『カキコオロギ制作裏話』
作:小俣雅史 



 そこかしこへ立ち並ぶ赤や黄色は次第にアスファルトの地面へと舞い落ちていく。はらり、はらりと一枚ずつ。それは人生の一幕を垣間見ているような感覚で、しばし見つめていると無意識に嘆息と寂寥感が同時に溢れた。葉の落ちた木にはこげ茶の枝だけが残り、作られた木々の隙間から漂うどこか遠くから流れる風は一段と冷たい。それがもうすぐ冬だということを伝えていた。
 そんな時期、オレの現在通う澄空学園で毎年行われている一大イベント、いわゆる学園祭は催される。オレはこの行事が楽しみで仕方がなかった。何故なら去年からずっと温めていた計画を発動される事ができるからだ。だがしかし、一つ問題が発生してしまった。我が同志、稲穂信がなんとこの計画を辞退するというゆゆしき事態に陥ってしまったのだ。
 今回オレが打ち出した計画は、コオロギをすりつぶし、氷に塗して食べるという『カキコオロギ』の制作だった。その為にはコオロギの入手が不可欠なのだが、普通ペットショップにコオロギなどが売っているはずもなく、オレ達は自分の手で捕獲するしかない。なのに信の奴は虫嫌いだったためにそれができないのだ。流石に一人で大量にコオロギを集めるのは不可能だし、そこまでしてやりたくないと思う素直な自分がいたのもまた事実だった。
 オレは悩んだ。いっそこの計画を灰塵と化すか、それとも初志貫徹するか。
 考えること5秒。
 ――やろう。
 理由なんか特に無い。しかしここで諦めたら三上智也の名が廃るというもの。例えこの身が朽ち果てようともオレは戦いつづけるのだ!!
「……という訳で信、手伝え」
「そこまで前フリ作っておいて結局俺かよ!?」
 そんな信のツッコミはオレの耳には入らない。つーかもう反抗拒否だ。
 学園祭を5日後に控えた今日、オレは信を校舎裏まで連れ出してきていた。勿論例の計画を成功させるために、である。
「まぁ虫嫌いな信に捕まえろとは言わない。だがな」
「な、なんだよ?」
 信はオレの言いまわしに動揺したかのように身を一歩引く。
 いつも一歩上を行かれているような気がするこの男だが、今日ばかりはやはり苦手なものを強いられる危険性を感じているのか普通の高校生に戻っている。オレはそこに留意しながら言葉を続けた。
「虫好きな信になればいいのだ!!」
「…………」
 この役回りもいつもは逆な気がするが、まぁいい。オレは拳を強く握り締めて曇天を仰ぎながら咆哮した。そんなオレの様子を見て信は心底嫌な物を見たように眉を潜めて口元を引きつらせている。しかしこのままでは危険だと悟ったのか、信はいつもの必要時に発動するポーカーフェイスになってオレに反論し始めた。
「おい智也。俺がそう簡単に虫好きになれる訳がなかろうが。そんなんだったら、俺はとっくに虫好き、いや虫萌えになってるぞ!」
 最後の方は抑えきれなかったのか少し熱弁している。普通こういう時は冷静になるべきだろうが、それではオレの熱意が信に伝わらないだろう。オレはそう思って持っていた鞄の中から『熱意』を取りだした。
「……信、これはオレからのプレゼントだ」
 オレが差し出した透明ビニール袋をじっと見つめる信。その中では不気味に黒光りしたある種ブランドチックな雰囲気を持ちメダリストもびっくりの神速を生む6つ足で、カブトムシの角を取ったかのような生命力溢れる生命体がうぞうぞと大量に蠢いている。それを即座に何か悟った信は、10歩程激しくあとずさった。
「ご、ご、ゴキブリ!?」
「まぁ世間じゃそういうな」
 世間以外ならどう呼ばれるかと聞かれれば答える術は持っていないがとりあえずそう答える。
「ちょ、そ、それをどうする気だ智也!?」
