デリシャス・クッキング♪(?) |
作:メンチカツ |
某月某日、とあるビルの2つの部屋で和やかな会話が交わされていた。
「どぉもはじめまして!」 「あら、はじめまして♪」 「あ、はじめまして」 そこにいたのは3人の女性だった。 3人のいる部屋は3枚の大きな丸鏡が取り付けられ、化粧用品もそろっているいわゆる楽屋だった。 軽く挨拶を交わした3人は、自己紹介を始めた。 「えっとぉ、私は『川島優夏』っていいます。大学生です」 「ご丁寧にどうも。私は『水瀬秋子』よ。普通の主婦をやってるわ」 「私は『柏木千鶴』といいます。鶴来屋の社長をしています」 「えぇ!?あの鶴来屋のですか!?」 「まぁまぁ、社長さんなのですか?」 その後も会話は続き、3人は完全に打ち解けた。 そのころ、優夏たちの部屋の一つ下の階の右端の部屋で3人の男が会話を交わしていた。
「どうも、俺の名前は『石原誠』。よろしくな」 「あ、えーとオレは『相沢祐一』です。よろしく」 「『柏木耕一』です。よろしく」 簡単に自己紹介を終わらせた3人は、雑談を始めた。 「俺は大学に通ってます。みなさんは?」 「オレは高校に通ってます」 「法要で田舎の親戚の家に居候してます」 「おいしい料理が食べられるといいですねぇ」 「そうだね」 「確かに。おいしいに越したことは無いからな」 彼らの胸に期待が踊る。この後の惨劇を知らずに……。 ジャジャッジャッジャジャッジャジャーーーー……。
遠くのほうから華やかな音楽が聞こえてくる。 「皆さん、そろそろ準備のほうお願いします!」 スタッフが2つの部屋に連絡に来た。 そして女性陣はスタジオの右袖の扉へ、男性陣は左袖の扉へと移動する。 扉の向こうでの音楽はすでに演奏が終わり、いまは司会者の声が響いていた 。 「それでは登場してもらいましょう!まずは試食のゲストの3人です!どうぞぉ〜〜〜!」 再び華やかな音楽がスタジオで流れ始め、観客の手拍子が響く。 「それじゃ、みなさんどうぞ。出てください」 スタッフに言われたとおりに、3人は扉を押し、スタジオへと出て行った。 ワアアアアァァァァァァッ!! 『!!?』 3人の登場に歓声が響き渡る。……いや、観客の人数は100人程度。だが、緊張している彼らにとって、それは十分な大歓声だった。 3人は引きつった笑顔を顔に張り付かせながら、固まっていた。 それを見かねた司会者は、女性陣の紹介へと進めていく。 「それでは料理を作ってくれる3名のゲストを紹介しましょう!どうぞ!!」 右側の扉が開き、3人の女性が現れる。 「なっはっはっはっはぁ!あたしがお料理を作る優夏たんで〜っす!(ヒック)」 その姿を見た誠が一瞬にして凍りつく。 (……何故優夏が!?っていうか酔っ払ってる!!??) 誠のその様子を不審な目で見つめる祐一と耕一。 だが、声をかける前にもう一人の女性が出てくる。 「こんばんわぁ〜。水瀬秋子と申します〜♪」 凍ったままの誠の横で、祐一が驚愕する。 (あ、秋子さん!?秋子さんが料理を作るのか!?) 二人のその姿を見て、耕一の頭に不安がよぎる。 (あの女性たちはこいつらの知り合いなのか?ということは……まさか……まさか、な) 耕一の不安をよそに、最後の一人が現れた。 「えーと……柏木千鶴です。よろしくお願いします」 そして……ものの見事に予想が当たってしまった耕一は、その場に崩れ落ちた。 「おぉっとぉ、なぜか男性陣が動けなくなっているようですが、可愛く美しい女性陣には期待が高まります!」 男性陣の心中を知らない司会者が、そんなことをのたまった。 ≪はめられた!!!≫ このとき、3人の男たちの考えは完全に一致していた。 男たちの体に動きが戻る。だが、その顔はすでに青い。 「さぁ!早速ですが、どのゲストが誰の料理を食べるのかをルーレットで決めたいと思います!」 その言葉を聴き、男たちの顔に一瞬生気が戻る。 そして男たちは願った。心のそこから。命を賭けて。 ≪あいつだけは当たるな!!!≫ 登場してからしゃべりもせず、いきなり硬直し、そして祈り始めた男性陣を不思議そうに眺めながらも、観客の注意はルーレットへと引き付けられる。 ピピピピピピピピピピ……バン! 高音の効果音を響かせてルーレットが止まる。 ルーレットが指し示したのは…… 川島優夏=柏木耕一
