もう一つのmemories  off
〜信〜  
作:ニンニン



その後、信はどうやって自宅に戻って来たか記憶には無かった。
気が付くとあの場所へと来ていた
「やぁ、やっぱり戻って来たね」
もう一人の自分がいる場所へと・・・。
「僕の言った通りだったね。君は自分の罪が増え、この場所へと戻ってきてしまった」
「ああ、そうだな」
信は静かにもう一人の自分の言葉に肯定の返事をした。
「おや。ずいぶんと素直だね」
「お前の言っていた事は事実さ。
だけどいつかあの二人が共に笑い合えると俺は信じている」
「やれやれ、何を言っているんだい。ずいぶんとキレイ事を・・・」
信(影)は大げさにため息をついた。
「何だと!」
「ついでに君の心の奥底の本音に気付かせてあげるとするか」
「今のが本音だ!それ以外に無い」
「いいから黙って聞きなよ」
信(影)ゆっくりと語りだした。
「君は確かにあの2人の幸せを願っている、これは事実さ。
でもね2人の関係がうまく行きかけた時に君は智也君のことを妬ましくも感じた。
心の奥底で二人の関係が終るように考えてしまった。
そして今、君は二人の状況を喜んでいないかい?」
「違う!絶対にそんなコトは考えていない」
信は叫んだ。もう一人の自分の考えを否定するために。
「フフッ、本当かい。忘れたかもしれないけど僕は君自身だよ。
稲穂 信君」
信(影)あえて信のことをフルネームで呼んだ。
「誰よりも君の事は分かっているのさ」
「違う。俺は・・・俺は・・・」
信は泣いていた。
もう一人の自分の言っていたことが事実なのか。
それとも罪の意識からかはは定かではないが。
あるいはその両方かもしれなかった。
「さぁ僕のいる世界にきなよ。
何も苦しまず、考えずにいられる闇の世界に」
そう言うと信(影)の後ろに入り口ができた。
その中は果てしない闇が続いていた。
信(影)は信に手を差し伸べた。
「僕の手を取れば罪の意識にも苦しむ事も無いよ」
信は分かっていた。この手を取れば二度と戻ってこれなくなる事を。
だが、信はそんなコトはどうでも良くなっていた。
信は自分の大切な人の人生を狂わせてしまった償いをしたかった。
償いさえできれば『生』などどうでもいいと考えていた。
「フフッ、結局は堕ちていく運命か」
信(影)が不気味に微笑み、信の手が触れようとした瞬間・・・
「ダメだよ、信クン!」
その声と共に辺りが急に明るくなった。
「うっ・・・」
「な、何だ」
二人の信は同時に驚きの声を上げ、まぶしさのあまり目をつぶった。
目を開けるとそこには一人の少女が舞い降りてきた。
その少女は人間のように見えたが一つだけ違う点があった。
(――あれは、背中にあるのは・・・羽!?)
そう、その少女の背中には真っ白な羽がはえていた。
その姿を見た瞬間信は、
(天使!)
そう思った。
「くっ、なぜ君がここに」
信(影)明らかに驚いていた。
「消えなさい」
少女は信(影)に静かに言い放った。口調は穏やかだが絶対的なニュアンスが含まれていた。
「フッ、まさか君が介入してくるとはね・・・。
いいだろう彼は諦めよう。いや、諦めざるをえないか、今はね」
そう言うと信(影)の姿は薄くなり始めた。
「だけど彼のような人間は他にもいるし、彼もまた狙えるかもしれない」
「・・・」
少女は黙ったまま何も答えなかった。
しかしその瞳には強い光が宿っていた。
「フッ、『彼』のこと救えるといいね」
信(影)は謎めいたことを言い残すと完全に消えてしまった。
この時、信には『彼』とは自分のことを指していると思っていた。
だが、違っていた。もう一人いたのだ、信(影)が言っていた『彼』とは・・・。

