『GUILTY KIDS-2-』
作:ちまたみうみ 



 ここは、浮遊大陸ツェップ。
 殆どのエネルギーが法力に置き換わり、環境に害を及ぼす科学は不要だと、ブラックテックとして封印されたはずの科学技術。ツェップはその科学を捨てきれない人間達が作り上げた、一つの国家だった。
 国家とは言っても、その実超巨大飛空艇というツェップは一つの場所にとどまっていることはなく、主に海洋上などを飛行している奇異な存在だ。
 それ故、不気味な印象からかいつしか『悪いことをしているとツェップの悪魔に連れて行かれる』という子供を戒める話に使われるようになっていた。
 が、そうなるのも、このツェップが国家としての認識をされていないからだろう。
 だが、ある日その閉鎖的な政治に不満を抱いた一部の人間がクーデターを起こした。その際、前線に立って最も活躍した兵士、その名を桜花と言った。
 彼女は元々奴隷兵士だったが、元教官で現在は大統領の瀧次郎にその功績と頭脳が認められ、現在は副大統領としての地位にいる。
 そして今、シャンデリアに赤い絨毯の敷かれた豪勢な部屋に、桜花は湯気の上がるコーヒーを二つトレイに乗せて入ってきた。板チョコレートのような形のドアだが、それをノックした気配は皆無だった。
「はい、瀧次郎おじいちゃん、コーヒーだよ!」
 そのまま部屋の奥に座って書類に目を通す瀧次郎に笑顔を向け、机の上にコーヒーを置いた。
「うむ……と、桜花。ここではおじいちゃんではなく大統領閣下と呼べと言っているだろう」
 軽く頷きながらまだ熱いコーヒーを躊躇なくすすると、一旦カップから口を離して瀧次郎は少し困ったような表情をしながら言った。
「あ、申し訳ありません、大統領閣下」
 桜花が慌てた様子で敬礼しながら訂正すると、瀧次郎は無関心そうな表情で小さく頷いた。
 コーヒーを淹れ、特に仕事が無くなった桜花は手持ち無沙汰そうに佇んだまま、瀧次郎を見つめる。しかしここでは祖父と孫の関係は一切排除しているらしい、根っからの軍人気質な瀧次郎はそれを無視して執務を進めるだけだった。
 それからほどなくして、居心地が悪くなり始めた桜花は、ふと背筋にピリピリとしたものを感じた。
 ――誰かがいる。
 この部屋にはいつの間にか侵入者がいる。それとなく瀧次郎の方を見てみたが、気づいた様子はない。が、恐らくそれは演技だろう。
 張り詰めた空気がその場を支配し、今ピクリとでも動けば緊張が一気に崩れると桜花は悟った。
 奇襲をかけられる前に大方の位置は探り出しておかないと危険と思い、神経を部屋全体に張り巡らせる。
「……いい加減出てきたらどうだ、恭平」
 と、その時、意外にも瀧次郎が相変わらず冷たい口調のまま侵入者の『名』を呼んだ。すると相手も自分のことがバレているのはわかっていたらしく、さして驚いた様子もなく現れた。ただし、その現れ方は異常だった。
 突然宙にマントのような物が浮かび上がったと思ったら、風もないのに翻り、その中から人が現れたのだ。恐らくは法力を使った召喚の一種だろう。
 眼鏡をかけ、先ほどのマントを体に巻きつけて不適な笑みを浮かべたどことなくダンディーな雰囲気を醸し出している男と、その傍らに佇むメイドのような姿をした少女。二人とも目立った敵意や殺意は感じられないものの、人とは思えない尋常ならざる気配をしている。そのため、桜花はすぐに攻撃できるよう気を引き締めた。
「随分と退屈してな。また相手になってもらえるかな?」
 そして、少しニヤニヤしながら男は瀧次郎へ向かって話し掛けた。先ほど瀧次郎が恭平と名を呼んだところから、恐らく二人はかつて会ったことがあるのだろう。
 しかし瀧次郎は恭平を見向きもせず、桜花の方へ向いて言った。
「桜花、彼奴が昔話した私のライバルの恭平だ」
「え……この人が?」
 桜花は、そう言われて小さい頃聞かされた男の話を思い出した。
 恭平というその男は、実は既に何百年と生きている、ヴァンパイア唯一の生き残りらしい。ヴァンパイアだけにその力は強大で、強力な生体兵器であるギアにも匹敵する。
 そんな恭平と瀧次郎が出会ったのはまだ瀧次郎が若い頃、誰もいなくなった戦場へぶらりと現れた恭平と拳を交えた時だったらしい。
「その子は孫か? お前も老いたな」