 10歩離れたまま遠くからオレの方をプルプル震える人差し指でゴキさんを示す信。その様子が滑稽に思えて仕方がないが笑ったら恐らく信は気分を悪くして帰ってしまうかもしれない。ここは堪えて、オレは信に主旨を伝えた。
「信には今からゴキブリさん達と戯れてもらう」
「ええええ!?」
 信はオレの言葉に激しく動揺したらしく意味不明な動きを見せる。しかしオレは間髪いれずに説明を続けた。
「こうすることにより稲穂信は虫に慣れることができる。ゴキブリ様さえ克服すればもうライオンだってホオジロザメだって恐れる物は何も無いぞ」
「ば、バカ野郎! いくら地球外生命体や悪の地底人に勝てるからってそんな真似できるかあ!!」
 信はオレの言葉に熟考する様子もなく即答した。うーん……相当に嫌らしいな。仕方ない、こうなればオレが矯正するしかないだろう。
「こういう手はあまり使いたくなかったんだが……西野」
「あいよ」
 オレの合図と共にクラスメイトである西野が突然信の背後に涌き出る。オレもいまどうやって登場したのかはよくわからなかったがとりあえず出てきたので問題はないだろう。まぁその点は脇役なのでもみ消しは簡単だ。
「え?」
 そして西野は信を羽交い締めにして、身動きを取れないようにした。
「さて稲穂君……『教育』の時間だ」
 オレはサディスティックな笑みを信に向けつつゴキ氏入りのビニール袋を持ったままじりじりと信へとにじり寄った。
「や、やめろ! やめてくれえ!!」
 半分泣きそうな表情になりながら信はバタバタと体を動かして抵抗しようとするが、こういうのもなんだが非力な信に西野のホールドを解除できる訳がなかった。そしてオレは信の目の前に立つと、ビニール袋を鼻先に接触させた。  
「%#&$*ΩΣβ!?」
 信は声にならない悲鳴をあげその顔から一気に赤みが消えた。面白い程に真っ青となり、次の瞬間泡を吹いて全身の力が抜けて地面へと崩れ落ちる。
「……弱いな」
「ああ」
 ここまで信が虫嫌いだったとは。まぁ虫嫌いでなくともゴキ殿は大抵の人が嫌がるものではあるから、相乗効果もあったようだ。
 ドサッ
「あ」
 不意にオレはうっかりして手からビニール袋を滑り落とす。すると同時に中から黒い高速移動物体が四散していき、そのうちの数匹は信の制服の中だとかへ潜り込んでいった。
「……まあ任務は終えたんだし、逃がしたってことにしておくか」
 それにしても、これで信が次起きた時は間違い無く虫嫌いは治っているだろう。それはもう虫ラヴだな、うん。
 これで……カキコオロギは無事作れるな。
 オレは城のプラモデルを2週間かけて完成させたような達成感に酔いながら、とりあえずコオロギを探す事にした……。

 早く目覚めろ、信

END




――あとがき――
はい、カキコオロギ制作裏話、いかがでしたか?
はっきり言ってつまらんとか下手とか思った人素直に挙手!
…………
イパーイイパーイアハハハハ(壊
まぁボケはこれくらいにしておいて、今回実は深刻な作者の裏事情が絡んでいたことをお話しましょうか。
実は長期的スランプに陥っていたのですが、なんとかそれを抜け出したのがこの作品です。
ぶっちゃけ文章能力とか技法云々はともかくとして、小俣テイストは80%くらい出せたと私は思います。
最近私的なギャグとかが全く浮かばず死にたくなるようなスランプだったことを考えればちゃんと脱出してますな。
あー良かった(ぉ
まぁこれからも誰がキレようがウィルス送ろうが少なくとも夏コミ終わるまでは書きつづけるんでこれからも付き合ってくださいな。
であであ




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