信はしばらくの間呆気に取られていた。
「大丈夫だった」
少女が声をかけると信はやっと意識を集中させる事が出来た。
「君は・・・天使?」
信はとりあえず今自分が疑問に思っていることを尋ねた。
「そうだね多分そうなんじゃないかな」
「多分って・・・」
「私達は自分のことを天使という風に考えたコトが無いの
だから、信クンのいる世界の言葉を当てはめるとしたらそれが一番近いと思う」
「ん、ちょっと待って。今『私達』って言ったよね、他にもいるの?」
「うんいるよ。しずくちゃんとか花梨ちゃんとか」
(・・・名前言われたって分かんないって)
信は声には出さずあきれた。
「信クン今失礼な事考えなかった〜!?」
「き、気のせいじゃないの」
(なんて鋭い。・・・余計な事は考えないようにしよう)
信は本気でそう思った。
「ほかに質問は?」
「・・・君は俺の事知っているのかい。
さっきから話していると俺のことを知っているという感じだったけど」
「うん、知っているよ。色々とね」
信は最後の『色々とね』が気になったが会えて無視する事にした。
「さっきまで俺の前にいてもう一人の俺といった奴のことも知っているのかい」
「ええ、知っているわ。彼らはね人の心の奥にある心の傷に触れて、苦しめているの。
そしてね充分に苦しめて生きる事が絶望と感じた人を闇に引きずり込もうとするの」
「な、何でそんなことを!」
信は知らずうちに声を大きくしていた。
「何でそんな事をするのかは分からないけど、人は誰でも秘められた部分があるでしょう
だから彼等はそこを狙ってくるの」
「それじゃあ、もう一人の俺って言っていたことは」
「半分は嘘。彼等は人の深層心理も自由にのぞけるから。
そこから、信クンが一番深い心の傷を持っている所から攻撃したの。
ただ、彼等は信クンが考えていた事も体験した事も全て自分の記憶として取り込むことが出来るの。
だから半分は信クン自身と思っていいわ」
「俺が考えていた事も分かっていた?
ならやっぱり俺はどこかで智也と唯笑ちゃんのことを・・・」
「それはどうかな。確かに彼等は信クンの思考を読み取れた。
けどね、言ったこと全てが事実とは限らないんじゃないかな」
「え!?なんで。だって今さっき君は・・・」
信は混乱した。少女が言っている意味が良く分からなかった。
「し、信クン。落ち着いて、今説明するから」
少女はひとまず信を落ち着かせた。
「あのね彼らはね人の心を闇に取り込ませるために、人の心の傷を増幅させようとするの
だから人の心の弱い部分を攻撃してくるの」
「心の傷・・・」
「そう、心の傷、弱い部分。信クンの場合は智也達・・・のことかな」
少女が智也と言った途端さらに信の表情は苦渋に満ちていた。
しかし、信は気付いていなかった。このとき少女の顔も悲しげになっている事を・・・。
「智也か・・・。あいつのことを考えたらやっぱり俺は生きていてはいけないんじゃないかな」
信は寂しげに語りだした。
「俺が余計な事をしなければ智也と唯笑ちゃんは・・・。
それに智也の彼女にも償いをしなければいけないんだ」
「信クン」
少女は優しく信に向かって話し出した。
「もし君が本当に智也や唯笑ちゃんに達に対して償いをしたいのなら信クンは死ぬべきじゃないよ」
「でも・・・」
「いいから、黙って聞いてちょうだい」
少女は信の言葉を途中で静止した。
「だって信クンはまだ何もしてないんだよ。自分のした事も打ち明けていない。
もし、後悔するのならその後じゃないかな」
「俺にはそんな勇気ないよ」
「今の智也たちは誰かに背中を押してもらわないといけないの。
そしてその役目は信クン・・・君にしか出来ないの。
そう私には何も・・・」
「えっ?」
少女の言った最後の言葉は信は聞き取る事が出来なかった。
あまりにも小さすぎて・・・。
「俺には無理だよ。そんな事は出来ない。
あの二人を今の状態にしてしまった原因は俺にあるんだから」
「それは違うよ信クン。
あの二人は信クンのおかげで少し前に進めたんだよ。
信クンが何もしなければ幼馴染で終っていた、けど信クンの行動によって進むことが出来たの。
それにね、仮に信クンのせいだとしてもあの二人は絶対に信クンを恨んだりなんてしないよ」
少女の言った事は事実であった。あの二人は信のことを恨んではいなかった。
しかし、今の信にはそれが分かっていなかった。
「お願い信クン。あの二人を助けてあげて!
もし君が智也と唯笑ちゃんのことを大切に想っているのなら」
少女は信の手を取り頼んだ。必死に皆の幸せを願って。
「俺に・・・俺なんかにできるのかな」
しかし信は迷っていた。あの二人は間違いなく信にとって大切な人達だった。
けれども今の信には自信が無かった。
「信クン・・・」
少女はそんな信の心情を察したのか、
「それじゃあ、とっておきのおまじないを教えてあげる
自信が無くなったらこの言葉を言ってね」
「おまじない?」
「そう、それも私特製のね」
「どんなやつなの?」
「それはね・・・」
少女は一呼吸置いた後切り出した。
「『信クンの信は信じるの信』だよ♪」
「・・・。プッ、アハハハハハッ」
信は笑い出した。
「な、何よ〜」
少女は顔を真っ赤にした。
「い、いや。うん、それいいよ」
信は眼に涙をためて答えた。
「なるほど
信クンの信は信じるの信か・・・」
信は何度もこのおまじないを繰り返した。
(自分で信クンというのもちょっと抵抗があるな、それなら・・・)
「ねぇ、このおまじないさ。『信クン』のところを『稲穂 信』に変えちゃダメかな」
「えっ、信クンって細かいトコにこだわるね。
私は信クンがそっちの方がイイって言うならそれでもいいけど」
「うん、ありがとう」
「絶対、『信クン』って言った方がいいのに・・・」
(全然納得してないじゃん。というかそっちも細かいトコにこだわっている気が・・・)
「信クンまた何か失礼な事考えてない〜?」
「ギクゥゥ。そ、そんな事無いよ」
「そう、それなら良いけどね」
(ホントに鋭いなこの娘)
信は気を取り直しておまじないを唱える事にした。
「稲穂信の信は信じるの信、稲穂信の信は信じるの信」
信は何度も繰り返した。
そして信は何となくであるが自信が、勇気が持ててきた。
「うん、分かった。俺やってみるよ。
あの二人を助けてみせる!!」
気付けばこの言葉を言っていた。
「ありがとう、信クン」
少女は優しく微笑んだ。
「それじゃあ、もう行かなくちゃ」
「えっ!?」
「私の役目はもう終わり。後は信クンの役目」
少女は唐突に別れを切り出した。
「さようなら、信クン。
智也と唯笑を、私の大切な幼馴染達を助けてあげて」
「えっ!大切な幼馴染!?ちょっと待って、じゃあもしかして君は。
君の名前は?」
-桧月 彩花-
遠くでその名が聞こえると信は目を覚ました。
そこは自室のベットの上だった。
「夢・・・いや違う!夢なんかじゃない。
ありがとう彩花さん。俺やってみるよ」
今の信は固い決意で溢れていた。
信の足元には一枚の小さな白い羽根が落ちていた。
信はそれを拾い上げると胸ポケットへとしまいこんだ。

