「昇降口で待つか」
そのまま昇降口へと向かう。
昇降口に着く。
不安感は、倍増していた。
昇降口に近くなるにつれ、不安感は次第に大きくなっていた。
時間が気になる。
早く来て欲しい、早く来て欲しい。
膨れ上がった不安感は、焦燥感をも生み出す。
やがて時間感覚は狂い、時が経つのがやけに遅く感じるようになる。
(まだか?まだなのか?)
そして。
(本当に来るのか?)
心の中に、
(来ないんじゃ無いか?)
闇が生まれる。
 
サァーーーーーーーー・・・・・・・
 
雨が降っている。
まだ降っている。
いつまで降るのだろう?
彩花はまだ来ないし・・・・・・・
まだ、実時間では5分しか経っていなかった。
しかしそれは、神が与えた最後のチャンスだったのかも知れない。
そう、数ある未来の一つ、今俺と同じ条件下にある並列世界で、最愛の人を失ったもう一人の俺を哀れんで起した、神の奇跡。
俺は不安感を拭い切れずに、雨の中飛び出した。
彩花を求めて。
なりふり構わず。
ただひたすら走った。
遠くの方で、救急車のサイレンが聞こえる。
心の闇がざわつく。
(もう遅いんじゃ無いか?)
俺はその言葉に耳を傾けずに、ねじ伏せた。
下り坂が見えて来る。
それを下りきり、左に曲がって交差点を渡り、少し行けば彩花の家までは、もうほんのちょっとだ。
そして坂を下りきり、左に曲がる。
その俺の視界に入った物は・・・・・・・
 
白い傘。
純白の傘。
柄も白く、ただ中心の鉄棒だけが銀色に輝いている。
その白い傘が、
交差点の真中で、
ただひっそりと、
雨を受けて転がっていた。
 
「・・・・・・・・・・・・・・・」
(遅すぎたんだよ)
「・・・・・・・・・・・・・・・」
(無駄だったんだよ)
「・・・・・・・・・・・るせぇ」
(何をしても無駄なんだ)
「・・・・・うるせぇ・・・・」
(これは・・・運命だったんだよ)
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「きゃっ!」
俺が雄叫びを上げたその時、後ろに人が居たらしく、驚いていた。
俺は興奮したままの顔で振り返り・・・・・・・
「・・・・・・・彩花?」
「もう!びっくりさせないでよぉ!」
彩花がいる。
「・・・・・彩花なのか?」
「何言ってるの?智也、顔怖いよ?」
目の前に彩花がいる!
「彩花なんだな!?」
「ちょ、ちょっとぉ!」
俺はあまりの嬉しさに、彩花の肩を思いきり掴んでいた。
その時、心の、あの声が聞こえた。
(・・・・・・良かったな・・・)
その声はとても嬉しそうで、とても幸せそうで、でもどこか切なく、悲しい声だった。
もしかしたら最愛の人を失った、彩花を失った並列世界の、もう一人の俺の声だったのかも知れない。
ただ、彩花を愛するあまりに、こちらの世界にまで干渉して来たのだろう。
ただもう一度、彩花に逢いたくて。
彩花に生きていて欲しくて。
彩花に幸せになって欲しくて。
 
智也。
もう一人の俺。
お前の意思は忘れない。
お前の遺志は俺が継ぐ。
彩花は俺が幸せにして見せる。
だから智也。
もう一人の俺よ。
唯笑を、俺のもう一人の幼馴染を、笑顔にしてやってくれ。
唯笑に幸せを分けてくれ。
いつも傍にいてくれた、いつでも俺達を元気にしてくれた唯笑。
あいつにも、もっと、幸せになって欲しいから・・・・・・
〜〜〜Memories Off〜〜〜



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