水瀬秋子=石原誠 柏木千鶴=相沢祐一 この組み合わせだった。
『やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 組み合わせを見た男性陣から叫び声がほとばしる。 これには司会者も観客も女性陣も思いきりビビッた。 「なぁにぃ?誠ぉ。私に当たらなかったのがずいぶん嬉しそうじゃない!」 「はっはっは、気のせいだよ優夏!気にするな気にするな!はっはっはっはっは!」 「あら、祐一さん?何がそんなに可笑しいのかしら?」 「いえ、なんでもないですよ秋子さん。なんでもね♪」 「耕一さん?何がそんなに嬉しいんですか?」 「いやぁ、たまには他の人の料理も食べてみたかったんですよねぇ♪」 不満を漏らす女性陣に何とか言い訳を繕う男性陣。 だが、その心中は自分以外の哀れなる被害者への同情……には程遠いものだった。 ≪ざまぁみやがれ!!!≫ 男たちの顔には、怪しい笑みが張り付いている。 その表情に不満をあらわにする女性陣ではあったが、場を取り繕うとした司会者の言葉によってそれは解消されることは無かった。 「そ、それでは組み合わせも決まりましたので、女性陣は早速料理を開始してください!」 不満をあらわにしている女性陣、軽いパニックを起こしている司会者と観客、そしてなぜかすでに勝ち誇った表情の男性陣。 彼らの思惑をよそに、収録は進んでいった。 どうやらゲストや観客の目の前で料理をするらしく、スタジオ内にセットされたキッチンに移動し、女性陣が自分のスペースに材料を並べ始めた。
そして、その材料を見た誠以外の全ての人間の表情が凍りついた。 千鶴は肉に野菜、そして米と調味料を並べている。 秋子は苺に牛乳にパン、調味料に一つの袋を並べた。 問題なのは優夏だった。 優夏が並べたのは、人参・パセリ・キャビア・チーズ・鴨の肉とここまではフランス料理のようでいいのだが、更にはんぺん・納豆・小麦粉・卵・インスタントラーメン・品名のわからない調味料が3種類だった。 「……え、えーと、川島さんはずいぶんと独創的な材料を揃えていますが、いったいどんな料理を作るのでしょうか?……き、期待が高まります」 それでも司会者は気丈にプロのコメントを述べて見せた。 そんな会場の雰囲気をよそに女性陣は料理を始めたのだった。 まず、千鶴が野菜や肉を食べやすい大きさに切り始めた。 そして秋子が鍋に苺と調味料などを入れ、ぐつぐつと煮込み始める。 会場に漂い始めた苺の良い匂いに会場が穏やかな空気を取り戻す。 だが、ただ一人祐一だけは不満そうだった。 (なんだ、秋子さん謎ジャムを作るんじゃないのか……) しかし。 せっかく取り戻した穏やかな空気をぶち壊すものがいた。 ギュイイイィィィィィィィィンン…… 会場に響き渡るこの音に全員が注目する。 そこには、卵以外の全ての材料をミキサーにかけている優夏がいた。 ギュイイイィィィィィィィィンン…… 凍りつく会場にミキサーの音だけが響き渡る。 ふと、誠は秋子の作っている苺ジャムに眼を向けた。 そこでは、秋子が何か白い液体を入れているところだった。 容器には『牛乳』と書かれている。まぁ、潰した苺にちょっと多目の砂糖と牛乳を入れて食べたりもするし、意外とおいしいのかもしれない。 だが、明るいピンク色になったジャムが限りなく誠の不安を駆り立てていた。 そんななか、司会者がプロ根性を見せて正気を取り戻した。 「……あ、そ、それではここで幕を下ろさせていただきます。次に幕があがるのは料理が終わったあと。た、楽しみに待っててください……」 そして降ろされた幕により、キッチンと会場は切り離された。 依然、会場は静まり返ったままだ。 幕の向こうから料理の作業を進める音だけが響いている。 不意に、ミキサーの音が止まり、フライパンで何かを焼くような音が聞こえてきた。 『!!!!!!????』 会場に一瞬にして戦慄が走った。 