次の日、信は早速行動にでた。
天使との彩花との大切な約束を果たすために。
そして信は智也の元へと急いだ。
あの、おまじないを唱えながら・・・。
「智也、俺お前に話しがあるんだ。
とても大事な・・・」
この光景を彩花が空から優しい眼差しで見守っていた。


〜エピローグ〜
雨は上がった。
今まで上がらずに降り続いていた悲しみの雨が。
あれから彩花も信(影)も信の前には現れなかった。
ただ一度だけ信は彩花の言葉を聞いた。
その言葉は、
「ありがとう信クン」


三人の心の雨は一人の少女の奇跡によって上がる事ができた。
だがその奇跡はそれほど大きいものではない。
一人の悩める青年の背中を軽く押しただけだった。
だがそれで良い。あの三人にとっては大きな奇跡に変わりはないのだ。
人が何かに悩んだり、苦しんだ時。この少女はまた奇跡を起すかもしれない。
人の背中を軽く押してあげるという奇跡を・・・。



もう一つのmemories off
〜fin〜




〜あとがき〜
ぼっ〜〜・・・ん、はっ( ̄□ ̄川)!!
いつの間に・・・。
さてさて気を取り直してっと。
まずは、ありがとうございます。
私のような稚拙な文を見てくださった皆様、そしてこのようなSSをHPに載せてくださいました管理人様。
心より感謝します。
このSSは信をメインにしましたが、色々と矛盾点やら変な点がありました。
やはりまだ力不足は隠せないようで。
まぁ一作目でいきなりできの良いのができるほど才能は有りませんが・・・。
またSSは書き続けるつもりです。
なので皆様のご感想をどんな事でも良いのでお聞かせください。
もしよろしければ今後ともよろしくお願いします。




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