「そうだな。だが、まだまだお前には引けは取らんよ」
 日々老いていく瀧次郎だが、恭平の風貌は出会った時から変わっていない。これもヴァンパイアだからだろう。
「……下界では最近中々彼と会えなくてな。面白い闘いができなくなった」
「それでわざわざここまで来たという訳か」
「その通りだ。お前も立場が立場だけに今はもう迷惑だろうが、顔くらいは見ておいても損はしないと思ってな」
「わかっているではないか」
 そう言うと、瀧次郎は書類の山を見せつけるように指先とトントンと小突いた。
「さて……もう用はなくなった。早々に立ち去るとしよう」
 そう言って片手をあげると、再びマントが現れ、その中に恭平の半身が沈んだ。
 だが――。
「あ、待って!」
 突然、何を思ったか桜花は恭平の腕を取って引きずって戻した。
 彼には珍しくきょとんとした様子で、桜花を見つめる恭平。瀧次郎も驚いたような顔をしている。
「よかったら、桜花と闘いませんか?」
 刹那、場が凍りついた。
「…………何を言っているのかね」
 やがて我に返った恭平はそう言って訝しげに桜花を見つめる。
「桜花も純粋なバトルは好きですから。志在る物同士の拳は交えることで真価を発揮し、その最大の喜びを得られると思っています」
 桜花がその目を押し返すようにしながら言い放つと、恭平は目を伏せて黙り込んだ。
 その様子を窺っていた瀧次郎が、やがて拮抗を破って口を開いた。
「……恭平、少し相手をしてやってくれ」
「正気か?」
 桜花の態度に思うところがあったのか、瀧次郎は目を閉じたままそう言うと、恭平はどこか失望したような瞳をした。
 だが、まるで目に映ってない様子で瀧次郎は話を進める。
「これでも私の弟子であり、ツェップの英雄だ。退屈はさせんぞ」
 珍しく身内であろうと他人に厳しい瀧次郎が真摯な目でそう言うので、恭平は鑑定するように改めて桜花を見つめる。その立ち姿には一寸の迷いもなく、ただ純粋だった。
 ああ、奴が推すのもわかるな……。
 そして、恭平の心は決まった。
「力も信念も、闘いにおいては絶対の要素とは成り得んよ。だが、見込みはありそうだ」
「!?」
 言うと、突然マントが翻り、巨大化したそれが桜花と恭平を包み、大統領室から姿を消した。
「……どこまでやれるかが問題だな。まあ、一度奴の戦いをその身をもって知るのも勉強になるだろう」


「……あれ?」
 気がつけば、まったく知らない場所に桜花は立たされていた。
 驚きながら周囲を見渡すと、辺りには巨大な石像がいくつも立ち並び、中世ヨーロッパの城内を思わせる雰囲気があった。ここが、彼の根城なのだろうか。
「では始めるとするか。リース、下がっていなさい」
「はい、恭平様」
 そう言って先ほどから黙って傍らに佇んでいた少女が、ペコリと頭を下げて離れていった。
 すると恭平はポケットからいかにも年代物という感じの、古ぼけたパイプを取り出して加え、再び取り出したマッチで火をつけた。
 そして少し間を置いてから大きく煙を吐くと、余裕の様子で距離を詰めた。
「気分はどうかね?」
「……正直、楽しみでしょうがないです」
 もう、戦いは始まっている。そう悟った瞬間、桜花はポケットから特殊なリボルヴァーを埋め込んだグローブを取り出し、腕にはめた。
「軽く行くぞ……」
 と、次の瞬間恭平の姿が桜花の視界から消えた。そして驚いて怯んだ桜花に、いきなり衝撃が襲う。
 どこからともなく聞こえたマッパハンチという言葉に反応して自分の懐を見ると、その肋骨に恭平の拳が叩き込まれていた。全身を捻りこみバネのようにして叩き込まれた左ストレートに、思わず桜花は胃液を口から吐き出す。
 鍛えこんでいなければ恐らく一撃で全身がバラバラになっていただろう。その攻撃の恐ろしさは、威力の割にどういう原理かわからないが決して吹っ飛ばず、ダメージが分散されないところだった。
 なんとかそれを耐え忍んだ桜花だったが、体の自由が戻る前に次の攻撃が加えられる。
「いかがかね」
 すぐに体勢を戻すと続けざまにもう一度、同じ箇所に右のパンチが飛ぶ。先ほどのように重い一撃ではなかったが、連続で叩かれたその箇所は砕けそうな衝撃に見舞われる。
 苦悶の表情が浮かんでよろけた桜花に、さらに追い討ちがかけられた。