先ほどまで苺の薫り高い匂いに覆われていた開場に、この場に似つかわしくない刺激臭が漂い始めたのだ。 観客の中の数人から「頭が痛い」とか「眼が痛い」などの声が漏れ、十数人が会場を出て行く。 会場がパニックに陥るまさにその寸前だった。 千鶴のキッチンと思われる所から上品な匂いが流れ出し、会場に安堵のため息が漏れる。 千鶴の料理を食べることになっていた祐一は、その匂いをかいで顔をほころばせた。 もちろん千鶴の料理を知っている耕一は祐一の表情を見て内心ほくそえんでいる。……はずだった。 だが、耕一の意識は、優夏が材料をミキサーにかけたのを見たときにすでに遠い場所へと旅立っていた。 祐一も不安な表情を湛えたまま、観客も皆不快感をあらわにし、番組開始以来の大波乱である。 だが、時は無慈悲に過ぎてゆき、幕があがり始めた。 そう、料理が終わったのである!! ちょうどその時だった。 「ちょっと通らせてくださ〜い!」 そんな声とともに数人の女性が観客席に入ってきた。 気分を悪くし、出て行った観客の補充である。 先頭を切って誘導しているのはショートカットの茶髪にカチュ−シャをしたボーイッシュな女の子。その後ろをセミロングの黒髪にセーラー服を着た女の子が着いていて、一番後ろをきれいな金髪の長髪の小学生くらいのかわいらしい女の子が着いてきていた。 女の子たちは席に着くと、上がっていく幕を見ながら今か今かと何かを待ち構えている。 女の子たちは楽屋で今までの経過をすべて見ていた。 そして幕が上がりきる。 「千鶴姉ぇーーーー!!やっちまえーーーーー!!」 幕が上がりきると同時に茶髪の女の子が叫んだ。 「あ、梓!?……まったくもう、恥ずかしいじゃない」 そう、今しがた入ってきた女の子たちは、柏木千鶴の家族だったのだ。 茶髪のたった今叫んだ女の子が柏木梓(あずさ)。 黒髪のおとなしそうな女の子が柏木楓。 金髪の愛らしい女の子が柏木初音。 梓の叫びの意味を知っているのは柏木四姉妹(千鶴が長女)の楓、初音と耕一だけで、他の観客やゲストはキチンに並ぶ料理に注目していた。 優夏の料理は一品だけで、なにやらこんもりと盛られた料理の上からきれいな黄金色の玉子焼きがかぶせられていて、実においしそうである。……外見だけは。 「お、オレはこんな『開けてびっくり料理』を喰いにきたんじゃねぇーーーーー!!」 料理の材料やミキサーの音を聞いていた耕一がありったけの声で叫ぶ。 会場からもざわめきはやまない。 だが、会場から沸いているざわめきは優夏の料理を見ただけではなかった。 「な、なんで黒いんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」 今度は誠が叫んでいた。 そう、幕が上がる前までは綺麗なピンク色だった苺牛乳ジャムは、今ではなぜか真っ黒に変色(?)していた。 唯一千鶴の作った料理だけがまともで、いや、まともどころか三ツ星にランクされそうなぐらいに豪華なものだった。 もちろん祐一の表情は輝いている。 祐一が他の二人に哀れみの顔なんぞを向けてはいるが、誠と耕一はそんなものに突っ込む余裕は無かった。 この緊急事態をどのようにして回避するべきか? そのことで頭が一杯だったのだ。 だが時は依然無慈悲なままで、さらに残酷さを備えていた。 そう。 試食の時間である。事態をよく理解していたスタッフが、誠達が逃げ出せないよう扉を閉め、鍵をかけ、出口を封鎖している。 だがさすがに良心が痛んだのだろう。スタジオ内にはバケツが用意されていた。 逃げ場は無いと悟った誠と耕一は、ようやくのことで覚悟を決めた。 そして……時は来た。 「それでは!試食をしてもらいます!まずは、川島優夏さんの料理からです!!」 司会者の声に耕一がビクリと震えた。 耕一の目の前に料理が置かれる。 何も知らない人が見れば、一見何の変哲も無いオムレツ風の料理である。 だが……だが……だが!! もう黙っていられない!先ほどから我慢していたがもはや限界である! 実は先ほどある出来事が会ったのだ。観客が柏木姉妹を残して全員帰ってしまったのだ。