 つ、と、突然下がったと思ったら凄まじい勢いで桜花のところまで戻り、その勢いのままに拳を繰り出した。
 一瞬恭平が下がった隙に避けようとした桜花だったが、直撃は免れたもののその拳から漏れた激しい闘気の塊に触れ、城内の壁まで吹っ飛ばされた。べき、という鈍い音が薄暗い巨人達の世界に響く。
 そのまま動かなくなった桜花を見て、恭平は嘆息したようにパイプから煙を吐いた。
 静かな沈黙。
「馬鹿にしてるのかね?」
 見下すようにかけられたその言葉に、うな垂れながら壁に張り付いていた桜花の肩がピクリと動いた。
「手強いな……真の戦士よ」
 雰囲気が変わった。恭平は瞬時にそのことを悟り、眉を潜めた。
「怪力吸血鬼というからどれほどのパワーかと喰らってみたが、予想以上だ……迂闊だったな」
 言いながら、桜花は何事もなかったのように立ち上がった。実際、彼女はかなりのダメージを受けていたがそれは顔には出ていなかった。
「ふん……少々荒くいくぞ」  そう呟くと、恭平は突然片足を軸にその場で回転を始めた。何をするのかとしばしそれを凝視していると、不意を突くかのように恭平はヘリコプターのように宙へ浮き、桜花に襲いかかった。
 あの羽代わりとなっているマントが直撃すれば、恐らく体は裂断されるとすぐに反応した桜花はその場に膝をつき、右手を突き出してそれをブレないように左手で押さえた。
「……F.D.B!」
 刹那、桜花の弾かれた右手の指の先から衝撃弾が放たれた。音速を超える速さで撃ちだされたそれは恭平のマントに直撃し、その回転力を著しく弱めた。
 そしてすぐに姿勢を立て直すと、突進速度の弱まった恭平をギリギリまで引き付ける。
 恭平が文字通り目と鼻の先まで迫ったところで、桜花の右拳は突き出された。それは恭平の首をがっちりと押さえ込み、完全に掴んだ。
 同時に桜花はグローブの特殊なリボルヴァーから弾丸を数発恭平に撃ち込む。ゼロ距離での射撃に恭平は堪らずうめき声を上げ、口からパイプを落としそうになる。
「ヒート……」
 弾丸の爆発のためその硝煙が二人の体を包む中、ピンク色の光が桜花の左手に収束していくのが見える。そしてそれを右手に重ねた瞬間、この場に不似合いなハートマーク状のエネルギーが出現し、一気に圧縮された。
「エクステンドォ!!」
 咆哮がスイッチとなり、それは一気に爆発した。
 恭平は無呼吸状態になっており、それだけ苦しかった上にこの攻撃を受け、意識が朦朧としたまま先ほどの桜花のように壁まで吹っ飛んだ。
 そこへ桜花は次なる攻撃のために両腕を構えたまま突進した。
 が、恭平も吸血鬼の名は伊達ではない。すぐに意識を回復し、目の前に迫る桜花にカウンターを見舞った。
 桜花の拳が届くか否かという距離になった状態で不意に立ち上がった恭平は、迫り来る腕を弾いて懐へと入り、両肩を掴んで首筋に尖った牙を突き立てた。
「ひう!?」
 意外な攻撃に慌てて恭平を引き剥がそうともがく桜花だが、自分の体の中が急速に冷めていく感覚に抗えず、段々と視界はフェードアウトしていく。
 そして恭平はある程度血を吸うとそこを食いちぎるようにして桜花を突き飛ばし、さらに先ほど同じく一旦後ろに下がってから、勢いよく桜花へ左フックを叩き込んだ。
 それが顎に直撃して完全に失神しかけた桜花を畳み掛けるように、恭平は突き上げた拳を斧の如く振り下ろした。その軌跡にはやはり闘気が溢れ、かなりの威力を秘めていることを示している。
 ――刹那、恭平の世界は反転した。
 恭平を襲う突然の浮遊感。気がつけば、彼は桜花の肩甲骨のあたりに背中から乗せられており、さらに脚と首を掴まれて完全に動けなくなっていた。
 桜花は左フック後の一撃が当たる直前姿勢を低くして、滑るように恭平の背後に回った。そして腕を絡めるようにして、今の体勢に持ってっていったのだ。
「ぬ、ぐぅ!」
「これは、瀧次郎おじいちゃんに教わった48の必殺技からヒントを得た、桜花の必殺技の一つ」
 そう言いながら、桜花は姿勢を低くする。
 これから何をするのか、恭平も一部の格闘技に興味があれば容易に想像がついていただろう。
「オーカシラギク……」
 桜花が翔ぶ。
 そして両拳のリボルヴァーの火薬が燃え上がり、恭平の掴まれている部分は灼熱に焦がされた。