まぁ、幕が下りた状態でも気分を悪くするような匂いを発していたのだ。幕が上がったということはそのにおいが強くなるのも当たり前で、その結果……というわけだ。 いまでこそ柏木姉妹のほかにサクラでスタッフが座ってはいるが、先ほどからあの元気な女の子……梓の「耕一!早く食べなさい!」とか、初音の「それ本当に食べ物なの!?」とか、スタッフたちの「まだ死にたくないよぉ!!」なんて声が聞こえてくる。 そんな殺人的な料理が耕一の目の前に置かれたのである。 「くそ!わかったよ、喰ってやるよ!毒を食らわば沙羅までだ!」 『誰それ!?』 耕一のわけのわからない、活字でしかわからないボケに会場全員で突っ込むが、耕一は突っ込みを無視してスプーンを料理に突き刺した。 プッニュリャァ…… 卵を突き破ると、なんとも形容しがたいいやな感触が手に残る。 スプーンが破った場所から湯気が立ち上る。耕一は、その匂いの元ともいえる殺人的な匂いを嗅がないために鼻栓をした。 スプーンで中身をすくう。そして…… 「ええい、ままよ!」 はぐ。 「…………」 「…………」 「…………」 耕一は何も反応をしめさない。 「え、えーとぉ……耕一君?」 司会者が耕一の顔を覗き込む。 「…………」 耕一はスプーンを口に含んだまま気を失っていた。 「さぁ!次の試食に参りましょう!」 『えぇ!?無視!?』 司会者が耕一を無視して収録を進める。 次は誠が秋子さんの料理(?)を試食する番だ。 ふと、誠は秋子さんの方を見る。……目が合ってしまった。 秋子さんがニコリと微笑む。 誠は心の中で慟哭した。なぜ、あの天女のような笑顔をする秋子さんが、こんな……こんなヘドロみたいなものを作るのか!! だが、いまさら何を言ってももう遅い。番組のスタッフの一人がゆっくりゆっくりと秋子さんの作った料理(?)を持ってくる。そして誠の目の前に置かれた。 (うぅぅぅぅあああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ……) 「!?」 誠は一瞬何かを聞いたような気がした。もちろん漫画じゃあるまいし料理が何かを言ったり呻いたりするわけも無い。実際、ちゃんとみれば何も聞こえることなんてない。 だが、無理も無いだろう。なぜなら、すでに調理から数十分経っていると言うのに、そのジャム(?)からは水泡がいまだにぷくぷくと音を立てて浮いてははじけ、浮いてははじけているのだから。 「マジでこれを喰うのか?」 ポツリと呟き、誠は周囲を見渡した。 「…………?」 なぜか司会者やスタッフたちが笑っている。……いや、笑っていると言うのは正しい表現ではないか?そう、笑顔なのは笑顔なのだが、そこには何かを期待するような嬉々とした輝きがあったのだ。 恐る恐る横を……祐一の顔を見る。……笑っている。そりゃもうにこにこと! 「てめぇ!知ってやがったな!?」 「うるせぇ!さっさと喰いやがれ!」 「何言ってやがる!お前の知り合いだろう!?お前が食ってやったほうがきっと喜ぶぜ!」 そういいながら、誠は祐一の口にスプーンを近づけていく。 祐一も抵抗はしているのだが、いかんせん誠に腕力で叶うはずも無い。 そう、ここに居る誠は、かの偉人の手によって変更されたマッチョ誠だったのだから…… 「き、汚いぞ貴様〜!それでも軍人かぁ〜〜〜〜……ゲボォ!!!!」 誠に無理やり料理を食わされた祐一は、断末魔の声を響かせながら息絶えた。 「フッ、これでオレは唯一まともな料理を食べれるぜ……」 残る料理は香ばしい良い匂いを漂わせている、見た目にも豪華な柏木千鶴の料理だけだ。「さぁ!それでは多少のアクシデントはありましたが最後の試食となりました!」 司会者は淡々と進行を続ける。面白けりゃいいようだ。 「それでは、柏木千鶴さんの料理を試食していただきましょう!」 誠の目の前に美味しそうな料理が運ばれてくる。 単純な料理のはずなのに、とても美味しそうに金色に輝くコンソメスープ、濃厚なチーズの匂いを漂わせるこれまたオーソドックスなマカロニグラタン、新鮮な野菜にドレッシングなどをかけたシーザーサラダ。 