 大の男を抱えたまま、数十メートルはあろう城の天井ギリギリまで上昇し、そのまま落下を始める。
 ここに来てようやく恭平は理解した。次に起こり得る最大の衝撃を。
 流石にこれを喰らってしまえば自分でも危ない。少々悔しいが、余裕を見せていては痛い目を見る。 
 ――地面は近い。
 恭平の意志は固まった。
「激・震!!」
 そう叫んだ直後、恭平の内包されたエネルギーが爆発し、桜花の体を弾き飛ばす。
 予想外の事態ながらも姿勢を立て直して着地した桜花の目には、足からジェットのように闘気を放出しながら突進する恭平の姿が映った。
 それは弾丸にも勝る速度で襲いかかり避ける術が無かった。
「くっ……!?」
 だが、的はわずかに外れる。流石にこれだけの速度で突っ込むと、狙いは正確に行えないらしい。
 しかしそれでも桜花の体は爆風で宙に吹き飛び、クレーターの出来た地面からその様子を見上げた恭平は今度こそと狙いを定めた。
 一度身を屈めて足をバネのようにし、その後背中から翼を生やした。そのエネルギーからか、あまりの法力作用により空間の歪みが見える。
 そして強力な闘気を再び爆発させ、恭平は宙にいる桜花へと突っ込んだ。
「あうぐ!?」
 恭平の翔んだ時と同じ勢いで、桜花の体は天井へと叩きつけられ、数本折れた肋骨の影響により口から赤い血を吐き出した。
 それでも桜花の瞳からは戦意が失われてはおらず、頭の前でペケの字に組まれた腕から全身の気力を振り絞り、長方形の鏡状となった物質の壁を発射する。
 追い討ちをしようと飛び上がっていた恭平はそれを避けきれず、地面へと強引に押し付けられた。
 そこへ落下していく桜花は、右腕に灼熱の炎を、左手に絶対の冷気をそれぞれ纏い、さらに手の平を組むようにして重ねた。
 ピンク色となったその光からは激しいエネルギーが迸り、使っている桜花の表情も苦しそうだ。
 動けない恭平に、桜花の二の拳が迫る。
 それはさながら大気圏を超えて地表へと接近する隕石のようで、恭平も必死になった。
 全身の力を振り絞り、押し付けられた壁を破壊しながら桜花に向かって突っ込んでいく。
「ガイガンティックブリッドォッ!!」
「星となれぇ!!」
 瞬間、二人の拳は交差する。
 同時に、今ままでの爆発など線香花火のように思える程の衝撃と爆発が巻き起こった。 
 城の内装をすべて消し飛ばし、閃光は城の外の闇を一気に照らし出した。
 それから数分経った頃、やがて爆発の影響が収まり煙も大分なくなった。
 が、不意に新しい煙がその場に生まれる。
「……孫馬鹿の、孫に見つけし宵の夢」
 その煙の下に立っていたのは、少しだけ衣服を焦がした恭平だった。
 そして足元には気絶した桜花が転がっている。
「久しぶりに全力に近づいた戦いだった……感謝しよう」
 乱れた服を直しながらそう言って、恭平はリースとともにマントの中へと消えていった。
 それから小一時間程で目の覚めた桜花は、負けたにも関わらず嬉しそうにこのことを瀧次郎のいるツェップへと報告しに急いだ。


 続
   




あとがき
 
今回は、『夢のつばさ』より桜花のポチョムキン、『マイメリーメイ』より恭平のスレイヤーでした。
 ああ、予告と全然違うキャラに(汗
 面倒くさがりやな性格がモロに出た作品ですな。描写といい、キャラセレクトといい。
 なんとなーくその日スレイヤーで乱入してきたポチョを狩ったからという理由でネタまで思いついてしまったというただそれだけの話。
 描写はH氏に指摘されたゆえ、今回はと気をつけてみたつもりですが、やはりまだまだのようです。
 ストーリーに関しては、もうコメントしようがないくらい最悪(死
 リース殆ど喋ってないじゃん、ていうかお前いる意味あるのか? ってなとことか、瀧次郎おじいちゃんがさりげなくガブリエルとして登場してるとか(爆
 あーもう考えたくない。頭痛い(逃
 まあ、次は少しマシにいきたいと思います。内容が笑えないギャグ気味な作品ですけど、次回はギャグを意識して書いてみようと思います。
 お待ちかね、智也君演じるザッパとつばめ先生演じるファウスト夢の対決です。
 問題は……彩花達を使いきれるかどうか(滝汗




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