誠は喉を鳴らしながら叫んだ。 「いっただっきまーーーーーーーす!!!」 まずは前菜としてシーザーサラダをほおばった。 「うん!これはもうさっぱりとした……ゲホォ!」 唐突に誠は吐き出した。一気に口の中に料理を放り込んだのでむせたのだろうか? 「な、なんだ?この味は……。絶対これドレッシングじゃねぇ……」 誠の疑問に、千鶴が答えた。 「ああ、ちょっとドレッシング切らしちゃってたから、白の絵の具をかけたんだけど……、美味しくなかった?」 すまなそうに上目遣いで誠を見る千鶴。誰がこんな表情の女性を責められる!?ましてや千鶴さんは清楚で穏やかそうな美女!誰にも責められるわけが無い!てか責めさせない! 「い、いや、最高っすよ!美味いっす!」 そういいながら誠は早々にシーザーサラダ(?)を平らげ、マカロニグラタンに取り掛かった。 「いやー、こりゃまた美味そうな。優夏とは大違いだな」 そんなことをいいながらスプーンでグラタンをすくい、口の中へと入れる。 「ほふ、ほふ、あちあち、ほひーーーー♪」 熱々のグラタンを冷まそうと、口の中でグラタンを転がす。そして程よく冷めてきたところでよぉく味わうことにする。 「うん、このとろりとろけたチーズが最高〜♪今度はマカロニも一緒に……」 ゴリ! 「!?」 マカロニをほおばった瞬間、異様な音があたりを支配した。 「……か、かてぇ、硬すぎる……歯が……」 誠が泣きそうな顔をしながら口の中のものを吐き出す。 コロンコロン。 マカロニと思わしきもののほかに、奥歯と思わしきものが2本転がった。 「……す、すみません、ひっく、マカロニってゆでないものだと思ってたから……ひっく」 千鶴は申し訳なさのあまり、泣きべそをかいている。 「い、いいいいいやぁ!やだなぁ千鶴さん!最高ッスよぉ!」 ごりごりがきゃがりぼきゃ! 物凄い音を立てながら誠はマカロニを噛み砕いた。誠はこのとき、(もう入れ歯かぁ)などとしんみりした心境だったと言う。 そして最後はコンソメスープだ。これはもう安心して口に出来るだろう。なにしろほとんど具なんて無いのだから。 「さぁて、最後に取り掛かりますか!」 しかし異様な輝きを見せるコンソメスープ。誠は少し躊躇した。 「……あ、あのぉ、千鶴さん?このスープ、なんでこんなに、あのぉ、そのぉ……」 「なんですか?何か変なところでも?」 「い、いやぁ、この輝き方って……変じゃないですか?」 誠が疑問に思うのも無理は無い。表面を覆っていた金色の輝きを割ってみると、そこにはぬらぬらと輝く銀色の輝きがあったのだから。水銀式の体温計の先端を割ってみれば似たものをお目にかかれるだろう。 「……変……やっぱり私の料理ってへんなんだぁ……しくしく」 とうとう千鶴は泣き出してしまった。 「うわうわうわぁ!そんなことないっすよぉ!めちゃ美味しいですって!もうこうやって全部……ウギャアアアァァァァ!!」 スープを口に放り込んだ誠は、叫び声をあげた。 誠はその正体に気付いた。銀色に輝き、ぐつぐつと煮え立ったスープの正体は……銀を溶かし、煮え立たせたものだったのだ。 「……て、てめぇ!冗談じゃねぇぞ!泣きゃぁ許してもらえると思ってんのかぁ!」 まだしゃべれることが出来るなんて人間ではないと思うが、そんなことお構いなしに千鶴が叫んだ。
「そ、そんな……ひどい、酷過ぎるわ!!」 ズシュウウウウゥゥゥゥゥ…… 千鶴が叫んだとたん、あたりが冷気で満たされた。その影響だろうか?スタジオの電気のほとんどが消えてしまった。 そして……その暗がりから半身を出した千鶴が呟いた。 「あなたを……殺します……」 そして全身を光の下に現す千鶴。その目は赤く怪しく輝き、全てを凍て付かせるような冷たいまなざしだった。 そんな事を言われて動揺しないわけが無い。 しかし誠は、虚勢を張って抗った。 「は、はん!このマッチョ誠様に勝てるとでも思ってるのか!」 しかし、強者の余裕と言うやつだろうか?無駄な言葉はいらないとばかりに千鶴が手を胸元へと持っていき、その爪を音を立てながら伸ばした。 ジャキン! 鬼伝説の生き残り、エルクゥの力が現代のこのスタジオに蘇った。 「千鶴姉ぇの料理が不味いのは知ってるけど、馬鹿にされるのは勘弁できないよ!」 そう言って登場したのは……柏木四姉妹の残りの兄弟だった。もちろんその三人も鬼の力を顕現させている。 「おいおいおい!4対1は卑怯じゃないか!?」 もともと引け腰だった誠は、相手が増えたのをいいことに逃げ発言をしてみる。 「安心なさい。貴方と戦うのは……私だけよ」 「そう、あたしらはあんたが逃げないように見張るだけだから」 「早く……戦ったら?」 「それともあんたのその筋肉はただの飾り?」 驚いたことに優しそうだった初音が乱暴な言葉を使っている。そう、初音はこの体で鬼の力を使うと、鬼の力を制御できずに性格が反転してしまうのだ!! 「ち、ちっくしょーーーー!こうなりゃやけだ!」 おもむろに誠は千鶴にダッシュする。 「……無駄よ」 そういいながら構える鬼千鶴。 しかし誠は、鬼千鶴の頭を飛び越え、後ろの机においてあった一つのドリンクをとり、叫んだ。 「こい!億彦!いまこそお前の力を見せるときだ!」 『!?』 エルクゥの皇族四姉妹に動揺が走る。 会場の袖から飛び込んでくる影。それに向かって誠が手にしたドリンクを投げつける。 そして…… 「粋でいなせで涙にゃ脆い!神が使わした正義の戦士!腎臓人間!オックマン!!」 スタジオの照明が降り注がれ、しかも登場テーマまで生演奏されての登場。 「くぅ〜!こんな登場シーンをどれほど待ち望んだことか!いくぞぉ!とう!」 ドシャ! 盛大にこけるオックマン。立て!立つんだオックマン!日本の未来は君の肩に掛かっている! しかし、それ以降オックマンが立ち上がることは無かった。 「使えねーーーー!」 誠は非難の声を上げるがオックマンがしゃべることはなく、代わりに鬼千鶴が返答した。「私に対する侮辱ね。……死になさい!」 何の助走もなく疾走する鬼千鶴。その右手の鋭い爪を誠の胸に繰り出す。一撃必殺の攻めだ! ガキィン! しかしその爪は硬い何かにはじかれた! 「へ、へへ。オレだってただでやられるわけには行かないんだよ」 誠の手にはあの伝説の防具、『フナムシの盾』が装備されていた。 鬼千鶴は体勢を崩したままだ。 「一気に決めるぜ!究極奥義・『パンドラの袋』!」 叫びながら誠は手にした袋の中身をぶちまける。 中から出てきたのは大量のフナムシ!それが鬼千鶴の体を這い回る!! 「……い、いやあああぁぁぁぁぁああああぁぁあああ!!(T□T)」 鬼千鶴の鬼の力が千鶴の制御を離れ、暴走する。 ズドォンガズゥンドガァァァァン! 次々に破壊されていくスタジオのセット。優夏の料理のおかげで観客が全員いなかったのが唯一の幸運(?)というべきか。 梓、楓は千鶴を止めようとするが初音は一緒になってセットを破壊している。 そしてスタジオがほぼ全壊したころ、理性を取り戻した千鶴が誠を睨み付ける。 「梓!やっちゃって!」 「オッケェ!千鶴姉ぇの仇ぃ!うおりゃああああぁぁぁぁぁ!」 ズボォ! 激しい音を立てて誠の鳩尾に梓の拳がめり込む。 「ぃっけぇ!!」 梓の叫びとともに誠は吹き飛ばされ、夜空の星となった……。 結局、この収録が放送されることは無かった。
柏木四姉妹は、耕一と一緒に今も仲良く暮らしていると言う。 余談ではあるが、数日後姫ヶ浜にて倒れている誠が発見されたそうな。 また、1ヶ月ほど祐一は秋子さんに口を利いてもらえなかったそうな。 |
あとがき
ずいぶんと長らくお待たせしましたが何とか書き終わったよ。
これで安心してレジェンド・メイカーズに取り掛かれます! さくさく書きますので請うご期待! いや、レジェンド・メイカーズかけなかったのはこのデリシャスクッキングがあったせいなので。(笑 その割にはあまり面白くなくってごめんね♪ では、次回の作品にてあいましょう! (みんなの料理が――得に千鶴――最初の材料で作れなさそうと言う意見は却下します) |
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